2015年ChristmasEve植物園
府立植物園でクリスマスまで、イルミネーションが夜間灯されていると聞いて、クリスマスのイブに訪れた。
徒 歩で行くには遠すぎるので市バスで行き、植物園前で下車した。最近は植物園に行くことがあれば、ほとんど北山通りに面した入場口から入ったから、北大路通 りから植物園の正門に向かうのは本当に久しぶりだった。昔は植物園へはこの正門から入るのが当たり前だったので、そこに通じるケヤキ並木は今となっては懐 かしい。
バス停を降りてすぐに、とにかく北に向かう道路を見つけて歩いて行ったが、いつまでたっても目当てとした植物園の正門へと通じる 長い並木道に出てこない。この夜はほぼ満月に近い夜空だったけれど昼間と違って方向感覚もよくわからない。途中に資料館の建物の一角や、府立大学の寮舎の 外壁らしいものに出くわしたから、通りを一筋間違ったらしいことが分かった。それで西に転じて歩いた。しばらくして漸く見覚えのある並木通りに出た。
植 物園の入り口を目指して歩道を歩き始めると子猫の鳴き声が聞こえてきた。近づくと、一組の家族連れが二匹の小さな黒い子猫の相手をしているらしい。その家 族連れが立ち去ってしまうと今度は子猫たちは私たちの方にまとわりついてきた。相手にしてやろうとすると一匹の方は怖がって歩道の生垣のなかに逃げてしま う。もう一匹の少しやせた子猫は私たちの歩く方向に鳴きながらまとわりついていつまでも離れようとしない。
捨て猫を拾って飼ってやることも できないから、ただ、こんな夜に猫を捨てたらしい人間の薄情の悪口を言いながら、植物園の入場口にむかって歩くしかなかった。月のきれいなよく晴れたクリ スマスイブの夜だった。しばらくして別の家族連れと通り過ぎに出会い、その中の男の子が子猫をかまったので、ようやく自分たちはその子猫から解放されるこ とになった。
その時ふと、なぜか昔に古典の教科書か何かで読んだことのある『野ざらし紀行』の一場面のことを思い出した。旅の途中の富士川 で、三歳ほどの捨て子と出会った芭蕉は「ちゝは汝を悪にあらじ、母は汝をうとむにあらじ。唯これ天にして、汝が性のつたなきをなけ。」と言い捨てて去る。
入場券を手に入れて園に入るとすぐに無数のLEDのライトに照らされたイルミネーションの飾りが目に入った。