やがてひとつの季節が過ぎようとしていた。
ユリもすっかり花びらを落として一本の茎ばかりが目立っている。
それとともに、お婆さんの様態も芳しくなくなっていた。
少女は、いつも目を閉じているお婆さんを見舞う。
時折、苦しそうに寝返りを打つお婆さんを見ると、自分も苦しくなる。
1人になってしまう・・私も、おばあちゃまも・・・・
そんな寂しさが小さな胸を襲った。
おばあちゃまは、白いユリのよう・・・
少女は、ユリの球根を掘り起こした。
そしてそれを、お婆さんの枕元に持って行った。
なんのためか、どうしてか、理由はつけられないが、少女はそうしなければいけないような気がして。
何かの御まじないにでもなるかのように。
球根は、日が経つうちに、萎れて小さくなっていた。
少女は片時も離れず、お婆さんの傍についている。
静かなときが流れていく・・ 静かに・・・
少女は大好きなお婆さんの大好きな手を握り締めていた。
すると、お婆さんは、少しだけ微笑んだような気がした。そして、小さくなっていたユリの球根を口に含み、ゆっくり飲み込んだ。
少女をじっとみつめ、「大丈夫だから。」というように、頷いて目を閉じた。
そのまま、もう2度と目を開けることはなかった。
歳月は流れ、飼い犬のジョンも老犬になった。
また、自分の周りからいなくなってしまうものがある。
おばあちゃまは、かつてこう言っていた。
【球根も種も木も、誰かがせっせと植えてくれたもの。それを見る人が幸せになってくれたら・・・・】との思いがあると。
ジョンの眠る場所に、桜の苗を植えた。
いつまでも、ジョンを忘れないために。いつまでも、おばあちゃまの言葉と意味を忘れないために。
さらに、時は流れる。
誰の上にも同じように、刻々と変わらずに。早めることもできず、戻すことも勿論できない。
それでもきっと、時というのは、繋がっているもの。どこかでプツンと切れてしまうのではなく、過去・現在・未来を繋げている唯一のもの。
たった今の出来事は、すぐに過去になり、取り返しのつかない出来事にもなる。
幸せも、はらはらとこぼれていくかのように、同じ幸せはとどまっていない。
それでも、ときに忘れる・ということが人には出来るからこそ、救われることもある。
そんなことをふっと、ベッドの上で思っていた。
それとも、夢だったのだろうか。
傍らにかつて自分が居たように、今は、この子がいる。
ミニカーを転がしては、喜んでいる。自分も寝そべって、車窓の位置に目を置いて、まるで自分が運転しているかのように。
時折、呼びかけに振り向いてにっこり笑う、そのしぐさの愛しさ。でもこの子との別れがすぐ近くに来ている。
1人になっていくこと・家族と別れること、体が老いていくこと。
恐れていること・・・
おばあちゃまの恐れが理解できる。
「ばぁば、何か置いてあるよ。」
そう言いながら、ミニカーを持つ反対の手に小さな花束を持って枕元にやってきた。
チューリップの花びら1枚。その中にオレンジ色のガーベラ・すずらんの茎・なでしこのぎざぎざ花びら・薔薇の香りが微かにしている。
リュウノヒゲがリボンの役目をしている。
これは・・・・
小さな小さな花束を受け取り、体を起こした。
窓の外、青空一杯に、桜の花びらが舞っている。
温かな春の風に、ひらひらと、ひらひらと、数限りない花吹雪が舞っている。
その中に、ユリを束ね抱えているおばあちゃまが見える。微笑んでいる。
「怖くはないのよ。」と。
Conclusion
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4回に渡っての物語を最後まで読んでいただきありがとうございました。
つじつまの合わないところなどあるでしょうが、上手に読んでいただいて、空想・想像・妄想などして、消化してください。
(*≧m≦*)
書いておいて、読んでくださる方に、丸投げのようですが、なにせ、素人ゆえ。。
また、気が向いたとき、私の1人遊びにお付き合いいただければ、とっても、嬉しいです。ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
ありがとうございました。