港町のカフェテリア 『Sentimiento-Cinema』


献立は…  
シネマ・ポップス…ときどきイラスト

『突然炎のごとく』 旅の友・シネマ編 (18) 

2018-09-03 15:18:38 | 旅の友・シネマ編



『突然炎のごとく』 Jules et Jim (仏)
1961年制作、1964年公開 配給:ヘラルド モノクロ
監督 フランソワ・トリュフォー
脚本 フランソワ・トリュフォー、ジャン・グリュオー
撮影 ラウール・クタール
音楽 ジョルジュ・ドルリュー
"原作  アンリ・ピエール・ロシェ 「ジュールとジム」"
主演 カトリーヌ … ジャンヌ・モロー
    ジュール … オスカー・ウェルナー
    ジム … アンリ・セール
    テレーズ … マリー・デュボワ
    ジルベルト … ヴァナ・ユルビノ
    サビーヌ … サビーヌ・オードパン
    アルベール … ボリス・バシアク
主題歌 『つむじ風』 ( Le Tourbillon ) 唄・ジャンヌ・モロー



オーストリアの青年ジュールとフランスの青年ジムは文学を通じて無二の親友であるが、ある日カトリーヌという女性に出会い
同時に恋に落ちてしまう。そのカトリーヌは男装して街に繰り出したり、突然セーヌ川に飛び込だりするなど自由奔放な性格で
あった。積極的なジュールはカトリーヌに求婚してパリのアパートで同棲を始めた。そんな時、第一次世界大戦が始まり二人の
青年も敵味方に分かれてそれぞれの祖国のために戦うことになった。やがて戦争は終わり月日も流れた。ある日、ジムは
ライン河の片田舎に住んでいるジュールからの招待を受けた。ジュールとカトリーヌの間は冷えており、ジュールからジムと
カトリーヌが結婚して三人で暮らそうと提案される。こうして、三人の奇妙な共同生活が始まったがカトリーヌにはギター弾きの
愛人が他にいたことでそんな不安定な関係も崩れてしまった。ジムは彼女に絶望してパリへ帰っていった。その数か月後、
三人は映画館で再会した。映画を観終わった後、カトリーヌはジムを車に同乗させ、ジュールに微笑みながら「私たちをよく見て」
と言い残すと壊れた橋に向かってアクセルを踏み車を川に転落させた。二人を荼毘に付したジュールは心静かにカトリーヌの
思い出を胸に刻み込む。



アンリ・P・ロシェの小説をもとに、二人の青年と一人の女性との愛の心情を繊細に形象化したトリュフォーの最高傑作です。
トリュフォーはこの原作を古本屋で手に入れて以来すっかり陶酔してしまい、「私が映画監督になりたかったのはこれを
映画化したいためだ」と言わしめた小説です。トリュフォーは映画化にあたり、原作の文体が損なわれるのを避けるために
細心の注意をはらい、原作を損なわぬようにナレーションを多用して心酔した書物への最大の敬意を示しています。
トリュフォーは「私の人生の歯車は、書物を映画にし、映画を書物にすることで回転してきた」と語っているように、文学を
映画化したというよりもカメラという万年筆で文学を書き上げており、これこそがヌーヴェルヴァークの目指していた映像
芸術の集大成でもあると評価されています。



また、これまでに培ってきたヌーヴェルヴァークのカメラワーク手法をふんだんに取り入れていて、みんなで自転車を走らす
シーンの瑞々しい疾走感もさることながら、カトリーヌがセーヌ川に転落するシーンでは三方からのアングルで撮った映像に
見事な編集を施してさらに強い印象を焼き付けています。
トリュフォーは愛に傷ついたナイーヴな心を繊細な誠実さで形象化できる名人で、彼の作品はつねに自身の心をも深く
投影しており、魔性で自由奔放なカトリーヌによって繰り広げられる奇妙な三角関係も、喜びや哀しみはあっても嫉妬や
憎しみがなく、従来の三角関係とは違う愛の表現もトリュフォー自身の人間味なのかもしれません。



ヌーヴェルヴァーク・カイエ派の両巨頭、トリュフォーとゴダールは何かにつけて対比されていますが、常に観客を考慮に
入れて映画をつくる映画小説家のトリュフォーと、観客などまったく考慮に入れずにエッセイのように映画をつくるゴダール。
この頃の二人は蜜月関係にあり、お互いに自分の作品の中にこっそりと相手の作品のPRを挟み込んだりしていましたが
ヌーヴェルヴァークの衰退とともにやがて険悪な関係になってしまいました。カイエ派の同志として固い絆で結ばれていた
はずなのですが、お互いに理想とする映画理論はあまりにも違っていたようです。





この作品の主題歌『つむじ風』はフランソワ・パシアクの作詞、ジョルジュ・ドルリューの作曲によるもので、「二人は知り合い、
離れ離れになり、再びめぐり逢い、そして別れる」と、渦まく人生の一片を淡々と唄うジャンヌ・モローが印象的でした。
映画では山荘でカトリーヌがパシアクのギター伴奏にのって唄っています。

『つむじ風』サウンドトラック 【YOUTUBE】より