たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

ゴーン氏と弘中氏 <ゴーン被告の無罪自信>などを読みながら

2019-03-05 | 刑事司法

190305 ゴーン氏と弘中氏 <ゴーン被告の無罪自信>などを読みながら

 

今日も終日、なにかと忙しくして、いつの間にか業務時間を過ぎ、はたと本日のテーマを考えようとしたのですが、紙面も情報も気乗りしないものばかりで、安直にこのテーマを選んでしまいました。

 

ゴーン氏も弘中氏も、報道でしか知らない方ですが、両者とも興味深い方です。弘中氏については、ロス疑惑事件で無罪を勝ち取ったとかで当時有名だったような記憶です。最近は村木氏の事件で無罪を勝ち取り、素晴らしい弁護活動をされているなと思うのです。

 

ロス疑惑事件については、当時調査報道という名前でずいぶんマスコミが騒いで、当初弁護人だった私の先輩がたしか私生活の一面を撮影された写真が雑誌に掲載されて、大変だなと思った程度でした。時折見ていた報道では、三浦氏はやはり怪しいのかな、世論も弁護人に批判的な視線を送っていたように思っていましたから、こういった事件の弁護人は大変だなと思っていました。すると、いつの間にか弘中氏が弁護人に就いて、無罪を勝ち取ったといった情報をだいぶ後に知った記憶です(この記憶自体があいまいですが)。

 

三浦氏の事件同様、村木氏の事件もマスコミ・世論は被疑者被告人として批判的であったように思うのですが、弘中氏は冷静に事実を捉え、弁護人として適切な弁護活動をされ、普通の弁護士ではこのような難事件で無罪を勝ち取ることが不可能と思われる場合にやり遂げるのですから、凄い方だと思うのです。なんどか報道での話しぶりを見たことがありますが、冷静沈着な話しぶりですね。弁護人にもいろいろありますが、立派な対応だといつも思う次第です。

 

弘中氏とは一度も対峙したことがありませんが、偶然、20年くらい前、ある宅地造成開発をめぐる仮処分事件で、まだ弁護士なりたてくらいのお嬢さんと2年半くらい、長丁場相手をしたことがあります。といっても弘中氏の友人弁護士という方が主任で、彼女はその補助という感じでしたか。仮処分審尋ではめずらしく専門家の説明を双方が質問を交えるということで、法廷に類似するやり方をとり、書面も10数回やりとりしました。お嬢さんは父親に似て?、清楚で凜々しく、お互いいい議論をしたかなと思っています。結局、当初の計画を一定程度変更することで和解成立でした。痛み分けというか、私もいい経験となりました。

 

まあ弘中氏と関係ない話ではありますが、お嬢さんもきっと立派な弁護士になられていることと思います。

 

さてその弘中氏、窮地にあるゴーン氏の弁護を引き受けたとのニュースで驚くとともに、期待していました。早速、3月5日付け毎日記事<日産 ゴーン被告の無罪自信 弘中弁護士会見「大変奇妙な事件」>でありますように、たしかプレスセンターで記者会見したときのコメントが凄いですね。

 

<弘中惇一郎弁護士が4日、東京都内で初めて記者会見し「(起訴内容は)日産が10年前から知っていたことばかり。何のために今、検察に届け出たのか大変奇妙だ」と述べた。>とか、、<今回の事件について「常識で考えて刑事犯罪にならないと思う。無罪が取れておかしくない」と自信をみせ>たとか、相当自信をお持ちのようですね。

 

しかもそれまで2回の保釈請求が却下されている中、<同28日に初めて東京地裁に保釈請求した点について「(ゴーン前会長は)早く保釈を得たいという強い希望がある」と説明。>早期の保釈許可決定に強い自信を示したようですね。

 

その理由として<証拠隠滅の恐れがないことを地裁に示すため、「(保釈された場合も)外部と情報交換できないよう、コンピューターや監視カメラを使って(関係者との接触を)制約するようなことを具体的に提案した」と明かした。>

 

最近の刑事実務では保釈決定の比率がどんどん高くなっていますが、ゴーン氏の事件の場合通常の事件とは同様にはいかないのではないかと思いつつ、裁判所の保釈許可を躊躇する事情を取り除く配慮を的確に行っている印象を受けました。

 

刑事訴訟法では、起訴された場合原則として保釈しないといけない建前になっていますが、実務の取扱は保釈は例外的になっていました。公訴事実という犯罪事実の有無は保釈の要件とはなっておりませんので、保釈請求では主張しても取り上げられません。多くの場合は4号の罪証隠滅のおそれが問題となります。それで、弘中氏が物理的・効果的な措置を提案したのですから、見事な対応といってよいでしょう。

 

 第八十九条 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。

一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。

二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。

三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。

四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い 怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。

六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。

 

同時に、弘中氏は<昨年11月の逮捕から100日超も勾留期間が長期化していることに触れ、「検察は被告の防御権を弱くしようと勾留を長引かせているが、極めてアンフェアだ」と批判した。【遠山和宏、金寿英】>と指摘した点は、一般的な議論とも言えますが、その具体的な内容によっては海外の世論を意識してプレスセンターで記者会見されたように、相当なプレッシャーを裁判所に与えたかもしれません(まあTVは見ていないでしょうけど)。

 

条文上は次のような事情を斟酌する必要があり、この点を視野に入れています。

第九十条 裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。

 

裁判所の結論は早速出ましたね(これは別に早いわけではありません)。

今日の毎日記事<ゴーン被告の保釈認める、東京地裁 保釈保証金は10億円>、さらに<ゴーン被告の保釈、検察側が準抗告>と検察も準抗告していますので、最終的な結論は少し延びますが、明日には結論が出ると思います。検察にとっては反論するだけの材料があるのかしらと思うのです。

 

とここまで書いてきたのですが、あくまでこれは保釈の話ですが、弘中氏は起訴事実について、<今回の事件について「常識で考えて刑事犯罪にならないと思う。無罪が取れておかしくない」と自信をみせ>ているということですので、期待したいです。ただ、<「(起訴内容は)日産が10年前から知っていたことばかり。何のために今、検察に届け出たのか大変奇妙だ」と述べた。>という点を強調されているのは、少しゴーン氏寄りの判断ではないかと思うのです。奇妙な事件ということが、日産が10年前から知っていたと断定された上でのことです。ゴーン氏はそう主張するのはわかりますが、そのような裏付けがあるのかどうか、そこが気になります。

 

とはいえ、ゴーン氏は起訴事実について有罪無罪を問わず、その信用性は地に落ちたのではないでしょうか。仮に起訴事実が無罪となっても、それは現行法に問題があった、あるいは横領ないし特別背任罪を裏付けるだけの十分な証拠がなかった、その心証をえることができなかったということかもしれません。

 

しかしビジネスリーダーとしての、コンプライアンスや信義に反した行いであったことを否定するのは困難ではないでしょうか。むろんそれは弘中氏の役割ではありません。

 

それにしても弘中弁護人の活躍をますます期待したいところです。

 

今日はこれにておしまい。また明日。


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