アジアはでっかい子宮だと思う。

~牧野佳奈子の人生日記~

ボルネオ!!

2008-03-17 | ボルネオの旅(-2009年)
その島はマレーシア本島の東側、フィリピンのちょうど南に位置する。
日本の面積の約2倍もある、とても大きな島。

島には3つの国があって、左側がマレーシア、右側がインドネシア、そして左上の海岸に申し分けなさそうにちょこっとブルネイという国が在る。
私が訪れたのはマレーシアのサラワク州。中でも、北部のサバ州に最も近い「Miri(ミリ)」という街を旅先に選んだ。

ボルネオ島といえば、恐らく最も有名なのが「オラウータン」だろう。特にサバ州の国立公園に多く生息している。
「首狩り族」が昔いたことも、ちょっとだけ有名かもしれない。
もしくは「手つかずの森」「未開の土地」「野生動物の宝庫」・・・そんな神秘的かつ謎めいたイメージが一般的かもしれない。


私がこの島を選んだ理由は、そんな自然溢れるイメージと裏腹に、南部のサラワク州から大量の木材が輸出されている、とインターネットで知ったからだ。世界的にも主要な木材輸出国であるマレーシアにおいて、サラワク州からの輸出量が最も多いのだとか。

何なんだ、このギャップは・・・。

更にネットで情報を仕入れていく内に、「プナン人」という言葉を何度も目にするようになった。

「プナン人は自分たちの土地や生活を守るため、木材伐採の道路にバリケードをつくって抵抗を続けている。」
(http://www.jca.apc.org/jatan/trade/malaysia.htm , http://www.kiwi-us.com/~scc/)

情報が少々古いものの、そうやって地道に反対運動をしている民族がサラワク州にいるんだな、と私は思った。その現場の地図を載せていた唯一のページから、最も近い街はMiri(ミリ)なのだと知った。


憧れでもあった “自然溢れる” ボルネオ島へ、インターネット上で知った “問題の” 現場を探しに、私は複雑な心境を抱えて行くことになった。
島のイメージなんてものはない。全く想像ができなかった。一体どんな街並なのか、そもそも街なんてものはあるのか?まさか空港に着いていきなりジャングル、なんてことはないだろうけれど・・・。


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着いた先のMiriという街は、意外にも「ふつう」で小綺麗な街だった。
道路はアスファルトで日本車や韓国車がびゅんびゅん走っている。
建物はコンクリート。中国チックなよく似たものがずらりと並んでいる。
クアラルンプールみたいにイスラム教の布を被った女性は少なく、大抵の人はふつうの洋装をしている。
街路樹の緑が青々としている。空は青くて広い。
道幅が広いせいか、もしくは人ごみがないせいか、街全体がゆったりと穏やかな空気に包まれていた。


そうか、ボルネオ島っていってもフツーなんだな、と私は思った。

それもそのはず、今どき島全体が「未開」なんてことはあり得ない。ましてやここは日本の2倍もある大きな島。華僑が放っておくはずがない。


街の一角にあるドミトリー(安宿)に荷物を置いて、私は早速辺りの散策に出かけた。

街の中心部はアスファルトとコンクリートに街路樹があるくらいの無機質な風景だが、川沿いに行くと、水の上に建っている木造の家や、芝生に建てられた手づくりの小屋みたいな可愛らしい家、それらが集まった小さな集落なんかを垣間みれる。それはとても穏やかな風景で、通りがかりに出くわしたおじさんが「どっから来たんだい?」と気さくに話しかけてくれたりもする。

だけどひとつだけ気になることがあった。
川がひどく茶色いのだ。場所によっては赤いところもある。

「川が濁ってるのはどうしてなの?」

宿に帰って、同じ部屋の Josephに聞いた。彼はサラワク州の別の街で働いているマレー人。休日には一人で国内旅行するのが好きなんだそうだ。

「コーヒー色だったろ?あれは全部伐採のせいだよ。土が大量に流されるんだ。」

「赤いのは?」
「あれは何とかっていう酸の色さ。土の成分が溶け出た自然の色だよ。」

彼は大手オイル会社のシェルで働いているらしく、Bintuluという同じサラワク州内の街で進んでいるアルミニウム精製の一大事業のことや、そこで懸念されている公害問題のことも教えてくれた。

「ほとんどの人は、温暖化とか環境問題にはあまり関心がないと思う。経済のためなら仕方ないと思ってるんだ。それより今は公害問題が大きい。アルミニウム精製が本格的に始まれば海や川が間違いなく汚染されるし、そうじゃなくたって今は皆が車に乗っていて排気ガスを出している。エアコンだって使うし、プラスティックもたくさん使っては捨てている。それらを燃やせば有害な煙が出て酸性雨になるだろう?」


彼は、日本は何でもシステム化するのが上手だからいいね、と言った。日本では木を切ってもちゃんと植える、だけどここでは切りっぱなし。違法伐採だってあるんだよ、と。

「天然資源はいっぱいあるのに、僕たちは裕福にはなれないんだ。結局は政治なんだよ。ボルネオの資源はみんな本島に持っていかれるんだ。ここでの生活に不自由はないし幸せに暮らしてはいるけれど、だけどやっぱり不公平だと思う。テレビや新聞の情報操作だってあるしね。」

だけど政治に関しては、最近ようやく流れが変わりつつあるのだという。つい先日行われた選挙でそれまでの野党が勝ち、今は政治が混乱してはいるけれど、若者がちゃんと考え動いている証拠なんだと彼は誇らしげに言った。


私にとって全くの未知だったボルネオ島にも時代の波は押し寄せ、そして確実に変化が現れている。それは人々の生活に、環境に、心に、そして政治にも。

「意外とフツー」どころじゃない、私たちは同時代に生きている。


熱帯雨林へようこそ

2008-03-17 | ボルネオの旅(-2009年)
クアラルンプールの中心部から車で1~2時間ほどの郊外に、通称 FRIM(フリム)と呼ばれる熱帯雨林の研究機関がある。
友人のアンソニー君が「急遽大切な会議が入った!」と言うのでそのまま着いて来た。

FRIMの広大な敷地には、コースによって30分~3時間かけて歩ける熱帯雨林のトレッキング道がある。スタッフによればその森は原生林ではなくニ次的に(もしくは人工的に)つくられたものらしいのだが、森の様相、例えば樹々の高さや太さ、種類の多さ、草、ツタ類などは原生林を思わせるほどに素晴らしく、「鬱蒼と」している。


森を歩いて数分、あることに気付いた。

やけに騒がしい、のだ。


足を止めると更に四方八方からいろいろな音が聞こえてくる。

  ジィージィー

   ピッピッピッピ

    ザーーーーーーー

      フィ~イッ


そういえば7年前に熱帯雨林の研究に訪れたとき、何より1番驚いたのは次から次へと寄ってくる「虫」の種類だった。ただひとつとして同じ顔ぶれはなく、特に虫好きではない私でも、そのカラフルさと奇妙な姿形に、気持ち悪さを超えてじぃーっと見入ってしまった。

そうだ、熱帯雨林というのは「うるさい」ところなのだ。

様々な虫の音(しかも大きい!)に加え、いろいろな鳥があちらこちらでさえずる。
頭上を覆う巨木たちは風に木の葉を揺らす。
そしてこうした森の音が、そこに棲む生き物の豊かな世界を想像させてくれる。

ちなみに「樹冠」と呼ばれる森の天井は、同じ背丈の樹々がお互いに縄張りを張るように枝を伸ばし合ってつくられ、下から見ればちょうどパッチワークのような綺麗な模様を見ることができる。それは限りある太陽の光をお互いが効率よく分け合う方法であり、同時にその隙間から注がれる木漏れ日を幼木に分け与える方法でもある。
誰が仕向けたわけでもないそうした自然のシステムを、植物は長い年月の中で作り上げてきたのだ。


私は自分を囲んでいる大小の樹々をぐるっと見渡しながら何度も大きく息をした。

ここにどれほどの生き物が潜んでいるのか。
この地下に、どれほどの水が蓄えられているのか。
この一面の緑は、一体どれほどの酸素を放出しているのか。
ここでどれほど多くの生と死が繰り広げられ、それがどれほど長い間続けられてきたのか。

私たちは、たとえどんなに遠くに暮らしていても、必ず熱帯雨林の恩恵を受けて生きている。

あなたがいるから、私がいるー。
自然界で保たれている生き物同士のそんな微妙なバランスは、地球規模で考えても同じこと。
どこかが大きく崩れれば、必ず全体が崩れてしまうのだ。

だから、貴重。
だから、私たちは森を簡単に壊しちゃいけない。


写真を撮りながらゆっくりと歩く私の腕は、既に何十もの蚊に刺された痕で赤く腫れ上がっていた。袖の長いシャツは一応持ってはいたものの、迂闊にも七分袖だったのだ・・・。
次回は長~い袖のシャツを持参しようっと。
心も身体も、もっと緑で満たされるように。