建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

竣工前15日になって

2023-11-06 07:54:51 | 建設現場 安全

 八月三十一日(木) 晴れ  

暑い8月も終わった。
Kビルの進捗状況は、出来高予想34%に対して36%だ。
設備の工場製作物工事を入れていない、実質に現場で取り付けてあるだけの数字だ。

サッシュも9割程度搬入はしているけれど、取り付けてある所迄の実質出来高分だ。
Kビルの今月はコンクリート打設二度、お盆休み、躯体完了だったし、M店舗はケツに火が
点いた状況になり忙しかったが、缶ビールを飲みながらでもよく頑張ったものだ。

 何本、何ケースビールを飲んだだろうか。
アルミ缶は近隣が目的を持って回収されているから、今までの様に場内が空き缶でゴロゴロ
という風景はあまり感じられない。

 現場内一斉の片付け時には空き缶も回収して近隣自治会迄、順次届けていたので、場内はお
蔭様で『クズ箱の山』はまぬがれた。

―――『捨てればゴミ、生かせば資源』『場内清潔、近隣円満』だ。

朝一番に稲田建築部長から電話だった。
取り次いだN子のニュアンスだと、
(どうも機嫌が悪そうだった)と言う。

「どこへ行った?現場にいるのか?すぐに電話させて・・・いいね!」と言って、
『一方的にガチャンと切られたわ』との事だ。

N子は私の所で三つ目の現場だし、一応店内各課からの電話の対応も合格だから、私が例え
留守(M店舗、喫茶店、設計事務所等)へ出かけていても、それなりの受け答えは出来る。

だから私も(何だろう……)とついつい《構えた心》で頭の中を整理してみた。

書類か、呼出しか、本社でも急に来るのか―――。
藤本工事部長を通り越して直接に私という事は、私のチョンボがバレた時………。
チョンボの心当たりは別にないし、安全パトロールもAだったし……何だろうねエ?―――と
N子と心当たりを話あっていた。。

(まさかシート看板降ろせってことはネ・・・)
コーヒーでも飲んで電話しよう。

「稲田部長は電話中ですけど・・・」
店内の女性の取り次ぎがマズくて、そしてその内二~三電話が私にもあり、私も現場巡視に
出廻って行き―――。  

忘れかかっていた頃の昼食時間の直前に、
「何で電話せん!!」と来た。

「済みません……(何だろう?)・・・」
M店舗、間に合うのか!H設計事務所から電話が来るし、Aオーナーからも念を押されてい
る。大事な客だから問題の起こらない監理をしろヨ……いいナ・・・!」
「(ムッ!)・・・」                       

どうも、オーナーの《間に合いそうにもない》との予想から、直接支店の工事課と営業サイ
ドへ電話が入った様だ。

 現場を見てない人の所へお得意様から電話が入るのも問題だが、オーナーとしては、私より
も「会社へ一言忠告し、念押ししておこう」と思うのが普通だろう。

 まあ、私とは付き合いが無いので当然の事ではあろうし、オーナーは起工式に一度お会いし
たきりで、以前からのお付き合いは店内だから、店内に気安く電話を入れただけの事だ。

『そもそも、8月末日が本来の工期だって事すら忘れているのではないか。9月はおまけで付
けて上げていると言うのにそれさえ危ないとは何事だ!』
オーナーの心の声が聞こえそうだ。

(後15日間ですが、雨がなければ何とかなりそうです)
と他人事の様に部長へ答える訳にも行かず、困ったものだった。

 官庁検査日数の全てを一時に纏(まと)められないので、最低二日間必要だ。
まだ浄化槽は埋まっていないし、足代解体も一部残っている。
花壇なんてこの際、頭のスミにさえもなくなっている。

 間に合うのかと聞かれるよりも、間に合わせろ!とハッパをかけて、叱ってもらった方が、
『男気がある』ってもんだ。

そもそも、ここの現場の協力業者の指定は……言ってみたって始まらない。 
それを使いこなせなかった私の《フォール負け》とは言わさない。
ワン、ツウまで待ってスリーで跳(は)ね退(の)けてみせるつもりだが、今からがスリー
カウント目に入る所だ。
数えられたら負けだ。
レフリーをケ飛ばしてでも《リングアウト勝ち》に持ち込んでやるからね。
おめおめと負けてはいられない。

 今日も昼からはM店舗へ行く。私も『片付け人・その1』だ。
車の出入りの誘導、職人の呼び出し、通行止めのロープ貼り、隣家への挨拶―――
私は一体『何様なんだ……』と思う。
 はっきりその時は思う暇も無いのだが、アレコレと動き廻らざるを得ない時間だ。

 Kビルで所長風を吹かしている方がよっぽど精神的には楽だ。
どうしてこうなったんだとの後悔、グチは言わずにやり通してみせる。
15日の契約工期日には絶対に引き渡して見せる。
引き渡しが出来なければこの首の一つでも差し上げましょうかネ。

見通しは今のところ全くの《五分五分》だけれどね。
それにしても現場の状況を視察しての直言であって欲しかったなあ・・・・

コメント
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