171006 納税義務のあり方 <論点ふるさと納税の実像>を読んで
今回の解散では、安倍首相が掲げた大義の一つが消費税の使途の変更でした。税金の使途が直接、選挙の重要な争点になったことがこれまであったのでしょうか。なんらかの意味で徒然ながら使途が問題になってきたことは確かですが、増税が決まっている消費税という特定の税金の使途変更を争点にするというのはきわめて希ではないでしょうか。といってもとってつけた大義だったようにもみえ、すでにこの争点はぼんやりしつつあるようです。
私たち普通の国民は納税義務を負っていますが、他方で、税金の課税体系やその使途をどう決めるかについては、隔絶された状態にあるように思えます。むろん衆参の選挙での一票はその選択権の行使でしょうけど、具体的な課税内容やその使途に影響を与える仕組みにはなっていません。不平不満があっても関心が薄れてしまうと思うのです。
さて見出しの記事は毎日朝刊です。2008年度に、故郷への応援、感謝の趣旨から始まったというふるさと納税、過剰な返礼品競争で、いま見直しの声が高まり、過渡期にあるようです。「取られる」としか思えなかった納税に、自分から納めよう、選択できる納税に近づいてきたかのようにも見えるこの制度、この記事から現状を探ってみたいと思います。
3つの異なる立場から議論されています。一つは<返礼品競争から「降りた」 藤本正人・埼玉県所沢市長>です。
その考えは明快です。<埼玉県所沢市は今年4月から、ふるさと納税に対する返礼品の提供をやめた。返礼品競争のため、住民は(納税者というより)モノ選びに必死な消費者と化し、各自治体は他の自治体に納められるべき税をモノで釣って、奪おうと躍起だ。だが、「ふるさとを応援しよう」という本来の趣旨はどこへ行ったのか。人の欲に火をつけて納税させる競争から「降りる」ことでしか、制度のあり方に異議を唱える方法はないと考えた。>
たしかに過剰な返礼品競争をみていると、一理あると思います。制度の本来の趣旨を応援、感謝といった視点からみれば返礼品競争は行き過ぎでしょうし、想定外でしょう。だからとって提供をストップしか選択がないかはどうでしょう。
所沢市はその選択の積極的な根拠について<納税とは何か。国も地方も市民も、もう一度考えなければいけない。子供が市内の学校に通い、親は市内のデイサービスを利用する。牛肉や海産物を求めて全員がふるさと納税をしたら、自分が住むまちの福祉や教育はどうなるのか。誰かがそのために税金を払っていることを忘れないでほしい。>と必要な行政需要に対応できない問題を指摘しています。
<総務省が「返礼品は寄付額の3割以内に」と通知を出した>点もそれでは問題の解決につながらないとして、<それでも返礼品競争を続けるなら、ふるさと納税の税額控除対象を国税部分に限るべきだ。>と地方税を少なくとも聖域にすべきというのです。
<返礼品をなくせば「損得」によるふるさと納税がなくなり、規模は縮小するだろう。だが、出身地や被災地を応援したい、という国民の純粋な気持ちは残るはずだ。>と制度の本来の趣旨に立ち戻れというのでしょう、その意味では制度本来の趣旨に合致する選択かもしれません。
たしかに返礼品目当てにふるさと納税先を選択している人もいるでしょう。少なくいことも確かでしょう。でもその前提には、自分の住む自治体のサービスがきちんと自分たちの需要に応えているのか理解できていないことが基本にあるのではないでしょうか。つまりは自治体側で行政サービスを納税に見合った内容を提供していると住民には理解されていないように思うのです。いや、実際には必死でやっていますというのかもしれませんが、少なくとも納税者にはそう理解できるような情報提供がなされていないですし、実感もないと思うのです。
だからといって、返礼品の内容次第でふるさと納税を決めるという選択に合理性があるは思いません。ただ、提供サービスによっては、望ましい自治体の使途になりうるように思いますし、はじめて自分たちで納税の選択権を行使できる道を開くことができるようにも思うのです。
その点、<地方創生へ「感謝券」続行も 黒岩信忠・群馬県草津町長>では、<群馬県草津町は草津温泉で「食べている」観光業中心の町だ。2014年度から、ふるさと納税の返礼品に「くさつ温泉感謝券」を導入した。例えば3万円の寄付で1万5000円分。町内のホテル・旅館や一部のみやげ物店、飲食店などで使える「地域限定の通貨券」だ。他の多くの市町村の農海産物などを中心にふるさと納税の返礼品が人気を集めているが、山奥でこれと言った特産品のない我が町にはそんな“武器”はない。>
感謝券はある種のローカルマネーですね。<ふるさと納税制度の原点は「地方創生」。お金のない地方の自治体が潤い、住民が少しでも豊かに暮らしていくようにすることが趣旨だ。家電や宝飾品のような返礼品は資産価値があるから、もらった人が転売し、どこへでも流通してしまう恐れがあるので制度の趣旨に反するが、感謝券は町内だけで消費されるので他に持ち出されることはない。こんなに理にかなった制度の利用方法はないのではないか。私は地方創生の先頭に立っていると自負している。>
観光地ならではの方式でしょうか。感謝券の場合もらっても草津に行って買い物などをしないと活用できないわけですから、地域振興により直接的につながっているでしょう。むろん地元特産の品物を提供することも同じだというかもしれませんが、やはり感謝券をもって草津に訪れるというのは観光地としては一つの納税のあり方として結構おもしろいと思うのです。
ただこのふるさと納税制度は、自治体の創意工夫を生み出す、納税意欲をかき立てる努力が問われていると思うのです。それがより行政本来のサービスという公共性に近づくものであれば協賛が広まるのではないでしょうか。
3番目の<地域の課題解決へ知恵 須永珠代・「トラストバンク」代表取締役>は、そういった将来性のある提案をしているように思えます。
このトラストバンクでは<ふるさと納税を紹介、仲介する総合サイト「ふるさとチョイス」を始めて5年。現在、全国の約7割に当たる1270を超える自治体に利用していただいている。>とのこと。
<ここまで市場が成長した理由には、自治体が魅力的な返礼品を競い合ったことが挙げられるが、その一方で制度の本来の狙いである「地域の課題解決」のための寄付金の用途にもいろいろな知恵が出てきている。北海道上士幌町は人口5000人弱の町だが、寄付金は子育て支援に集中するという大方針を打ち出した。16年度から10年間、町内の認定こども園を無料にした。すると関東・関西圏などから移住する若い家族が増え、道内有数の人口増自治体となった。>
寄付金の用途を明確にして今求められているサービスに提供することを打ち出す、行政サービスの特定化でしょうか。<災害による緊急寄付><経済的理由で食生活に影響が出る恐れのある家庭の子どもたちに食品を配送する「こども宅食」>など、次々と寄付金用途の個別化、差別化と実需に対応するようになってきたようです。
ただ、<ふるさと納税の行き過ぎた返礼品への対応として総務省は4月、大臣名で「返礼品の送付等について」という通知を出した。「一部の地方団体において趣旨に反するような返礼品が送付されている状況が続けば、制度全体に対する国民の信頼を損なう」と指摘。(1)商品券や電子マネーなど(2)資産性が高い貴金属や時計など(3)高額商品(4)返礼割合が高いもの--を返礼品にしないように求めた。返礼割合は「良識の範囲」として3割を上限としている。>と制限を設けました。
当然かもしれません。他方で、各自治体は自らの行政サービスを見直して、納税者の期待にどう答えるかを、常に真剣に検討して提供していくことが、このふるさと納税制度を契機に納税意識をもった多くの住民の期待に応えることになるのではと思うのです。
これからの自治体による行政サービスの進化に期待して今日はこの辺でおしまいです。
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