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この世界のどこかに居る似た者達へ。

イーヴを守るもの。

2019-04-18 00:59:12 | お芝居・テレビ
本日は舞台「クロードと一緒に」Blancチームが初日を迎えました。
おめでとうございます。

後半数十分の独白は観ている者全てを驚愕させ、心を乱します。
それは初演でイーヴを演じた相馬圭祐さん、稲葉友さんの時も同じでした。
相馬さんの何をしでかすか分からない、危うい瞳の中で揺らめく愛を知った時の喜びと戸惑い。
稲葉友さんの若くて恋人だけが愛おしく、それ故に体中から噴き出す苛烈な感情に自分さえも切り裂かれてしまう姿。

人を殺めると言うのは正気の沙汰ではない。

そう言う所の心情を、イーヴを演じる方々は皆ご自分の中で葛藤し格闘しながら理解し観客の前に立ってくれて来たと思います。


イーヴを演じるのは三度目の松田凌さんは毎回イーヴと真っ向から向き合い、挑んでくれています。

このブログでは途中までとなってしまった(アタシが倒れてしまったため)「クロードと一緒に」の朗読劇の時も、ただ立って本を読んでいるなどと言うのとはまったく違うアプローチで、観客の胸に深く焼き付いて離れない”彼”を演じてくれました。

本を読んでいるのですが、本をギュッと胸に抱いて涙を流しながら「あの人を愛している」と言うんです。

松田さんがどんな役作りをされているのかは分かりませんが、アタシはあの時の姿が忘れられず「ああ、またこの人はこの役をやるかもしれない。」と思ったのです。


横浜赤レンガ倉庫で上演されている今回のクロードでも、松田さんはかなりコアに役に入っています。
あんなに細くて華奢な体のどこに、あれだけの熱を抱え持ってそれを放出出来るパワーがあるのかと驚愕します。
きっとかなり終演後は疲労されていると思うのですが、松田イーヴが連れて行ってくれる所はアタシ達が今まで行った事のない場所です。
今までのどの「クロードと一緒に」でも行けなかった所です。
とても新しい事をしていると感じます。


とても”彼”と接近します。身体的にも精神的にも。

イーヴと共にイーヴが渡って来た夜を迷い、あの夜までを追体験するようです。

そうするうちに、イーヴがどれ程大切な物を失ったのかが分かるのです。


「観客は芝居の物語を旅する仲間。時には一緒に辛い思いもする。」


いつか演出家の方がそう仰っていました。まさに今、こんな感じなのかなぁと思います。



「絶望の果てに行ってしまった彼を引き戻したくて、彼の勇気をたたえたくて、毎回袖中で彼を抱きしめた。二人して泣いた。」

初演でギイ役を演じた役者さん、井上裕朗さんが当時ご自身のブログに書いた言葉です。


きっと松田さんの事もそうしてくれる方が居るとアタシは思っています。




イギリスのオアシスと言うバンドの「Wonderwall」と言う曲は、メンバーのギャラガー兄弟が小さな頃父親の暴力から逃げるため、母親が自分たちを連れて家を出た夜の事を歌っているんだそうです。
母親の事が自分達を守るwonderwall、不思議な壁の様に思えた、と。


”僕らが行く道は常に険しくて

 僕らを照らす明かりはいつも光を失っていて

 言いたい事は山ほどあるけれど

 あなたに伝えたい事はたくさんあるけれど

 どうやって伝えたらいいのか分からないんだ

 だって、多分さ

 あなたは僕を救うただ一人の大切な人なんだよ

 結局のところ

 あなたは僕のワンダーウォールだったんだ”



イーヴの気持ちが何となく見えて来る様な気がして。
イーヴと彼の最愛のクロードのことが。


Oasis Wonderwall Lyrics

クロードと一緒に 2019年版。

2019-04-16 23:38:16 | お芝居・テレビ
アタシが初演から観劇させて頂いているお芝居”クロードと一緒に”が四度目の公演を迎えました。

初日に先がけてプレヴュー公演を観て来ました。

今回はBlanc、Cyanと言う演者の異なる二つのチームでのWキャスト公演です。

アタシが観たのは松田凌さんが”彼”を三度演ずるBlancのプレビューでした。


劇場は横浜赤レンガ倉庫。ここは、駅から歩くと少し時間がかかります。
横浜ベイエリアあるあるで「見えているのになかなか着かない」と言う、なめてかかると確実に遅刻する劇場です。
でも、この「クロードと一緒に」と言うお芝居を演じるためにあるような、このお芝居にぴったりの本当に素敵な場所です。

それは降り立った駅からもう既に物語が始まった様に感じる程です。




みなとみらい線馬車道駅。電車を降りるとこの景色です。ここは日本?と思う位素敵です。

モントリオールの駅?ジャリ駅かな?ボナヴァンチュール駅?

とにかく一気に「クロードと一緒に」の世界へと誘われます。ワクワクします。




そして改札を出ると大きな鍵のついた重そうな扉や金属製の窓枠などがはめ込まれたレンガの壁。これは駅構内です。

とても迫力のある壁で圧倒されます。思わず「おおっ!」と声を上げてしまいました。これは横浜銀行旧本店で実際に使われていた窓や扉だそうです。この馬車道駅は横浜銀行旧本店がかつて建っていた真下に位置するんだそうです。また、駅構内のレンガは大正以前の古いレンガだとか。

赤レンガ倉庫方面には6番出口から出ます。階段を上がった所にも重厚な建物があります。横浜第二合同庁舎と言う建物だそうです。
その建物を左手に見て赤レンガ倉庫までは真っすぐに歩きます。



これまた外国の街角に居る様な気分になる素敵なインテリアショップ。

もう心はカナダのフランス語圏の町の中です。


一方向から見ると横浜の景色が絵画に見える様に額縁の形をしているホテル「ナビオス横浜」、ワールドポーターズくらいまで来ると右手に赤レンガ倉庫が見えて来ます。

そこからはひたすら右方向へ歩くだけです。歩くだけですが思うよりも時間がかかります。ご注意を。

横浜市営地下鉄・桜木町駅からでも歩けるみたいですが、アタシは断然この馬車道駅から歩く事をお勧めします。こちらの方が最寄りの駅ですし、公式で徒歩6分とありますが10分位でしょうか。結構な早歩きで(笑)。
とにかく馬車道の駅が素敵すぎます。もう、そこから「クロードと一緒に」が始まります。

プレヴュー公演は19時30分スタートだったので街はもう真っ暗です。赤レンガ倉庫は何かイベントをやっていて、その灯りが煌々としていました。人々の喧騒も「クロードと一緒に」の物語の夜の建国記念日と、モントリオール万博の夜の大騒ぎのような賑わいみたいです。

横浜と言う土地柄的に外国人の方達もいらっしゃるので、やはり日本じゃないどこかに居る気分です。


「これは凄いことになるぞ。」


と思いました。舞台を観る前からこんなにもその世界に入り込んでしまうなんて、街全体がこの物語を抱え込んで観客を待っているようで少し怖くなる程です。

そしてその予感は見事に的中しました。


もう既に知られているのでネタバレにもならないかもしれませんが、一つだけ。

今までのストーリーでは”彼”の独白は舞台上の刑事や速記係に向けて展開されましたが、Blancでは舞台から”彼”以外の出演者は全て居なくなってしまいます。”彼”はたった一人であの数十分間の独白をします。

たった一人で、と言うのは違うかもしれません。

それは全て観客に向かっての独白だったからです。


皆が居なくなってしまった舞台に”彼”は小さくうずくまっていました。

長い沈黙がありました。観客がじっと”彼”を見ていました。もの凄い沈黙でした。今思い出しても心が震えます。

あの時からアタシ達と”彼”は4度目の公演で初めて「繋がり」を持ったんです。

そして凄まじい時間が訪れます。


覚悟しなければなりません。

何故なら松田凌演ずる”彼”が全力でこちらに飛び込んで来るからです。

そして、目を逸らしたくなるような現実にも、愛する人との愛おしい時間にも、全部すべてこちらの手を強く掴んで連れて行くからです。


何故、”彼”は恋人クロードを殺したのか。

「言葉に出来ない、言い表せない」

そう繰り返す”彼”の言いたい事が一瞬、掴めた気がしたんです。


そう思ったと同時に舞台が暗くなりました。







今まで彼らが物語を紡いでいたのと同じ空間に居る様な劇場。

やはり女の子達は泣いてしまっていました。まだあちらの世界から戻って来られません。アタシもです。







ああ、これは。

これはヤバいぞ。

今までのクロードとは全然違う。

でも何故か”彼”を近くに感じる。

最後の最後に近くに居てあげられた気がする。

これは初めてのこと。


静かにゆっくりと柔らかなラブソングが頭の中に流れて来る。

このお芝居の自分だけのエンディングには、優しくて哀しくてあたたかい曲が流れて来る。

どうあってもこの物語は殺人の話ではなくて愛の物語なのです。





いつか振り出した小雨に濡れながら、暗がりに浮かぶハートを見ました。

劇場に入る前はカップルが列をなして写真を撮っていました。もう誰もいません。

こんな風景もなんだか妙に、ストーリーの中に入り込んでいる気がしてなりません。

無論、この日も色々引きずり眠れぬ夜となりました。


今回も眠れない夜を数える事になると思うけれど、あの舞台がどう進化してゆくのか観ておかない手はありません。

Cyanもまた、全然違うと聞きます。迷っていましたがチケットを取りました。

きっと観ておかないと後々後悔すると思ったからです。

”彼”=イーヴと共に暗闇の中の光を探しにまた出かけようと思います。

公演は4月28日まで。

「クロードと一緒に」




























































2019年のイーヴへ。

2019-04-14 22:32:52 | お芝居・テレビ



あなたの痛みや絶望や
愛する気持ちや安らぎを
私達はいつも見つめるだけでした

ガラスの箱の中で
壊れゆく
美しいあなたを


そしていつも
あなたを救えぬ悲しみで
涙を流していたのです


あなたの頬を伝う涙が
床にポトリと落ちた時
あなたが顔を上げて
私達の方を見た時
全てが始まったのですね


皆居なくなってしまった
あなたが本当に一人になってしまったと思った

だけどそれは
あなたと私達との始まりだった


私は初めて
あなたと居てあげられたと思えたのです  

きっと

私達は初めて
最後にあなたと居てあげられた









”クロードと一緒に” 傷だらけの朗読劇 2。

2016-07-07 18:19:15 | お芝居・テレビ
朗読劇と言われる物を拝見するのは生まれて初めてでしたが、まぁ、想像するに”本”を読むんだと思っていたわけです。

このお芝居は後半に行くにつれ、感情が噴き出すお話ですので、それを”本”を持ち”読む”事でどう表現するのか気になっていました。

まぁ、”読む”んだろう、と思っていたわけですが・・・。

しかし、この朗読劇が始まった途端、”クロードと一緒に”はアタシの想像を簡単に超えてゆきました。

誰かが”本”を”読む”のを聞いている、なんて生易しい物ではありませんでした。

やっぱりこのお芝居は只者では無いのです。


イーブが事件直後の自供をしている時に「ジャリ駅」と「ボナバンチュール駅」と言う駅名が出て来ます。すると、後方のスクリーンに本当にその駅の画像が映し出される訳です。

モントリオールに実在する地下鉄の駅が。

イーブの記憶の中の様な、色彩を抑えた感じで。

観客はまず、イーブの”目線”でこの物語の中に引きずり込まれてしまいます。

”本を読む”んだと思っていたアタシは、少し慌てました。

思わぬ力に引っ張られて、「おっと、」と足元がフラつく感じ。

そして瞬時に以前友人から聞いた話を思い出しました。


友人には二人の小さな姪っ子が居ます。

家に泊まりに来た時など寝る前に友人が作った話を聞かせてあげるそうなんです。

その話には沢山の動物が出て来ます。

そして仲良く楽しいおしゃべりや楽しい遊びをして過ごしますが、皆、帰る場所があって時間が来るとお別れしなければならないのです。



「”さようなら”と言ってみんな、帰ってゆきました。」


友人がそう言うと、姪っ子は泣き出してしまったんだそうです。


「嫌だ!!まだ帰らないで!!!」と。


あまりに友人の話に入り込み、眠るどころか自分も一緒に動物達と遊んでいる気持ちになってしまったんですね。

友人の話し方も上手だったのだと思います。

「大丈夫だよ。また明日皆来るから、遊べるよ。」

と言って落ち着かせたそうです。



アタシはまるでその時の友人の姪っ子みたいな状態になるんじゃないかと、今回のこの朗読劇の冒頭でちょっとたじろぎました。



伊達さん演ずる刑事は、初演時の刑事とは雰囲気が違って随分、粗野と言うか言葉も乱暴だし、”現場たたき上げ”そのまんまの刑事な気がしました。

どちらかと言うと、再演時の唐橋さんっぽいのかも。人間臭い。

初演の時の刑事は、もう少し冷静だったかもしれません。

今回は脚本の変更があり、演出も今までの方と違うのでキャラクターの雰囲気が違うのは当然なのですが、イーブ役の松田さんと刑事役の伊達さんがあんまりにもしっくり来ているので驚きました。

初顔合わせなのに、もう何度か組んでる感じがしました。

このお二人の科学反応は凄いかもしれませんね。


この舞台でずっと警備官”ラトレイユ”を演じて来た鈴木ハル二さんは今回、速記係”ギィ”役です。

もう、ラトレイユとしてのハル二さんしか知らないので、最初はどうなるのかと思っていました(笑)。

今までラトレイユはこの舞台の”救済”とも言えるべき存在で、呼吸をするのさえままならなくなってゆく物語の後半に備えて、存分に観客の力を抜いてくれる役柄だったのです。

しかし今回は速記係。歴代の”ギィ”達は寡黙で笑いの要素など皆無です。


・・・・・・。

いやいやいや。

いやいやいやいやいや。

ハル二さんの担当は変わりません。まごう事なき笑いでした(笑)。


イーブと刑事がマイクに向かっている間、ギィと警備官は後ろで椅子に座っています。

テーブルがありますが、ギィは速記を行いません。

あくまで朗読劇だからでしょうか。

しかし、警備官と共に表情の演技はしていました。


イーブがイラつき、ギィの事を「あのおっさんを追い出してよ!」と言うと「えっ!?」と言う表情を浮かべ、刑事の隣のマイクの前に立ちます。

「あの、わたくし今”おっさん”て言われたんですけども・・・。」

などとおとぼけフェイスで言うハル二”ギィ”。

コーヒーを買って来てくれと刑事に頼まれ、お金を・・・とせがみます。

刑事が客席の方ではなく、ハル二”ギィ”の方をチラリと見、”本”をポンポンと叩いて「この状況だ、分かるだろう!」と。

今回はこんな風にお芝居の世界から一瞬、現実に戻る様な場面がありました。

ロバートとギィに限ってですが。

このハル二”ギィ”と伊達”ロバート”は後にもやらかします(笑)。


「じゃぁ、コーヒー買って来ます!あ!急に扉が出現!!ぎぃ~(これ、役名とかけたシャレだったのかな!?)、バタン!!」などと言って退室してゆくギィ。

もはや、井上裕明さん、唐橋充さん、山口大地さんの創り上げて来た今までの”ギィ”像が跡形もなく崩れ落ちた瞬間でございました(爆笑)。


今回の”ギィ”と”ロバート”のやり取りには賛否両論あるみたいですが、アタシは好きでした。

だってそれだけ、それ位やってもらわらないと、今回の”彼”の独白は聞けなかった。

それ程、凄かった。

今までで一番、凄まじかったのだから。


松田さん演ずるイーブは1年前よりも落ち着いて見えました。

”本”を持つ長く骨ばった指も美しく、洗練されていました。

優しい穏やかな声質で、神経質になる台詞でも、そんなに嫌な感じがしませんでした。



しかし、彼は落ち着てなんかいなかったんですね。

1年前よりも、より多くの物を抱え込み、より脆い状態で立っていました。

ほんの少し押しただけでも全てが壊れてしまうかの様に。




つづく。






































































”クロードと一緒に” 傷だらけの朗読劇。

2016-07-06 15:44:30 | お芝居・テレビ
お久しぶりのブログとなってしまいました。

皆さま、お変わりなくお元気でいらっしゃいますでしょうか。



昨日、再再演となる舞台「クロードと一緒に」を観てきました。千秋楽でした。
2014年の初演からずっと観続けているお芝居。
初演時のレポ。



相馬圭祐編ここから


稲葉友編ここから


”二人のイーブ。”






再演時のレポ。


”クロードと一緒に 再演。”


再演 クロードと一緒に 千秋楽。”




再再演の今回は”朗読劇”と言う形をとり、この物語の舞台設定7月4日から7月5日にかけて上演されました。
とても粋な演出です。最高です!!

キャストは彼=イーブ役を再演時に演じた松田凌さん、刑事=ロバート役を初演時の伊達暁さん、速記係=ギィ役をなんと鈴木ハル二さん、警備官役を岩尾祥太郎さんと言う役者さんが演じました。

そして今回の音楽は生での演奏でした。水永達也さんと言うミュージシャンの方が役者さん達と共に舞台上で場面に合わせ、ギター等の演奏をしました。


舞台には客席に一番近い際付近にマイクスタンドが4本立ち、その後ろに大きな木製のテーブル。役者の背面となる壁にはスクリーンがあり、場面によって様々な映像が映し出されました。


まだ梅雨の明けぬ7月初旬、真夏の様な暑さが続いていた時の急な雷鳴と豪雨に見舞われた日、朗読劇”クロードと一緒に”は初日を迎えました。

たった2日間の公演。

前日の雷雨の後、急激に気温が下がり曇り空と少し肌寒い位の気温の中、新国立劇場にて千秋楽です。



あまり時間の余裕のない状態で会場に着いたので、アタシが席に座った時にはもう開演間近でした。

開演まではスクリーンにカナダやモントリオールであろう画像が映し出されていたようです。

雰囲気がとても良かった。クロードの舞台は何と言うか、雰囲気がスタイリッシュです。

平日の16時公演に足を運べる観客と言うのはきっと限定されてしまうと思うのですが、なかなか皆さん都合をつけたようで、ロビーにも客席にも、沢山の観客が居ました。

初演、青山の円形劇場からこの舞台を拝見させて頂いている自分としては、いつの間にかこの舞台がこんなにも広く知られた事に驚きを隠せません。とても嬉しいです。



客電がおち、黒い服、黒い帽子を被った水永さんが舞台の端に座り、アコースティックギターを弾き始めました。

演奏が始まるとそこはもう、”あの”感じでいっぱいになりました。

あの、ずーんと落ちてゆく感覚・・・。


舞台下手から赤いジャケットを着た青年が登場。

約1年ぶりの彼=イーブ。ゆっくりゆっくり歩いて来ます。

テーブルの後ろにあるハンガーにジャケットを脱いでかけました。


去年のイーブの持っていた無邪気な少年っぽさの様な物が立ち消えて、代わりに妖艶な雰囲気をまとっていました。

今までイーブを演じて来た相馬圭祐さん、稲葉友さんにも、何とも言えない色っぽさがありましたが、イーブを演ずるのが二度目の松田さんには、目を見張る程の相当”ヤバい”ものを感じました。

初出演で警備官の衣装を着けた岩尾祥太郎さん、そして驚きの速記係役で鈴木ハル二さんがスーツで登場。なんか変な感じ(笑)。

刑事役の伊達さんは意表をついて、客席からの登場でした。

スーツ姿、ハットを被ってました。凄く似合っていてかっこよかった

ハットを脱いで速記係”ギィ”に渡すと、ギィがハンガーにかけました。



”本”を手にして、彼と刑事がマイクに向かって立ちました。

観客の始まりの準備が整った頃、ギターの旋律が止みました。


一番初めの台詞は刑事の怒鳴り声です。

あの、ずぅーんと落ちてゆく感覚を打ち破って、大きな声が響きます。

”本”から顔を上げた「彼」の表情。うつろで疲れて、それでいて怒り憤慨した美しい顔。

36時間。

すでに36時間が経過しお互いにお互いの顔などもう見たくないくらい、うんざりした空気が唐突に観客の目の前に広がりました。


さあ、戦いの始まりです。



つづく。