「燕は戻ってこない」桐野夏生の長編小説を一気読みした。この物語はNHK火曜ドラマで放送中。バレーダンサーの基(稲垣吾郎)と悠子(内田有紀)夫婦には子供がいない。一度は子供をあきらめたものの、優秀なダンサーの遺伝子を残したい…。日本では禁止されている「代理母」に子どもを産んでもらいたい。一人暮らしの派遣社員29歳のリキ(石橋静河)。憧れて東京へ出てきたものの夢も無い苦しいその日暮らし。お金が欲しい。ビジネスと割り切って代理母に応募する…そんな話だ。
タイミングよく原作を図書室で見つけたので迷わず借りた。物語の先が知りたくて一晩で読んだ。謝礼が1千万。仲介業者に1千万。2千万ものお金で命が売買される。子どものいない夫婦の人助けと言う名目のもとに。依頼主基のエゴ。蚊帳の外の悠子。お金は欲しいがビジネスでは割り切れない複雑なリキの心。都会の貧困、夫婦、命の売買、多くの問題を絡めながら、3人の心が揺れ動く。リキが命を宿すことによって変わっていく。肝心の子どもの人権はどう考えるのだろう。第3者である、春画を描く悠子の友人りり子とリキの友人テルが案外まともなことを言っていたように思える。想定外のラスト。この後の3人、子どもとどんな人生を歩んでいくのだろうか。吉川英治文学賞・毎日芸術賞受賞作。桐野夏生は好きな作家のひとり。結末を知ったドラマも楽しみだ。