更新頻度が低いことの言い訳のようだけど・・・っていうか、モロ言い訳だけど、ブログ製作は私の本業ではない。
ま、そうは言っても、ある種、仕事のようなもの。
そしてまた、仕事外の務めのような、趣味のような、息抜きのような、気分転換のような、そんな感じのものである。
しかし、昔の筆圧はどこへやら、今は、気の向くまま時間がゆるす範囲でやっている。
ただ、筆圧は低下しても、現場へ向かう意気に低下はない。
一件一件、仕事になりそうでもならなそうでも、とにかく走る。
そして、色々な状況で、色々な人と出会い、関わる。
正直なところ、気持ちよく仕事ができない人や不快な人がいることも事実。
だけど、大半の人は良識をもって普通に仕事をさせてくれる。
接してて気持ちがいい人、話してて楽しい人、見てて愉快な人、生き様に頭が下がる人、走った先には色んな人がいてなかなか面白い。
私は、口下手で人付き合いが苦手な孤独好きだけど、楽しくない仕事をしているからこそ人との関わりを面白く感じるのかもしれない。
低下したのはブログの更新頻度ばかりではない。
ダイエット習慣のお陰か、節操のなかった食欲も少しは下がっている。
また、週休肝二日も二年を経過し、以前に比べれば酒欲も下がっていると思う。
ま、それでも、私は酒が好き。
飲む量は減ってきてはいるけど、好きであることに変わりはない。
ウイスキーとビールは常備(大好物の“にごり酒”は何年も前にやめた)。
たまに日本酒・ワイン・ブランデー・焼酎などをもらうことがあるが、頂き物がある場合はそれも飲む。
「酒が飲めるなんて幸せなことだなぁ・・・」としみじみ噛みしめながら。
自分の酒癖は、悪いほうではないと思っている(若い頃の暴飲・泥酔は例外として)。
酔って不機嫌になるタイプではないと自負しているけど、性格が性格だけに暗い酒になりがち。
それは、酒を欲しているのが、舌なのか胃なのか、それとも心なのかによって変わってくる。
その暗さがいいのか悪いのか、酔って気持ちが大きくなることはあるけど、あまり態度には表れない。
その分、気分よく抜けるアルコールは少なく、時には少量でも翌日に響く。
そして、翌日の不快感や二日酔は、自分の学習能力の低さを身をもって教えてくれる。
治る時間と直すチャンスを与えながら。
遺品処理の依頼が入った。
依頼者は、中年の女性で、現場は女性の両親が住んでいた部屋。
前の年に母親が亡くなり、そして、この年に入って残った父親も亡くなったため退去することになったよう。
客向けの作り声と軽快な口調に、私のことを“若僧”と勘違いしたのか、女性の口のきき方はかなり乱暴。
命令口調ではないもののタメ口で、親を亡くしたことによる悲しげな素振りは一切なし。
“こういうタイプ、苦手なんだよな・・・”
私は、そう思いながらも、仕事と割り切ってできるかぎり愛想よく受け答えた。
現地調査の日。
出向いたのは公営団地の一室。
私は、約束の時刻の数分前に玄関前に行き、インターフォンを押した。
しかし、中から反応はなし。人がいる気配もない。
約束の時刻はもうじき。
車に戻るのが面倒だった私は、そのまま玄関前で待つことに。
そうして外の景色を眺めながらボーッとしていると、依頼者の女性は、約束の時刻ピッタリに現れた。
「待たせてゴメンね~」
と、大きな声で近づいてくる女性に
「とんでもないです・・・約束の時間ピッタリですから・・・」
と応えながら、
“妙に明るい人だな”
“遅れたわけでもないのに謝るなんて、ひょっとしていい人?”
と、私は、気を緩ませながら女性に向かって頭を下げた。
しかし、緩ませた気を、すぐさま身に覚えのあるニオイが覆った。
それは、アルコール臭。
女性から、酒の臭いがプンプンしてきたのだ。
“この人、酒飲んでるな・・・”
昼間から酒のニオイをさせてきた女性に、私は、少し驚いた。
そして、気持ちが引いた。
が、そこは仕事。
女性の気分を害さないように、これまた、できるかぎり愛想よく振舞った。
女性が酒に酔っていることは明らかだった。
よく観察すると足元はフラつき、呂律(ろれつ)もうまく回っていない。
“アル中か?”
そんな風に思わせるくらいだった。
また、電話口と同様、口も悪かった。
普段からそういうキャラなのか、酔いがそうさせているのか、芝居にでてきそうなくらいの“べらんめえ口調”。
人を浅はかな観点で軽率に判断する癖のある私は、抱きかけた女性の好印象をアッサリと捨て、元の悪印象を抱きなおした。
遺品処理は引越しに近い作業。
普通の引越に比べれば荷物の取り扱いはかなり雑だけど、基本的な作業は似たようなもので、部屋から運び出す前に、荷造・梱包が必要。
それと同時に、貴重品や必要品のチェックを行う。
そうした下準備をしたうえで、部屋から運び出す。
荷造梱包と撤去搬出を同日に行うケースもあるけど、費用と時間がゆるせば、複数日に渡って行う。
貴重品のチェックや取捨選択をキチンと行うために。
女性も、ろくに荷物をチェックしていなかったし時間にも余裕があったため、作業は複数日に渡って行うことにした。
荷造梱包の日。
この日も女性は、時間ピッタリに現れた。
時間は正確だったが、やはり、足元はフラフラと千鳥足。
そして、前回同様、酒のニオイがプンプン。
“妙なことが起こらなければいいけどな・・・”
私は、警戒レベルを上げて女性とともに室内に入った。
「何か手伝うことない?」
「いえ・・・大丈夫です・・・“やり方”がありますから」
「そぉ・・・どうせガラクタしかないだろうから、遠慮なくやっちゃって!」
「わかりました・・・」
「私、どうしてればいい?」
「えーっと・・・家具家電は運び出しの日までそのままにしておきますので、テレビでも観ながら楽にしてて下さい」
「“楽に”って言われてもねぇ・・・なんか落ち着かないなぁ・・・」
「スイマセン・・・ただ、貴重品が出てくるかもしれないから、ここにはいてもらいたいんですよ」
「貴重品ねぇ・・・そんなもんないと思うけどねぇ・・・でも、ヘソクリくらいあるかも?」
「そうですよ」
「いいこと考えた!御宝がでてきたら二人で山分けしようか!」
「それいいですね!そうしましょう!そうしましょう!」
と、フツーなら冗談に聞くはずの話を本気で言ってる風な女性に、私は、愉快な感情を抱いた。
同時に、女性の屈託のない性格を垣間見た私は、“悪気はない”と分析し、上げていた警戒レベルを中くらいまで下げた。
「やることないから、飲んじゃっていいかなぁ・・・」
「どうぞ!どうぞ!退屈でしょうから遠慮なくやって下さい」
「ごめんねぇ・・・人が仕事してる傍で・・・」
「いえいえ、私も酒好きですから、気持ちはわかりますよ」
「そおなんだぁ・・・だったら、尚更、悪い気がするなぁ・・・」
「大丈夫ですから、気にしないで下さい」
「いっそのこと、一緒に飲んじゃう?」
「いやいや!そりゃマズイです!仕事中だし車だし・・・」
「そりゃそっかぁ~!」
「そりゃそうです!」
と、これまた冗談みたいな本気の話に、私は笑って応えた。
そして、警戒レベルをかなり低いところまで下げた。
結局、女性は、私に申し訳なさそうにしながらも台所の椅子に座り、冷蔵庫から缶チューハイだして飲み始めた。
始めは遠慮がちに缶チューハイをグラスに入れ換え、空缶は私の視界に留まらないようそそくさとゴミ箱に捨てていた。
2~3本飲んだところでエンジンがかかってきたのか、次は冷蔵庫からワインをとりだして機嫌よく飲み始めた。
しかし、飲み過ぎは身体に毒。
その昔、暴飲暴食が祟って肝臓を悪くしたことがある私は、女性の身体が少し心配になった。
が、せっかくの和やかな雰囲気に野暮な水を差すのはやめておいた。
内向的な私は、言葉数の少ない人より話し好きの人のほうが一緒にいて楽。
女性は私の一返事に対して二も三も返してくるような人で、会話が途切れることはなく、私は作業の手を動かしながら女性の話し相手をし、女性の話し相手をしながら作業の手を動かした。
そんな女性を、“無神経な人”“礼儀知らずな人”と思うのが普通なのかもしれなかったけど、何故か、私にそんな不快な思いは涌いてこなかった。
何がそうさせたのか・・・自分でもよくわからなかったけど、死に関わる現場にあっても雰囲気は煮詰まらず、気分を楽にしていられた。
遺品の中からは写真がたくさんでてきた。
それは、棚の一箇所に丁寧にしまってあった。
「写真はどうしますか?」
「ゴミ!ゴミ!全部ゴミ!」
と、女性は少しうっとおしそうに返事。
しかし、すぐに思い直したようで、
「でも・・・一応、見とくか・・・」
と、私の手から、何冊ものアルバムを受け取った。
「ヤバイ!若い!笑える!」
女性は、アルバムのページをめくりながら、またグラスを傾けながら楽しそうに一人笑い始めた。
古い写真に、懐かしい想い出が次々と甦ったのだろう、女性の笑い声は、感嘆の声とともにしばらく部屋の中に響いた。
そうしてしばし、多弁だった女性は次第に無口に。
「これ・・・一応、とっとくか・・・いらなくなったら自分でゴミに出せるしね・・・」
と、静かに声を落とした。
そして、
「お袋も親父も、こんなに早く死にやがって・・・」
「後始末しなきゃいけないこっちの身にもなってみろ・・・」
と、写真に向かって悪態をついた。
ただ、そこには、それまでのような威勢のよさはなく力ない悲哀だけが漂い、切なさを誘うものだった。
女性は、涙を酒にかえて飲んでいたのかもしれない・・・
私は、悪態の裏に女性の悲哀が、悲哀の底に女性の優しさがあったような気がした。
そして、それが女性の人間味を心よいものにしているのだろうと思い、自分のやった仕事に酔ったのだった。
公開コメント版
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ま、そうは言っても、ある種、仕事のようなもの。
そしてまた、仕事外の務めのような、趣味のような、息抜きのような、気分転換のような、そんな感じのものである。
しかし、昔の筆圧はどこへやら、今は、気の向くまま時間がゆるす範囲でやっている。
ただ、筆圧は低下しても、現場へ向かう意気に低下はない。
一件一件、仕事になりそうでもならなそうでも、とにかく走る。
そして、色々な状況で、色々な人と出会い、関わる。
正直なところ、気持ちよく仕事ができない人や不快な人がいることも事実。
だけど、大半の人は良識をもって普通に仕事をさせてくれる。
接してて気持ちがいい人、話してて楽しい人、見てて愉快な人、生き様に頭が下がる人、走った先には色んな人がいてなかなか面白い。
私は、口下手で人付き合いが苦手な孤独好きだけど、楽しくない仕事をしているからこそ人との関わりを面白く感じるのかもしれない。
低下したのはブログの更新頻度ばかりではない。
ダイエット習慣のお陰か、節操のなかった食欲も少しは下がっている。
また、週休肝二日も二年を経過し、以前に比べれば酒欲も下がっていると思う。
ま、それでも、私は酒が好き。
飲む量は減ってきてはいるけど、好きであることに変わりはない。
ウイスキーとビールは常備(大好物の“にごり酒”は何年も前にやめた)。
たまに日本酒・ワイン・ブランデー・焼酎などをもらうことがあるが、頂き物がある場合はそれも飲む。
「酒が飲めるなんて幸せなことだなぁ・・・」としみじみ噛みしめながら。
自分の酒癖は、悪いほうではないと思っている(若い頃の暴飲・泥酔は例外として)。
酔って不機嫌になるタイプではないと自負しているけど、性格が性格だけに暗い酒になりがち。
それは、酒を欲しているのが、舌なのか胃なのか、それとも心なのかによって変わってくる。
その暗さがいいのか悪いのか、酔って気持ちが大きくなることはあるけど、あまり態度には表れない。
その分、気分よく抜けるアルコールは少なく、時には少量でも翌日に響く。
そして、翌日の不快感や二日酔は、自分の学習能力の低さを身をもって教えてくれる。
治る時間と直すチャンスを与えながら。
遺品処理の依頼が入った。
依頼者は、中年の女性で、現場は女性の両親が住んでいた部屋。
前の年に母親が亡くなり、そして、この年に入って残った父親も亡くなったため退去することになったよう。
客向けの作り声と軽快な口調に、私のことを“若僧”と勘違いしたのか、女性の口のきき方はかなり乱暴。
命令口調ではないもののタメ口で、親を亡くしたことによる悲しげな素振りは一切なし。
“こういうタイプ、苦手なんだよな・・・”
私は、そう思いながらも、仕事と割り切ってできるかぎり愛想よく受け答えた。
現地調査の日。
出向いたのは公営団地の一室。
私は、約束の時刻の数分前に玄関前に行き、インターフォンを押した。
しかし、中から反応はなし。人がいる気配もない。
約束の時刻はもうじき。
車に戻るのが面倒だった私は、そのまま玄関前で待つことに。
そうして外の景色を眺めながらボーッとしていると、依頼者の女性は、約束の時刻ピッタリに現れた。
「待たせてゴメンね~」
と、大きな声で近づいてくる女性に
「とんでもないです・・・約束の時間ピッタリですから・・・」
と応えながら、
“妙に明るい人だな”
“遅れたわけでもないのに謝るなんて、ひょっとしていい人?”
と、私は、気を緩ませながら女性に向かって頭を下げた。
しかし、緩ませた気を、すぐさま身に覚えのあるニオイが覆った。
それは、アルコール臭。
女性から、酒の臭いがプンプンしてきたのだ。
“この人、酒飲んでるな・・・”
昼間から酒のニオイをさせてきた女性に、私は、少し驚いた。
そして、気持ちが引いた。
が、そこは仕事。
女性の気分を害さないように、これまた、できるかぎり愛想よく振舞った。
女性が酒に酔っていることは明らかだった。
よく観察すると足元はフラつき、呂律(ろれつ)もうまく回っていない。
“アル中か?”
そんな風に思わせるくらいだった。
また、電話口と同様、口も悪かった。
普段からそういうキャラなのか、酔いがそうさせているのか、芝居にでてきそうなくらいの“べらんめえ口調”。
人を浅はかな観点で軽率に判断する癖のある私は、抱きかけた女性の好印象をアッサリと捨て、元の悪印象を抱きなおした。
遺品処理は引越しに近い作業。
普通の引越に比べれば荷物の取り扱いはかなり雑だけど、基本的な作業は似たようなもので、部屋から運び出す前に、荷造・梱包が必要。
それと同時に、貴重品や必要品のチェックを行う。
そうした下準備をしたうえで、部屋から運び出す。
荷造梱包と撤去搬出を同日に行うケースもあるけど、費用と時間がゆるせば、複数日に渡って行う。
貴重品のチェックや取捨選択をキチンと行うために。
女性も、ろくに荷物をチェックしていなかったし時間にも余裕があったため、作業は複数日に渡って行うことにした。
荷造梱包の日。
この日も女性は、時間ピッタリに現れた。
時間は正確だったが、やはり、足元はフラフラと千鳥足。
そして、前回同様、酒のニオイがプンプン。
“妙なことが起こらなければいいけどな・・・”
私は、警戒レベルを上げて女性とともに室内に入った。
「何か手伝うことない?」
「いえ・・・大丈夫です・・・“やり方”がありますから」
「そぉ・・・どうせガラクタしかないだろうから、遠慮なくやっちゃって!」
「わかりました・・・」
「私、どうしてればいい?」
「えーっと・・・家具家電は運び出しの日までそのままにしておきますので、テレビでも観ながら楽にしてて下さい」
「“楽に”って言われてもねぇ・・・なんか落ち着かないなぁ・・・」
「スイマセン・・・ただ、貴重品が出てくるかもしれないから、ここにはいてもらいたいんですよ」
「貴重品ねぇ・・・そんなもんないと思うけどねぇ・・・でも、ヘソクリくらいあるかも?」
「そうですよ」
「いいこと考えた!御宝がでてきたら二人で山分けしようか!」
「それいいですね!そうしましょう!そうしましょう!」
と、フツーなら冗談に聞くはずの話を本気で言ってる風な女性に、私は、愉快な感情を抱いた。
同時に、女性の屈託のない性格を垣間見た私は、“悪気はない”と分析し、上げていた警戒レベルを中くらいまで下げた。
「やることないから、飲んじゃっていいかなぁ・・・」
「どうぞ!どうぞ!退屈でしょうから遠慮なくやって下さい」
「ごめんねぇ・・・人が仕事してる傍で・・・」
「いえいえ、私も酒好きですから、気持ちはわかりますよ」
「そおなんだぁ・・・だったら、尚更、悪い気がするなぁ・・・」
「大丈夫ですから、気にしないで下さい」
「いっそのこと、一緒に飲んじゃう?」
「いやいや!そりゃマズイです!仕事中だし車だし・・・」
「そりゃそっかぁ~!」
「そりゃそうです!」
と、これまた冗談みたいな本気の話に、私は笑って応えた。
そして、警戒レベルをかなり低いところまで下げた。
結局、女性は、私に申し訳なさそうにしながらも台所の椅子に座り、冷蔵庫から缶チューハイだして飲み始めた。
始めは遠慮がちに缶チューハイをグラスに入れ換え、空缶は私の視界に留まらないようそそくさとゴミ箱に捨てていた。
2~3本飲んだところでエンジンがかかってきたのか、次は冷蔵庫からワインをとりだして機嫌よく飲み始めた。
しかし、飲み過ぎは身体に毒。
その昔、暴飲暴食が祟って肝臓を悪くしたことがある私は、女性の身体が少し心配になった。
が、せっかくの和やかな雰囲気に野暮な水を差すのはやめておいた。
内向的な私は、言葉数の少ない人より話し好きの人のほうが一緒にいて楽。
女性は私の一返事に対して二も三も返してくるような人で、会話が途切れることはなく、私は作業の手を動かしながら女性の話し相手をし、女性の話し相手をしながら作業の手を動かした。
そんな女性を、“無神経な人”“礼儀知らずな人”と思うのが普通なのかもしれなかったけど、何故か、私にそんな不快な思いは涌いてこなかった。
何がそうさせたのか・・・自分でもよくわからなかったけど、死に関わる現場にあっても雰囲気は煮詰まらず、気分を楽にしていられた。
遺品の中からは写真がたくさんでてきた。
それは、棚の一箇所に丁寧にしまってあった。
「写真はどうしますか?」
「ゴミ!ゴミ!全部ゴミ!」
と、女性は少しうっとおしそうに返事。
しかし、すぐに思い直したようで、
「でも・・・一応、見とくか・・・」
と、私の手から、何冊ものアルバムを受け取った。
「ヤバイ!若い!笑える!」
女性は、アルバムのページをめくりながら、またグラスを傾けながら楽しそうに一人笑い始めた。
古い写真に、懐かしい想い出が次々と甦ったのだろう、女性の笑い声は、感嘆の声とともにしばらく部屋の中に響いた。
そうしてしばし、多弁だった女性は次第に無口に。
「これ・・・一応、とっとくか・・・いらなくなったら自分でゴミに出せるしね・・・」
と、静かに声を落とした。
そして、
「お袋も親父も、こんなに早く死にやがって・・・」
「後始末しなきゃいけないこっちの身にもなってみろ・・・」
と、写真に向かって悪態をついた。
ただ、そこには、それまでのような威勢のよさはなく力ない悲哀だけが漂い、切なさを誘うものだった。
女性は、涙を酒にかえて飲んでいたのかもしれない・・・
私は、悪態の裏に女性の悲哀が、悲哀の底に女性の優しさがあったような気がした。
そして、それが女性の人間味を心よいものにしているのだろうと思い、自分のやった仕事に酔ったのだった。
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