イーブは口が重いと言う訳ではなく、話しているけれど取り調べる側の人々が欲しい言葉では話さないと言う感じでした。
なので、刑事も速記もイラついたり呆れたりするわけです。
しかしイーブが後半になって話すエピソードが、彼の意識の変化が見えて来るポイントとなる様な気がしました。
それは、イーブとアメリカ人の客の話。
ある夜、店から酔って出て来た数人のアメリカ人の男達の中の一人が、広場に居るイーブに目を留めました。
仲間が帰ってゆく中、イーブの言う「その中で一番の男前」は、一人イーブの方へやって来ます。
酔っていて「君の隣に上手く座れなくてごめん・・・。」とかなんとかその男はイーブに言い、イーブが金がかかる事を彼にを伝えると全部のお金をその場でイーブに渡します。
そして二人は連れ立ってその男の部屋へ行きますが、男前はイーブに地図を見せて地元の場所やなんかを聞いたりして話すうちに眠ってしまうのです。
イーブは男前の靴を脱がしてやり、ベッドに寝かしつけると貰ったお金を全部彼の傍らに返して部屋を出て来た、と言う話。
そしてこの一件があって、体を売るなんてことはもうやめようと思ったとイーブは言います。
話し終えたイーブはデスクに後ろ手をついて、どこか違う次元に行ってしまった様な、恍惚とも言える表情を浮かべていました。
刑事は黙ってこの話を聞いており、ぼんやりしているイーブをじっと見て
「もう、終わったか?」
と、彼に言葉をかけます。
すなわち、
「もう、気がすんだか?」
と。
相馬さん演じるイーブはこの刑事の言葉に対し、ぼんやりとした表情のまま少し首をかしげる様にして小さく頷きます。
言葉は発しません。アタシ的にはこの場面が一番セクシーでした。
なんだか、ポヤンとして熱にやられてしまった様な顔で女の子みたいにコクン、と、ぎこちなく頷く感じが。
これは稲葉さん演ずるイーブでも同じでした。
あんまりイーブの様子が色っぽく可愛いので、この「男前」がクロードだったんじゃないかとアタシは思いました。
実はこれがイーブとクロードの出会いだったんじゃないかと。
他人に名前を呼んで欲しくない程の運命の人との出会いの話であったのならば、話し終えた後のあの感じは納得出来るなぁと。
ちなみに、映画版の「Being at home with Claude」にも、このアメリカ人との場面がありまして・・・。
その場面はイーブの回想なのでモノクロで、幻想的でとても綺麗な場面でした。
イーブとアメリカ人は広場では一言も言葉を交わしません。
男はイーブのブーツか何かの”フリンジ”に触れ、イーブは初めて男と目を合わせます。
そしてタクシーをひろってやり、男を先に乗せてから自分も乗ります。
このイーブと男のお互いの意思の疎通までの過程が素晴らしい。
下品な会話もなければ、余計な邪魔も入らない。
夜の広場に二人きり。
ベンチに座って何度か視線を交差させるだけ。
なのに、手に取る様に二人の感情が伝わって来ます。
こことは違う世界へいざなう様なイーブに対し、少し戸惑いがちな視線を返す男の鼓動が聞こえてきそうなんです。
広場に吹く柔らかい夜風まで感じられる、とてもセンスのあるシーンです。
二人を乗せた車が広場を離れてゆくのを観ながら、思わず拍手したくなってしまう。
舞台のイーブは刑事に「終わったか?」と聞かれ、お前の無駄話に付き合ってる時間なんかないと言う様な事を言われてしまいます。
そんなデタラメみたいな話はどうでもいいんだ、と。
そしてイーブを挑発する様な態度に出ます。
刑事は「誰にも言った事のない話をお前にしてやる。」と言います。
自分の奥さんにもした事の無い話を。
刑事は、イーブの様に街角に立ち客をひく男娼を沢山見て来たと言います。
可愛い奴もいれば、何回殴られたんだと思う様な酷い顔の奴。様々な容姿と同じに様々な事情を抱えた男達。
「俺はそう言う奴らを前にして、目ん玉が落ちるんじゃないかと思う位泣きそうになる事がある。」
「速記係りが居なければ、そいつらを抱きしめてやりたくなる。」
「でも今まで見てきた奴らの中で、お前程酷い奴は居ない。」
刑事のこの告白がどう言った意味を持つのか、その場ではよく掴めませんでした。
しかし、お芝居も終わる頃になって・・・いや、お芝居が終わってから、アタシはこの刑事の言葉の意味を痛い位理解してしまいました。
この他にも、何かが加速したように刑事はイーブを罵倒する様な言葉を吐きます。
さぁ、もうそろそろ終わりにしようぜ、と言う事なんだと思います。
相馬さんの瞳はずっと刑事を捉え、ひとつひとつの言葉をしっかりと受け止めているようでした。
そしてイーブにとうとう自分と向き合う時間が訪れます。
自分の孤独と傷に。
つづく。
なので、刑事も速記もイラついたり呆れたりするわけです。
しかしイーブが後半になって話すエピソードが、彼の意識の変化が見えて来るポイントとなる様な気がしました。
それは、イーブとアメリカ人の客の話。
ある夜、店から酔って出て来た数人のアメリカ人の男達の中の一人が、広場に居るイーブに目を留めました。
仲間が帰ってゆく中、イーブの言う「その中で一番の男前」は、一人イーブの方へやって来ます。
酔っていて「君の隣に上手く座れなくてごめん・・・。」とかなんとかその男はイーブに言い、イーブが金がかかる事を彼にを伝えると全部のお金をその場でイーブに渡します。
そして二人は連れ立ってその男の部屋へ行きますが、男前はイーブに地図を見せて地元の場所やなんかを聞いたりして話すうちに眠ってしまうのです。
イーブは男前の靴を脱がしてやり、ベッドに寝かしつけると貰ったお金を全部彼の傍らに返して部屋を出て来た、と言う話。
そしてこの一件があって、体を売るなんてことはもうやめようと思ったとイーブは言います。
話し終えたイーブはデスクに後ろ手をついて、どこか違う次元に行ってしまった様な、恍惚とも言える表情を浮かべていました。
刑事は黙ってこの話を聞いており、ぼんやりしているイーブをじっと見て
「もう、終わったか?」
と、彼に言葉をかけます。
すなわち、
「もう、気がすんだか?」
と。
相馬さん演じるイーブはこの刑事の言葉に対し、ぼんやりとした表情のまま少し首をかしげる様にして小さく頷きます。
言葉は発しません。アタシ的にはこの場面が一番セクシーでした。
なんだか、ポヤンとして熱にやられてしまった様な顔で女の子みたいにコクン、と、ぎこちなく頷く感じが。
これは稲葉さん演ずるイーブでも同じでした。
あんまりイーブの様子が色っぽく可愛いので、この「男前」がクロードだったんじゃないかとアタシは思いました。
実はこれがイーブとクロードの出会いだったんじゃないかと。
他人に名前を呼んで欲しくない程の運命の人との出会いの話であったのならば、話し終えた後のあの感じは納得出来るなぁと。
ちなみに、映画版の「Being at home with Claude」にも、このアメリカ人との場面がありまして・・・。
その場面はイーブの回想なのでモノクロで、幻想的でとても綺麗な場面でした。
イーブとアメリカ人は広場では一言も言葉を交わしません。
男はイーブのブーツか何かの”フリンジ”に触れ、イーブは初めて男と目を合わせます。
そしてタクシーをひろってやり、男を先に乗せてから自分も乗ります。
このイーブと男のお互いの意思の疎通までの過程が素晴らしい。
下品な会話もなければ、余計な邪魔も入らない。
夜の広場に二人きり。
ベンチに座って何度か視線を交差させるだけ。
なのに、手に取る様に二人の感情が伝わって来ます。
こことは違う世界へいざなう様なイーブに対し、少し戸惑いがちな視線を返す男の鼓動が聞こえてきそうなんです。
広場に吹く柔らかい夜風まで感じられる、とてもセンスのあるシーンです。
二人を乗せた車が広場を離れてゆくのを観ながら、思わず拍手したくなってしまう。
舞台のイーブは刑事に「終わったか?」と聞かれ、お前の無駄話に付き合ってる時間なんかないと言う様な事を言われてしまいます。
そんなデタラメみたいな話はどうでもいいんだ、と。
そしてイーブを挑発する様な態度に出ます。
刑事は「誰にも言った事のない話をお前にしてやる。」と言います。
自分の奥さんにもした事の無い話を。
刑事は、イーブの様に街角に立ち客をひく男娼を沢山見て来たと言います。
可愛い奴もいれば、何回殴られたんだと思う様な酷い顔の奴。様々な容姿と同じに様々な事情を抱えた男達。
「俺はそう言う奴らを前にして、目ん玉が落ちるんじゃないかと思う位泣きそうになる事がある。」
「速記係りが居なければ、そいつらを抱きしめてやりたくなる。」
「でも今まで見てきた奴らの中で、お前程酷い奴は居ない。」
刑事のこの告白がどう言った意味を持つのか、その場ではよく掴めませんでした。
しかし、お芝居も終わる頃になって・・・いや、お芝居が終わってから、アタシはこの刑事の言葉の意味を痛い位理解してしまいました。
この他にも、何かが加速したように刑事はイーブを罵倒する様な言葉を吐きます。
さぁ、もうそろそろ終わりにしようぜ、と言う事なんだと思います。
相馬さんの瞳はずっと刑事を捉え、ひとつひとつの言葉をしっかりと受け止めているようでした。
そしてイーブにとうとう自分と向き合う時間が訪れます。
自分の孤独と傷に。
つづく。