漫画「はじめの一歩」が舞台化され、先日品川ステラボールにて無事千秋楽を迎えました。
「はじめの一歩」と言う漫画の存在は知っていたけれど、読んだ事は無かった。
正直「漫画の舞台化なんて。」と言う気持ちがあって、一度観ればいいと思っていました。
でも、これは大きな間違いだったんです。
ボクシングはあまり観ない。痛そうだからね。
でも、「あしたのジョー」は観てたかなぁ。
主人公の矢吹ジョーのライバルの力石徹の末路と言うのは、過酷で苛烈ですさまじくて、よくあんな描写をアニメで子供が観る時間に放送したと思う。
ジョーはコーナーポストで真っ白に燃え尽きるんだよね。
でもあれは絶命した訳じゃ無いと最近知って驚いたんだけども。
で、舞台の「はじめの一歩」。
まず驚いたのは、出演者達が皆ボクサーのフォルムを手に入れて舞台に立っていたこと。
出演者と言うよりも出場者。皆が皆立派なボクサーのシルエットで、ものすごい説得力だった。
いやもう、役者陣のそのプロ意識の高さにしびれた。
一人残らず、ボクサーであってくれた。
薬を10年もやり続けて観客や役者仲間を裏切って来た女になんかよりも、こんな風にプロ意識の高い表現者達にチャンスと言う物は与えられるべきなんだよ。
「彼女は女優しかやって来なかったのに今後どうしたらいいのか。」と言うアホが居るけれど、そんな事は知った事ではない。
あんなのはどうなろうがどうでもいい。
代わりはいくらでもいる。
物語が始まってみれば、アタシは漫画のコマの中に入った様な感覚で、今まで経験した事のない空間の中にいた。
例えば、ボクサーがパンチを繰り出す時に空を切る音と共に、背面のセットに横に筆でシュッと線を引いたような模様が映し出される。これは拳が空中を切る様を漫画で表現する時みたいな演出。
時に役者の影だけが映し出される演出も、そのボクサーたる肉体だからこそ出来る演出だと思った。
アタシは一度しか観に来なかった事を、何度も、激しく、後悔した。
そしてこの舞台で一番心惹かれたのは、幕之内一歩役の後藤恭路さん。
もうすぐ22歳。
幕之内一歩の事なんて少しも知らなかったけれど、彼の演じる一歩を観た時、一歩がどれほど計り知れず、どれほどの魅力を持ったボクサーであり人間なのか分かった気がしたんです。
それは、一歩の魅力であり、同時に後藤恭路さんの魅力であると思う。
一歩と拳を交えたボクサーは皆、自分の中の今まで知らずにいた自分が覚醒するのを感じるはず。
強い、センスがいい、技術がある、そう言う事を超越した他の人間がいくら練習や稽古をしても立ち入る事の出来ない領域を生まれ持ってる。
後藤さんの一歩を観て、そんな事をすぐに感じた。
拳を合わせた選手は皆、凄いと思うだろうし同時に激しく嫉妬するだろうと思う。
だって、いくら頑張っても、いくら試合に勝っても、一歩のそう言う所には絶対近づけないんだもの。
この一歩にメラメラと闘志の炎を燃やすのが松田凌さんの演ずる千堂武士。
松田さんは本当に炎だった。燃え上ってた。
千堂と言う選手は一歩との試合で気を失っても立ち続けていた選手。
常に強い対戦相手を求め、強さを求め、常に飢えている様にアタシには見えました。
彼が探し求めていた強い相手、幕之内一歩と出会って感じた震えるほどの喜びを松田凌ほど表現出来る役者はいないと思う。
松田凌演じる千堂と後藤恭路演じる幕之内一歩との試合は壮絶を極めていました。
それはお芝居と言うよりも、やはり戦いだった様に思います。
二人の試合を観ていてアタシはずっと後藤さんの事を「彼は何者なんだ・・・?」と思っていました。
筋肉で盛り上がった背中が汗で段々光って来る。
松田さんは数々のテレビや舞台や映画を経験し、俳優としてのキャリアを積んで来た人ですが、申し訳ないけれど後藤さんの事はまったく知らなかったし、プロフィールを見てもまだ経験のあまりない役者さんでした。
なのに、なのに。
なんだか、松田凌が今までで一番研ぎ澄まされ、生き生きしているように見え、覚醒したように見えた。
それはまるで一歩と出会った千堂のようだった。
自分の中に知らない自分を見つけ、もっと知りたいと相手に向かってゆくような。
「クロードと一緒に」と言う舞台での松田さんはとてもすさまじい。
でも、今回の千堂と言う役も凄まじさを極めている。
今まで行ったことのない場所へ後藤さんと共に上って行こうとしているように見えました。
後藤恭路と言う役者は、相手をそんな所まで連れて行ってしまう”化け物的”な役者なんじゃないかと思いました。
これは凄い。
この二人は凄いと思いの丈を書いたコメントは謎の検閲で引っ掛かり、何故か推しのアメブロで反映されないが、まあいいや。
千堂=松田凌は凄かったよ。
後藤恭路=幕之内一歩に何かを引き出されたように、神がかってたよ。
だから、千秋楽のカーテンコール時の挨拶で”千堂武士”のまま一歩に「また会おうな」と言ったんだと思う。
あんな風に終演直後なのにすぐに、既に、次の展開を待ちわびる雰囲気の客席も珍しい。
「真田十勇士」を思い出しました。あの時の客席と似てる。
「真田十勇士」も観客に求められて再演した忘れえぬ舞台。
と言う事は、またきっと彼らに会えるね。