Jリーグ最多の20冠を達成している鹿島。
前年その20冠目となるACL優勝を達成した、大岩剛監督の退任が既に確定となっているオフ。
清水との違いは未だ新監督の決定が為されていないという点で、この天皇杯「是非とも有終の美を……」というスタンスで挑んでいるのでしょう。(今週になってようやく候補が出てきました)
しかしそんな浪花節を抜きにしても、鹿島にとってはタイトル獲得出来るか、はたまた無冠で終わるかの一大決戦なのには変わりません。
神戸vs清水の終了直後に行われたこの試合。(会場は別ですが)
清水が神戸の引き立て役に終わってしまったという印象だった第一試合、それに反するような良い勝負を期待したい所でしたが、鹿島の相手はJ2の長崎。
既にカテゴリーから差異が生まれているこのカードも、長崎が引き立て役になりやしないかという危惧が拭えずにいました。
前年は山形がベスト4まで残り、今季もそれに続いたJ2勢の奮闘。
しかし前年の山形は柏・FC東京・川崎とJ1クラブを複数撃破したのに比べると、今季の長崎は4回戦で仙台を下したのみ。
鹿島のような「リーグ戦以外のタイトルもガチで狙いに来る」クラブとの対戦は未知数で、いくら前年J1におり、今季はJ2カテゴリながらルヴァン杯に出場・予選突破を果たした(プレーオフステージでガンバに敗戦)クラブとはいえ不安が残ります。
準々決勝は同じJ2同士の甲府と潰し合い、接戦の末勝利して(2-1)ベスト4へ。
既に長崎も翌シーズンへの編成整備に取り掛かっており、シーズン中レンタルで獲得したビクトル・イバルボと秋野を、完全移籍へ移行させるのに成功。
しかし両名とも、天皇杯の規定(移籍元のクラブで出場している選手は、移籍先では出場不可)により出場させる事は出来ず。
駒落ち状態の中、相変わらず去就が不透明なガンバからレンタル中であるエース・呉屋をベンチスタートに留める等、意思は徹底しているようでした。
この日はリーグ戦で主であった4-4-2では無く、3-4-2-1のフォーメーションで挑んだ長崎。
メンバーが揃わないなかで基本フォーメーションを維持するのは無意味、そう手倉森誠監督は判断したのでしょうか。
戦術面の不安を早めに払拭しようとしたか、前半2分に澤田が遠目からミドルシュートを放つもGK曽ヶ端があっさりキャッチ。
そして鹿島の反撃が始まり、しかも4分に早々に失点。
一旦伊藤が右サイドに流れてボールを受け、クロスを上げるも長崎・鹿山にブロックされると作り直し。
中央にパスを出すとともに伊藤自身も中央前目へと戻り、そのパスを受けた三竿がミドルシュートを放つと、そのボールが伊藤に当たりエリア内へ。
これがセルジーニョへの絶妙なパスとなる、長崎にとってはアンラッキーな展開となり、セルジーニョはすかさずシュートを放ちゴールゲット。
その後鹿島のターンは10分過ぎまで続き、ようやく長崎も攻める事が出来るように。
しかしレオ・シルバと三竿のドイスボランチが控える鹿島の中央の守備は固く、必然的にサイドからの攻撃を余儀なくされます。
惜しいシーンは18分、右サイドを米田と吉岡が突破し、吉岡の低いクロスに後方から澤田が走り込みましたが間一髪でクリアされ合わず。
米田・亀川の両ウイングバックが控えるサイド攻撃は、試合全体を通しても中々のレベルのものだったでしょうが、それが形になる前に再び鹿島の攻撃に晒される事となります。
ややもたついた流れを経て生まれた、鹿島第二の矢がセットプレー攻勢。
22分に左サイドでエリアからかなり手前という位置でのフリーキック、キッカーのレオ・シルバがゴール前に入れると、これが流れて直接シュートのような形に。
スタメンに抜擢された第2GKの富澤、虚を突かれたものの何とかセーブ。
第一波を何とか凌いだ長崎でしたが、その1分後再びほぼ同じ位置でフリーキックを与えてしまうと、これが失点に直結。
再びキッカーはレオ・シルバ、今度はニアサイドに入れて、軌道に入った土居がスルー(フリック?)。
するとクリアしようと足を出した畑、ダイビングボレーシュートのような格好でゴールに入れてしまい、痛恨のオウンゴールを演出。
早くも2点献上してしまう苦しい展開を強いられます。
しかし2点ビハインドとなって開き直れたか、以降は攻勢に出る長崎。
秋野の代役としてボランチに入った磯村が奮起、チャンスを作っていきます。
26分にはドリブルで中央突破からスルーパスを出し、澤田が抜け出すもオフサイドに。
その直後の27分、浮き球をラフに蹴り出した磯村、これが鹿島・犬飼のクリアミスを誘発。
収めた畑からのパスを、カイオ・セザールがエリア内に走り込んでシュートする決定機となりましたが、シュートはゴール右に外れ逃してしまいます。
29分にも、鹿島・ブエノのパスをカットした磯村がそのままミドルシュート(GK曽ヶ端キャッチ)と、J1の強豪相手に対しても一歩も退かない姿勢を見せます。
その姿勢が前半のうちに実ります。
37分、ロングボールを畑が収めたのち、彼のパスを受けた吉岡がエリア手前でキープ。
そして右から鹿島ディフェンスの裏を取ろうとする米田にパスを送ると、米田は鹿島・白崎とのデュエルに勝ちエリア内へ。
GKと一対一のこの状況、米田はGK曽ヶ端の股を抜くシュートで見事に破りゴール、反撃の狼煙を上げます。
今季2年目の米田、天皇杯準々決勝で今季初スタメンを飾って以降、リーグ戦でもスタメンに定着。
そして最終節・新潟戦でゴールを挙げたのちのこの日の活躍……と思いきや、前年はJ1の舞台でゴールも決めている選手。
こういった舞台でも物怖じしない精神力の持ち主なのかもしれません。
その後は一進一退の中、前半最後のプレーは長崎・畑のシュート(枠外)で締められ、2-1で前半終了。
後半開始前、鹿島は土居→名古への交代を敢行。(名古が右SHに入り、セルジーニョがFWにシフト)
どうやら故障絡みでの交代らしく、決勝も視野に入れての無理をさせない采配でしょうか。
後半はお互い決め手を欠く展開に。
鹿島は左右を使いながらパスを回すものの、長崎の5-4-1でのブロックを中々こじ開けられず攻めあぐみます。
一方の長崎も、サイドを有効に使うもののクロスの精度が今一つで、セットプレーでも普段のキッカーである大竹が不在(ベンチ入りはしていた)のため可能性は低く。(この日のキッカーは吉岡)
そんな中、15~16分の鹿島の攻撃。
セルジーニョが左に展開してレオ・シルバに渡り、何度かのパス交換の後に三竿とワンツー、さらにセルジーニョとのワンツーでエリアに迫るレオ・シルバ。
そこからエリア内で白崎ポストプレイ→セルジーニョと細かくボールが動き、エリア内左からセルジーニョがグラウンダーで中に入れると、長崎・鹿山に当たったボールはあらぬ方向へ。
これがゴールバーに当たって跳ね返ると、詰めていた伊藤がゴールに蹴り入れ追加点……と思いきやオフサイドの判定でノーゴール。
リプレイでもかなり際どい判定(セルジーニョのパスの段階での伊藤がオフサイドに)で、鹿島サイドは血相を変えて抗議したものの覆らず。
26分には鹿島・ブエノがボールロストで長崎のチャンス、畑からパスを受けたカイオがエリア内へスルーパスを送ります。
これに澤田が抜け出しますが、GK曽ヶ端も前に出て来て、プレッシャーになったか澤田は触れず。
試合前の予想とは裏腹に好ゲームの様相となり、長崎サイドはこの辺りで満を持して、と言わんばかりに呉屋の交代を準備します。
しかし28分の鹿島のコーナーキック。
キッカーはこの日初となる永木(前半はセルジーニョ、後半はレオ・シルバ)で、彼のクロスが中央に上がると、ブエノが打点の高いヘディングシュートを叩きつけます。
シュートコースに居た伊藤の背中に当たったのもあり、ボールはゴール左上へと吸い込まれ、とうとう鹿島が追加点。
この直後に呉屋が投入され(畑と交代)、何とも間が悪い展開になってしまった長崎。
それとともに、センターバックの角田も積極的に攻撃参加する事に。
そして再び追撃の得点が31分に生まれます。
磯村がドリブルで突破口を開き、そのままスルーパスをエリア内に通し、受けた呉屋がシュート。
これがゴールバーを直撃してしまいますが、跳ね返りを綺麗に澤田がボレーシュートでねじ込み、戻ったGK曽ヶ端も止めきれずゴールイン。
すぐさま1点差に戻し、望みを繋ぎます。
突き放しても詰められる、緊張感ある展開を強いられる鹿島。
流れを引き戻さんと、直後の攻撃(33分)ではセルジーニョが遠目からミドルシュートを放ちますが、ボールはゴールの上へ。
その直後の長崎(34分)、右サイドでカイオ・吉岡・磯村が攻撃を組み立て、最後は吉岡のスルーパスをカイオがエリア内で受けてシュート。
角度の無い所でしたが、GK曽ヶ端がセーブして鹿島に冷や汗をかかせます。
同点も十分あり得る長崎の流れでしたが、38分にここまで奮闘していた右ウイングバック・米田が足を攣らせてしまい、41分に大本と交代。
以降長崎はチャンスを作る事すらままならず、次第に鹿島の逃げ切りモードに突入。
アディショナルタイムには、鹿島恒例ともいえる、相手陣内コーナーでのボールキープを敢行し長崎に攻撃機会を与えません。
結局そのまま3-2で試合終了、苦戦を強いられた鹿島でしたが、最後は貫禄勝ち。
これで決勝は神戸vs鹿島に決定。
初の戴冠か、最多タイトルの更新か。
別の観点から見ても、ダビド・ビジャ引退に花を添えるか、大岩監督が有終の美を飾るかという二者択一。
興行的に非常に面白いカードになったといえるでしょう。