……………………(型枠工事の話 その1)…………
昔、駆け出し時代の型枠工事の話を思い出した。
「おい、お前、『型枠検査』はやったのか?」
「(なヌっ?型枠の検査だと…)」
そんな検査がある事すら知らずに、大工さんや鉄筋工のオッサンに追いまわされている時代だから、
(そのような《検査》なんてやってられっかよ)
と文句も言い出せない。
「どうやって検査するのですか?」
「やり方も知らんのか、それで一級建築士か!」
(一級建築士受験不合格のハラいせかよ!)
私は大卒3年目で一級建築士になれたものの、現場仕事は先輩の実力(経験)には太刀打ち出来っこないのは、言わずもがなである。
「型枠を検査する」と言うのは柱の大きさや梁・壁の大きさを間違えずに型枠大工がこしらえているか、スケールを当てて実測し、更に設計値と実測値を工事用黒板に列記して撮影し……と先輩から丁寧な説明が聞こえて来た。
しかし、まったくやる気が無いと言うか、話は途中から耳を素通りしてしまった。
「ワカったな!」
「いいえ」
とも答えられないし、更に検査目的を尋ねる気力も無い。思っている事は、
(今になって型枠の寸法を測って、仮に5㍉短かったらどうするの?)
である。
大工さんが寸法の間違いをしていたら直すのは当然であろうが、施工図を見ながら数日を要して型枠を組み上げてあり、コンクリートの打設日はもう目の前である。
何㍉違っていれば組み上がった型枠を解体して、作り直しを指示しろと言うのだろうか?
この職人さん達は、このオッサン達の腕はそんなに下手なのかい?
設計事務所の先生方がコンクリート打設前日に『配筋検査』に来られた。
型枠を見ながらも、梁の中を覗いて鉄筋の太さや数量を数えている。
鉄筋が所狭しと並んでいて型枠にくっ付きそうになっている所を見ては、
「型枠を拡げられないの?」
「お前、何を検査しとったんヤ!」
と先輩に怒鳴られても、反論をしてはならない。
「型枠は寸法通りですよー(検査しましたからネ)」
とでも言えば、大きくシナっている鉄筋を真っ直ぐにするしかないが、それは不可能に近い。
例えば梁の場合、鉄筋はX方向から必要本数と間隔を確認しながら組み始めるものの、鉄筋間隔が狭いと当然やり直しを命ぜられるから、鉄筋の間隔がどうしても少しずつ広がって行くのは無理からぬ事なのだし、それにY方向からも鉄筋があるのだ。
1列に5本並べる場合に一本毎の間隔が5㍉広がっていれば20㍉拡がる計算だが、梁の大きさ(幅)は設計図の通りであるから、型枠まで鉄筋が押し寄せてしまうように見えるのだ。
いまさら、何が出来るのよ……。
大手ゼネコンと言えども職人さんの良し悪し次第で、建物の品質は決まるのである。
《型枠工事の話2へ》続く