建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

魚釣り (1)

2017-11-13 15:29:13 | 建設現場

 瀬戸内海を眺めながら育ち、広島湾に浮かぶ牡蠣(かき)(いかだ)の周りで遊んでいたのであるから、魚釣りで遊んだ事も多いし、楽しさも知って育った私である。

しかし、魚釣りに対してフトした事から考え方が変わった。

妻が二度続けて流産した。
我が家にはもう子供が授からないと希望の灯が消えかかっていた
時に、
還暦を
過ぎた母が、自分の命と願いをかけて四国88箇所参りに詣でてくれた。

その途中、お寺で母が倒れたとの連絡が来て、駆け着けたら、
「悟美、親の命も子供の命も繋がっとるンよ。新しい命を授か
うと願かけてお参りしとる親の裏で、(息子が)殺生しとって
願が叶うワケないわ、今日、バチが当たったンよ……」

これには、一言も言い返せなかった。

命、それも母、このかけがえのないものを、また無くしてしまう
のかと寺で
涙した。

魚も親子で生まれとるンよ。娯楽で殺生をする人間に、親子の縁を
引き裂かれ
て、小さい魚は捨てられて、大きい魚は食べられて
しまうのを、魚は知って
おるンよ」
「・・・・・」
「釣りをやめンさいたア言わンけえ、少しは考えンさい…」

広島弁でそれだけ言うと…寝息に変わった。 
(釣を止めるけえ、母を逝かせないで…) 
本堂で幾度も手を合わせて、仏に祈るだけだった。   

 母の命は取りとめられ母は初孫も抱けたが、私の心には重荷が
ずっしりと
沈んだままだった。

(魚を釣ってピチピチ跳ねていたのを見て喜んでいたのは、
魚にとって見れば、
もがき苦しんでいた姿であり
『水をくれー』
と断末魔の声を発しないから魚の
見殺しが平気だったのか…)

 自分の趣味の為に、魚であっても命を奪っているのであるなら
ば、自分の徳は
そんなにあるモノじゃあないから、
運が途絶えるのは時間の問題だろう。

釣られた魚が馬鹿で釣った人間様が賢いという道理も自分勝手
である。

 奴隷を人間と思わなかった時代の昔の国王が、狩猟や奴隷狩り
で遊興に耽って
いたなごりの、生き物を殺す道楽の一つに
《魚釣り》
が現在も趣味・娯楽として
残っている…と思え始めた。

それを胸に預けたまま、安全大会で
《命の重さ》を話す事がある。

 朝食によく出てくる「ハム・エッグ」があるが、このどちらが
人間に対して
命を張って貢献しているかを考えてみた事がありますか?

卵は鶏が一日一個産み落としたものであるが、鶏は生きている。

ハムは豚が一命を落とした事によって、人間が食べる事が出来るのである。

 豚は食べられる為に生まれて来て、育てられているのかも知れ
ない。
安全活動を必死で行うのは、豚のように一命を賭すればこそ、
ハムになるものだ
等と倫理・宗教上の観点からの話ではなくて、
職人さん達へ
『命の尊さ』
を話て
いるのも、この魚釣りが起因かも知れない。

話を戻して、

魚屋で売られている魚も、人間に食べられるために海で泳いで
いたのかも
知れない。

だが、私が釣った魚や釣り上げたが捨てた魚は、・・・

        魚 釣り(2)へ続く

 

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JV企業体ならば 2

2017-07-18 10:39:05 | 建設現場

   ****** 企業体ならば その2 ****

私もサブとして出向した経験があるし、幹事会社の所長としてサブから出向社員
を迎えた事もある。

サブに出向する辞令が出た時は正直言って嫌だった。
「誰か代わりに行く人がいないの?」
「まあ1年チョットだから我慢してくれ・・・」
の決まった会話があるように、行く前から、
(1年間の我慢かよ……しかし、何で俺なんだよ…でもまあいいか…)

幹事会社の工事のやり方を学ぶチャンスである、と言うのは負け惜しみだ。

 こっちならば所長風を吹かしていれるのに、あっちでは幹事会社の人達総て
気を遣わねばならないし、勝手気ままに喫茶店でのコーヒータイムも我慢だ
なあ…
ではこの先面白くない。

何よりあちらさんの作業服を着る姿を想像したくないし、同僚には見られたく
ない。

でも、職人の増員手配と銭勘定は幹事会社の役割だから、私は工程表通りに段取
りをして《事故無し》に専念すれば、気楽であり、有休休暇も十分取れるだろう
と不埒(ふらち)な考えも出た。

(飲み屋に行ったら、その代金をどう伝票処理するかだ……な)
が、さし当たっての対策事項であった。

 出向先での仕事は案の定、鉄筋工事一式担当が躯体中の仕事である。

材料搬入検査願い・配筋検査願・圧接報告書・配筋写真立会い願……まあ鉄筋
工事担当中には設計監理者へ書類も行ったり来たりし、立会い検査に出たり
試験
場へ出かけたりして、気楽な時間はほとんどなかった。

配筋検査は監理者から何度も同じような手直し事項が指摘され、
「信用回復するのに、もっと上手い職人さんを連れて来ましょうか?」
と検査の度に頭に来るが、所長には言えないので、
(鉄筋屋の技量を基準にして、幹事会社の品質管理に合わせよう)
自分のペース配分に余裕を持つ事にした。

躯体期間はいつもなら仕上げ職種の見積書を検討し契約したり、予算書を見直
たり、出来高査定をまとめたりして忙しいのだが、出向している身分だから
首の
突っ込めない所もあり、原価監理の時間が少ない分、時間的に余裕があり、
何か
してみたいなという気分になった。

躯体工事が終わった時点で工程は少し遅れていたが、躯体工事期間は休みが
あまり取れなかったので、仕上げ工事は全員の休暇予定表を作って家族サー
ビス
が計画出来るようにした。

そのお陰で、祝日と連休の前後に休暇をまとめて、海外旅行を二度させて
もらった。

現場所長であれば工事期間中に一日たりとも現場を空ける事は、到底考えら
れない事だが、
サブに出向した恩恵として、有り難く又、楽しませて頂いた事
に感謝している。

幹事会社の現場職員から見れば、
「今回のサブはとんでもないヤツだった」
となっているでしょうね。

反対に、私が出向社員を迎えた現場の話では・・・、

「飲み屋の伝票はどうしてる?月に1度はこっちに出していいよ。それからガソ
リン代は現場の隣のスタンドで入れてよ、近隣対策費で少しは面倒見るから…」
と初めから出向者の鼻をくすぐっておいた。

早出残業のこの職業であり、バスに乗って出勤する訳にはいかないのに公的経路
の通勤費しか出ないので、マイカー出勤は大赤字である。

飲み屋に払う交際費を残して近隣対策費が予算書から増えるのは、経理が見れ
ば駄目だと言うだろうが、(仕方ないワさ)で堪えてもらおう。

出向の立場も心得ているつもりの私であるが、担当仕事は鉄筋工事を任せる
事にした。

「今度の人はどんなふう?」
と協力業者の親方や職長が情報収集に来る。

これっきりの現場だと思って、妙なところを追求して来られてはたまらない。
責任感が強い人の場合は、標準仕様書通りにしなければ幹事会社に迷惑がかか
ると思い、妥協する程度が見えなくなって、お金のかかる対応になる事が多い
で注意がいる。

何事にも相談してくれればいいのだが、他社の人という遠慮がどうしてもある。

その気まずさを取り除くのは、私の得意技である。
自分がサブに出向して嫌な面、嬉しい面を経験してるのだから、出向者に嫌な
思いをさせたくない心遣いさえあれば、楽しくやっていけるものだ。

幹事会社は予算書を隠すようにしているが、私は一切隠さないし鍵も掛けてない。

狭い現場事務所でコソコソやっていれば、疑心暗鬼になって職人に目が届かなく
なり、工程は遅れ、儲けも飛び、事故にもなる。

私はサブの出向社員に工事途中で、幹事会社として隠している最終利益を教える。

更に所長としての最終目標利益をオフレコとして本人に伝えるから、出向社員
も仕事に意欲が湧くし、現場もJVの枠を忘れたかのようにチームワークが
良く
なり、職人さんの笑顔も汗も輝きを増して来れば、JVとして現場を治め
たのは
合格だと思っている。

社内の上司・監理部門からは『とんでもない奴だ!』と恨まれてるけどね。

***************** 次回は気分を変えて《魚釣り》 を話しましょう。 

 

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JV企業体ならば

2017-05-30 10:39:21 | 建設現場

…………………………(JV・企業体)…………

いつの時代から始まったのか知らないが、一つの建築物を創るのに
JV(建設共同企業体)という看板名を出している現場が増えている。

『ジョイントベンチャー』なる言葉で土建屋のやっている事柄を、あたかも
大事業でも始まったかの言葉を使って世間体をごまかしているだけだ。

最初に言いたいのは、ジョイントする必要性が無いもので、三流タレントの
ジョイントコラボと似ていて、とにかく儲けようとの魂胆が大きいのだ。

このJVとして工事を行うシステムが発生したのは、大型工事をスーパーゼネ
コン1社に発注しない(皆=ジョイントしで儲けを分けよう)との大義名分から
であり、特に土木工事には多い。

ダム・新幹線・地下鉄・高速(高架)道路・トンネル・下水道など土木工事は、
ほとんどJV工事である。

建築では空港・高層ビル・官公庁庁舎・◎◎会館などの公共建築物にJV工事
が多い。

土建会社から言えば入札をして、1社で請け負いたいものだが、国の発注工事
には後ろで操っているヤカラがたくさん口出しして、官側が土建業者を1社に
落札出来ないウラ事情を張り巡らせている。

つまり、落札に天の声さえ聞く耳を持たず、《族》議員の力量で甘い汁の奪い
合いが始まるのである。

そこで更に工事範囲を分割し共同企業体の数を増やせば、ゼネコン数社に仕事が
分配される訳で、ひいては議員さんの『票』に繋がって行くのである。

《政》  口出しをしない訳がない。

建屋》談合をしない訳がない。

《業界 にJVがなくなる訳がない。

まともなモノが創れる訳が・・・

専門分野の仕事を持った業者が2~3社で共同企業体という看板で工事をする
のが、JVを組む目的だったが、土建屋は最初から賛成したとは思えない。

日本のゼネコンとしては専門技術力に大差がないのであるから、だれがどこと
JVを組んでも同じである。

「俺の会社は◆◇部門が弱いからその部分をZ建設にまかせよう」てな事は
ゼネコンの口から絶対に言わない。(プライドより意地があるのだ)

しかし、JVの組み方にしても極端な場合は会社更生法適用申請中のゼネコン
が最新の大プロジェクトのJV看板に名前が並ぶのだから、土建屋の裏という
よりも
《政》がどのようにからんでいるのかをはっきりさせたいものだ。

 共同と名を付けてみても実際は幹事会社が総てに主導権を握り、その下に名前
を並べる通称JVのサブ会社は社員を出向させるだけで、予算作成や下請け業者
の選定にも権限がない。

「幹事会社の言うとおりに総てお任せします」がJV組織円滑の基本である。

工事請負額の持分も幹事会社が60%取り、サブAが20%・サブBが10%・サブ
CDで10%のように比率を配分する場合も多々あるのに、共同とは何を指して
いるのやらだ。

儲けた場合も損をした場合も請負金の比率で負担する原則であるが、大儲けし
ても
幹事会社が財布を握っている以上、サブには原価監理は霧の中であり、
予算より
少し儲けた程度の清算書が公表されるのだ。

正直に儲けた全金額を発表するならば幹事会社の意味がないし、自社の儲けを
削って
まで企業体へ分与するほど幹事会社はマヌケじゃあない。

だからJVの幹事会社としてはサブの会社から出向してくる社員に対して、
請負金比率の頭数(人数)が揃えばいいのであって、実力を期待する必要は
なく、
原価監理の乏しい人や幹事会社のイエスマンである方が、現場にとって
は円満に
工事が進むので何かと都合が良いものだ。

企業体各社のトップがJV会議を開いて、工事予算書を承認すれば、余程の
ことが起
こらない限り、竣工まで幹事会社の「やりたい放題」、思う壺で
仕切って行く。

共同企業体と言ってもすべてがオープンではなくて、応接室や所長室はもちろ
ん、
幹事会社の担当者の机や書類ロッカーは鍵がかけられていて、マル秘の
書類や
帳簿らしきものにはサブ出向社員と一線を引いて厳重管理されている。

幹事会社の契約書や請求書・経費伝票について口を出したり、工事途中で
共同利益の分配
額を追求したりする人が出て来たら、現場の空気に軋轢が
生じるのを防ぐ為とで
も言うのであろう。

現場構成の人数と年齢をJV会議で決めて、副所長にはサブコンが座り、
現場担
当員も主要工区は幹事会社で占めて、サブは鉄筋工事(配筋検査でも
やらせとけ)
が関の山である。

サブから出向社員が来ても『裏サブ』と言って会社の名前を出ないゼネコン
JVにくっついている場合や、名前があっても出向社員はいなくて、名前
だけの
幽霊社員の時もある。
(天の声の為、誰もが見て見ぬふりで………族議員のチカラに口を閉ざす)

JV工事と世間の目を向けさせていても専門分野で共同合作しているのでは
決してない。

私もサブとして出向した経験があるし―――
                《JV・企業体ならば 2》へ続く

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ピラミッドからの発信 2

2017-05-09 11:57:16 | 建設現場

…………………………(ピラミッド からの2)…………

(前回の訂正から)

 

『しかし、20万人で創ったのならば年間1万人であり、一日当27人となるし、
310箇所で作業していれば(310÷11)一人が11箇所同時に立っている事に
なり、計算式は成立しない。』

 

(訂正)一日当たり27人で310箇所石積みですから310÷27=11. 
一人が11箇所
同時に立って作業している事です。
--------

話を続けよう。
思い切って「毎日20万人の労働者が休まずに20年働いた…」が古文書の
正解
な訳だとしても、現実味に欠ける数字と私には思える。

ナイル川が氾濫して年間9ヶ月しか工事が出来ないとも言われているから、
その環境でも20年で出来たのならば、秒速(15秒で一個)で230万個の
石を積み上げた事になるから、今から計算をやり直すより、
もう工程分析の計算は止めにしよう。

作業速度も人数も想定出来ないので、工事方法は秘密のベールで隠して
おくしか
あるまい。

計算がどうであれ、現実にピラミッドは石で積み上げられている。

興味はさらに、作業方法についても夢が膨らむのである。
レッカーもトラックも無い時代なのだから頼れるのはラクダと人力
のみしかない。

周囲は砂漠であり数百kmも先にある石の採掘山から建設現場に搬入する
には、
気温40度の中を、船を使うか人力運搬で引きずって来るのだから、
時間も労働
力も計算不可である。

現場に石が到着していて、積み上げ工事が始まっての20年としても、
人力で頂上へと
運ぶのであるから運搬用のスロープを創って、丸太の
上に石を載せて引っ張って
いる『絵』が浮かんで来る。

運搬専用道路を10分の1勾配(引きずれる最大勾配)で作ったとしても、
斜路
だけでも長さ1460㍍、高さが140㍍のものを創らねば頂上に達せず、
盛り土は800万立方メートル(ピラミッドの3倍)も必要になる。

砂漠の中斜路用の堅い土はないし、斜路は二方向は最低必要と思えるし、
斜路を創る道具もない。

この石の横移動方法も、有り得ない話としか言いようがないですね。

搬入斜路が実際にあったとは、判明されてはいないが、斜路がなければ
どうやって……。

シンプルな姿の中にもまだ驚きの精度の問題が残っている。
ピラミッドは四角錘となっており四面の勾配が51度もある角度の精度は、
底辺
が230㍍もある水平の確保とともに、どうやって四面を《錘》に
させたかである。

四面の内、一面の勾配が少しでも違えば四角錘には成り得ない。

急な勾配の為に人も石も不安定になり、転落事故の発生にさらされながら、
二分間に一個の早さで角度まで正確に据えつけるのは、今の時代に
油圧ジャッキ
を使用しても不可能である。

ピラミッドの中に王の間・女王の間・重力軽減の間もあり、高さ45㍍まで斜め通路もある。

途中で15㌧は越える重さの巨大石もあるし、9㍍の高さを持つ廊下のような空間もある。
(太陽光が入って明るい部屋もある)
複雑な石積みには指揮者も必ずいた筈で、石を積む原理はどこから知識を得たのであろうか。

ピラミッド建設時代(紀元前2500年)、日本はまだ海の中であったかも知れないし、
日本人の存在はまだ記録に現れてさえもない中で、精度の高い工事がなさ

たのである。

外から見れば単純な形であるのに、建築物として眼を閉じれば、
宇宙の彼方まで
想像をかけめぐらせても、答えがみつからない不思議さに
感動さえ与えてくれ
ている。

ついでにオマケのこじつけ?コメントもしよう。

そう、宇宙的に見ればピラミッドの位置はオリオン星座の三ツ星に深い関わりが…について、

三ツ星は一直線ではないが、この配置がキザにある三つ並んだピラミッド
と同じ角度と同じ比率で天体に何らかの意味を正確に示していると思える。

それから、ピラミッドの大きさは地球の北半球の43,200分の1である…について、

ピラミッドの底辺四辺合計長さと赤道の長さ、北極から地球中心までの
高さ
比率は長さで6㍍高さで40㌢しか誤差がなのは偶然の出来事では
あるまい。
地球が楕円であるため誤差として6㍍となった。

(当然勾配が51度になる事も、地球の大きさを既に知っていた…とも
思われる)

《これは現代人の解析結果論であり、太古の昔に考えていたのか、
私にはオマケ
の話である》

シンプル・イズ・ベストから話が飛んでしまったが、
「俺様の不思議を解明出来るならやってみろ」
とピラミッドは言い続けているに違いない。

単純な形の中に、これほどの神秘があろうとは……。


                ****
次回はJV企業体のアレコレ話しよう

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ピラミッドからの発信

2017-04-21 08:33:07 | 建設現場

…………………………(ピラミッドからの発信)…………

 

 シンプル・イズ・ベスト。

これが基本であればどんなに建設現場が楽になるかと、何時もながら思う。

新しい現場の設計図面を開いた時に、円の部分、しかも楕円が使用されてい
れば施工方法の煩わしさが即、頭に浮かび、
「ゲッ?真っ直ぐにしろよ、ナンの為に曲げているンだ」
と誰しも設計者のいない所で口にする。

「いいデザインですね?」
ナンて口が裂けても、言わないしゴマをするまねさえも出来ないものだ。

墨壷と墨糸を使って線を引けば、必ず直線である。
AB二点を結べば直線であるという数学の基本を離れて、直径が1㍍の円になる公式を
まだ覚えていますか?5㍍の円になる式は?

ついでに楕円の公式を覚えていますか?
建築稼業に足を入れているので、構造力学の解析にはサイン・コサイン等の
三角
関数に触れる機会は多くあるものの、2次曲線は願い下げて
もらいたいものだ。

ラグビーのボールをイメージした総合体育館、楕円形の結婚式場も経験したが、
自信を持って創ったものとは言えず、楽しい思い出よりも苦しかった
思い出の方が
多く残っている。

学生時代でも数学は好きな分野ではなく悪戦苦闘していたのに、この歳になっても
まだ数学から抜けきれない仕事をしているのは、悲しい運命とあきらめるしかないのだ。

運動会などで半径10㍍の円を白線(粉石灰)で描いた経験はありますね。
でも建築現場はそれより大きな円で、幅1㍉の太さで正確な円形が
必要なのです。
しかも、中心点が隣の敷地にあり建物の中という場合が多いのである。

どうやって円・楕円を正確に地上に描くのかと考えるだけで嫌になり、
ここで
説明するのも面倒であるが、現場作業はその何十倍も
クソ面倒である。


 建物として使用していく上で機能最優先を願っても、設計者は世界に一つ
の建物に
なると言う大義名分からデザインに心血を注ぐのが悪いとは
言えないがUFO
でも連れて来て、地上に巨大なコンパスがなくても
「大きな円形が描ける」とでも信じているのでしょうね。

シンプル・イズ・ベストの代表的建築物『ピラミッド』について、
ふと話をしたく
なった。

98年にエジプトに観光に行って実物のピラミッドを眺めて以来、シンプルに
せられたの如く《さりげなさ》というものに敏感になったのかも知れない。

単純な四角錘のどこに魅力があるかと言えば、単なる建築物観光旅行の気分
から
外れて、建築屋として眺めれば、これほど興味をそそるものはないのだ。

これが王様の墓であろうと、財宝が眠っていようと私には一滴の興味もない。

 先ずは147㍍の高さ、これをどうやって建造したかが興味の第一歩目である。
今から4500年も前(日本は縄文時代)に創られたそうだが、現代の
建設機械を総動員しても簡単に
創れるものではないのは検討するまでもなか
ろう。

これを建設現場の所長の目から見て、話をすれば……。

一辺が230㍍もある正方形を、測量機械が無い時代にどうやって測定したのか
ある。

正方形の四辺の最長と最短の誤差を測量すると20㌢しかないという。
野球場のホームベースから最深外野フェンスまでが110㍍としてもその倍以上
ある長さであっても、正方形(誤差0.08%)である事に驚きを持つ。

底面積が53,300㎡あるところに石を積むのであるが、石の数が230万個
以上になり、その重量が600万㌧になり、杭のない地盤にそびえているの
である。

外装が盗掘されているが、外装化粧石も15,000千個あり、一個10㌧程度
あったそうだ。

そこで147㍍もの高さ迄、なおかつ建設中の中心点の115㍍まで届く長さの
レッカーの先端で吊り上げるとして、一個15㌧以上の石が何万個もある。

標準的な一個3㌧の石さえ数百万個もあれば現代でも吊り上げられるクレーン
無いだろうし、レッカー形式で作業したとの仮説は成り立たない。

エジプトの政府公表資料が間違っているのか、私が夢を砕いているのか……。

さらに加えて、20年間(20万人)で創ったという事を工程的に見てみる
と……。(ここからは電卓用意してから続きを読んでネ)

20年間休まず働いて完成させたとしても、一日に310個設置する事になり、
一日10時間働くとすれば一時間に31個、なんと2分間に1個の速さで、
3㌧~
15㌧もある石を、毎日積み上げた事になるのである。

発想を変えて、一日に310個設置の為に310箇所で作業をすれば、各所で
一つの石を一日かけて一個設置との計算式は成立する。

しかし、20万人で創ったのならば年間1万人であり、一日当27人となるし、
310箇所
で作業していれば(310÷11)一人が11箇所同時に立っている事に
なり、計算式は成立しない。

仮に3㌧の石を人間が地上から5㌢持ち上げるとしても何人必要であろうか。
冷蔵庫一個を私一人の力では持ち上げられない事から換算しても、
(ピラミッドの石は冷蔵庫より大きいのが80%以上ある)
3㌧の石を持ち上げるのに一人が100㎏負担しても30人が必要である。

30人が310箇所で作業すれば9300人になり、20年(7,300日)を掛けると6,780万人となり
20万人とは桁が違う……私の計算は間違っているのだろうか?

採掘する人とか運搬人は計算に入れてないが、エジプト学会発表の《20年間
20万人》とは、偉大な数値であるが、違っているような気がする。

(ピラミッド 2) へ続く

 

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一発十万(2)

2017-04-06 10:45:18 | 建設現場

…………………………(一発十万 2)…………

足場の解体中は弋職人も神経を使うものだ。
組み上がった足場はビクともしないように控えが取り付けてあるが、少しでも
解体すれば不安定この上なく揺れ始めるし、歩くのも怖いものだ。

手摺と養生ネットを撤去するのに時間はかからず、弋さんは控えから順次解体
を始めた。

一番上で照明器具を取り付けている人は、足場の揺れを感じながら作業出来るものではない。

「もう少し待ってください」
「約束時間だ、待てないぜもう」

と言ったか言わないか定かでない。
若い弋職人から右ストレートが2発、左フック1発が電気屋さんの顔面に入た。

電気屋さんは倒れたがそこにも2発入ったという。

電気屋さんと弋さんの取っ組み合いになったと聞かされて、私が現場に駆けつ
けた時は騒動の後だったので、詳しい事は分からないまま、先ず足場の解体は
ストップさせた。

(徹夜でもして、朝までには解体させねばならない)
時間も迫っているが、この業者の始末をせねば先に進まない。

電気屋さんは、
「もう二度とここには来ない、照明も他のメーカーに変更して取り付けて
ください。俺達は今から引き上げる。殴られて仕事なんかやってられない」

お互いに、いままでの鬱積が爆発したのも事実であろう。

しかし、今は、明日出直して…と言う時ではないのである。

所長は、
「福本、話つけて来い!」
といつものように丸投げして、またもや私の出番である。

別途業者の電気屋さんは当然施主直轄の会社であり、こちらが先に手を出した
のであるから、全く申し訳が立たないし、しかも施主に頭を下げに行くのが
私とはね……。

それよりも、足場を解体せねばならないし、照明器具も吊り下げが終わって
いないし、話を付ける時間さえ、今はないのである。
「とにかく、話は明日、俺が取り持つから、ケガ人は病院に連れて行く、
電気屋
さんはすまないが仕事を終わらせてください。足場は揺れないように
復旧させ
ますから……。弋は全員待機して残業の増員応援を手配しろ!」

一気に喋った私も興奮していたのであろうが、周囲もゴソゴソと手を動かし
始めた。

病院に行った人は鼻血を出した程度で、
「三日間は打撲あざが残るでしょう」
となったのは幸いであった。

翌日は電気屋さんと弋の親方の両方を現場打ち合わせ室へ召集した。

「今日は誰もここに来させていません。明日以降も白紙です!」
まだ怒りが収まっていないのも分かる。

「手を出したのは全面、謝り致します。治療費も全額負担します…」
「ケガをしにここに来ているのではありません。引き上げさせて下さい」

「それでは施主にも申し訳が立たないから、仕事は継続してくださいま
せんか……?」
と電気屋さんがいかなる条件を出しても、継続を頼むしかない。

「結局、顔を殴られた人のメンツもあるし、お詫び料で話に乗って
くださいませんか?」
としかこの際、決着はなかろうと私は提案した。

しばし沈黙・・・。

「5発頂いたので50万頂けますか?」
「はい」
と即、答えたのは、決着の丸投げを命ぜられた私だった。

電気の仕事も弋工事もまだこの先に山と残っているのに、引き上げるとか、
一発が高いとかゴタクを聞きたくもない。

一日仕事が延びれば50万どころの損失金額じゃあ済まないからだ。
(7人グループが3日間の休業補償もあるンだし……)

その晩、両方の社長と居酒屋に行って酒を飲み、握手をさせたが、
気まずさは……残った。

所長抜きで決着をしたのも問題であるが、職人さん同士の空気の重たさが
漂っているのがどうも気になるところである。

一発10万円が高いか安いかの話ではなくて、現場の雰囲気が暗くなって
いけば、
小さなきっかけで大事故になるのである。

仲良く仕事をしていれば、電気屋さんが終わるまで待っていただろうし…の
タラレバ話はしたくないが、チームワークよく仕事をさせていない現場監督が、
今回の原因の火種である。    (一発十万円 終)

 

これは事故なのか事件なのか、血気盛んな人が大勢いる中で、おこりうる
問題であり、対処する仕方も、どこかで学んでおこう・・・

次回はシンプル イズ ベストーーピラミッドにまつわる話をしよう。 

 



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一発十万(1)

2017-03-21 11:09:12 | 建設現場

………………………『一発十万』

その現場は空気が重くて、殺伐(さつばつ)としていた。
職人さんは銭金(ぜにかね)言うよりも、現場から離れたかった。

突貫工事は最初から分かっていながら、職人さんが不足していておまけに、
作業
現場が愛知県外であるから、協力業者と交渉しても工事契約は捗(はかど)
らなかった
もようである。

お盆が過ぎた頃に、急遽現場の応援に3ヶ月の単身赴任を命ぜられた。

「もう突貫状況に突入しているの?」
「そうだ、6月に着工したがまだ基礎工事中で……」
(そんな現場に行くの嫌だね)

拒否出来る訳じゃないから……と渋々腰を上げて9月から赴任したのである。

私でさえ胸を張って現場の門をくぐったのではないから職人さんは足に鎖でも
引きずる思いで、毎日仕事に来ているのだろうと、すぐにピーンと空気が
読めた。

(こんなところに3ヶ月もいるのかよオ……いられないよオ)

応援と言う立場上の動きもあるが、今までの仕事の流れと竣工までにする仕事
を冷静に判断したら、私は今から4ヶ月間いたとしても足らない程の仕事量を
期待されてしまった。

この判断を見ただけで、現場の船の舵取りは五里霧中……最悪状態を覚悟した。

朝礼の体操も眠気覚ましの運動であるが、一番目を覚ますのは、
「今日中に、〇△の範囲を大工は終わらせる事!」
と気合を入れた所長の話に、
「出来っこないよ!そんな事……」
ブーイングが波打つ時であった。

毎日、無理な指令を発し、その日のノルマが達成出来ないまま、又、次の
ノルマを出していて「狼が来た」の狼少年になってしまっている。

途中現場参入の私が急に方向転換させる事も出来ないが、とにかく頑張るしか
ないのだ。

そんな中のある日、事件が起こった。(一発十万の勃発だ)

 昨日の定時打ち合わせの時に、
「明日じゅうに吹き抜け部分の足場をどうしても撤去せよ」
施主からの命令があった。

それも昨日急に決まった事ではなくて、2ヶ月以前から連絡してある話だ
と言う。

工事が遅れていたので全体の工程がズレていても、別途工事である施主の
発注荷物
がどうしても明後日にその場所を通るので、
大々的なスペースがいるのである。

7㍍四角の吹き抜けは高さ11㍍あり(枠組足場にして6段×4列)、一旦解体
して施主様のお通りの後にまた架設するのは、時間的にも余裕がない。

一旦解体して再度組む、つまり、二度も組み立てて二度も解体の予算は、当初
から無い。

施主の荷物は海外から船で来るので日程は確実ではなかったが日本に寄港次第、
現場に運搬されるのは、工事着工の時から当月頃になる…と伝えてあった
らしい。

施主の声には逆らえない

この足場を撤去する為には、天井に照明器具を取り付けておく必要がある。
「別途業者の電気設備屋さんの事は知らないよ」
と言う分けには行かないし、
「明日の昼までには取り付けて、午後から足場を解体します」
とこれ以上は譲歩出来ない時間で、一応皆を納得させた。

天井照明器具は朝一番に配達されて来たものの、設置する作業に時間を
取られて
しまった。

昼食抜きで電気屋さん達が頑張っていたが、午後一番から足場の解体は到底
無理だった。

「もう少し弋さん待って下さい」
「待ったら、今日も残業になってしまうぜ」
「2時半まではどうしても取り付けは終わりません!」
と所長に泣き付いたかどうかは知らないが、2時から少しずつ足場を解体するようだった。

    (一発十万 2) へ続く

 *******  *****  

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施工図屋(2)

2017-03-06 15:28:52 | 建設現場

…………………………(施工図屋 2)…………

「施工図屋ですが・・・」
私のこの一言で、お邪魔虫扱いの返事が戻って来る。

「最近の図面屋の図面は、悪かろう・安かろうで《施工図になってない》から
使い物にならん!」
と初対面の現場所長から耳にタコが出来るくらい聞いた。

安い施工図はA1版1枚2万円以下で発注されているが、どう考えても日本人
の作図と考えられない。

1枚作図するのに最短でも2日かかる。
この金額を解明すると、
日本人の施工図担当者が1日8千円×2日間で仕上げねば、施工図屋は採算が
執れない事となるし、施工図屋の給料は25日働いても20万円しかならないし、2日間(8時間×2)で1枚仕上がるような図面は、外注にはほとんど
廻って来ない。

だから海外(中国)で作図させて、図面内容が不十分のままゼネコンに納品
しているから、「使い物にならん図面だ!」と一般論になるのも、致し方ない
ものでしょう。

「私は5~10億円の現場所長をしていたから、この現場の規模でしたら現場
監理しながら、施工図も書いていましたよ
と半分見栄を張って言うと、途端にお邪魔虫言葉が消滅する。

(俺ならこんな現場なら二つ三つの掛け持ちでも楽勝さ、アンタとは違うよ

と所長の顔色を覗き込み、若手現場マンの反応を見るのが楽しみでもあった。

私はリストラされたのだし、60に手が届いたのだから図面屋として必死に
稼ぐ必要もなく、儲けに走るよりも、現場員がノーチェックでも設計事務所や
監理者から承認印が頂けるような施工図を書くように心掛けている。

お陰で複雑な建物や、対応に不慣れな官庁物件に限って
「手伝ってください」
とコメント付きの設計図が送られて来る。

(でも私の施工図面は安くて・早くて・正確なんだよ……ね)

もう少し施工図作図の話をしよう(日立建機ティエラ64号寄稿から)……

現場には設計図があり、施工図の通りに作っても「図面と現場は違うから…」
との一言で図面が悪者にされる事もある。
 「この図面通りに出来ますよ」
と言うのが施工図の役割なのですから、施工図の管理をしっかりしていれば
現場業務は大幅に短縮出来るのです。

しかしながら、施工図を作成するには、どの現場でも「時間がない!」と言
っています。今日は施工図作成のポイントについて話をしましょう。

「施工図を書かなければ現場を覚えられない(一人前になれない)」
と昔から言われているが昨今はコンピュータから技術力を学ぶ方法もあります。

日没まで職人さんに作業指示をし、安全に神経をすり減らしていて、残業で
図面を書くのが当たり前の感覚では、品質の良い図面は期待出来ません。

施工図は残業して書くものではなくて、現場巡回と平行しつつ日常8時間業
の中に食い込ませる段取りをする事です。

現場と製図を仮に30分毎に業務交代すれば4時間は製図台に向かっていられ
る計算になります。

施工図とは「納まり」を考えながら書くものですが、設計図面を眺めて拡大・
複写しただけのもので満足していませんか?

         

施工図面らしく作図するポイントは沢山ありますが、フォークボールを投げ
る握り方を知っていても投げられないのと同じで、製図板の上で線を引いて
いても使える施工図になりません。

よい施工図を書く為には経験も必要ですが、それよりもまず大きな用紙に大
きな図面(原寸1分の1)で断面図をはっきり書く事から始まりです。

平面図・詳細図へと検討が行われ訂正が発生し、消しゴムが製図台の上を転
がり出すと図面が汚れてしまうので、薄い鉛筆で図面を書く人が多いのです
が、私は2Bの鉛筆を最初から使うように指導しています。

指先に加える力で鉛筆の濃淡の加減が調節出来るし、ハッキリした黒い線と
数字は現場の意気込みの現れにもなるのです。
(自信がない図面ほど薄い線が多いし、間違いも多いものだ)
薄い線はコピー機で現れず数字も8か3かと目を凝らすようではどこかで必
ず見落としが出るものです。

書き図よりもCADで作図の時代になりました。
キレイな線になっても、正確さが曖昧で自信のない施工図ほど肝心な立体感
が抜けているのです。

例えば、円形柱は立面図では長い四角形として書いてあるのが設計図で、
かに円柱であるかを現すのが『施工図』です

文字で「これは円形柱です」と記入する訳にもいかないものですしね。(笑)

施工図は正確に書く事は当然ですが、早く作図する事も大事です。
施工図で表現困難なものは施工も難しいものです。

1枚の図面から工事着手前にグループで色々検討する為にも、
「早く・正確・はっきりと」
が図面作図の最優先です。

そして図面の内容について施工手順を加味して、承認を受けて、初めて施工
図として現場で活用が始まるのです。

1枚の図面の中には多くの職種が含まれていて作業が進んで行くのですから、
施工図にもっと理解を深める事です。

「あんたン所、まともな図面が書けるの?」
と現場管理者さんから言われないようにして、
「これで承認して下さい」
とアピール出来る図面を書きましょう。 

(今号の一句) 承 認 印
         やっともらえた 施工図は
            竣工までの 道しるべ 

                     (以上)

次回は手を出したが為に《一発十万円》の話をしよう。

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施工図屋

2017-02-20 10:53:48 | 建設現場

…………………………(施工図屋 1)…………

「施工図屋の〇〇です。図面を書かせて頂けないでしょうか?」
現場が始まるとすぐに営業マンがやって来る。

建築現場で建物を創るには設計図よりも施工図が重要な事は《建設現場の
子守唄》
《――風来坊》でも話をしているので、施工図の意義・必要性に
ついては
もう一度見てください。

現場に飛び込んで来た施工図屋の営業マンに対して、
「施工図は仕事を覚える為に、現場員に書かせるもンだから、あんた達の出番
はないよ」
と私も所長時代は答えていた。

実際に若手に図面を引かせれば(書かせれば)現場はスムーズに事が運ぶの
であるが、一枚の図面にかかる時間を労務費換算すれば外注作図が安いのだ。

若手現場マンが図面を書くとしたら、一日じゅう現場を駆けずり廻ってから
現場事務所の自分の机に戻り、今日の作業日報をまとめ、明日の職人の予定・
段取りを確認してやっと図面に向う事となって時計の針が19時を廻っていれば
早い方である。

今日の作業予定範囲が順調に終了せず、明日の予定を変更する場合では、
協力業者間の調整に更に時間がかかり施工図作図に取り掛かれないものだ。

 昔は現場に図面担当が配属されていても、若手は部分的にでも図面を引か
されていたし、自分のわからないところを先輩から教えてもらうには図面を
書くしかなかったものだ。

 最近は若手不足もあるが施工図担当がいないまま、現場四監理業務(工程・
品質・原価・安全)は所長の補佐として動き廻り、更にISOの書類まで
若手
に求めている。
 これでは施工図を作図する時間は無くて、当然作業手順や施工検討は確認の
しようがない。

 それでも、
「施工図は若手に書かせろ」
と言うし《勉強の為に》とか理由をつけて、施工図外注の予算をバッサリ
切捨てて、若手に総てを押しかぶせる上司が依然と多い。

 現場が始まったばかりとか順調に進捗していても若手に19時から残業で
図面を書くのが当たり前と考えているゼネコンでは、若手が育つ筈がない。

「施工図は現場監理しながら『昼間に作図せよ!』

これは私が若手を鍛えるフレーズである。

施工図はじっくり腰を据えて《夜に書くのが当たり前》の教育を受けて、
私の現場に配属された若手に、一番初めにショックを与えるのである。

「現場を一廻りする時でも、図面の一部分を頭に描いて、その場所に立って
ごらん……」
そうすれば立体的に考えられるし、図面の表し方も気がつくものである。

夜、パソコン画面に向かってから立体的に考えるのをやめて、昼間に施工図
を書くのだ。

つまり、昼間は眼で現場を監理しながら、頭では施工図を描ければ図面は
即座に完成する。

それに残業手当は上限が決められていて、タダ働きをしていると少しでも心に
影を落とせば、夜、施工図を書く気分に私自身がなれなかったから…でもある。

それにしても現場は朝の8時前から朝礼準備の仕事が始まり、その時間は
早出の残業時間として計上されてもよさそうなものだが、昔からの慣習で
なんとなく見過してもいる。

「早朝から晩の遅くまで働き詰めのところに、サービス残業で図面なんか
書ける訳ない」
と自己主張出来る人はサッサとこの業界から去って行く。

 昔の昔は―――、

現場近くに寝泊りと飯の食えるところがあり、事務所と言わずに『飯場』と
言っていた。
私も駆け出しの頃は《飯場暮らし》であったから、夜はナイターを聞きながら
寝る寸前まで図面を書かされていた。

しかし、事務所の片隅では上司と親方達は一升瓶を横に置いて麻雀をしていて、
製図中の私は背中に視線を感じていた。

(ナイター放送は終わったし……麻雀が終わるまで……質問は出来ないし……)

鉛筆の線一本にも神経を使って、なるべく消しゴムを使わないように、図面は
汚さないようにと書いているのに、麻雀の途中でチラッと図面を見に来て、

これじゃ駄目だ!こうなるンだよ…」

と手短に教えてくれるけれども、一気に赤鉛筆で修正スケッチを書き込まれる。

「ウワッ!」
と何度も言うが、
「別用紙に書いて下さい」
とも頼めずに、その一枚は最初から書き直しである。

イジメではなくて、間違った部分を消して書き直せば汚い図面になるから、
(新しい用紙に最初から書き直した方がよい)
と理解するには数年を要したものだった。

一度考えながら書いたものであるから赤鉛筆で記入される直前迄に戻す時間
は、さほどかからないし、教えてもらった内容は頭にしっかり入り相当な
自信が
得られたものだった。

そのようななごりが残っていれば、今でも若手に施工図を書かせて、仕事を
覚える手段に出来るのだが、先に述べたように現在の建設現場の状況では
望む
べくもなかろう。

さて・・・。
施工図は若手に書かせる、外注は極力避けるという状況を十分に知っている
私が《施工図屋》として看板を掲げていて7年は過ぎているが、ゼネコンを
巡って色々と思う事がある。

施工業者であり、現場監督であるはずの人でも、施工図の認識力が著しく低い。
ハッキリ言えば、ゼネコンのマークのヘルメットを被って場内を散歩してい
るだけである。

私の駆け出し時代の技術力程度で、職人さんを指図しているようである。 
設計図を見て、どのような手順で創るのか施工図を書く事も出来ないと思える
若手現場マンが多くて、自分なりに施工図を書いてみようと思っていない。

否、施工図を《書かない》のでなくて、施工図が《書けない》現場マンが増え
たのである。

建築バブル時代には、施工図を外注に書かせて、忙しさを短縮したつもりで
あった人達が、製図台の前に座らないまま、施工図は眺めればいいのだ……
との
まま監督になったのである。
それに時代は手書きから一気にCAD図になったのであるから、パソコンが
苦手な人はますます施工図を書く機会が失われたのである。

「施工図屋ですが・・・」 
私のこの一言で、お邪魔虫扱いの返事が戻って来ると 

 《施工図屋2》 へ続く

 

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赤字の予算書(2) 

2017-02-02 14:36:40 | 建設現場

さて、私の現場に話を戻しましょう。

予算書が工務部門から届いたので、さっと中身を見た。
「なんてこった…」
血も涙も無く協力業者の首を絞めて、厳しい予算から更に儲けを出せば、
出世の道も簡単であるが私には出来っこない。

当然、現場マンの配属も大幅削減であり、忙しい数ヶ月は応援者があるとい
うものの、増員者がその時期に丁度当てはまるとのアテは全く出来ないも
のだ。

それよりも、
「若手は今、誰も空いていないし……」
とこちらが忙しい時期になったら、絶対言うに決まっている。

こうなれば私はスーパーマンになるしかないのだ。

配属人員の削減が決まっている以上、総ては私がする。
予算書の細部見直し、経費及び無駄の削除、飲み会は赤ノレン、施工図は
自分で作図、土日も出勤・・・。

人に頼らず、総てを一人でやるしかない。
「そんなに全部は出来ない」
とやる前から言う人もいるが、出来ないのではなくて
「やらないのだ」
と私は言い返し、私はスーパーマンに変身するのだ。 

そして、予算が厳しい内容を十分認識した上で、協力業者を一同に集める
「これが、今度の予算書だ、アンタ達に金額は見せられないものだけど、
オープンだ!」
と上司が聞いたら心臓が飛び出るかもしれないが、契約予定金額が赤色で書
いてあるがままを曝(さら)け出した時が、私の契約交渉のスタートである。

「今までの俺のやり方でこの現場もやる。俺のやり方では赤字を解消出来な
い金額かも知れないが、前の現場のメンバー(職長)が揃えば、ロスなく
やっていけるから、どうだ!」
と見積り金額よりも、もう契約金額を前提とした話である。
つまり、前の現場で竣工時の雰囲気から、メンバーから抜ける職長はいない
との自負である。

予算オーバーの契約話では、購買部としても後廻し仕事にしたいものだ。

しかし、協力業者の社長さんが丸秘の契約上限額のすれすれで見積り書を持
って、支店購買部と契約交渉をするのだから、締結するのに時間はかから
ない。

即決出来れば、当月の出来高の請求は入金可能にもなるし、赤字の現場予想
があれば誰も行きたがらないものだが、社長と職長はもう話が付いていて、
不安はあるものの、
「所長、今契約を決めてもらいました。T君を職長で行かせるよ。よろしく」
と赤字でありながら心配はしていないような声で、下請契約締結を知らせて
くれた。

厳しい仕事をして行かねばならない現場に向かう時こそ、所長にどれだけの
業種が無理を聞いてくれるのか、所長にどれだけ人が付いて来るのかで、
工事の進み方も違って来るし、儲け具合いにも開きが現れる。

それは所長と協力業者及び職長とのつながりによるだろうが、つながりの基をつきつめれば
《所長の徳》である。

現場所長の徳とは、
「施主への建築物に対して技術と信用を第一にして、職人と使う材料に迄も
愛情があって初めて徳の芽が出るし、儲けも出る……」
と私はいつも思っている。

         《赤字の予算書  完》

 

 

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