シリア騒乱と修羅の世界情勢

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40万部のベストセラーなのに店頭では半額セール"やり手"のメーガンに反感を持つ人は7割超え…ヘンリー王子の暴露本が2人の評判を押し下げたワケ

2023年03月01日 | 国際社会






2020年に英国王室を離脱し、妻子とアメリカに住むヘンリー(ハリー)王子が1月10日に回顧録を出版した。イギリス在住のジャーナリスト、冨久岡ナヲさんは「回顧録は発売初日に40万部が売れてベストセラーになったが、店頭では早々に半額で売られていた。英国国民はハリーの一連の行動にうんざりしており、この本の出版は、王室だけでなくハリー自身の評判を落としている」という――。


写真=冨久岡ナヲ
ロンドン市内の書店のショーウインドーに並べられた、ハリー王子の回顧録。どの書店でも初めから半額で売られていた


店頭ではいきなり半額

この記事を書くため、英国王室を離脱したヘンリー王子ことハリーが出版した回顧録『Spare(スペア)』を近所の書店へと買いに行ったのは発売日翌日、1月11日の夕方だった。


発売日に、書店の店頭に貼られたハリー王子の回顧録『スペア』のポスター。大きく「半額」と書かれている(写真=冨久岡ナヲ)


店頭にはポスターが貼られ、店内では本が平積みになっている。価格は28ポンド(約4500円)だが、なぜか既に半額の14ポンドになっている。ともかく本を1冊取りレジに行くと、店員が「ほほう!」と声をあげニヤニヤと私を見た。隣のディスプレー棚には、その週のトップセラー本が並べられ『スペア』は発売24時間にしてすでに1位だ。しかしこの店員によると、店では私が2人目の購入者だそう。それでも1位ということは、他の人はみなオンラインで密かに購入しているのだろうか? なんだかアダルト雑誌でも買ったような気分になり、そそくさと店を後にした。


そういえば発売日の朝には、都心の大型書店前に多数のTVカメラが陣取っている様子がテレビに映し出されていた。ところが朝6時に店頭にいたのはたった1人。その50代の女性は「ハリーの肩を持つなんてバカだってみんなに言われるけど、私は気にしないわ!」とコメントしている。


ベストセラー入りの謎

そのわりには、翌日のニュースは『スペア』が発売初日に40万部の売り上げを記録しベストセラー入りしたと報じていた。自分の周りにハリーの味方はいないし、Z世代は「王室には関心ゼロ」とそっぽを向いているのに。


『スペア』の隣には『恋愛の8つのルール』という恋愛指南本が。「実はハリーとメーガンがすでに仲が悪いのではないか」という噂をからかっている(写真=冨久岡ナヲ)


半額なら面白半分でネット注文した人が多いだろうとは想像がつくが、SNSで「ハリーが自分で大量購入しているのでは? 版元のペンギン・ランダムハウス社によると170万部売れないと元が取れないらしいし」という書き込みを見かけたときは、さもありなんと思ってしまった。ロンドン郊外にある独立系書店「バーツの本屋」は、「『スペア』は単品では注文できず、1冊仕入れたくても12冊入りのケース単位でしか注文できない」とツイッターで嘆いていた。


ケース単位で全国の本屋に卸せば確かに冊数はさばけるだろう。

ただ、批判の嵐の中にも「ハリー達が王室を離れ声を上げたのは偉い」という意見は散見される。「王室が続く限り、生まれつき籠の中に閉じ込められた王族の紛争も続く」と考える、ジャーナリストのケイトリン・モーランは、『スペア』を読めばハリーの行動に合点がいくとSNSで発言していた。


地下鉄車内で表紙のカバーを外して読んだ

本当にそうなのだろうか。地下鉄の中でかばんから本を取り出すと、周囲の乗客から妙な視線を感じた。この国では車内で本を読むとき、日本のようにカバーをかけてタイトルを隠すことはない。イギリス人は、自分が何を読んでいるか他人に知られることを気にしないし、そもそも誰も関心を払わないのだ。例外は大人気作「ハリー・ポッター」シリーズくらいだろうか。発売日に書店で新作を手にした子どもは誇らしそうに電車やバスの中で本を広げ、周りの人は覗き込んで「徹夜して並んだの?」などと話しかけ、車内は盛り上がっていた。


『スペア』がハリポタに迫るほどの初日売上数を達成したのなら、このようなシーンが見られても不思議ではないはずだが……。記録破りの売上数という報道と、車内に漂うひんしゅく感や、ちまたのしらけた空気とのギャップが解せない。ハリーの顔写真がデカデカと載った表紙のカバーをそっとはずし、背表紙も見えないよう膝の上に本を広げて読み始めた。


兄の「予備」として生まれたハリー

本のタイトル『スペア』は、「予備」「代替」を意味する。ハリーは、王位継承筆頭者であるウィリアム皇太子の身になにかあった場合の“予備”という運命を背負って生まれた。英国王室では出生順に継承順位が定まる。昔は男子が女子よりも優先されたが、2013年からは性別にかかわらず出生順になった。


ウィリアムに子どもが生まれ、ハリーの継承順位は5位まで下がった。スペアの立場はとうにお役ご免となっているにもかかわらず本のタイトルに据え、兄の予備としてどれだけ不公平な扱いを受けてきたかを繰り返し文中で訴えている。プロローグからして、「王室離脱の発表後にウィリアムと父チャールズ3世国王から居所裏の庭に呼び出され、口論になった」というエピソードから始まっているくらいだ。


文体はリラックスした語り口で会話文が多い。チャールズは「パー(パパの略)」、兄ウィリアムは「ウィリー(イギリス英語の俗語で男性器を指す)」など、家族間の愛称が使われ、難しい言い回しも少なく平易に読める。というか平易すぎて浅い。とても故エリザベス女王には聞かせられないような言葉もポンポン飛び出してくるし、トーンはまるっきり友達同士の会話のようだ。王室の舞台裏、自身の恋愛や性体験、酒と麻薬に溺れる日々の描写なども盛りだくさん。あまた出ているセレブの自伝本とそんなに変わらないような印象を受けてしまう。
しかし、心の底から気の毒だと感じたのは、早くに母を失ったことで受けた心の傷だ。


写真=冨久岡ナヲ
『スペア』の裏表紙には子どものころのハリー王子の写真が。ユニフォームの胸には、王室離脱で返上した「HRH(殿下)」の敬称がついている


「母は事故死を装った」と信じた

兄弟の母であるダイアナ妃はチャールズと離婚後の1997年、ボーイフレンドとのパリ滞在中に交通事故で亡くなった。

この時ハリーは12歳、ウィリアムは15歳。

息子たちは遺体を見ることができず、遺髪だけが渡された。そのため、ハリーは母が事故死を演出して世間の目をくらまし、別人として新しい人生を歩んでいるというファンタジーを頭の中で作り上げる。「だから、落ち着いたらきっと連絡があるはずという希望をずっと持っていた……」というくだりは切ない。


別のページでは、実は亡くなったことは初めからわかっていたが、認めることが怖かったとも語っている。「母の気配をいつも感じる」「野生動物を母のメッセンジャーだと確信する」などのエピソードが多数織り込まれ、しまいには霊媒師と面会し「あなたを誇りに思う」という「母からの伝言」をもらって喜んでいる。ダイアナの死がハリーに与えたトラウマが今でも、彼の考え方や行動に影響を与えていることは疑う余地がない。


写真=冨久岡ナヲ
1章の扉には、母ダイアナ妃と共に笑顔を見せる子どものころのハリー王子の姿が。母からかかってきた最後の電話で、早々に会話を切り上げてしまったことをいまだに後悔しているという


「お騒がせ王子」を成長させた従軍経験

物事に集中するのが苦手だと本の中に書いているくらい、ハリーはともかく落ち着きがない。勉強嫌いで、特に読書は最も不得手だった。十代の頃はスポーツとパーティーに明け暮れ、友達と走り回っては悪さをするのが一番性に合っていたようだ。


大学に行く気のなかったハリーは、名門イートン校を卒業すると陸軍に志願し、44週間の過酷なトレーニングに参加する。このあたりから突然、文章が躍動してきた。訓練を通して、兵士として個人のエゴや感情を殺すこと、死を恐れない気構えなどが徹底的に叩き込まれていく様子、厳しく指導されればされるほど意気揚々と課題に挑戦しクリアしていく様子からは、胸が躍るような高揚感が伝わってくる。


メディアから、ことあるごとに「お騒がせ王子」「能無し」などのレッテルを貼られていたハリーの人生は、入隊で一転。自分が目指すべきは立派な軍人だと悟ったという。どうやら彼には、強いリーダーと明確な指揮系統を持つ軍隊のような「枠組み」が必要だったようだ。王室とガールフレンドの心配もよそに、ハリーは戦地への派遣を希望し、アフガニスタンでのタリバンとの戦いにも参加した。


ただ残念なことに、ハリーを追いかけるメディアのせいもあって従軍のたび敵側に情報が漏れ、格好の標的にされてしまう。所属する隊は危険にさらされ、いつも戦い半ばで泣く泣く引き上げている。帰還する軍用機に同乗した負傷兵を見て「今まで自分のことばかり考えてきたのが恥ずかしくなった。戦争の現実を誰かが伝えなければ」と思ったという。戦場から戻るたびに「別人になった」「老けた」と驚かれたが、猛スピードで成長していたのだろう。この時の経験がのちに、戦傷者のためのスポーツ大会「インヴィクタス」創設へとつながっている。


ハリーと似た立場の秋篠宮さま

『スペア』を読んでいると、どうしても日本の皇族と比較してしまう。天皇家の次男として生まれた秋篠宮さまは、ハリーと立場は似ているが、取り巻く環境も国民からの視線も異なる。「どうせ自分は予備だし」と卑屈になったり、兄弟で高校時代にボディーガードを丸め込んで御所の地下室に男女の学友を密かに招き入れ、たばこ、酒、麻薬を持ち込み夜通しパーティーを楽しんだりする姿など想像もできない。


おふたりの間に、ウィリアムとハリーのような兄弟の確執は存在するのだろうか。皇后さまがまだ皇太子妃であった2004年、皇太子さまは「雅子の人格を否定するような動きがある」という衝撃の発言をされたが、それに対して秋篠宮さまは「せめて陛下と話してから会見すべきでは……」とやんわり苦言を呈した。また女性天皇容認への声が高まった2006年には、偶然と言いきれないタイミングで悠仁さまがお生まれになり、愛子さまが天皇となられる可能性は衰萎した。


もし宮家の誰かが『スペア』のような回顧録を出すとしたら、皇室を離れた眞子さまだろうか? そこでは、英国王室と並ぶ驚きのエピソードが暴露されるかもしれない。しかし、この本のように、北極探検中、性器にしもやけができ、エリザベス・アーデンのスキンクリームを塗ったら効いたとか、パブの裏で「年上の女性」相手に童貞を捨てた、といったえげつない話は、どう考えても出てこないだろう。


ちなみにこの「年上の女性」は油圧ショベルの運転手で、相談もなく本の中に匿名で描かれたことに激怒。新聞に「その相手は私」と名乗り出て新たな騒ぎを巻き起こしている。


歴史は繰り返す……

メーガンとの出会いから始まる最後の章は、ロマンス小説さながらだ。いきなりおとぎ話のような世界に突入し面食らう。過去のガールフレンドたちとは全く違うタイプのアメリカ人女性に「運命の出会い」を感じたハリーが、激しく恋に落ちていく様子はほほえましい。だが、王室離脱の詳細を含む最後までこの調子は続き、段々とげんなりしてくる。


王族男性がアメリカ人女性と恋に落ちたのは、ハリーが初めてではない。大叔父にあたるエドワード8世王はバツイチの既婚者ウォリス・シンプソン夫人にほれ込み、王位を捨ててしまった。その弟、つまり「スペア」だったはずの内気なジョージ(故エリザベス女王の父)は、1936年に思いがけず国王の座に就くことになる。シンプソン夫人は、態度が横柄だった上に、米国文化を英国王室に持ち込もうとしたとかで、いまだに英国人からよく言われない存在だ。
だから「新しいガールフレンドはアメリカ人女優で離婚歴あり」という話をハリーから聞いたウィリアムとキャサリンは、シンプソン夫人の例を思い出し頭を抱えたようだ。このため、「ウィリアムとキャサリンが、メーガンが黒人であることを理由に交際や結婚に反対した」というハリー夫妻の主張は、人種差別にこじつけているようでやや違和感がある。ちなみに婚約者として登場した頃の世間の空気を覚えているが、キュートな笑顔に世間の好感度は高く、メディアが「黒人プリンセス」と書くまで彼女はラテン系だと思っていた人も多い。


『スペア』の印税前払いは約27億円

米国から英国貴族に嫁いだジュリー・モンタギュー子爵夫人も、彼女が王室に嫌われた原因は人種差別からではなく、英米の文化や慣習が衝突した結果だとTVインタビューで語っている。


「メーガンが王室をネタに大儲けをもくろみハリーを操っている」という非難は、英国内では絶えない。世論調査会社YouGovによると、発売日周辺での英国における調査からは、「この本の出版動機は『お金のため』だろう」という答えが全体の41%を占めている。しかし米国では、金銭的な成功を目指すことになんの罪悪感もないどころか、そんな野望は尊敬される。


だから、ハリーとの婚姻でロイヤルファミリーの一員となったことを、アメリカ人メーガンが新たな収入源として捉えたとしても不思議ではない。結婚後初めての豪州外遊中に「これで私には一銭も報酬が支払われないなんて、信じられないわ!」と嘆いているのを複数の人が耳にしている。ハリーが独身時代に創設した、戦傷を負った元軍人たちが競う慈善スポーツ大会「インヴィクタス」に対しても「なぜ収益化を目指さないの?」と詰問したらしい。


確かにメーガンはやり手だ。女優活動の傍らファッションブログを立ち上げ、デザイナーブランド各社との契約を得ていた。そしてハリーと婚約するなり、映像会社をはじめいくつもの会社や財団を設立し、2021年には、アメリカの著名な司会者オプラ・ウィンフリーとのインタビュー放映で最初の爆弾を王室に落とした。ネットフリックスとは1億ドルの番組制作契約を結び、『スペア』の出版にあたっては2000万ドル(約27億円)もの印税前払いを得ているらしい。


2人を揶揄したアニメに大喝采

本当にメディアの詮索から無縁の生活を望むなら、サセックス公爵家の称号を返上し、単に「元セレブなファミリー」として暮らすという選択肢もある。だが、夫妻にそんな素振りは今のところ見られない。『スペア』の著者名をわざわざ「ハリー王子」としているように、プリンスの肩書も固持したいようだ。


出版後は、さかんにテレビに出演したり雑誌の表紙を飾ったりと、あれほど嫌っていたメディアをPRに活用している。さらに、テレグラフ紙とのインタビューでは「もう1冊本が書けるほどネタはまだある」と自慢した。そういえば妻の方も、昨年の米TVとのインタビューで「英国にいた間ずっと日記をつけていたのよ。なんでも話せるわ」と、ほとんど脅しともとれるコメントを発している。
2月には米風刺アニメ番組「サウスパーク」がこんな2人を徹底的に揶揄やゆした。「間抜け王子とそのバカ妻」が、「プライバシーが欲しい」「私たちに注目しないで」と世界中のTV番組を回って訴える、というエピソードは英国でも大いに話題になっている。主要な新聞のウェブサイトにあるコメント欄は「よくぞやってくれた!」といった「歓声」でにぎわい、コスモポリタン誌オンライン版では「傑作!」「二人を壊滅させた」などのコメントをSNSから紹介していた。


ハリーと王室の人気を下げた『スペア』

前述のYouGovによる調査では、本の発売以来、英国ではハリーの人気も王室の人気もともに下がっている。ハリーに反感を持つ人の割合は回答数の68%。出版直前の調査時64%から2日で4ポイントも増えた。

特に65歳以上を対象とした調査では、メーガンが最も嫌われ者で73%、続いてハリーの69%、未成年売春疑いで公的地位を失ったアンドルー王子(チャールズの弟)60%と続く。18~24歳では王室への関心そのものが低いが、それでも35%が「今のロイヤルファミリーは英国を恥ずかしめている」と答えた。
王室の人気を追う別の統計機関Ipsosも、出版後にハリーに好感を持つ人の割合が30%から23%に7ポイント下がっただけでなく、ウィリアムも69%から61%に8ポイント落ちたとしている。王室本の著者アンジェラ・レヴァインは「浅薄な暴露本の出版で、今やハリーとメーガンは世界の笑い者になった」とTVインタビューで語った。


しかし、「どうせスペアなんだから」と甘やかして育てた次男坊にかみつかれ、今やすっかり振り回されている王室も同じような立場ではないか。自分が読後に感じたことは統計データに表れていると思う。


今年5月6日には新王の戴冠式が執り行われる。チャールズ3世王はハリー夫妻の出席を望み、カンタベリー大主教に仲直りの仲介依頼を提案するも、「弟は信頼できない」とウィリアムは反対したそうだ。

ハリー側はすでにさまざまな出席の条件を提示していたが、兄の一言でさらに要求はエスカレート中と報道されている。


これから戴冠式に向かってさらにドロドロしたドラマが展開されるのだろうか。母の事故死以外はどこにでもありそうな家族問題を400ページにわたって読まされた後では、もううんざりとしか言いようがない。
メーガンと出会い、渇望していた温かい家庭を手に入れたハリーを心から祝福したい。だが、そろそろ自分だけが被害者というメンタリティから抜け出してもいいのではないだろうか。


冨久岡 ナヲ(ふくおか・なを)ジャーナリスト
イギリスの動きと文化を伝える記事執筆、食の動画などメディア制作、イベントプロデュースなど幅広い活動を行う。在英20年あまり。共著に『コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿』(光文社新書)『夫婦別姓 家族と多様性の各国事情』(ちくま新書)ほか。























"やり手"のメーガンに反感を持つ人は7割超え…ヘンリー王子の暴露本が2人の評判を押し下げたワケ40万部のベストセラーなのに店頭では半額セール

2023年03月01日 | 国際社会
PRESIDENT Online

2020年に英国王室を離脱し、妻子とアメリカに住むヘンリー(ハリー)王子が1月10日に回顧録を出版した。イギリス在住のジャーナリスト、冨久岡ナヲさんは「回顧録は発売初日に40万部が売れてベストセラーになったが、店頭では早々に半額で売られていた。英国国民はハリーの一連の行動にうんざりしており、この本の出版は、王室だけでなくハリー自身の評判を落としている」という――。


写真=冨久岡ナヲロンドン市内の書店のショーウインドーに並べられた、ハリー王子の回顧録。どの書店でも初めから半額で売られていた全ての画像を見る


店頭ではいきなり半額

この記事を書くため、英国王室を離脱したヘンリー王子ことハリーが出版した回顧録『Spare(スペア)』を近所の書店へと買いに行ったのは発売日翌日、1月11日の夕方だった。


発売日に、書店の店頭に貼られたハリー王子の回顧録『スペア』のポスター。大きく「半額」と書かれている(写真=冨久岡ナヲ)


店頭にはポスターが貼られ、店内では本が平積みになっている。価格は28ポンド(約4500円)だが、なぜか既に半額の14ポンドになっている。

ともかく本を1冊取りレジに行くと、店員が「ほほう!」と声をあげニヤニヤと私を見た。隣のディスプレー棚には、その週のトップセラー本が並べられ『スペア』は発売24時間にしてすでに1位だ。

しかしこの店員によると、店では私が2人目の購入者だそう。それでも1位ということは、他の人はみなオンラインで密かに購入しているのだろうか? 

なんだかアダルト雑誌でも買ったような気分になり、そそくさと店を後にした。


そういえば発売日の朝には、都心の大型書店前に多数のTVカメラが陣取っている様子がテレビに映し出されていた。ところが朝6時に店頭にいたのはたった1人。その50代の女性は「ハリーの肩を持つなんてバカだってみんなに言われるけど、私は気にしないわ!」とコメントしている。


ベストセラー入りの謎

そのわりには、翌日のニュースは『スペア』が発売初日に40万部の売り上げを記録しベストセラー入りしたと報じていた。自分の周りにハリーの味方はいないし、Z世代は「王室には関心ゼロ」とそっぽを向いているのに。


『スペア』の隣には『恋愛の8つのルール』という恋愛指南本が。「実はハリーとメーガンがすでに仲が悪いのではないか」という噂をからかっている(写真=冨久岡ナヲ)


半額なら面白半分でネット注文した人が多いだろうとは想像がつくが、SNSで「ハリーが自分で大量購入しているのでは? 版元のペンギン・ランダムハウス社によると170万部売れないと元が取れないらしいし」という書き込みを見かけたときは、さもありなんと思ってしまった。ロンドン郊外にある独立系書店「バーツの本屋」は、「『スペア』は単品では注文できず、1冊仕入れたくても12冊入りのケース単位でしか注文できない」とツイッターで嘆いていた。ケース単位で全国の本屋に卸せば確かに冊数はさばけるだろう。


ただ、批判の嵐の中にも「ハリー達が王室を離れ声を上げたのは偉い」という意見は散見される。「王室が続く限り、生まれつき籠の中に閉じ込められた王族の紛争も続く」と考える、ジャーナリストのケイトリン・モーランは、『スペア』を読めばハリーの行動に合点がいくとSNSで発言していた。


地下鉄車内で表紙のカバーを外して読んだ

本当にそうなのだろうか。地下鉄の中でかばんから本を取り出すと、周囲の乗客から妙な視線を感じた。この国では車内で本を読むとき、日本のようにカバーをかけてタイトルを隠すことはない。イギリス人は、自分が何を読んでいるか他人に知られることを気にしないし、そもそも誰も関心を払わないのだ。例外は大人気作「ハリー・ポッター」シリーズくらいだろうか。発売日に書店で新作を手にした子どもは誇らしそうに電車やバスの中で本を広げ、周りの人は覗き込んで「徹夜して並んだの?」などと話しかけ、車内は盛り上がっていた。


『スペア』がハリポタに迫るほどの初日売上数を達成したのなら、このようなシーンが見られても不思議ではないはずだが……。記録破りの売上数という報道と、車内に漂うひんしゅく感や、ちまたのしらけた空気とのギャップが解せない。ハリーの顔写真がデカデカと載った表紙のカバーをそっとはずし、背表紙も見えないよう膝の上に本を広げて読み始めた。


兄の「予備」として生まれたハリー

本のタイトル『スペア』は、「予備」「代替」を意味する。ハリーは、王位継承筆頭者であるウィリアム皇太子の身になにかあった場合の“予備”という運命を背負って生まれた。英国王室では出生順に継承順位が定まる。昔は男子が女子よりも優先されたが、2013年からは性別にかかわらず出生順になった。


ウィリアムに子どもが生まれ、ハリーの継承順位は5位まで下がった。スペアの立場はとうにお役ご免となっているにもかかわらず本のタイトルに据え、兄の予備としてどれだけ不公平な扱いを受けてきたかを繰り返し文中で訴えている。プロローグからして、「王室離脱の発表後にウィリアムと父チャールズ3世国王から居所裏の庭に呼び出され、口論になった」というエピソードから始まっているくらいだ。


文体はリラックスした語り口で会話文が多い。チャールズは「パー(パパの略)」、兄ウィリアムは「ウィリー(イギリス英語の俗語で男性器を指す)」など、家族間の愛称が使われ、難しい言い回しも少なく平易に読める。というか平易すぎて浅い。とても故エリザベス女王には聞かせられないような言葉もポンポン飛び出してくるし、トーンはまるっきり友達同士の会話のようだ。王室の舞台裏、自身の恋愛や性体験、酒と麻薬に溺れる日々の描写なども盛りだくさん。あまた出ているセレブの自伝本とそんなに変わらないような印象を受けてしまう。


しかし、心の底から気の毒だと感じたのは、早くに母を失ったことで受けた心の傷だ。


写真=冨久岡ナヲ

『スペア』の裏表紙には子どものころのハリー王子の写真が。ユニフォームの胸には、王室離脱で返上した「HRH(殿下)」の敬称がついている


「母は事故死を装った」と信じた

兄弟の母であるダイアナ妃はチャールズと離婚後の1997年、ボーイフレンドとのパリ滞在中に交通事故で亡くなった。

この時ハリーは12歳、ウィリアムは15歳。

息子たちは遺体を見ることができず、遺髪だけが渡された。そのため、ハリーは母が事故死を演出して世間の目をくらまし、別人として新しい人生を歩んでいるというファンタジーを頭の中で作り上げる。「だから、落ち着いたらきっと連絡があるはずという希望をずっと持っていた……」というくだりは切ない。


別のページでは、実は亡くなったことは初めからわかっていたが、認めることが怖かったとも語っている。「母の気配をいつも感じる」「野生動物を母のメッセンジャーだと確信する」などのエピソードが多数織り込まれ、しまいには霊媒師と面会し「あなたを誇りに思う」という「母からの伝言」をもらって喜んでいる。ダイアナの死がハリーに与えたトラウマが今でも、彼の考え方や行動に影響を与えていることは疑う余地がない。


写真=冨久岡ナヲ

1章の扉には、母ダイアナ妃と共に笑顔を見せる子どものころのハリー王子の姿が。母からかかってきた最後の電話で、早々に会話を切り上げてしまったことをいまだに後悔しているという


「お騒がせ王子」を成長させた従軍経験

物事に集中するのが苦手だと本の中に書いているくらい、ハリーはともかく落ち着きがない。勉強嫌いで、特に読書は最も不得手だった。十代の頃はスポーツとパーティーに明け暮れ、友達と走り回っては悪さをするのが一番性に合っていたようだ。


大学に行く気のなかったハリーは、名門イートン校を卒業すると陸軍に志願し、44週間の過酷なトレーニングに参加する。このあたりから突然、文章が躍動してきた。訓練を通して、兵士として個人のエゴや感情を殺すこと、死を恐れない気構えなどが徹底的に叩き込まれていく様子、厳しく指導されればされるほど意気揚々と課題に挑戦しクリアしていく様子からは、胸が躍るような高揚感が伝わってくる。


メディアから、ことあるごとに「お騒がせ王子」「能無し」などのレッテルを貼られていたハリーの人生は、入隊で一転。自分が目指すべきは立派な軍人だと悟ったという。どうやら彼には、強いリーダーと明確な指揮系統を持つ軍隊のような「枠組み」が必要だったようだ。王室とガールフレンドの心配もよそに、ハリーは戦地への派遣を希望し、アフガニスタンでのタリバンとの戦いにも参加した。


ただ残念なことに、ハリーを追いかけるメディアのせいもあって従軍のたび敵側に情報が漏れ、格好の標的にされてしまう。所属する隊は危険にさらされ、いつも戦い半ばで泣く泣く引き上げている。帰還する軍用機に同乗した負傷兵を見て「今まで自分のことばかり考えてきたのが恥ずかしくなった。戦争の現実を誰かが伝えなければ」と思ったという。戦場から戻るたびに「別人になった」「老けた」と驚かれたが、猛スピードで成長していたのだろう。この時の経験がのちに、戦傷者のためのスポーツ大会「インヴィクタス」創設へとつながっている。


ハリーと似た立場の秋篠宮さま

『スペア』を読んでいると、どうしても日本の皇族と比較してしまう。天皇家の次男として生まれた秋篠宮さまは、ハリーと立場は似ているが、取り巻く環境も国民からの視線も異なる。「どうせ自分は予備だし」と卑屈になったり、兄弟で高校時代にボディーガードを丸め込んで御所の地下室に男女の学友を密かに招き入れ、たばこ、酒、麻薬を持ち込み夜通しパーティーを楽しんだりする姿など想像もできない。


おふたりの間に、ウィリアムとハリーのような兄弟の確執は存在するのだろうか。皇后さまがまだ皇太子妃であった2004年、皇太子さまは「雅子の人格を否定するような動きがある」という衝撃の発言をされたが、それに対して秋篠宮さまは「せめて陛下と話してから会見すべきでは……」とやんわり苦言を呈した。また女性天皇容認への声が高まった2006年には、偶然と言いきれないタイミングで悠仁さまがお生まれになり、愛子さまが天皇となられる可能性は衰萎した。


もし宮家の誰かが『スペア』のような回顧録を出すとしたら、皇室を離れた眞子さまだろうか? そこでは、英国王室と並ぶ驚きのエピソードが暴露されるかもしれない。しかし、この本のように、北極探検中、性器にしもやけができ、エリザベス・アーデンのスキンクリームを塗ったら効いたとか、パブの裏で「年上の女性」相手に童貞を捨てた、といったえげつない話は、どう考えても出てこないだろう。


ちなみにこの「年上の女性」は油圧ショベルの運転手で、相談もなく本の中に匿名で描かれたことに激怒。新聞に「その相手は私」と名乗り出て新たな騒ぎを巻き起こしている。


歴史は繰り返す……

メーガンとの出会いから始まる最後の章は、ロマンス小説さながらだ。いきなりおとぎ話のような世界に突入し面食らう。過去のガールフレンドたちとは全く違うタイプのアメリカ人女性に「運命の出会い」を感じたハリーが、激しく恋に落ちていく様子はほほえましい。だが、王室離脱の詳細を含む最後までこの調子は続き、段々とげんなりしてくる。


王族男性がアメリカ人女性と恋に落ちたのは、ハリーが初めてではない。大叔父にあたるエドワード8世王はバツイチの既婚者ウォリス・シンプソン夫人にほれ込み、王位を捨ててしまった。その弟、つまり「スペア」だったはずの内気なジョージ(故エリザベス女王の父)は、1936年に思いがけず国王の座に就くことになる。シンプソン夫人は、態度が横柄だった上に、米国文化を英国王室に持ち込もうとしたとかで、いまだに英国人からよく言われない存在だ。
だから「新しいガールフレンドはアメリカ人女優で離婚歴あり」という話をハリーから聞いたウィリアムとキャサリンは、シンプソン夫人の例を思い出し頭を抱えたようだ。このため、「ウィリアムとキャサリンが、メーガンが黒人であることを理由に交際や結婚に反対した」というハリー夫妻の主張は、人種差別にこじつけているようでやや違和感がある。ちなみに婚約者として登場した頃の世間の空気を覚えているが、キュートな笑顔に世間の好感度は高く、メディアが「黒人プリンセス」と書くまで彼女はラテン系だと思っていた人も多い。


『スペア』の印税前払いは約27億円

米国から英国貴族に嫁いだジュリー・モンタギュー子爵夫人も、彼女が王室に嫌われた原因は人種差別からではなく、英米の文化や慣習が衝突した結果だとTVインタビューで語っている。


「メーガンが王室をネタに大儲けをもくろみハリーを操っている」という非難は、英国内では絶えない。世論調査会社YouGovによると、発売日周辺での英国における調査からは、「この本の出版動機は『お金のため』だろう」という答えが全体の41%を占めている。しかし米国では、金銭的な成功を目指すことになんの罪悪感もないどころか、そんな野望は尊敬される。


だから、ハリーとの婚姻でロイヤルファミリーの一員となったことを、アメリカ人メーガンが新たな収入源として捉えたとしても不思議ではない。結婚後初めての豪州外遊中に「これで私には一銭も報酬が支払われないなんて、信じられないわ!」と嘆いているのを複数の人が耳にしている。ハリーが独身時代に創設した、戦傷を負った元軍人たちが競う慈善スポーツ大会「インヴィクタス」に対しても「なぜ収益化を目指さないの?」と詰問したらしい。


確かにメーガンはやり手だ。女優活動の傍らファッションブログを立ち上げ、デザイナーブランド各社との契約を得ていた。そしてハリーと婚約するなり、映像会社をはじめいくつもの会社や財団を設立し、2021年には、アメリカの著名な司会者オプラ・ウィンフリーとのインタビュー放映で最初の爆弾を王室に落とした。ネットフリックスとは1億ドルの番組制作契約を結び、『スペア』の出版にあたっては2000万ドル(約27億円)もの印税前払いを得ているらしい。


2人を揶揄したアニメに大喝采

本当にメディアの詮索から無縁の生活を望むなら、サセックス公爵家の称号を返上し、単に「元セレブなファミリー」として暮らすという選択肢もある。だが、夫妻にそんな素振りは今のところ見られない。『スペア』の著者名をわざわざ「ハリー王子」としているように、プリンスの肩書も固持したいようだ。出版後は、さかんにテレビに出演したり雑誌の表紙を飾ったりと、あれほど嫌っていたメディアをPRに活用している。さらに、テレグラフ紙とのインタビューでは「もう1冊本が書けるほどネタはまだある」と自慢した。そういえば妻の方も、昨年の米TVとのインタビューで「英国にいた間ずっと日記をつけていたのよ。なんでも話せるわ」と、ほとんど脅しともとれるコメントを発している。


2月には米風刺アニメ番組「サウスパーク」がこんな2人を徹底的に揶揄やゆした。「間抜け王子とそのバカ妻」が、「プライバシーが欲しい」「私たちに注目しないで」と世界中のTV番組を回って訴える、というエピソードは英国でも大いに話題になっている。主要な新聞のウェブサイトにあるコメント欄は「よくぞやってくれた!」といった「歓声」でにぎわい、コスモポリタン誌オンライン版では「傑作!」「二人を壊滅させた」などのコメントをSNSから紹介していた。


ハリーと王室の人気を下げた『スペア』

前述のYouGovによる調査では、本の発売以来、英国ではハリーの人気も王室の人気もともに下がっている。ハリーに反感を持つ人の割合は回答数の68%。出版直前の調査時64%から2日で4ポイントも増えた。特に65歳以上を対象とした調査では、メーガンが最も嫌われ者で73%、続いてハリーの69%、未成年売春疑いで公的地位を失ったアンドルー王子(チャールズの弟)60%と続く。18~24歳では王室への関心そのものが低いが、それでも35%が「今のロイヤルファミリーは英国を恥ずかしめている」と答えた。


王室の人気を追う別の統計機関Ipsosも、出版後にハリーに好感を持つ人の割合が30%から23%に7ポイント下がっただけでなく、ウィリアムも69%から61%に8ポイント落ちたとしている。王室本の著者アンジェラ・レヴァインは「浅薄な暴露本の出版で、今やハリーとメーガンは世界の笑い者になった」とTVインタビューで語った。


しかし、「どうせスペアなんだから」と甘やかして育てた次男坊にかみつかれ、今やすっかり振り回されている王室も同じような立場ではないか。自分が読後に感じたことは統計データに表れていると思う。


今年5月6日には新王の戴冠式が執り行われる。チャールズ3世王はハリー夫妻の出席を望み、カンタベリー大主教に仲直りの仲介依頼を提案するも、「弟は信頼できない」とウィリアムは反対したそうだ。ハリー側はすでにさまざまな出席の条件を提示していたが、兄の一言でさらに要求はエスカレート中と報道されている。


これから戴冠式に向かってさらにドロドロしたドラマが展開されるのだろうか。母の事故死以外はどこにでもありそうな家族問題を400ページにわたって読まされた後では、もううんざりとしか言いようがない。


メーガンと出会い、渇望していた温かい家庭を手に入れたハリーを心から祝福したい。だが、そろそろ自分だけが被害者というメンタリティから抜け出してもいいのではないだろうか。

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PRESIDENT Online

  • 冨久岡 ナヲジャーナリスト

今年9月にエリザベス女王が死去し、73歳のチャールズ新国王が跡を継いだ。長くイギリスに住むジャーナリストの冨久岡ナヲさんは「インフレやエネルギー危機で苦しい生活が続く中、寒さや飢えに無縁の『王室』に反発を覚える人もいるのではと予想したが、国民の悼み方を見ていると『君主制に疑問を持っていても、女王個人には親しみを感じていた』という人が多かったようだ」という――。


撮影=冨久岡ナヲ花束に添えられた女王の写真


エリザベス女王の突然の死

とりわけ英王室ファンでもなんでもなかったのだが、エリザベス女王の訃報が臨時ニュースとして流れた時は筆者も少なからずショックを受けた。たった2日前にはリズ・トラス新首相(10月20日に辞任表明)を笑顔でスコットランドのバルモラル城に迎え、つえを持ちながらもしゃんと立っていたのに。


確かに報道写真で見ると女王の手の甲は真っ青になっていて、深刻なチアノーゼ症状ではと騒がれていた。しかし、まさか48時間後に亡くなってしまうとは誰も想像していなかった。直系の親族のうち臨終に立ち会えたのは、宮殿に滞在していた娘のアン王女と、西スコットランドにある館からかろうじて間に合った長男チャールズ新国王のみ。初孫であるウィリアムがロンドンからアバディーン空港に到着した時はすでに遅かったのだが、空港から自ら四駆車を運転して伯父たちを乗せ、祖母の元に馳せ参じた。


妻のメーガンは連れてくるなと父から言われたヘンリー(ハリー)は単身、ロンドン郊外の一般空港から飛んできた。アバディーン空港到着は夕方6時半を回り、すでに女王の死後3時間がすぎていたという。


それほど女王の死は急な出来事だった。テレビ番組は相次いでキャンセルとなり、何度も同じ台本を読み上げるだけの訃報を繰り返している。普段は華やかな服装で登場するニュースキャスターたちが局の国営民営を問わず一斉に喪服をまとっている様子は、皆が同じことをするのを嫌う英国的日常から見ると異様な光景だった。国営放送として中立なはずなのに、君主制廃止を支持するスタッフが多いとされるBBCも、さすがに粛々とした態度で放送を行っている。


折しも庶民の生活は、コロナ禍によって受けた社会的ダメージ、インフレが招いた物価高、ウクライナ戦争で悪化したエネルギー危機などが重なり日に日に苦しくなっていくばかり。今冬は「ヒート・オア・イート」つまり、暖房か食事のどちらかしか賄えないという生活困窮者が大量に発生すると予測されている。このような状況下ではとうてい国民がそろって嘆き悲しむようなムードにはならず、むしろ寒さにも飢えにもまったく無縁な「王室」という存在に反発を覚える人のほうが多いのでは? という自分の予想はものの見事に外れた。


撮影=冨久岡ナヲ
グリーンパークからバッキンガム宮殿に向かう人たち


全国からの弔問者で埋め尽くされたロンドン

たまたま仕事の都合でバッキンガム宮殿裏手にある地下鉄駅まで行くことになったのは、スコットランドからバッキンガム宮殿へと運ばれた女王の遺体が、ウェストミンスター・ホールに移送される日だった。葬儀まではあと数日あるのに、目的地の駅は警備のため閉鎖されて降りることができず、次の駅から地上に出てびっくり。人また人の波なのだ。行きたい所へなかなかたどり着けない。多数の団体バスが道路脇をふさぎ、全国津々浦々から来ていることがわかる。女王の戴冠70周年を祝うプラチナ・ジュビリー祝典が開かれたほんの数カ月前の人出には及ばないものの、これほどの人がいったい何のために集まってきたのだろう?


行列は、献花に来たか、ひつぎが運ばれる様子を一目見ようとする人たちだった。道路に面した歩道ぎわで場所取りをしている白人女性に聞くと「昨日、北イングランドから家族4人で出てきた。このままロンドンに滞在して国葬が終わるまで一部始終を見るつもり。今朝、公園で献花してきたわ。入り口はあそこよ!」と教えてくれた。


このあと葬儀まで4日間行われたひつぎの公開安置中は、25万人以上が10キロ以上に及ぶ列を作り徹夜で並んだ。彼女ももちろん参加したのだろう。国葬の日である月曜日が祭日と決められたので、このように仕事の休みを取ってまで上京してきた人は相当な数だったらしい。ロンドンの宿泊施設はすべて予約で埋まり、路上でキャンプする人も絶えなかった。鉄道のターミナル駅では、終電が出たあとに残った特急列車の車両を「宿泊用に」と無料開放した鉄道会社もあった。

若者の王室支持率は30%なのに
献花用に定められた公園内のスペースのひとつを訪れると、花束やカード、ぬいぐるみ、女王に宛てた手紙などがあとからあとから置かれていく。毎晩、その日1日にささげられた花や供物をすべて片付けるそうだが、翌日はまた早朝からいっぱいになる。置かれたカードには「70年間、私たちのためにありがとう」「変わらぬ笑顔が心のよりどころでした」などと書いてある。子どもの描いた女王と愛犬の絵の隣には、若い頃の女王に謁見えっけんし談笑している男性の写真が置いてあり「お会いできて光栄でした」と誇らしげな添え書きが読めた。


どちらかといえば、高齢な王室ファンや英国旗を掲げた白人の国粋主義者ばかりが献花に来るのでは、と想像していたことも間違っていた。ありとあらゆる肌の色、年齢、性別の人が花束を抱えて切れ目なくやって来る。若い人や家族連れが目立ち、統計機関YouGovによる18~24歳の王室支持率はたった30%、という調査結果が信じがたい。花束を置いて「さようなら」と投げキスをする人、十字を切る人、そっとひとりで涙ぐむ人、仲間同士で肩を抱き合って祈る人たち。周辺に君主制廃止を叫ぶ団体が見当たらなかったのは、警備が厳しかったからか、まるで肉親の哀悼さながらの現場の雰囲気にけおされて場所を変えたのかはわからなかった。


撮影=冨久岡ナヲ
ハイドパーク内に設けられた献花スペース











ヘンリー王子回顧録に新たな章追加か 「スペア」ペーパーバック版に世間の非難への感想書き足す

2023年03月01日 | 国際社会
[2023年2月28日9時35分]


ヘンリー王子(左)とメーガン妃(2019年6月28日撮影)


英国のヘンリー王子(38)が、先月発売した回顧録「スペア」に新しい章を追加することを計画していると米ニューヨーク・ポスト紙が報じた。

情報筋によると、王子は今年後半か来年初めに発売されるペーパーバック版に、昨年末に放映された夫妻のドキュメンタリー番組と同書のリリース後に受けた世間からの非難に対する思いを新たに書き足す予定だという。


王子とメーガン妃は、ドキュメンタリーと回顧録で自らのプライベートをさらす一方でメディアの過熱報道を批判するなどして批判を浴びている。

関係者は、読者はこうした批判に対して夫妻が何を感じたのか知りたがっていると話しており、反発に対する反論を述べる場となる可能性が高そうだ。


ヘンリー王子は出版前のPRインタビューで、同書はもともとは800ページに及ぶ長さだったものを半分の400ページに減らしたことを明かしており、「公にすれば父と兄から一生許してもらえないと思う」と述べていた。

2冊になっていた可能性を示唆した王子は、父チャールズ国王と兄ウィリアム皇太子との間に起こった世間には言えない出来事をカットしていたとみられる。


1月10日に発売された「スペア」は、初日に143万部を売り上げ、史上最速で売れたノンフィクション本としてギネス記録を達成している。
(ロサンゼルス=千歳香奈子)

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2023/02/28 21:25堀川樹里(ライター)
  • 海外

暴露本の売れ行き不調で出版社の操り人形と化したヘンリー王子(写真/Getty Imagesより)


 世間から”不満だらけのわがまま王子”と揶揄されているヘンリー王子のバーチャル・オンラインイベントが、今週末に開催されることが明らかになった。

主催するのは1月に発売した自叙伝『スペア』の版元であるペンギン・ランダムハウスで、王子はトラウマや精神ケアに関する著書を多く出している緩和ケア専門医でサイコセラピストでもあるガボール・マテと対談するほか、事前に寄せられたいくつかの質問に回答するという。

 この配信イベントだが、視聴するにはチケットだけでなく『スペア』のハードカバーを購入しなくてはならないため、ネット上では「有り余っている在庫を処分しようと必死なのだろう」とネガティブな意見が噴出している。

 今回のバーチャル・オンラインイベントだが、米国東部標準時3月4日の午後12時(日本時間5日午前2時)から、動画体験プラットフォーム「Vimeo」で行われる。

さまざまなトラウマに苦しめられてきたヘンリー王子は、「有害な文化や習慣におけるトラウマ、病、ヒーリングとは何か」についてつづった著書『ザ ミス オブ ノーマル』がベストセラー本になっているガボール・マテ医師と、「喪失感と共に生きること、パーソナルヒーリングの癒やしについての重要性」を深く話し合うとのこと。イベントは対談ライブのみで、事前に録画された映像を流すことはないという。

 視聴には、チケットだけでなく『スペア』ハードカバーを購入することが条件となっており、オプションで『ザ ミス オブ ノーマル』も購入可能。

王子はリアルタイムで質問を受け付けるなど、視聴者との生の交流はしないが、事前に質問を送ることは可能で、王子は寄せられた質問のいくつかをピックアップし、回答。また、イベントの録音や録画、内容を他言することは固く禁じるとしている。

 チケットの価格は配信を視聴する国や地域で異なるが、日本から購入する場合「34.29ポンド(約5,600円)〜」かかり、チケットと同時に購入した本はイベント終了後2週間以内に発送するとのことだ。

 ネット上では、『スペア』の在庫を抱えすぎて出版社が「本の購入者」を対象にイベントを開催したのではないかと話題に。

 なお、『スペア』英語版は発売初日に140万部を売り上げ、出版社はノンフィクション部門で過去最高の記録だと大喜びだったが、最初の週の売り上げは、バラク・オバマ元大統領の回顧録『約束の地』、ミシェル・オバマ元大統領夫人の回顧録『マイ・ストーリー』には届かず、売り上げは失速しているのではないかとささかれていた。


オンラインイベントも不発に終わるか?


 『スペア』は現在もAmazonのベストセラーリストに入っているが、オーディオブックの無料体験で手に入れることができる「王子が朗読する」オーディオ版が圧倒的に人気で、ハードカバーを購入する人は少数派とみられている。

メディアで散々取り上げられたため、わざわざ購入しなくてもおおよその内容を知ることができ、繰り返し読みたいような内容でもないため、ハードカバーを購入する人は、出版元が期待したほどおらず、有り余る在庫に困り果てているのではないかというのだ。

 今年末あたりに出版される『スペア』ペーパーバック(ソフトカバー)に、王子は新たな章を加えるつもりでいるという報道も流れているが、「王室批判と暴露で金もうけしている」と猛批判されているため、このイベントで新たな暴露はしないものとみられている。

 また、秋篠宮ご夫妻も出席する方向で調整を行っていると報じられ日本でも注目度が上がっている5月のチャールズ国王の戴冠式への出席についても、この時期に言及することはないと予想できる。

 人気が下落し世間から興味を失われつつあるヘンリー王子が、繰り返し語ってきた「トラウマ」について一方的に語りまくるであろうトークイベントを喜んで視聴するのは、熱心なファンだけだろう。

ネット上では、今回のイベントは、出版社が「『スペア』の在庫をさばくために行う苦肉の策」ではないかと推測する声が続出。「駄作を無理やり売りつけるなんてせこい」との批判や、「メーガン夫人の入れ知恵じゃないか」との臆測も。

 米人気アニメ『サウスパーク』でネタにされ、世間の笑いものになってからそれほど時間がたっていないにもかかわらず、オンラインイベントへの出演を引き受けたヘンリー王子のことを「出版社に切られないように必死」だと憐れむ声も上がっているが、ファンは「元気な姿を見せてほしい」とSNSで期待の声を上げている。3月4日のイベントで、王子はいったい何を語るのだろうか?

最終更新:2023/02/28 21:25

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堀川樹里(ライター)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴25年以上。

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2/28(火) 11:20配信


ヘンリー王子


 ヘンリー王子が自伝本『スペア』に新たに章を追加する計画を立てているという。2018年にメーガン妃と結婚し2020年に英王室の公務から退いた王子の同書のペーパーバック版には、今年1月に出版されたハードカバー版とネットフリックスのドキュメンタリー番組で自分たちが受けた非難の詳細についても語られるそうだ。 


ある関係者がページシックスにこう話す。「ヘンリー王子はペーパーバック版に少なくとも1章は確実に追加する意向です。

ハードカバーのセールスが終わる今年後半か来年の始めに出る予定です。読者はネットフリックスのドキュメンタリーの配信と『スペア』の出版後に英王室から受けた反発に(ヘンリー王子とメーガン妃が)何を感じたのかを知りたくてしょうがありません」  

そんなヘンリー王子は最近、父チャールズ国王と兄ウィリアム皇太子が「絶対に許さない」として、同書には入れることができなかった内容があることを明かしていた。  

「別の言い方をすれば本2冊になることも可能でした。それを除外するのは少し大変でしたね。私と兄の間で起こったことは特にです。そして世界に知ってほしくないことが私と父の間にも多少ありました。(それを公にした場合)彼らは決して私を許さなかったことでしょう」 

(BANG Media International/よろず~ニュース)
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最終更新:2/28(火) 11:20よろず~ニュース













2/28(火) 20:00配信


キャサリン・ゼタ=ジョーンズとマイケル・ダグラス


 俳優マイケル・ダグラス(78)と女優キャサリン・ゼタ=ジョーンズ(53)夫妻が、ロンドンのセント・ジェームズ・パレスに住んでいると報じられた。2人はチャールズ国王とカミラ王妃、そしてアン王女とベアトリス王女も居住する同宮殿内のアパートメントに住んでいるという。 


  デイリー・メール紙のエデン・コンフィデンシャル欄に、ある関係者は「それはまさに2人がロンドンを訪れる際の彼らの要件にぴったりなんです」と語っている。  

宮殿の賃貸が初めて可能になったのは2015年で、当時関係者が「理論上は誰でも申し込めるが、入居希望者は全員、セキュリティと身元調査の対象となる」と語っていた。

バミューダとカナダにも不動産を所有しているキャサリンとマイケル。2人はニューヨーク州のアーヴィントンとマヨルカ島を行き来しているとみられている。  

そんなキャサリンは以前、ロイヤルファミリーへの憧れについて次のように語っていた。「私は大の王室好きなの。我が家では王室の行事があるとドレスアップをするのよ。息子はトップハットと燕尾服を着て、スコーンを食べてね」

「何年も前にニューヨークでカミラとアスター夫人と素晴らしいランチをしたことがある。まだ結婚する前だったけど、カミラは裏表のない人で、私は大好きだったわ」 

(BANG Media International/よろず~ニュース)
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