チューリップの花びら1枚。
その中に、オレンジ色のガーベラ・すずらんの茎・なでしこのぎざぎざ花びら・薔薇の香りを添えて花束に。
リボンは、リュウノヒゲを1本。
可愛い花束が出来上がり。
さあ、誰かにプレゼントをしましょ。
胸に抱えて歩き回り、ふと見上げた薔薇の蔓のある窓辺に、少女が1人。
彼女は、両手に顎を乗せ、今にも泣きそうに空を見ていた。
よし、決めた。
この子にあげよう。
少女は、奥から呼ばれる声に返事をして、入って行ってしまった。
窓は開いている。そっと、花束を置いて帰ろう。
チューリップの花びらに、ムスカリの茎を3本。
くるりと巻いて、水仙の葉でくくって、可愛い花束が出来上がり。
さあ、彼女にプレゼントしに行こう。
いそいそとあの窓辺に向かう。
今日も彼女は、窓辺にいる。そして、また奥から呼ぶ声に、返事をして、中に入って行ってしまった。
窓は開いている。そっと、花束を置いて帰った。
ガーベラの葉に、タンポポが包められるだけ入れて、朝顔の花が付いている蔓をリボンにして花束の出来上がり。
彼女は喜んでいるのだろうか。受け取ってくれているのだろうか。
そんな心配をしながら、またあの、窓辺へ。
すると、手紙が薔薇の棘に刺してあった。
「いつも、可愛い花束をありがとう。」 と。
受け取っていてくれたことが分ると、嬉しくて、花束作りを続けていった。
それは楽しくて嬉しい毎日の日課になっていった。
手紙が今日も刺してあった。
「あなたは、だぁれ? 庭を走り回る犬よりも早く走れるの?」
そんな質問が書いてあった。
よし。彼女が見ている目の前で走ってみせよう。
花束を持って行くと、今日は彼女が窓辺にいた。
待っていてくれたんだろうか。
嬉しくなって、目の前で思い切り走ってみせた。
彼女の家の犬は、ジョンというらしい。
「ジョン~! なんて早いの。凄いわ。」
彼女は、飼い犬のジョンが嬉しそうに走り回っているのを見てとてもはしゃいだ。
次の日。
すみれとデージーの花びらの花束を持って行った。
今日の手紙には、
「あなたは、リスより上手に木登りができるのかしら?」
今度は、木登りの練習をした。
彼女の家の庭にある大きな木を登ってみせられるように。
青い花びらばかりの花束を作って、出かけて行った。
そして、彼女がいる目の前で、大きな木を登り始めた。
まっすぐ横に伸びた枝の上まで行って彼女と目が合った。そして、花束を手渡した。
するとその時、奥から彼女を呼ぶ声がした。
彼女は、中に入って行った。
木の枝からその部屋の中が見えた。
中央には、大きなベッドが置いてあり、そこには、年老いた女性が横になっていた。
彼女は、そのおばあさんの枕元にある小瓶に、花びらを入れた。
今までの、花びらがドライフラワーになって詰まっていた。
2人は会話を始めた。
「今日も花束を持ってきてくれたんだね。」
「そうょ、おばあちゃま。来てくれたわ。」
「そうかい、そうかい。」
「また、きっと来てくれるわ。」
「そうだね。」
自分が置いてくる花束を楽しみに待っていてくれるんだ。
よし、今度はピンクの花びらを集めて作ろう。
そして、持って行くと、また手紙が棘に刺してあった。
「あなたは、鳩よりも上手に空が飛べるのかしら?」 と・・・・・・
空を・・?
自分は空を飛んだことがない。練習をすれば飛べるようになるんだろうか。
今まで一度もやったことがない。どうやったら、空を、鳩のように、それ以上に、飛べるんだろうか。
今日は、真っ白い花びらを集めた。
いつものように、花束を抱えて彼女とおばあさんが待っている家に行った。
犬のジョンより早く走り、リスより上手に木に登り。木の枝から部屋の中を見る。
少女はいない。
ベッドに横になっているおばあさんがこちらを見ている。
「誰だい・・? 誰か居るのかい?」
今だ。飛んでみせるからね。
枝の上に立ち、思い切り枝を蹴った。そして、高く高く、空飛ぶ鳩に追いつこうと飛んだ。
少女が部屋に入ってきた。
「おばぁちゃま、誰と話しているの?」
「うううん。今ね、窓の外で、キラッて光るものがあったからね。」
少女は、窓辺に、真っ白い花束が置いてあるのを見つけた。そして、それを急いでおばあさんの枕元に持って行った。
「いつもいつも、こんな小さな花束を届けてくれるのは、いったい誰なんだろうね・・・」
end