「実利的で融通性に富む気質」 一部引用編集簡略版
ヨーロッパ大陸では、とくにドイツ人が学位に対する憧れが強い。ドイツの企業幹部はほとんど全員が、博士号を示す「ドクトル」の肩書をもっている。アメリカでもMA(修士号)や、PhD(博士号)が重んじられている。
イギリス人は融通性が高いから、高邁な学問や空論に近いように思われる理論よりも、そうすることによって、すぐにどのような効果や利益が得られるのかというほうに関心がある。実利的なのだ。これはイギリス人が海の民であるからだ。船乗りにとっては紙の上の学問よりも、風向きをどう読むべきかとか、帆の張り方や縄目の結び方のほうが、実用的ではるかに重要だ。食卓のマナーも、ヨーロッパ大陸ではスープを飲むときに皿を自分のほうに傾けるが、イギリスでは濡らさないように逆へ傾ける。
こういうところも、イギリス人は日本人とよく似ている。日本の発展はこのような実利的な精神が支えたのだろう。中国人と韓国人はヨーロッパ大陸の諸国民と同じように、学位に対するこだわりが強い。台湾では博士号をもっていないと閣僚になれないし、韓国人は学位を祖先のように崇める。日本人も海の民なのだ。韓国は三方を海に囲まれているのにもかかわらず、海に疎かった。海に面して住む漁民は蔑まれたので、科挙試験を受ける資格を認められなかったし、今日でも圧倒的多数が、「錨(いかり)」を韓国語でなんというかたずねると、すぐに答えられない。
「ガリバー旅行記」によれば、人間の世界で会食の席に召し使いを立たせておくのは、監視する者がいなければ、みんなが独り占めしようとして、つかみ合いの大喧嘩が始まるからである。でも安い一杯飲み屋にウェイターはいない。この違いの原因は、人は教育が高く財産を積むほど、獰猛になるからにちがいない。「ガリバー旅行記」は一七二六年に出版されたが、あのころからイギリスはあまりかわっていないのだろう。
参考:加瀬英明著「イギリス 衰亡しない伝統国家」
加瀬英明氏は「ブリタニカ国際大百科事典」初代編集長