※前回の清水の記事はこちら(35節・山形戦、1-2)
※前回の熊本の記事はこちら(35節・山口戦、1-1)
<清水スタメン> ※()内は前節のスタメン
- 36節(栃木戦、1-0)で勝利した事で自動昇格が決定し、前節(いわき戦、1-0)の勝利でJ2優勝も確定。
- その36節からスタメンを3バック(3-4-2-1)へと切り替えたが、今節再び基本の4-2-3-1へと戻して挑む。
- 36節で退場になった北川は2試合出場停止の2試合目。
<熊本スタメン>
何度か躓きの傾向も見られたものの、無事前評判通りに自動昇格に辿り着いた清水。
前節に優勝も決定したものの、その後GK権田の今季限りでの退団が発表されるという具合に、既に始まっている来季構想。
現場も現実に戻されたかのように、若手を大量起用する運びとなった最終戦。
そんな「王者」に対し、今季は開幕戦と最終戦で立ちふさがる格好となった熊本。
前年は清水に対し内容で圧倒し(成績は1勝1敗)、まさに天敵と呼ぶに相応しい相手となり得ただけに、道中で相対しなかったのは清水にとって逆に運が良かった感があり。
攻撃面を中心に組織力は圧巻の一言で、それを構成する選手の殆どが新人・若手と、清水とは真逆のアプローチである編成面。
言わば大木武監督の手腕一本で成り立たせている風であり、その大木氏も既に来シーズンの続投が決定と、その進撃に一寸の狂いも見られない……といった所でしょうか。
しかし逆に藤本主税コーチの退任が決定、この試合後には伊東の引退が発表されるなど、功労者がその役目を終える事に。
マンネリ化の防止、と前向きに捉えるのは簡単ですが、果たして来季の戦いは如何に……と言う前にまずは眼前に迫った王者との戦い。
GK猪越・川谷・加藤と、これまで(リーグ戦)未出場の選手をメンバー入りさせた清水。
しかしその浮つきぶりは早速現れ、前半2分にGK猪越のフィードが前に出た岩下にカットされ、そこからの速攻でコーナーキックに持ち込む熊本。
この左CKから、ショートコーナーからのパスワークを経て上げられた小長谷のクロスを、ファーでキャッチしたGK猪越でしたが着地と同時にファンブルしてしまい。
慌ててクリアしたボールを石川がブロック(その後繋がらず)と、不安ぶりを見せた事で、その後チーム全体にも波及してしまったでしょうか。
もう一人の若手である最前線の郡司、こちらは攻撃の選手らしく前向きな姿勢が良い方に発揮され。
8分に左サイドで矢島のボール奪取から、パスを受けた郡司は釣り出した江﨑をボールキープでかわしたのちそのままドリブルで左奥へ。
そして入れたグラウンダーのクロスは中央で、ブラガポストプレイ→乾シュートとフィニッシュに繋がったのみならず、ブロックされたこぼれ球を郡司自ら反応してシュートを放って(ブロック)終えました。
ここからCKを3本続けた清水、熊本の多彩な攻撃に対し受け身にならない姿勢を見せ。(その流れで、ここからサイドハーフの位置が暫く左右逆になる)
しかしそれも直ぐに終了する事となり。
10分が経過すると、熊本は最終ラインからの繋ぎで、豊田が中に絞り上村周とのドイスボランチへと可変する形へと固定化。
これが実にハマり、上村周の右に位置取ったうえで、時には「偽サイドバック」のようにハーフレーンを前線まで駆け上がっていく豊田。
14分には間を通すパスを受けた豊田が持ち運び、小長谷→大本と経由して上げられたクロスを、ニアで石川がフリックのように合わせるも枠を捉えられずとフィニッシュにも繋がります。
対する清水は18分頃からSHを再度入れ替え、ブラガ・矢島ともにスタートの位置に。
その後から暫く保持のターンが続いたものの、熊本のハイプレスと、奪えなかった時の素早い戻りで形になる事は無く。
すると24分、前に出た岩下のパスカットが、文字通り清水からペース自体を奪うものとなり。
ここからの熊本の攻撃は苛烈さを極め、一度途切れてもすかさず積極的に前に出てボール奪取と、全く隙を与えない姿勢を貫き。
そして次々と襲うミドルシュート、24~27分に立て続けに豊田×2・小長谷のシュートと3本続け、いずれもGK猪越がセーブ。
以前ほど目立たなくなったものの、ショートパスでの前後移動に対し前に釣られてスペースを開けてしまうという、清水ディフェンスの弱点は残ったままであり。
それはトライアングルでのショートパスを多用する熊本にとっては格好の餌食という他無く、前年からの相性の悪さも納得するしかなく。
一方後方でも、岩下が相手のプレスの方向を見て、生まれるスペースへ持ち運んでかわすという具合に前進の多彩ぶりが行き渡っている熊本。
かくして前にいくプレスも、退いての守備も出来ないという状況に陥ってしまう清水。
何とか攻撃で巻き返しを図りにいくも、31分に熊本のゲーゲンプレスを浴びながらの前進で、郡司が縦パスを収められず奪われた所から熊本の決定機に繋がり。
パスワークを経て送られた上村周の左ポケットへのスルーパスに、走り込んできた大本(ゲーゲンプレスにより逆サイドに張り出していた)がシュート。
前に出てきたGK猪越の上を抜くループシュートがゴールを襲いましたが、その後ろで蓮川がブロックで防いだ(跳ね返りを猪越が抑える)事で何とか失点は免れました。
しかし守備での不安を隠すべくの攻撃も繋がらないという、三方駄目な状態では苦境はその後も続くのも当然であり。
35分に大西の右からのアーリークロスを東山が脚で合わせシュート(GK猪越キャッチ)、36分に東山→小長谷のパスが遮断されるもエリア内へこぼれた所を石川が拾ってシュート(住吉がブロック)と、熊本のフィニッシュは止まる事無く。
それでも40分にCKからの攻めで、清水のクリアしたボールが岩下の急所に当たるというアクシデントで途切れた事で熊本の勢いも切られ。
43分、三島のトラップが乱れた所をブラガが奪うという逆パターンで好機が訪れる清水、ドリブルからラストパスを受けたのは郡司。
ペナルティアークからシュートを放つも豊田のブロックに阻まれ、評価を変えるべくの得点は挙げられずに終わり。
結局前半のみでお役御免となってしまいました。
アディショナルタイムが取られないという珍しい前半となった末に、ハーフタイムへ突入。
前述の通り郡司に加え、矢島も交代させる手段を取った秋葉忠弘監督。
西澤とタンキを投入し、ブラガが左SHへシフトと前目の2選手を弄って後半開始を迎えました。
入りの後半1分、いきなりロングパスを収めたタンキを江﨑が反則で止めざるを得ないという、そのポストワークで郡司とは段違いの存在感を見せ付け。
その後も4分、乾のドリブルが阻まれたこぼれ球を拾ったタンキ、フィジカルを活かした豪快な持ち運びを見せた末に上村周に反則を受け。
あれだけ熊本優勢だった流れを、そのパワー一本であっさり塗り変えるに至ります。
一方再三振り回された後方、つまり守備でも微調整。
オリジナルフォーメーションは変えずも、守備の際は西澤が最終ラインに降り、ウイングバック化する事で5バックで守る体制へと切り替え。
これによりスペースを消しつつ、相手の中盤でのパスワークに対し原が果敢に前に出てプレッシャーを与える事で乱しに掛かります。
7分にゴールキックでのロングフィードから、またもボールを持ったタンキがマークを振り解きながら前進、そしてミドルシュート(ゴール上へ外れる)と相変わらずパワーを発揮。
しかもそのプレッシャーのおかげで、保持による攻めも巧くいくようになる好循環。
特に守備時での可変が生み出す、西澤・原による2段階というべき右サイドでの攻めが嵌り、次々と押し込んでいきます。
西澤がワイドに張る際はその内側で原が上がるという具合に、熊本のような組織立った攻めで主導権を奪い。
そして16分、その基本形から先制点が生まれます。
原がワイド・西澤がハーフレーンに位置してパスワークでの前進で、ポケットに入ったラストパスから乾が(シュート気味に)クロス。
これがブロックされるも、拾った原がカットインを経て中央寄りから果敢にシュートを放ち、ゴール左へと突き刺さります。
狙い通りの崩しによるリードに、ホーム(IAIスタジアム日本平)の雰囲気も最高潮となり。
前半とは一転した展開の末に、ビハインドなってしまった熊本。
キックオフの前に小長谷→唐山へと交代し、巻き返しを図ります。
19分にカウンター阻止で(唐山を倒した)西澤が反則・警告と、流れを変える機会はあったもののそれは中々果たせず。
すると20分、乾のスルーパスが遮断されたこぼれ球を宮本が拾った事で、「良い守備も奪いきれずに剥がされる」状況を強いられる熊本。
持ち運びからエリア内へ送られたスルーパスを受けたのはタンキで、やはりそのボールキープ力を活かし溜めを作るという手法が選ばれた末に、戻しを経て放たれた乾のミドルシュート。
これがゴールバーを掠めるフィニッシュとなり、スタンドの熱量も手伝い尚も追加点というムードとなる清水。
何とかそれを断ち切り、本腰を入れて攻め直しに掛かった熊本。
しかし5-4-1の守備は、いかに守りに入ると脆い清水といえど崩す難易度は跳ね上がり。
GK以外全員敵陣に入り込み、パスを繋いで前進を図りますが前半のような決定機は作れません。
24分に持ち込んだCKで、クロスの跳ね返りから放たれた三島のシュートもGK猪越にセーブされ、どうしてもゴールを奪えない流れに。
尚もCKから攻めるも、(江﨑の)原への反則で途切れた(原は治療を受けたのちピッチ外→復帰)所で再度カードを使う熊本ベンチ。
三島・東山→黒木・大崎へと2枚替えを敢行します。
黒木は最終ラインでは無くそのまま左WB……と見せかけ、豊田と同様に中央寄りでのプレーが中心となり。
イメージとしては、黒木・豊田をシャドーと見立てた3-3-2-2(3-1-4-2)という布陣がしっくり来るようなシステムとなりました。(ないしは2021年に採っていた3-1-4-1-1か)
そうした特異な布陣により、再度攻勢に入る熊本。
32分には左サイド深めで大崎がボール奪取に成功と前からの圧力も発揮、そこからの繋ぎを経てクロスが上がり、跳ね返りを清水サイドが拾った所をさらに上村周がボール奪取し継続。
こぼれ球を繋ぎ、大本が石川とのワンツーで右ポケットを取りにいき、そのままダイレクトでシュートを放ちましたがGK猪越がキャッチ。
試合の入りから不安視されたGK猪越ですが、シュートストップという面では実力を発揮し、度重なるフィニッシュでもゴールを割らせず。
若手が頼もしく映った所で、34分さらに川谷の投入に踏み切ります。(ブラガと交代、同時に宮本→中村へと交代)
川谷は特にフィニッシュには絡めずも、スルーパスに追い付く(43分)などスピード自慢ぶりを発揮して無事デビューを飾り。
得点できないまま終盤を迎えた熊本、42分に最後の交代を敢行し大本→松岡。(大崎が右へ回る)
44分に持ち前の細かいパスワークを経て、唐山が持ち運びを経て右ポケットへスルーパス、奥で受けた大崎がディフェンスに遭うも右CKに。
するとまだ早い段階ながらGK田代も上がってターゲットに加わり、何としても同点に追い付く体制を取り。
攻撃サッカーを貫く姿勢は一貫しているという熊本ですが、ここから齎されたのは清水のカウンター。
二次攻撃で松岡が切り込まんとした所を蓮川が阻み、こぼれ球を西澤がリターンしてドリブルに持ち込む蓮川。
当然GK不在な状況で、必死に戻り蓮川の前に立ちはだかる田代を嘲笑うかのようにタンキへとパス、そのタンキはエリア内へ持ち込んでからのシュートを選択。
しかし田代は戻りきれなかったものの、黒木のスライディングが間に合う形となり、ブロックで何とか凌ぎました。
そんな慌ただしい流れのままATへ突入し、清水も最後の交代を敢行。(成岡→高木、西澤がボランチに回る)
熊本は左スローインからの繋ぎで、入れられたアーリークロスの跳ね返りを確保した末に石川がミドルシュート。
これがブロックを掠めてゴール左に外れると、左CKの際にまたも上がりエリア内に加わったGK田代。
意地を貫く格好となりましたが、然したる成果は挙げられませんでした。
結局1-0のまま試合が終わり。
ハッピーエンドで締めくくった清水が、J2最後の試合(となるかは今後次第……)も勝利で飾りました。
かくしてJ2という地を後にする事が決まった清水。
この2年間を糧として……とは定型文が過ぎますが、それでも一度目の2016年とはJ2の顔ぶれはガラリと変わり、特に目立つのは何かに全振りしたクラブの増加。
パワーに特化した秋田や、この日の相手である組織力一辺倒の熊本など、個性溢れるクラブと相対した事。
そしてその中で苦闘に塗れながら、掴んだ昇格の切符の味。
決してそれらに足で砂をかけるような真似をせず、今度こそ生まれ変わる事が出来るでしょうか。