Chef's Note

『シェフの落書きノート』

みんなが育ててくれたもの…

2008-01-05 | 美味しいお話
いつも人を感じられるようになってきた。

僕の料理…
僕が作っている料理は、沢山の人が育ててくれたもの。

少年だった頃…
ギターやベースに夢中だった。
絵を描くことも好きで…
沢山の色を重ね合わせた。

店に一枚…僕が描いた絵が壁にかかっている。
浜辺に水着を着た女性がたたずんでいる一枚の油絵。
初めてシェフを任された年に、アドリブで描いた一枚の絵。

なぜか…この一枚は、手放すことができないでいる。
他に描いたものは、誰かしらにあげてしまったのに…。

音楽や絵でなにか伝えられたら…
そう思っていたものが、いつしか料理にかわっていた。

口に含んだときに…
その素材からメロディーが流れはじめたらいいのに…
心地よいリズムを刻んで香りと味とともに…
口いっぱいに広がりながら…。

もうひとくちフォークで口に運ぶ…
先程とは違うハーモニーが聞こえたら…
きっと気分ももっと楽しくなるに違いない。

そんな料理が作れたら…と思う。

若い頃…
グレイハウンドのバスに乗って、ひとりでアメリカを旅してまわった。
1000ドルをポケットの中にいれて、1ヶ月。

走っても走っても次の大きな街まで変わらない景色…
ネバダの砂漠は、日が昇りはじめると幾重にもたなびく雲が、金色に輝きはじめた。

中西部に広がる草原は、地平線までグラデーションのかかった緑色。

ブロードウェイで『EVITA』を観た。
観客は皆、黒の正装を着ていたが、皮ジャンとジーパンで劇場に入ったのは僕だけだった。
あまりの感動で自分の身なりなど気にならなかったのを憶えている。

きらびやかな宝石のように輝く無数の灯り…
エンパイア・ステートビルからの夜景に時を忘れた…。

向こう岸が見えないミシシッピー川を渡ると…
手でつかめそうなネットリとした空気につつまれる。

人懐っこい笑い声が、バーボンストリートにあふれると陽気なジャズに包まれる。

今でもあの時の情景が目の前を通り過ぎる。
鮮烈に…あたかも数日前の経験であったかのように…。

そんな経験ができたのも温かく見守ってくれた人達がいたから…と。
今にして思う。

そして今も…
温かい気持ちで支えてくれる人達がまわりにいて…
今の僕が存在していると…実感している。

「ありがとう」
…のひとことで感謝を伝えることは難しい。

できるなら…
支えてくれている人たちに…
特別な何かを届けられたら…と思う。



僕のささやかな抱負。
「いつもありがとう」…と。







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