建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

雨の中コン打設

2022-09-19 12:59:20 | 建設現場 安全

五月 十一日(木) 雨

 天気予報通りの雨だ。七時前には現場に着いていたが、雨の状況はさして変化が無い。
生コンのプラントより早速電話が入った。


「今日、この雨でも打ちますか?」
雨が降ったらコンクリート打設中止とは言ってないが、職人さん達が出て来ない場合が
多いので、至急連絡を取り合う必要がある。

連絡待ちにしてて下さい。現場は打つ予定です。7時半迄には連絡しますから・・・」

次はポンプ業者へ電話を入れた。
「ポンプ車出ていますか?」
「ハイ、もう着く頃です………が今日どうされます?・・・」
と言っているうちに、ポンプ車が到着し、土工もマイクロバスでやって来た。

うっとおしい雨を見つめて、
「所長、どうしますか?」
「打てない事はないだろう、昨日夕方に型枠も鉄筋も洗ったし、今は雨が撒水(さんすい)
の変わりをしてく
れてるンだし―――」
「それなら着替えようか・・・」

しかし、大事な基礎のコンクリート打設が雨降りの中だと、それ以後でも『重要な
コンクリ
ート打ちには必ず雨にたたられる』というイヤなジンクスめいたものがある。

 信じたくは無いが出足が雨だったから……と何の根拠も無いのに悪い結果が生じると、
これ
に結び付けたくなるのも実情だ。

全くこの雨は気分を暗くさせてくれるものだ。
別に大雨注意報は出てないし、午後は小降り(曇りとは言ってない)で15時以降も、
60%の降水確率と言っているだけだ。
打設終了近くになって突然の夕立で雨に濡れた事もあった
けれど、朝からの雨とは
何年振りの経験だろうか?

 刑務所の外塀(高さ4m延1000m)を50回以上に分割して打った時でさえ、雨で
順延は
無かったのに………それに、床の直押さえを必要とし、雨天順延を覚悟した
前回のマンションで
も雨は降らなかった。
 決して『雨男ではない』と強い信念を持っていたのに今回、この現場の出
来事は
一体・・・この現場に未来はあるのか―――。

 とまれ、せっかくここ迄
『コンクリート打設』というメインテーマに職人達が
頑張ったのだ
から、特に大工さんはとっかかりから5月11日が基礎のコンクリート
打ちだと念を押して、
残業までして頑張ったのだから、雨だからと言って延ばす
理由には当てはまらない。

(基礎なのだ。雨がかかる部分は僅かだ・・・ブルーシートで打設後に養生をすれば
いいじゃな
いか、何をためらう事があるのか・・・)

 と自問自答し、通勤中でも
『打つんだ!』
という気構えで来たのだから、ここで曲げられ
か!!フッ切るンだ、迷いなんかフッ切れ
ば済むんだ―――
 雨は止まないかも知れないけれど私
の方針でこの場を凌(しの)ごう。
 
 腹をくくって、おもむろに生コンプラントに電話した。

「予定通りに今から打ちます。今日他の現場はどうですか?」
と聞いたら、半分はすでに打っているそうだ。

「明日にズレると生コン打ちが集中して、生コンの廻り(生コン配達)が悪いよ、
今日ならど
んどん出せるヨ」

と俄然(がぜん)やる気を起こさせてくれる話となり、8時25分に打設開始決定となった。

 以前の降雨時にシート養生してあったままの掘削面の山崩れしそうな所を点検した
けれど、
今の雨ならまだ大丈夫の様だった。

 10時30分、今も雨は降っている。そろそろ昼食時間を調整しようとしていた所へ、
「所長、昼飯抜きで打たして下さい。二時には終わるよこのペースなら。そして
早く帰って風
呂へ入って一杯・・・」

「OK、プラントへ連絡する」

 プラントも今日はもう忙しくはなくて、早く終わらんが(私の所が最後の)為にも、
「現場さんに合わせます」
と色よい返事だった。

皆カッパを着て多少動きにくそうではあるが、昼飯時間を濡れたままで過ごすより、
一気に
仕事を片付けたいという気持ちは全員にあった。

雨降りに仕事をした時、服を乾かす事を想定してストーブを用意してたのが役立った。
(仲間が濡れながら仕事をしているのに、自分だけ暖まれないヨ)
という意地を見せてはいた
が、ラスト10㎥のあたりからストーブに集まって来る様に
なった。

  皮肉なもので打設完了近くになって雨は上がっている。
 打設数量は丁度200㎥。打設時間6時間弱。時間当たり33㎥打設。

「御苦労さん、お疲れさま。これで一杯やってよ、俺の気持ちだから・・・」
と言って酒(一升瓶)を渡した。
本当に今日は御苦労様でした。皆!アリガトウ!

 

コメント
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