leka

この世界のどこかに居る似た者達へ。

9日間女王様だった女の子 10。

2014-04-09 23:10:58 | お芝居・テレビ
ロジャーは信愛なる友人の命を救うため、力の限りの説得を試みました。

しかし、彼女が出した答えは自ら断頭台へ上る事でした。

ロジャーの表情には「これだけ言っても駄目なのか。」と言う悔しさも見てとれましたが、「やっぱり、そうだよな・・・。」と最初から彼女が向かう答えを予想していて、それをひるがえせなかった自分への敗北感の様な物がある気がしました。

彼の中にジェーンの「生」についての言葉は残っておらず、もはや別れの言葉しか言うべき事は無いのです。


「来てくださってありがとう。」

そう言って、ジェーンは初めてロジャーと言葉を交わすきっかけとなった魂についての書”パイドン”を彼に渡します。

お互いに「さようなら。」と言い合って、二人の交わす会話は最期を迎えました。



いよいよジェーン・グレイの処刑の時がやって来ました。

ロジャーと共に、”魂の友人”であり得たブラックバードに「お前、最期まで見ていてね。」とジェーンは声をかけて断頭台へと向かいます。




自分で出した答えに納得したのか、ジェーンはとても落ち着いています。

彼女が処刑台へ立った瞬間、16世紀のジェーン・グレイの処刑される日の処刑場へと客席が瞬時に時空を超えました。


農民達が集まって来ました。

ロジャーも駆けつけます。

観客も、今まさにジェーンが処刑されるその瞬間に居合わせていました。


ジェーン・グレイは最期に英国国民に、この国を愛し、この国の繁栄を望んでいると自分の言葉で伝えます。


「ジェーン・グレイの刑を執行します。」

司祭の声が響きました。

付き添っていたローズが「司祭様、どうか、どうかっ・・・。」と震える声で懇願しますが、処刑台の空気に耐え切れず彼女は気を失ってしまいます。





同じく付き添っていたエレン。ジェーンに目隠しをするように言われ立ち上がりましたが、彼女も卒倒してしまいます。


気を失って倒れたエレンの手から目隠しのための白い布を取ると、ジェーンは司祭に自分で巻いて良いか聞きました。








何も見えなくなってしまったジェーン。両手をさまよわせ、処刑台を探します。

「処刑台はどこですか?」


さまよう彼女の手をとって、司祭が処刑台へと導きました。



何故、こんなことに。

何故、あんなに若く美しい彼女が、こんな「人生の最期」を迎えなくてはならないのか。

あまりにも惨い、胸の奥が激しく痛むような光景です。





もう泣いたり怖がったりしないジェーン。自分が信ずる神のそばへ行く事を心に決めました。

ゆっくりと首を処刑台へと預けます。

処刑人の持つ斧が無情にも振り下ろされ、9日間英国女王の座についた16歳の女の子の生涯が閉ざされました。


まるで綺麗に咲いていた花が、一瞬にして散ってしまった様に。





つづく。



























































































9日間女王様だった女の子 9。

2014-04-09 23:09:41 | お芝居・テレビ
ジェーンに会いに来たロジャーの手には、ペンと紙が握られていました。

そして命が助かる方法がある、それはカトリックへの改宗だ、とジェーンに伝えます。


「カトリックへ改宗?」


と言ってジェーンは顔を曇らせます。


「そんな顔、すると思った・・・。」

彼女の表情を見てロジャーがつぶやきました。


この場面でのロジャーの表情は2月の時点と3月の公演ではかなり違っていました。

2月の時は言いながら彼は笑顔でした。「やっぱり、そんな顔すると思ったよ!」的な、比較的明るい笑顔。

3月では、明らかに悲しそうに、落胆の色すら見える力ない笑顔でした。

でも、ロジャーは諦めません。

全力でジェーンを説得にかかります。








君ははめられたんだ、君は何も悪くない、嫌ならカトリックに今だけ改宗してまたプロテスタントへ戻ればいい。

ジェーンの命を救うため、言葉の限りを尽くして彼女がうん、と言うのを渇望するロジャー。

しかし、

「さぁ、ここに書いてしまおう。」

と紙とペンを差し出しても、ジェーンは悲しそうにロジャーの手元に視線を落とすだけで近寄ろうとしません。

ジェーンが改宗するとその紙に書かない事は、彼女の死を意味します。





ついには魂を曲げてまで生きていたくない、とジェーンは言います。






「魂と肉体は一緒だ、肉体が消えたら魂も消える。私は君に消えて欲しくない!!」



業を煮やしてロジャーがジェーンの腕を掴み、抱き寄せます。




それはまるでギリギリにならなければ言えなかった、ロジャーからジェーンへの愛の告白にも聞こえました。


そしてとうとうギルフォードの処刑が行われてしまいます。

舞台後方より処刑台が出て来ます。

木製の小さな舞台の様な物の上に、真ん中がくぼんだ断頭台が置かれていました。

ギルフォードは遠くを見つめる様にそこへ立ち、自分にもう少し知恵があったらこの国を一緒に作っていけたかもしれない、とジェーンに語りかけます。そして

「君とはもっと違う時代に出会いたかった。」と。

若い夫婦なりに寄り添ってこの過酷な運命を懸命に乗り越えようとしていた姿が思い出され、胸が締め付けられるようです。

ギルフォードが断頭台のくぼみに頭を乗せると、大きな大きな斧が振り落とされました。

息をのんで見つめていた客席の静寂を切り裂くように、ジェーンの悲鳴が響き渡ります。




恐怖に身を震わせるジェーンでしたが、ロジャーの心からの言葉の数々に、彼女は一つの考えに行き着きました。

しかし、それは残念ながらロジャーの思惑とは大きくずれた結論でありました。


自分には女王になる事を拒否する言葉があったはずだ、と。

女王になると言う事は、国の長になる事であり、国を動かす責任ある地位に自分を置く事。

そんな重大な事にも気付かずに、あまりにも簡単に女王になる事を承諾した自分はいけなかったんだと。

ジェーンのつむぎ出した思わぬ結論に

「今、気付いたじゃないか!!!」

とロジャーは声を震わせて叫びます。

しかし、ジェーンの結論は翻る事はありませんでした。

「罪だと言われるならば甘んじてそれを受け入れる。」

それが自分に嘘をつかないやり方だと彼女は結論したのです。


ついぞ首を縦に降らなかったジェーンに、がっくりと肩を落とすロジャー。

でもきっとロジャーは分かっていたんじゃないかと思うんです。

ジェーンは改宗など絶対にしないと言う事を。

分かっていたからこそ、あんなに必死にジェーンを説得したのではないかと。


もしロジャーがジェーンの立場であったとしたら?

誰かに言われて改宗するでしょうか?

親友に説得されたならなお更「君なら分かってくれるだろう。」と言う思いになりはしないでしょうか。



二人はあまりにも近しくて、あまりにも特別な存在同士だったのではと思うのです。







つづく。