リーグ序盤は最下位をひた走る破目となった清水。
11節終了直後ヤン・ヨンソン監督の退任(事実上解任らしい)という状況にまで陥りましたが、その後は紙一重の戦いを制し続けて勝ち点を稼ぐ綱渡り。
監督が篠田善之氏に代わってから、初勝利の仙台戦を皮切りに試合終了間際での決勝ゴールによる勝利を頻発させ、ムードは上々のようです。
特に前回のマリノス戦はその総決算ともいうべき試合でしたね。
この試合で劇的なプロ初ゴールを挙げた西澤、次節・名古屋戦でも後半アディショナルタイムに決勝ゴールを叩き出し、以降はレギュラー定着というシンデレラストーリーを歩んでいます。
折しも北川の海外移籍が秒読みになっていた時期に、こうした選手が現れるのはまさに干天の慈雨。
復調したドウグラスの大活躍(7試合連続得点)もあり、守備面の脆弱さは払拭できていないながらも降格圏脱出に成功している、というのが清水の現状。
一方のマリノス、今季は優勝も現実的に狙える位置に着けております。
選手編成を見てみると、32人の登録選手のうち今季加入した選手は実に20人を数えます。(そのうち2種登録選手が5人)
センターバックコンビの畠中とチアゴ・マルチンス(この日は出場停止)はその外ながら、前年夏の加入と新顔に限りなく近い立場。
チームの大改造を見事成功させた成果であり、出場機会の無いマリノス一筋の大ベテラン・栗原(2002年入団)の存在が逆の意味で浮いてしまっているのが趣深い。
夏の補強も、水戸から伊藤(CB)・広島から中林(GK)と、両者リザーブを埋めるための獲得を躊躇なく行っています。
そんな非情ともいえるチーム強化策ながら、何処かしらで義理人情・浪花節の要素がなければ変わらぬ支持を受けるのは難しいのが日本という土壌。個人の見解です
この日はクラブOB・松田直樹氏の命日が1日後に迫っていた事もあり、サポーターは彼に対する弾幕メッセージを出したり、クラブ側もこうしたイベントを行いました。
首位・FC東京を追走するためにも、限りなくワンクラブマンに近い存在であった(最後は松本だったけど)松田氏の力を借りたい、そんな思想が窺えます。
この日チアゴが出場停止、点取り屋のエジガル・ジュニオは故障離脱中という苦境に立たされていたのだから尚更でしょう。
前回対戦時(15節)は清水の粘りの前に苦戦しながらも、後半の勝ち越しゴールまでは理想に近い展開を演じていたと思われたマリノス。
しかし直後のマルコス・ジュニオール退場でぶち壊しとなり、終了間際立て続けに失点しての逆転負け。
ポゼッションでは圧倒しスコアでもリードを奪う事に成功していただけに、窮鼠猫を噛むという言葉がしっくり来る内容になってしまいました。(当時清水は最下位)
そしてこの日の試合も、ボール支配を繰り広げるマリノスと、それに対処する清水という変わらない図式となります。
トップ下として起用されたマルコスは様々なポジションに顔を出し、両サイドバックのティーラトン・広瀬が時には中央に位置するなど可変式フォーメーションは健在。
しかしマリノスの戦力低下は著しかったようで、パス回しのクオリティが今一つで奪われるシーンが多々。
チアゴの穴には新戦力の伊藤が起用され、エジガル不在のCFには大津。
それ以外にも10番を付けていた天野が海外移籍したりと、苦戦の要因が何処かしこにも見受けられたマリノス。
しかし一方の清水も、北川が海外移籍、CBのファン・ソッコは故障なのかベンチ外。
CBの穴には、マリノス・伊藤と同じくJ2の福岡から獲ってきた吉本を早速起用してきました。(なお吉本の所属はFC東京で、福岡にレンタル中のなか獲得)
お互い苦しい台所事情というスタメンでしたが、ポゼッションでは圧倒されているはずの清水の方が良く見えたのは、やる事がハッキリしていたからでしょうか。
ハードワークを厭わず、相手のビルドアップには前からプレスを掛け、それでも突破されればリトリートに徹する。
夏場では持たなそうな激しいサッカーを敢行していく清水でしたが、一定の効果はあったようでマリノスの攻撃を封じ込める事に成功。
マリノス側が、前回対戦時カウンターに沈められたという意識もあったでしょう。
普段は攻撃で目立つ両SBの松原・エウシーニョもオーバーラップは自重気味で、ベテランの域に入りかけている年齢ながら必死に体を張りディフェンスを行うエウシーニョ。
前半はスコアレスで折り返すと、後半立ち上がりは清水に勢いが傾きます。
後半3分、ストライカーのドウグラスに決定機、それもマリノス側が警戒していたはずのカウンターからでした。
西澤のスルーパスを受けてエリア内左に進入したドウグラス、ファーサイドを狙って左足でシュートを放つもゴールポストを直撃してノーゴール。
その2分後、マルコスのボールロストを河井がすかさず縦パス、西澤が前にトラップしGK朴と一対一の状況に。
西澤が放ったシュートは朴に触れられるも、勢いは止まらずゴールイン。
再びの西澤の殊勲ゴールが生まれた2分後、またドウグラスに決定機が。
自身のポストプレイでチャンスを作り、河井のパスを受けた後エリア内右へドリブルで進入したドウグラス、右足でのシュートはわずかに左に外れてしまいました。
西澤の得点と前後してエースストライカーのドウグラスが決められないとは、勝利の女神は清水にでは無く、西澤個人に対して微笑んでいたのか。
ともかく、この日はプレースキックも(中村が交代出場するまで)ほぼ全て担当していた西澤、攻撃の中心として存在感を高めているようで何よりです。(今週目出度くA契約選手に)
リードを奪われたマリノス、「もう二度と相手に攻撃させない」かの如くボール支配を強め攻勢に出ます。(上述のように、失点直後ドウグラスに決定機を与えていましたが)
しかしエジガル離脱の穴はかなり大きく、フィニッシュの場面で精度を欠いたり、無理目のミドルシュートを撃ったりで得点を奪えません。
過去10試合で8得点を挙げていたエジガル。
マルコスはリーグ前半こそ「ドラゴンボール・パフォーマンス」に象徴されるように最も勢いづいていましたが、現在はエジガルと入れ替わるように運気は停滞気味。
この助っ人2人と、右ウイングの仲川(8得点)が主な得点源であるマリノス。
仲川はドリブラー、マルコスはこの日MFだったように攻撃全体を司る役割があるので、やはりセンターフォワードにエジガルのような確固たる人材が必要でした。
それがこの日は大津だったのですが、今シーズンこれがスタメン2試合目で得点はゼロ、前年も1得点のみ(スタメン17試合)と穴を埋められる人材ではありませんでした。
それでもマリノスの攻撃のプレッシャーに対し、次第に清水は耐えるだけの時間になっていきます。
そして前半から果敢なサッカーを挑んだ事も影響し、アクシデントも頻発します。
後半17分にはボランチで守りの要・ヘナトが足を痛め、ピッチに出されますがその後復帰。
31分に金子→立田への交代で3バック(実質5バック)へとシフトし守りを固めますが、その後吉本が足を攣らせるという事態が発生します。
しかもフォワードの鄭大世を交代出場させようという矢先の出来事で、慌てて交代選手を中村に取り換え吉本と交代、これで再び4バックに。
アディショナルタイムには殊勲者の西澤が足を攣って倒れ、治療が認められない+交代枠はもう無いという状況のなか西澤は最後までプレー。
終了直前にはドウグラスまでも足を攣らせるという満身創痍だった清水、最後まで耐え抜いてウノゼロの勝利。
最悪の状態から這い上がってのJ1残留にまた一歩前進しました。