特殊清掃「戦う男たち」

自殺・孤独死・事故死・殺人・焼死・溺死・ 飛び込み・・・遺体処置から特殊清掃・撤去・遺品処理・整理まで施行する男たち

冬の花(前編)

2007-02-28 08:42:54 | Weblog
花って、その多くが暖かい季節に咲くのだろうが、暗く寒い冬にもきれいに咲く花もある。
歳を食ってくると、そんな些細なことにも気持ちが動くようになる。
それは、決して悪いことではなく、感性が豊かになっているものと自分では歓迎している。

もともと私は、花を愛でるような感性を持ち合わせている人間ではなかった。
「好きな花は?」
と尋かれても、
「桜・・・くらいかな」
と、中途半端に答えるのみ(桜って、花?樹?)。
現実主義と言うか、味気ないと言うか・・・子供の頃から、そんな情緒を育むことなく大人になった。

そんな具合いだから、誰かへのプレゼントならまだしも、お金を出して自分のために花を買うなんて価値観はとても理解できなかったし、街中にある花屋の存在も不思議に思えていた。
「花屋って、商売になるんだろうか」
「花を買う人なんか、そんなにいるもんじゃないだろ」
なんてね。

最近の葬式の傾向として、花だけで祭壇を作る「花祭壇」が増えている。
しかも、地味な白菊ばかりじゃなく、ひと昔前は葬式にはタブーとされていたようなカラフルな花も大胆に使われるようになってきている。
そんな花祭壇は見た目にきれいなだけでなく、色とりどりの花々が葬式の悲哀を和らげてくれるのかもしれない。

そして、葬式の最後には、その花々は遺族が想いを込めて柩に納める。
たくさんの花に埋もれていく遺体を見ていると、
「こんなに埋められちゃ、故人も苦笑いしてるかもな」
等と思って気持ちが微笑む。

特掃の依頼が入った。
依頼してきたのは、マンションのオーナー。
亡くなったのは、若い男性。
行年が若いとすぐに自殺を想像してしまう私だが、ここの故人は自然死だった。

この故人もまた、誰かに早めに気づいてもらえていれば、腐乱を免れたはず。
たったそれだけのきっかけが、その後を大きく変えてしまう。
人に感心されなくても、関心を持ってもらえるくらいの生き方は大切かもね。

「なかなかいい場所に建ってるな」
現場は、賑やかな街中に建つ、高級感のある建物だった。

依頼者は、現場とは別の階に自営のオフィスを構えていた。
私は、先にそこへ行き挨拶。
何の商売だか分からなかったけどお洒落なオフィスで、依頼者も品のある紳士だった。

依頼者によると、部屋は一通りの片付け・清掃が済んでいるらしかった。
ただ、ヒドイ悪臭が残っているとのこと。

私がただの掃除屋ではないことを話すと、感嘆の声をあげ、にわかに信じ難い様子。
「ただの掃除屋が、たまに特掃をやることがある」
くらいに思っていたらしい。
でも、実際はその逆。
「特掃屋が、たま~にただの掃除をやることがある」
と言うのが現実。

私の仕事に興味を覚えた依頼者は、この現場に関係ない質問を幾つもしてきた。
私はお喋りに来た訳ではないので、
「詳しい話は、まず現場を見てから」
と、話に花が咲く前に現場の鍵を借りてオフィスを出た。
そして、更に上階にある現場の部屋に向かった。

玄関ドアを開けると、毎度お馴染みの腐乱臭。
依頼者の許可を得ていたので、土足のまま上がり込んだ。

「片付け・清掃済み」
と言われる現場でも、実際はかなり中途半端な状態で放置されていることがほとんど。
しかし、この現場は依頼者の言葉通りに荷物も片付いており、見た目はきれいになっていた。

「なるほど・・・誰がやったのか知らないけど、なかなか上手に掃除できてるな」
ただ、部屋には市販の消臭芳香剤が数個置いてあり、片付け・清掃をやったのが素人であることは明らかだった。
また、残留している濃い腐乱臭が、片付く前の状態がかなり酷かったであろうことを想像させた。

私は、床・壁・天井をグルグルと見回した。
パッと見は特段の問題は見当たらず。
しかし、床の一部と隅に若干の汚染痕が残っているのを発見。
素人目には分からないかもしれないけど、私にはハッキリ分かった。

「これだな」
私は、床にしゃがみ込んでジックリ観察。
フローリングの木目には故人の一部が入り込んでおり、私の目はその面積を追った。

「かなり広がってるな」
汚染痕は結構な広がりをみせていた。
そして、腐敗液が床板の下まで浸透している可能性が大きいと判断。

「こりゃ、まずいパターンかもな・・・」
頭の中に、悪い状況が思い浮かんだ。

つづく





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奴隷

2007-02-26 15:16:40 | Weblog
「働けど働けど、なお我が暮らし楽にならざり、じっと汚手をみる」

「奴隷のように働かされてる」
とは言えないけど、こんなに働いていても何年も前から生活レベルは一向に上がらない私。
上がっていくのは年齢ばかり。
平均的に生きるとすれば、私の人生マラソンは折り返し地点にさしかかっている。
このまま向上心を持ち続けて攻めるか、諦めて守りに入るか、選択を迫られるつつあるデリケートな年頃だ。

日本もそうだが、ロシアや中国では所得格差の広がりが著しいらしい。
以前に比べて富裕層が増えているものの、それ以上に貧困層の増加が激しいとのこと。
お金が払えなければ、病気療養中の人でも病院から追い出されるような社会で、浮浪者は大人だけにとどまらず多くの浮浪児も発生。
見るに耐えない、聞くに耐えないニュースである。
そんな国の底辺では、それこそ奴隷のように酷使されている人も少なくないのだろう。

しかし、この状況を対岸の火事として済ませていていいはずはない。
日本の景気は長く回復基調にあるらしい。
しかし、その恩恵を受けているのは大企業だけと聞く。
多くの中小零細企業は、大企業の陰で陽の当たらない苦境を強いられているのではないだろうか。
「ワーキングプア」・「チープワーク」等といった言葉が一般化していることを一つとってみても、この社会のどこかがおかしくなってきている気がする。

私の仕事は、世の中の景気は直接的には関係しない。
ただ、一向に自殺者が減らない現実や、質素な暮らしを思わせる現場を多く目の当たりにすることから、好景気の陰で経済的問題を抱える人が増加しつつあることを感じざるを得ない。

今は、特掃の現場でも、
「お金がない」
と言う人(依頼者)が多くなってきた。
そういう事情は率直に伝えてもらった方が私もやりやすいのだが、昔は見栄を張ってでもそんなことを言う人は少なかったように思う。

金銭の事情は一朝一夕にどうこうなるものではないので、そんな時は利益がほとんどとれないギリギリの見積額を提示することがある。
それでも負担しきれない場合は、依頼者と仕事を分担して、労力をもって値引分とする。
特掃は、一般のハウスクリーニングとは一線を隔す仕事。
素人だけでやるには限界があるため、お金がかかっても要所には私のような者の関与が必要になるのだ。

私が死体業を始めたのは、20代前半(若かった!)。
年齢と対比させると、当時は、それなりに割(収入)のいい仕事だったように思う。
学生時代の友人の上を行っていた。
しかし、前述の通り年齢が上がるばかりで、収入はそれに追いついていない。
今は、友人達の下を行っている。
それでも、元気に働けて御飯が食べられることに感謝もしている私。

遺品の回収処分を頼まれた。
現場は、とある一軒家。
故人は病院で亡くなっており、依頼者(中年女性)は義理の娘・つまり息子の嫁だった。

「何もかも、きれいサッパリ捨てちゃって下さい」
故人が使っていた部屋だけは他の部屋とは違いモノとゴミが溢れて、いわゆるゴミ屋敷状態だった。
「なんで、この部屋だけこんなことになってんだ?」
その答はすぐに判明した。
嫁・姑の関係が極めて悪かったのだ。

依頼者(嫁)は、故人(姑)の悪口を言わせたらマシンガンのようで、私の仕事に支障をきたすくらい。
故人に対する欝憤が、相当たまっているようだった。

「婆さん(故人)は、私を何年も奴隷のようにしてきた」
「一人の人間として認めてくれなかった」
「何でも、自分の言う通りにさせた」
「そんな姑でも、私は献身的に面倒みた」
「その姿に、回りの人達も感心して褒めてくれた」

「死んでせいせいした」
と言わんばかりの態度で、とにかく故人の人格を否定し、生きていた形跡を消し去りたいみたいだった。

「まぁ、その家・その家で色んな事情があるからなぁ・・・口のない死人が相手じゃ、好きなことが言えるよな」
耳障りのよくない話を上の空で聞き流しながら、私は見積見分を進めた。

「姑の奴隷か・・・」

子供の奴隷になっている親。
会社の奴隷になっているビジネスマン。
彼女の奴隷になっている彼氏。
金の奴隷になっている私。

そんな乾いた人間模様が、今の社会を映し出す。



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空たかく

2007-02-24 09:39:14 | Weblog
今年の冬は暖冬と言われている。
確かに、その実感はある。
東京では、例年2~3回は積もる雪も、今だに降っていない。
空の高い晴天の日は、春を思わせるような日が多い。
地球温暖化・異常気象云々の難しい話は置いといて、単純にそんな陽気は気持ちいいものだ。

私にとって冬という季節は、肉体的には楽で精神的にはツラい季節。
ただ単に、「寒さが苦手」とか「夜の長さが気持ちを暗くさせる」と言うことだけではなく、何とも説明のつかない闇が心を支配してくるのだ。
そんな冬の日々の中で最もツラいのが明け方・早朝。
ただ単に、「眠い」とか「寒い」と言うことだけではなく、何とも言えない悲壮感に苛まれるのだ。

「このまま、夜が明けなければいいのに・・・」
「このまま、目が覚めなくてもいいかもな・・・」

それでも、布団から出たがらない気持ちを無視して、身体だけは這うように起き上がらせる。

そんな私には、
「○○したくない」
「○○になりたくない」
等と言う負の欲とは逆に、
「○○したい」
「○○になりたい」
等と言う正の欲もある。

食欲・情欲・金銭欲・物欲・名誉欲・自己顕示欲etc
キリがないくらいに色んな欲がある。

腹が減れば何か食べたくなる。
どうせ食べるなら美味しいものがいい。
お金は1円より100円、100より1000円、1000円より10000円。
愛のある1円より、愛のない10000円を好む。
他人のことはけなしてばかりだけど、やたらと自分は褒めてもらいたがる。
見栄を張ってまで、善人を装う。
人間の、地を這うような欲望には際限がないのか。

では、「欲」とは何だろうか。
分かりやすく、「人生の快楽を求めること」としよう。

人生の意義を「快楽」、つまり「楽しむため」と位置付けている人は多いと思う。
そうなると、楽しさ・楽しみのない人生は意味がないということになる。
かつての私も、そういう価値観を持っていた。それも、強く固く。
「・・・持っていた」
イヤ、まだ過去形では言い切れない。
様々な人の死に遭遇する度に、わずかづつ薄まってきているような気がするものの、今でもその価値観は根強く居座っている。

では、「楽しさ・楽しみ」とは何だろうか。
まず、誰もが分かるような表面的な快楽がある。
目に見えるモノを手に入れ、耳に聞こえる称賛を浴び、口にはうまいモノを入れる。
次に、自分にしか分からないような独自の楽しみもあるだろう。
個人的な趣味嗜好や空想など。
それから、自分でも自覚できないような、自分でも気づかないうちに感じている楽しさがあると思う。
実は、「真の楽しさ」とはコレなんじゃないかと思っている。

苦しみの中にある楽しさ、痛みの中にある楽しさ、悩みの中にある楽しさ・・・気持ちが楽しむのではなく、心(魂)に必要な楽しさってないだろうか。

blogにも何度となく書いてきたけど、私は典型的なマイナス思考人間。
楽しい気分を持ちにくい性質。
だから、誰もが分かるような表面的な楽しさには縁遠い。

だけど、
「俺ってツイてない男だ」
「俺の人生は不運だ」
等と思ったこともない。
私のようなネガティブ人間は、そのように考えることがあっても当然のことなのに。
まったくの個人的な考えだが、「運」とか「ツキ」なんてものは、運命・宿命の中にキッチリ組み入れられているもので、その良し悪しを自分が判断するものではないような気がしている。

三十数年前、私は何も持たずに裸で生まれてきた。
そしてまた、何も持たずに裸のまま死んでいく。
地にある、目に見えるモノは何も持って逝けない。

生きているいうちに味わう真の楽しみが、最期に空を高く駆け登る力になるような気がする。






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マッサージ(後編)

2007-02-22 08:39:26 | Weblog
普段の私は、風俗街にも風俗店にも縁がない。
男の端クレとして全く興味がないわけではないが、「行ってみよう」という気にはならない。
料金も安くなさそうだし、さすがにこの歳になると小っ恥ずかしい。

随分前の話だが、
「風俗遊びをしたことがない」
と言うだけで、
「半人前・未熟な男」
みたいな評されたことがある。
もちろん、男同士の内輪の話だが。

愛人を囲えるような男性を「甲斐性のある男」として、どことなく上に見てしまうようなところはないだろうか。
「女遊びの一つや二つできないようじゃ、一人前の男じゃない」と言われてしまいそうな世の価値観に、何となく馴染めない私。
そうは言っても、私にも情欲はある。
とても、世の男性を批難できる立場ではない。
ま、「他人を批難するのは簡単で、己を知ることこそが難しい」と言うことだ。

難しい話はさておき、同じ時間と金を遣うなら、私は断然「居酒屋!」
うまいモノを食べてうまい酒を飲む。
やっぱ、これに尽きるね!

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待った・・・何?!何?!何?!」
いきなりの女性の行動に、私は驚いた。
女性は、スカートをめくり上げ下着も露な姿で、
「見て、ほらココ・・・」
と、大胆発言。
私の心臓はドキドキ。

私は、どこを見ればよいのか分からずドギマギと視線を泳がせた。
「ちょっと見て下さいよ、ヒドイでしょ?」
女性は自分の太股を指差した。

「マジか?それとも、からかわれてる?」
私は女性の真意を読み切れなくて困った。
しかし、ここで動揺したら余計におかしい。
「仕事=Cool+Dry」
で通すことにした私は、表情を真剣モードに変えて女性の脚に視線を合わせた。
女性が示すところには赤く点在する皮膚炎をがあった。
ダニに刺された痕であることはすぐに分かった。
「あ!ダニ、これはダニですね」(な~んだ!ダニの被害を見せようしただけか・・・ちょっとガッカリ?)
淫らな妄想を先走らせた男の性(さが)が、微妙に情けなかった。

しかし、視界に入る女性の下半身は、私の心が紳士になるのをとことん邪魔した。
いつも色んなものと戦いながら仕事をしている私だが、まさか自分の情欲と戦うことになるなんて・・・。
弱るような、恥ずかしいような、情けないような複雑な心境だった。

更に、タイミングの悪いことに、別の部屋からは、男女の卑猥な声が漏れ聞こえてきた。
他人のそんな声を聞かされるなんて、とんだ災難。
特に、男の喘ぎ声は最悪!

目や口は、自分の意志でコントロールできる。
見たいときは開け、見たくないときは閉じればいい。
喋りたいときは開け、喋りたくないときは閉じればいい。
しかし、耳はそういう訳にはいかない。
いくら聞きたくなくても、鼓膜に届く音を自分の意志で拒むことはできない。
そんな耳は、まるで自分のモノであっても自分のモノではないような器官だ。

淫らな声は、容赦なく私の耳に入ってきた。
その雑音に対してどんな反応をするのが紳士的なのか、経験の乏しい私には分からなかった。
明らかに聞こえてくるものに対して、聞こえないフリも変だし。
まぁ、そもそも、本当の紳士だったらこんな状況には置かれないだろうね。

こんな環境に慣れているであろう女性は、そんな雑音も意に介していない様子で、ダニ刺された箇所を私にいちいち見せようとしていた。
「もう、充分わかりましたから」
堕紳士の私は、ある程度のところで女性を制止。
そして、女性に礼を言って部屋を出た。
ちなみに、「礼」ったって、いいモノを見せてもらった礼じゃなくて、業務に協力してもらった礼だからね。

その後、責任者に現場状況・作業内容・工程・時間・アフターフォローなどを説明。
費用は、後日あらためて提示することにして、この現場の見積業務を終了させた。

出口に向かう途中の待合室には、何人かの客がいた。
それを横目に見ながら、出口に向かった。
小さな声で、
「ありがとうございました」
と言ってくれる店員に、私は疲れた頭を下げながら店を出た。

来た時と同じ風俗街を歩くのに、あの気マズさはなかった。
駐車場に向かって歩く私はどこかボーッ。

いつの間にかピンク色に染められた私の脳には、軽いマッサージが必要みたいだった。




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マッサージ(中編)

2007-02-20 09:21:30 | Weblog
「仕事!仕事!」
私は、冷汗をかきかき店の中に入った。

「いらっしゃいませ~!」
蝶ネクタイ姿の店員が、愛想よく出迎えてくれた。
私を客と勘違いしていることは明らかだった。

場所が場所だけに、その誤解は直ちに解いておかなくてはならない。
「消臭消毒の業者なんですけど・・・」
その途端、店員は自分の口に人差指を立て、他に客がないかを確認。

「!」
私は、うっかりしていた。
客商売の店の正面玄関から入り、
「消臭消毒業者です」
と名乗るのはルール違反。
この時は他に客がいなかったからよかったものの、下手をしたら店の看板をキズつけてしまうことになりかねない。
こんな時は、黙って名刺(パンフレット)を出して小声で用件を伝えるのが鉄則なのに、慣れない風俗店に舞い上がっていた私はそれを忘れてしまっていたのだった。

「責任者が来るまで、ここで待ってて下さい」
私は、客用の待合室に通された。
依頼者である店の責任者が不在なら仕方がない。
とりあえずソファーに腰を降ろし、責任者が来るのを待つことにした。


モノ珍しさも手伝って、私は部屋中をキョロキョロ。
「らしい」と言えば〝らしい〟、「らしくない」と言えば〝らしくない〟部屋で、気になるのは成人誌の多さぐらいだった。
セルフサービスの飲物・おしぼり、マンガ・雑誌がたくさん置いてあり、テレビも適当な番組を放映中。
幸い、私の他に客はいなかったので居心地は悪くなかった・・・もとい、私は客じゃなかったね。

「このまま、誰も来なきゃいいのに」
そう思っていたら、壁の向こうから「いらっしゃいませ~!」の声が聞こえてきた。
「・・・来ちゃったか」
少しして、客らしい男性が待合室に入ってきた。
気マズイ思いをする必要もないのに、気マズイ思いの私。

客の男性は、私の正面を避けた位置に座った。
お互いに目線を合わせず、もちろん会話もない。
ただ、テレビの音声だけがマイペースに流れているだけだった。

「こんな昼間から、お客って来るもんなんだなぁ」
「この人は常連客かなぁ」
風俗店に、しかも昼間から出入りするような人は私の乏しい人脈にはいないので、単純な好奇心を覚えた。
非難するつもりもなく、反感を覚えたわけでもなく、ただ単にそう思っただけ。

しばらくして、その男性客に声が掛かった。
サービスを受けに行くはずが、その男性客は、私の方を気にしながら店員と何やらヒソヒソ話。
どうやら、私の方が順番が先だと思っていたらしく、
「あの人(私のこと)の方が先じゃないの?」
みたいなことを言っているみたいだった。
見ず知らずの男性の、その律義な心遣いにホットな気分になりながら、いつの間にか風俗店や風俗客を蔑視している軽薄な自分に気がついた私だった。

しばらくして、責任者は戻ってきた。
同時に、やっと私の番が来た。
心臓が、変にドキドキ。
薄暗い廊下を進み、狭く仕切られた客室に案内された。

「うわぁ!狭いなぁ」
そこには、いかにも不潔そうなベッドがあり、不快な臭いがした。
カビ臭いような汗臭いような・・・調度、長~い間干さずシーツも洗わなかった布団のような臭いだった。
そんな布団の臭いを知ってる私もどうかしているけど、ここのベッドもかなりイッちゃっていた。

一番の問題はベッドマット。
使うときはきれいなバスタオルを敷いているそうだったが、ここまでくるとそれも限界。
消臭消毒をやるより、マット自体を交換した方が早そうだった。

私が現場を観察している間に責任者はどこかに行ってしまい、代わりに女性スタッフがやってきた。
愛想のいい、きれいな女性だった。

責任者に指示されたのだろう、女性は部屋のあちこちを指差しながら問題の状況を私に説明し始めた。
話を聞けは聞くほど、劣悪な衛生環境が浮き彫りになってきて、少々気の毒に思えてきた。
私は、書類に細かな情報を書き入れながら、雑談を交えて話を進めていった。
狭い密室に二人きりということもあり、雰囲気が煮詰まらないような会話を心掛けて談笑。

「ここの仕事も楽じゃなさそうだな・・・」
「でも、この女性にもこの人なりの事情があっての仕事なんだろうなぁ・・・」
「ま、お互い様か」
「風俗と死体業、共通点があって意外と話が合うかもな」
そんな風に思い、私は勝手な親近感を覚えていた。

一通りの現場見分が終わって退室しようとしたとき、
「あ!」
と言って女性は私を制止。
そして、私に近づき、
「大事なこと、忘れてた!」
と言ったかと思ったら、おもむろにスカートをめくり上げた。

「ちょちょちょ、ちょっと待った・・・」

つづく





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マッサージ(前編)

2007-02-18 08:57:22 | Weblog
現代社会では、男女を問わずひどい肩コリや腰痛に悩まされている人が多いようだ。
詳しいことは分からないけど、その原因も色々あるみたい。
肉体的な原因はもちろん、精神的なストレスも原因になるかもしれない。

何年か前、私も腰を痛めて整体院に通っていたことがある。
痛みがとれるまで、かなり時間と費用がかかった。
腰をやっちゃった理由は恥ずかしくて言えないけど・・・仕事じゃないことは確か。

整体院や接骨院は、街でもよく見かけるようになってきた。
特に、ここ2~3年の間に急激に増えてきたように思うけど、どうだろうか。
ま、それだけニーズがあるってことだろうね。

家電量販店などに置いてある電動マッサージチェアにも、いつも誰かが座っている。
すごく気持ちよさそうにしている姿を見ると、ついつい私も座ってみたくなる。
しかし、私にとっては「痛い」or「くすぐったい」ばかりで、とても気持ちいいものではない。
幸い、今の私には肩コリも腰痛もないのだ。

あるのは、肉体的にキツーイ!現場をやった翌々日に起こる筋肉痛くらい。
なんで翌々日かって?
多分、歳のせい。
子供の頃や若い頃は、筋肉痛は翌日にきたものだった。
もっと歳をとると、三日後とかにくるようになるのだろうか。

関係ないかもしれないけど、二日酔も同様。
子供の頃・・・もとい、若い頃は翌朝にきていたものが、今では翌日午後にズレてきている。
これも歳のせいだろうか。
ひょっとして、もっと歳をとったら二日酔も翌々日にくるようになったりして。
それはそれでキツそうだね。

言うまでもなく、私の仕事は死体業。
各種ある死体業務の中でも、特掃(正式には「特殊清掃撤去事業」って言うんだよ)は、私がメインで遂行しているもの。
そんな派手な?作業に隠れてしまっているが、家屋解体・リフォーム・ハウスクリーニングから消臭・消毒・害虫駆除も会社にとって大事な仕事なのである。

「消臭・消毒」の依頼が入った。
現場は、マッサージ店。
依頼者の話によると、客室に変な臭いがして不衛生な状態になっているらしかった。
臭いのだけ問題じゃなく、膚炎になっているスタッフもいるらしく、ダニの発生も予想された。

「マッサージ店か・・・」
私は、街でよく見かける整体・接骨院を思い浮かべていた。

現場の住所を聞いたら、日本一の歓楽街と言われている某所だった。
「あの辺は人が多そうだから、商売は繁盛するだろうな」

経営上、店を閉められない事情があり、見積の日時調整は難航。
過去の傾向から、比較的、客足の少ない日時を選んで予定を組んだ。

予定の日、天気のいい昼下がり。
私は、いつもの車で現場に向かった。
目的地界隈が繁華街であることは承知していたので、特に違和感もなくカーナビが示す目的地周辺に近づいた。
それ以上、その先は人通りの多い路地になっており、車での進入は不可。

「これだけの繁華街だから仕方がないな」
私は、近くに駐車場を探して車をとめた。
そして、ナビ地図を頭に叩き込んだ。
車を離れ、歩き始めてしばし。
「だんだん深水にハマってるような気分だなぁ」

目的のエリアは、派手な店が建ち並ぶ・・・モロに風俗街だった。
派手な色使いの看板がひしめき、昼間なのにネオンがチカチカ。
「・・・と言うことは、現場の店も・・・と言うことか?」
そんな街をキョロキョロと見回しながら歩く私は、明らかに挙動不審だった。

「ここかな?・・・」
しばらくウロウロしたところで、電話で聞いた通りの店名の看板を見つけた。
確かにマッサージ店らしかったけど、当初の私がイメージしていたような店ではなかった。

「やっぱ、ここみたいだな」
普通に人通りがある店の前を、私は行ったり来たり。
オドオド・モジモジしていると余計に怪しい。
私は、さりげなく入口に近づいた。

既に、自意識過剰状態の私。
街を歩く人は私のことなんか気にも留めていないはずなのに、誰かが私のことを見ているような気がしてならなかった。
もともと、対人関係が得意ではない私にとっては、ある意味での対人恐怖症状態。

「さっさと入ってしまおう」
自動ドアの前に立った途端、ドアが開いた。

「いらっしゃいませ~」
つづく





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メッセージ

2007-02-16 08:31:51 | Weblog
普段は、ほとんどテレビを観ない私。
しかも、新聞も読まず、インターネットもほとんどやらないときた。
そんな私は、世の中の流れや新しい情報にはかなり疎くなっている。
しかし、情報が溢れるこの社会では、そんな受け身一辺倒の私にでも、色んな角度から世間のニュースが入ってくる。
いちいち興味を持たない私は、膨大な情報のほとんど聞き流すのだか、ついつい耳を澄ませるニュースがある。
そう、人の死にまつわるニュースだ。

事件・事故・災害・戦争・病気・自殺etc
毎日、何人もの人が死んでいる。
そんな中でも特に、
「いつ・何が起きるか分からないもんだなぁ」
と思わせるような死のニュースには、いつも偶然の生と必然の死を痛感させられる。
「俺には、いつ・どんな死が待っているのだろうか」
なんて考えると、不安と恐怖でドキドキだ。

そんなはかない人生だから、自分の命の有限性を意識し、遺言を残しておくことを勧めたい。
以前のブログにも書いた通りだ。
毎日、日記をつけるのは面倒臭いかもしれない。
だけど、年に一回、自分の誕生日などに遺言を書いておくくらいのことはできそうじゃない?
しかも、書いた後は気分がスッキリするし、ちょっとだけ生活に張りがでるし。

前回書いたように、故人の写真は、残された人がメッセージを受け取るもののように思っている。
そして、遺書は故人がメッセージを発信するもの。
ある日・突然の死は、決して他人事ではない。
そんな時のために、遺言を残しておくことを検討あれ。

私が今までに会ってきた遺体は数知れず。
その亡くなり方も数知れず。
ただ、遺書や遺言の類を見た記憶はほとんどない。
そもそも、私には関係のないことだしね。

若い女性が死んだ。
首を吊っての自殺だった。
私が現場に出向いたときは、故人は布団に寝かされていた。
舌を噛んだのだろう、口から出血があった。
「誰も拭いてあげる人はいないのか・・・」
と、自殺のせいか年齢のせいか、はたまた口から流れる血のせいか、私は深い溜息をついた。

首の傷が痛々しいばかりで、それ以外には変わったところはなかったが・・・腕と脚にある何がが目についた。
「何だろう・・・」
よく見ると、何か文字が書いてあるようだった。
ピン!ときた私は、急いで視線を外した。
そう、故人は最期のメッセージを自分の身体に残していたのだ。

関係者の情報を繋ぎ合わせてみると、やはり遺言は故人の身体に記されていたらしかった。

「余程、強い思いがあったのだろうか・・・」
これから死のうとしている人間が、自分の身体に最期のメッセージを書かく行為に、人間が人間の生存本能を押し潰す強烈な闇の力を感じ、私は奥歯を噛み締めた。

ブログを書き始めてから9ヶ月になり、合計で200編を越えてきた。
ある時期から、私はこのブログに何らかのメッセージを込めるようになってきている。
半分は意図的に、半分は無意識のうちに。
もちろん、メッセージ性のないくだらない?編もたくさんあるけど。
しかし、それで人を変えようなんて考えている訳ではない。
変わらなきゃいけないのは私自身だし、それでも変われない私自身だから。
私は、自分が書くメッセージを一番に送りたいのは自分自身なのである。
自分が発信するメッセージをブログから反射させ、自分を鼓舞し・励まし・慰め・支える・・・ある種の自慰行為かも。
まぁ、私という人間は、それだけ弱くて脆いということなのだ。

ここまで来ると、今までに何を書いて・何を書いてないかが自分でも怪しくなってきている。
そんなところで、たまに過去ブログを読み返してみることがある。

「あんな事があったんだな」
「こんな事もあったよな」
「あの時は、そう考えていたのか」
「この時は、こう感じていたのか」

たった数カ月前のことなのに、随分と昔のことのように思える。
そして、情緒が安定しない私には、まるで他人が書いたものでも読むかのように、新鮮な感覚で入ってくる。

人生、晴れたり曇ったり。
明日は明日の風が吹く。
気分もUp.Downの繰り返し。
人の死が発信するメッセージを・ブログに書き込まれるメッセージを、そして自分が書くメッセージを心に刻みつつ、携帯電話を打つ日々は続く。



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フォトグラフ

2007-02-14 07:40:24 | Weblog
日本人が写真好きであることは、海外から皮肉られるくらいに有名な話である。
メガネをかけ、首からカメラをブラ下げてペコペコと頭を下げる姿が、外国人が見る日本人像らしい(かなり古い情報かもしれないけど)。

今の時代、カメラと言えばデジカメだろう。
そんなデジカメも、数年前は画素数も少なくやたらと重くて、持っている人もまだ少なかった。
そして、カメラ付携帯電話もまだ珍しく、性能も粗末なものだった。

それが今じゃどうだろう。
デジカメはどんどん小型化・高性能化し、格段に使いやすくなっている。
今では、かなりの人が使っているのではないだろうか。
更に、携帯電話には驚きだ。
そのカメラの画素数は、デジカメに劣らない。
アナログ人間の私は、もう完全について行けなくなっている。
(そうは言っても、blogを書くためにケータイをWordなみに使っている私は、別の意味で先端を行っている?)

特掃の現場では、探し物を依頼されることが多い。
一般的に多いのは、やはり金目のモノ。
預金通帳・カード・印鑑・生命保険証券・権利書・年金手帳・貴金属類etc
あと、写真。
依頼者(遺族)の中には、故人が持っていた写真を欲しがる人・見たがる人が少なくない。
そんな要望には気持ちが和む。

腐乱死体現場で金目のモノばかりあさっていると自分が餓鬼にでもなった気分になるけど、探し物が写真だとホットな気分でやれるのだ。
故人の写真を大事にしたいということは、生前の故人・故人の人生を大切に思う気持ちの、ひとつの現れ方だと思う。
人のそんな気持ちがちょっとだけ嬉しくて、私はイソイソと写真を探す。
そして、探し出した写真を見る依頼者の表情は色々だ。
もちろん、泣き出す人もいる。
懐かしそうに笑う人もいる。
感慨深げにジッと眺める人もいる。
昔話に花が咲く人もいる。
故人の写真から、残された人達は何かのメッセージを受け取るのかもしれない。

しかし、逆に写真を欲しがらない(見たがらない)人もいる。
ただ単に興味がないだけなのか、心的な事情があるのか分からないけど。
そんな人には、少し寂しい気分がするものの、「冷たい人だ」と安易に批判はできない。
写真を見たがらない事情には、私が立ち入ることではないからだ。

一方、探し手の私はどうだろうか。
私は、できるだけ故人の写真を見ないようにしている。
正直言うと、見たくないのだ。
だから、写真を探し集める私の手と視線は、いつも別々の動きをする。
見たくない理由は?・・・自分でもよく分からない。
ただでさえ、腐乱汚物を人とみなして精神的に苦労することが多いのに、故人の顔なんか知ってしまったら仕事がやりにくくなるばかりだからかもしれない。
特に、故人が笑顔で写っているとそれが顕著。
それが自殺とかだったら、更にヘビー。
「仕事=Dry+Cool」を心掛けていても、やっぱり気持ちが疲労する。

私が、写真を苦手とするところは他にもある。
どんな死体でもほぼ平気なのに、写真に撮られた死体は苦手。
どんな現場でもほぼ平気なのに、写真に撮られた腐乱現場は苦手。
こんな仕事をしていても、心霊写真は大の苦手!
この変な感性は、自分でも分析不可能だ。

歩いてきた人生は、思い出の塊だ。
いい思い出も、悪い思い出も全部。
そして、残された写真はそれを証する。

写真って、何かの記念やイベント、レジャーや旅行のときに撮ることが多いだろう。
デジカメやケータイカメラの普及で、今はもっと日常的になっているかもしれないけど。
そんな写真には、人生の色んな出来事や思い出が収まっている。

でも、人の幸せなんて、わざわざ写真に撮られているようなことだけじゃなくて、写真に残らないようなありふれた日常にこそ、たくさんあるんじゃないかと思う。
人の笑顔があるところには、どこにでも。

そんな心のアルバムを、たまにはめくってみるといい。
本当の幸せを思い出せるかもしれないから。
アノ世に持って逝けるそのアルバムには、たくさんの思い出が入れられる。

派手な遊びができなくても、楽しいイベントがなくても、暗い仕事が続いても、私は心のアルバムにたくさん残していきたい・・・
・・・平凡な日常にある、笑顔のフォトグラフをね。





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ぽっぽっぽ(後編)

2007-02-12 08:47:55 | Weblog
「す、巣と玉子を処分するんですか!?」
予想してなかった依頼者の男性の反応に、私は動揺した。

近隣からの苦情を恐れる男性の心情も分からないではなかった。
この家に対する近隣住民の心象を少しでも改善しておくことは、男性本人の保身にもつながる大事なこと。
地域社会を敵に回しては、何かにつけてやりにくい。

しかし・・・
身の危険を感じても子供を守ろうとするアノ母鳩から玉子を奪うなんて、気の弱い私には到底できるものではなかった。
「あの母鳩がハエで、あの玉子がウジだったらなぁ・・・難なく始末できるのに」
生き物・生命に対する自分のエゴと矛盾を忘れて、そんな風に思った。

天敵の私が言うのもおかしいけど、ウジ・ハエってどこまでも嫌われて冷遇される連中だ。
そして、それにも負けないタフなヤツ。
しかし、誰にも愛されることのない生涯なんて、不憫なもんだね。

「とりあえず、部屋も確認してもらわなけばならないですし、ついでに巣も見て下さい」
私は、渋る男性を連れて二階に上がった。
そして、デジカメに撮っておいたBeforeと目の前のAfterを比べてもらった。
決して清潔とは言えない状況だったが、清掃前があまりにも酷かったため、男性はかなり満足してくれた。

そして、次にベランダを覗いてもらった。
気づかれないように鳩をソ~ッと指差し、
「アレです、アレ」
「アレですかぁ・・・」
何も知らない母鳩は、健気に巣に座っていた。
私は、男性の気持ちが動くことをドキドキしながら期待していた。

男性は困った様子で、
「ん゛ー・・・可哀相ですけど、こんなのをいちいち助けててもキリがないですからねぇ・・・やはり、処分してもらうしかないですね」
と、一言。

ガーン!
男性の情に訴えかけようとした私の策略は、見事に失敗した。
実物を見せても、男性の気持ちは動かなかったのだ。

今までの死体業生活・特掃経験の中では、幾多の試練があった。
それらを何とか乗りきって(回避もして)ここまできた私にとっては、この巣・玉子の撤去処分はやってやれない仕事ではないはずだった。
そして、人がやりたがらないことをやる根性も、特掃魂を構成する大切な要素。
しかし、巣・玉子の始末がかなり気重な仕事であること、やりたくない仕事であることには違いなかった。

「玉子はどこまで孵化が進んでるだろう・・・」
「まさか、羽化する直前ってことはないだろうな?」
「雛が、〝助けて!〟って叫んでたらどおしよぉ」
私の頭で、要らぬ想像が膨らんできた。
想像力を働かすことって、いい事ばかりとはかぎらない。
逆に、私の場合は、余計な想像力が自分を苦しめてしまうようなことが間々ある。

私の中でよくあるパターンは、腐乱汚物に人格を持たせたり、逆に人間を汚物と見なしたり。
また、動物や人形・ぬいぐるみを擬人化したり。
ここでは、頭の中で鳩親子を擬人化してしまったのだ。
こうなると、情が乗されるばかりでツラい。

なかなか玉子を救う手だてを思いつかなかった私は、最後の切り札を使うことにした。

「亡くなった御本人は、どう思われるでしょうか?」
私は、家主の女性のことを持ち出して、依頼者の心情を変えようとしたのだ。

依頼者は難しい表情で、私の問い掛けを聞いていた。
そして、しばらくして言いにくそうに口を開いた。
「あの・・・姉(家主)は、まだ死んでませんけど」
「は?」(は?)
「家の前で倒れ、病院に運ばれたんですが・・・」
「え?」(何?)
「入院療養の甲斐あって、今はだいぶ元気になりました」
「・・・」(まっシロ)

私は、勝手に家主の女性を亡き者にしていた。
何をどう勘違いしたのか、特掃魂がオーバーランしていたのだった。

「し、失礼しました・・・縁起でもないことを言って」(やっばー!)
「イヤイヤ、アハハハ」
「・・・」(ペコペコ)
「私だって〝救急車で運ばれた〟と聞いたときは、〝死んだな〟と思いましたから」
「・・・」(気マズイなぁ)
「なかなかしぶとい姉でねぇ・・・〝憎まれっ子、世に憚る〟っていうヤツですかね」
「・・・イヤ、そんなことは・・・」(ホッ)
男性は、笑いながら私の失言を聞き流してくれた。
そして、
「ベランダの鳩をどうするか、病院の姉に尋いてみますよ」
「そうですか!?」(おっ!?)
「処分は、それを待ってからでも遅くはないでしょうから」
「ですね!」(うん、うん!)
「下(一階)のゴミも何とかしなきゃいけませんしね」
「そうですね」(ヨッシャ!)

この日、何とか一命を取り留めた玉子。
それに安堵しつつも、慣れない肉体労働と余計な精神労働のせいで、疲労困憊の私。
ベランダの方に「達者でな」と一声呟いて現場をあとにした。

それからしばらくの間、この家・この男性とは関わりを持ち続けることになるのだが、とりとめがなくなるのでここら辺で話を閉じる。

このあと、鳩親子・この家・家主の女性がたどる結末は?
そして、私の運命は?
・・・思い出すことがあったら、続編を記すこととしよう。

焼鳥を食べるときにでも、思い出すかもね。





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ぽっぽっぽ(中編)

2007-02-10 08:58:17 | Weblog
「な!なんじゃ?ごりゃーっ!」
マスクを通じて、自分のの汚叫びが耳にこだました。

部屋は全体的に白っぽく、モヤがかかったように空気が汚れていた。
家具や生活洋品は少なかったものの、部屋の至るところに鳩の糞と羽が散らばり、場所によっては糞が厚い層・山を形成していた。
しかも、それだけじゃなく、鳩死骸と玉子も無数に散乱。
それは、人の腐乱とは趣を変えた、凄まじい光景だった。
普段、簡易マスクだけで現場に入ることも少なくない私だが、この時はゴーグルと防毒マスクを着けておいて正解だった。

「これを片付けろってか!?」
「故人も、よくこの状態で暮らせてたよな」
私は、呆れるやら感心するやら。

しばらく後、作業の日を迎えた。
結局、やるしかなくなったのである。

現場はかなり不衛生。
こんな現場では、まず先に身の安全を確保しなければならない。
身体を厳重に防護し、消毒作業を先行させながらの清掃作業となった。
床面の糞や羽は畳ごと撤去、死骸と玉子はひとつずつ拾うしかなかった。
最初の一羽目を手にするときは、人間腐乱痕に着手するとき以上の抵抗感があった。
動物の死骸って、独特の違和感を覚えるものだ。

「かるぅー(軽い)!」
鳩の死骸は気持ち悪いほど軽く、掴んだ質感はあるのに重量感がない不気味な感覚だった。
また、玉子は鶏卵より小さく、それが散乱している様は異様だった。
過って割ってしまい、中から孵化しかけの腐乱雛でもでてきたら恐怖なので(それを想像しただけでも、充分に恐かったけど)、その取り扱いは慎重にした。

押入の中の糞は特に大量で、集めた糞は土(小砂利)のように重く、何袋もの土嚢ができた。
ひと掬いするだびに粉塵ならぬ糞塵が舞い上がり、煙でもでているかのように部屋中が白くモヤった。
マスクを着けていてもヤバイものを吸い込んでいるような気がして、すぐに白くなるゴーグルをこまめに拭きながら作業を進めた。

汗かきベソかき、何とか部屋をきれいにした後(それでも、とても住める状態ではない)、次の作業場であるベランダに出た。

「うへぇ~、ここもスゴイなぁ」
ベランダも鳩の糞だらけで、何からどう手をつけていいものか、頭を抱えた。
植木も鉢植も糞だらけ。
冊も手摺も糞だらけ。
物干台も物干竿も糞だらけ。
身も心も糞だらけ。

「ベランダには死骸と玉子はないようだな」
私は、ちょっとだけホッとした。
そして、部屋の中と同じようにひたすら奮闘ならぬ糞闘をした。

「ん?」
しばらくして、ベランダの隅に動くモノを察知。
よく見ると、一羽の鳩が座り込んでいた。
そして、私の方をジーッ。
しばらくの間、私と鳩は眼の飛ばし合いをしたまま膠着状態を続けた。

私は少し近づいてみたが、鳩はなかなか逃げようとしない。
「いい度胸してんな」
弱い者には強気にでる私は、バカ丸だしの大人げない身振りで威嚇した。
すると、さすがの鳩も飛んで逃げ、すぐ傍の電線に退避。
それでも鳩はジーッと私の方を見続けていた。
「なんだよぉ」
あまりに凝視され続けると、相手が鳩とは言え背筋にゾクゾクしたものを感じた。

そして、鳩が飛び立った跡にあったものは・・・
「た・ま・ご?」
草枝で造られた巣に、小さな二つの玉子があった。
母鳩が玉子を抱いて温めていたのだった。
「あちゃー、そういうことかぁ・・・悪いことしちゃったなぁ」
鳩に対する敵意の炎は消え、いきなり同情心に変わった。
「ごめん、ごめん」
近くの電線にとまってこっちを見ている母鳩と、巣の玉子に謝った。

母鳩の母性と玉子の温度が冷めないうちに済ませようと、私は急いでベランダを片付けた。
ちなみに、ベランダでは汗はかいたけどベソはかかなかった。
それどころか、何か善いことでもしてるかのような、いい気分で仕事を進めた。

少しして、私がベランダからいなくなると、母鳩は巣に戻ってきた。
それを見て安心する自分を、
「俺って、なかなかいいヤツかもな」
と自己評価(自己満足)。

やっとのことで一通りの片付け清掃を済ませた私は、作業内容と作業結果を依頼者に報告。
ベランダに巣があり、母鳩が玉子を温めていることも伝えた。
それをネタに、依頼者との会話がほのぼのとしたものになることを勝手に期待した私。

「え?ベランダにまだ鳩がいるんですか?」
「ええ、巣を造って玉子を抱いてたものですから、手が出せなくて・・・」(いい話でしょ?)
「困ったなぁ、放っておいたらまた鳩屋敷になっちゃいませんかね」
「しかし、鳩は保護動物ですから殺せないんですよ」(可哀相でしょ?)
「ん゛ー」
「ん?」(何?)
「・・・でしたら、巣と玉子だけだったら大丈夫でしょ?」
「え?まぁ・・・」(まさか・・・)
「やりにくいとは思いますけど・・・」
「えっ?」(始末するの?)
「・・・処分して下さい」
「え゛っ!?」(俺が?)
「お願いしますよ!」
「え゛ーっ!?」(そんな殺生なあぁぁ・・・)

つづく






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ぽっぽっぽ(前編)

2007-02-08 09:09:33 | Weblog
前回は、交通事故について書いてみた。
その続きをもうちょっと。

私は、車で犬猫を轢いた経験はない(はず)。
ただ、鳥と衝突したことはある。
野鳥が一度・鳩が一度、ともに高速道路を走行中のことだった。。
走る車の前を低空飛行で横切ろうとする鳥に当たったのだ。
鳩にぶつかったときは、花火が破裂したかのように羽根が飛び散り、胴体がクルクルと舞い落ちる様がバックミラーで見えた。

「今のは俺か悪いんじゃないよな?」
「不可抗力!不可抗力!」
平和の象徴を殺した私の心中は穏やかではなかった。

珍しいケースでは、私の知人に車で鮪を轢いたことがある人物がいる。
「マグロ!?」
そう、あのマグロだ。
本題から離れてしまうので事の真相には触れないで流すが、なかなか珍しい出来事だと思う。
まさか本人も、鮪と事故を起こすことなるなんて夢にも思っていなかっただろう。
人身事故ならぬ魚身事故?
ちなみに、保険は「対物事故、物損」として処理されたらしい。

特掃の依頼が入った。
依頼してきたのは、「現場の主の親戚」と名乗る年配の男性だった。
「ゴミすごくて、とにかくヒドイ状態なんです!・・・あと、鳩も」
「ゴミですか・・・ん?鳩?鳩ですか?」
まず、ゴミ屋敷を思い浮かべた私だったが、
「ゴミ+鳩=?」
現場の状況をうまく想像することができなかった。
ただ、依頼者の熱い口調から、現場は凄いことになっているであろうことだけは理解できた。

依頼者によると、どこに頼んでも断られ続けたらしく、巡り巡ってうちにたどり着いたらしかった。
「藁をも掴む気持ちで電話してきたのかなぁ・・・俺は頼みの綱か?」
とにかく、私は現場に出向くことにした。

現場は古い一戸建、小さな二階建家屋。
依頼者は家の前で私の到着を待っていた。
挨拶を簡単に済ませて本題へ。

家主は老女で、依頼者はその弟。
しばらく前、家主の女性は、家の前に倒れていたところを救急車で運ばれたとのこと。
女性は、若い頃はキャリアウーマン、結婚をすることもなく、ずっと独り暮らしをしていたらしい。
既にかなりの老朽家屋になっていたけど、現場の家も女性が若い頃に建てた家らしかった。
昔から自信家で、それが歳をとっていく毎に気難しい性格になり、親戚や近所の人も付き合えないくらいだったとのこと。
したがって、ここ数年はほとんど人付き合いがないまま、生活していたのだった。

そんな暮らしを「羨ましい」と思ってしまう私に問題があるかどうかはさて置き、不幸中の幸いだったのは、女性は家の中ではなく外で倒れたことだった。
もし家の中で倒れていたら、誰にも気づかれずに例のコースを進むことになっていたはず。
そうなると、問題はより複雑化・深刻化してくる。
皆にとって、それが避けられただけでも、まずはよかった。

「玄関は開いてますので、自由にどうそ・・・靴のままで結構ですから・・・とにかくヒドイですよ」
依頼者は、申し訳なさそうに言った。
私は、薄暗くてカビ臭い家に恐る恐る入った。
ほとんどの現場がそうであるように、ここでもちょっと緊張していた。

依頼者が言うように、一階はゴミ屋敷状態だったが、私にとっては驚く程ではなかった。
「この状態でも、本人は難なく暮らしちゃうんだよなぁ」
ゴミ屋敷の主とは、そういう人なのだ。

ゴミ屋敷は何度も経験しているので、片付けの手順は簡単に組み立てることができた。
私は、ゴミの種類と量を念入りに観察しながら頭の中でプランを固めた。

「次は二階だな・・・アレッ?」
階段にある山積みのゴミが、私の行く手を遮った。
階段はゴミで塞がれており、二階には長い間誰も上がっていないことが明らかだった。
私は一旦外に出て、二階を確認したのかどうかを依頼者に尋ねてみた。
依頼者は、これまた申し訳なさそうに「見ていない」と返答。
「やっぱりそうか・・・」と、私。
依頼者は、糞で汚れたベランダと近隣の苦情から、二階がヤバイ状況になっていることを察したみたいだった。

「俺って、人類未踏の地に挑む冒険家みたいだな」
私は、首にブラ下げていたゴーグルを着け、防毒マスクのベルトをきつく締めなおして二階に向かった。
ゴミを掻き分けて上がる様は、まるで登山。
そして、階段を上がりきり、イヤな予感を抱えながら部屋の扉をゆっくり開けた。

「な!なんじゃ?ごりゃーっ!」(ここだけGパン口調)

つづく





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事故と人間

2007-02-06 08:37:43 | Weblog
自殺に比べると数は少ないものの、交通事故で亡くなる人も少なくない。
そして、事故遺体は身体に何らかの損傷があることが多い(遺族の要望に応じて、修復することも多い)。

私の周辺でも、今までに何人かの友人・知人が交通事故で逝った。
「え!?アイツが?まさか・・・」
「え!?アノ人が?まさか・・・」
そんな時は、人の命の妙を思う。

私も細かい交通事故に遭ったことはあるが、幸いどれも人身事故ではなかった。
恥ずかしながら、昔は飲酒運転をしていたこともある。
もちろん、今はしない。絶対に。
それにしても、思い出すと恐ろしい。
とにかく、事故にならなかったことに感謝だ。

これまでのブログにイヤと言うほど書いてきた通り、特掃業務は(人間の)死体がらみが多い。
しかし、たまにそうではない仕事の依頼も入る。
消臭消毒・害虫駆除をはじめ、ゲロ掃除、糞尿清掃、そして動物関係。
動物関係で多いのが、やはり(動物の)死体処理とその痕始末。
更に、その中で多いのは犬・猫。

都会の片隅で、街の陰で、多くの犬・猫がひっそり死んでいく。
その数がいかに多いことか。

そんな仕事には、人間の片付けとは一味違った感慨がある。
特に、捨て犬・捨て猫の類になると、その感慨も深く切ない。
捨てられた犬猫も末路は餓死・轢死、はたまた行政に捕まって毒殺。
仮に行き延びたって、飼われていた頃のような温かい暮らしは望めない。
不憫なものだ。

あちこちの道路に転がっている犬猫の轢死体を見かけることがある。
誰にとっても珍しい光景ではないだろう。
ただ、やはり目をそむけたくなる光景には違いない。

少し前の話になる。
とある高速道路を走っていたときのこと。
はるか前方の路上に小さな物体が見えた。
「何だろう」
私の車はスピードに乗ってグングンと物体に近づいていった。
「布?雑巾?」
布キレが風に舞って転がっているように見えた。
「ん?なんだ?」
私は、近づく物体を凝視した。
「うあ゛ーっ!」
悲鳴をあげた私の車は、その物体の上を跨ぐ格好で走り抜けた。
「なんで子猫がこんなところにいるんだよ!」
私の心臓は一気に凍りついた。
物体の正体は、手足がちぎれながらも必死で逃げようとしている子猫だったのだ。

不思議で仕方がない。
そこは、私が日常的に使っている高速道路。
片側三車線、中央分離帯を挟んで計六車線の広い道路だ。
路肩も広くとってあり、両側には巨大な防音壁がそびえ立っている。
そんな道路の真ん中に、いるはずもない子猫が、なんでいたんだろう。

どこからか入り込んだものとは考えにくい。
でなければ、誰かが車から投げ捨てたのか。
誰かが捨てたことを想像したら、背筋がゾッ。
「なんで、わざわざそんな事するんだろう」

私も野良犬・野良猫を拾ってやるような優しさはない。
「うまい」「まずい」等とワガママ勝手なことを言いながら肉を食べている。
通りすがりの動物死体をボランティアで片付けることもしない。
こんな私は、動物の命について説教云々をたれる資格はないだろう。

ただ、動物を轢死させることを楽しみ、公共の道路と人の心を汚す輩には嫌悪感を覚える。
人間の残虐性には際限がないのだろうか。

私の仕事には車が欠かせないし、車を運転しない日はないくらい。
一般道・高速道路も毎日のように走っている。
飲酒運転をしないのはもちろん、スピードも抑え目に心掛ける。
事故の加害者にならないように、被害者にならないように。
でも、いつ何が起こるか分からないから恐い。

事故遺体と遺族、動物轢死体は交通事故と人間のの恐ろしさを教えてくれる。
遺体は修復できても、命と人生は修復できないからね。







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蒼天

2007-02-04 09:03:40 | Weblog
今日の東京は、気持ちのいい晴天。
朝から、きれいな青空が広がっている。
私は、空を見上げるのが大好きだ。

思い出してみると、意識的に空を見上げるようになったのは高校生の頃からだと思う。
私の通っていた高校は、それなりに偏差値が高い、いわゆる進学校だった。
生徒のほとんどは大学に進学し、卒業後に就職したり卒業前に中退する者はクラスに一名いるかいないか程度。
そんな中で、私の成績は下の方だった。
学校の勉強はどんどん嫌いになっていく上、もともとが怠惰な性分なのでコツコツ勉強することもできなかった。
そんな高校生活は、私にとってモノ凄くつまらないものだった。

担任の教師は、
「前向きにいこう」
が、口癖だった。
「前向きってどっちの方向ですか?抽象的すぎて意味が分かりません」
「なんで前向きじゃないといけないんですか?」
そんな質問をする私は、教師からきっと嫌われていたことだろう。

「学校って、なんで行かなきゃならないんだろう」
「学校って、そんなに大事なものなのかなぁ」
「学校、やめたいなぁ・・・」
そんな事を考えながら、いつまでも青い空を見上げていた。
どこまでも広く高い空は、イヤなことを忘れさせてくれた。

どんなに考えても結論がだせないことって、たくさんあると思う。
そんなことを引っくるめて空に投げても何も返ってこない。
だから、いい。

「自分の将来にはどんな苦難が待っているのだろう」
そう考えると生は恐い。
「死んだらどうなるんだろう」
そう考えると死も恐い。「この楽しさも嬉しさも幸せも、永遠には続かない」
「この虚しさも悲しさも苦しみも、永遠には続かない」
「いつか、全て終わる」
私は、これからを生きていく恐怖と死への恐怖、両方を持ちながらギリギリのバランスを保っている。
シーソーのように揺れながらも。

私は、混沌とする特掃作業の途中、空を見上げて気分転換をはかることが多い。
それは、昔から変わらないリフレッシュ法。
身体は臭く汚れて疲れていても、もう少しだけ頑張れそうな気がする。

私は、見上げた。
空ではなく、天井裏の奥に見える梁を。
暗闇の奥に見えるその梁からは、私の方に向かって太いロープが垂れ下がっていた。
まるで、私を見下し、誘うかのように。

ロープは途中で切れていた。
吊られた遺体を回収する時に、警察が切ったらしい。

私に依頼された仕事は、ロープを梁から外して天井板を戻すこと。
たったそれだけの簡単な仕事。
身体にはライト、心にはヘビーな仕事。

「こんな簡単な作業をわざわざ俺に頼んでくるなんて、やっぱ誰もやりたがらない訳か」
脚立を登り、天井裏に上半身を入れ、ロープを解くだけなのに、私はなかなか脚立を上がることができなかった。
ただただ途方に暮れて、天井裏を見上げるばかりだった。

今更、「恐い」とか「気味悪い」とかではない。
泣きたいような、吐きたいような、息苦しいような感覚に襲われたのだ。

「なんか、気が重いなぁ」
いつまでも呆然とつっ立ったままでは仕方がない。
私は、得意技(脳停止)を使って脚立に足を掛けた。
そして一気に登り、間髪入れずに暗闇の天井裏に頭を突っ込んだ。
頭につけた懐中電灯が、梁に絡みついたロープを映しだした。
視線は一点に集中、ちょっと油断すると悪寒が走る。
結び目をいちいち解いている余裕はない。
私は、カッターナイフの刃をめいっぱい出し、ロープの結び目を一気に切り裂いた。

「アッ!」
外れたロープが顔の上に落ちてきてた。
私はロープに敵意を抱き、ゴミ袋に投げ込んだ。
そして、私は外に飛び出た。

外に出た私は、深呼吸をしながら空を見上げた。
助けが欲しかった。
「俺は随分と変わっちゃったけど、空はいつまでも変わらないなぁ」

大きく広がる蒼天の下、目に見えない重荷を背負って佇む男が一人。
何かと戦い終えた私がいた。






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家族(後編)

2007-02-02 08:51:01 | Weblog
管理事務所からの急な要請が入り、私は再び現場に戻った。
「当夜、依頼者が来るから、それまでに清掃を終わらせてほしい」
と言う内容だった。
「まだ見積料金も提示していないのに、大丈夫かなぁ」
私は不安があったけど、依頼者も管理事務所も急いでるらしかったので、とりあえずやることにした。

車から道具・機材を降ろして、再び上階の部屋に向かった。
エントランスや廊下ですれ違う住人達は、私に丁寧に会釈をしてくれた。
多分、私が何者かを知ったら驚いて逃げ去ったかもしれない。
「哀愁のマットレス」の時のように。

私はずっと低頭のままそそくさと現場に急いだ。
何も悪いことをしている訳ではないのに、第三者に対して何とも気マズイ思いをするのは何故だろう。
自分の仕事を、どこか恥ずかしく思ってる証拠だろうか。

こんな凄惨な現場でも、特掃の難易度は軽~中程度。
頭の中にしまってあるノウハウを取り出し、現場の状況に適用させた。
そして、おのずと決まった手順と慣れた作業で手抜かりなく片付けた。
しかし、見た目にはきれいになっても、部屋中に充満付着した悪臭は簡単には片付かない。
とりあえず、依頼者を部屋に入れるための急場しのぎで、応急の悪臭対策を施しておいた。

しばらくすると、玄関前に依頼者(故人の夫)が現れた。
「やっかいなことをお願いして、申し訳ありません」
社会的にも責任ある立場らしく、礼儀正しい紳士的な人物だった。

私は、当初の中の様子と作業内容、現在の状況を伝えた。
男性は、冷静に受け答えをしながらも、神妙な面持ちで私の話を聞いていた。

男性は、仕事の都合で長く単身赴任しているらしく、女性が倒れたことも亡くなったことも全く気づかずにいたらしい。
「気づいた時は、既に腐乱していた」
と言う訳だった。

「妻は、元気にやってるとばかり思ってました・・・連絡がないのは無事な証拠と勘違いして・・・」
「私が一緒にいれば、妻はこんな死に方をしなくて済んだはず・・・」
そうボヤく男性に、私は返す言葉がなかった。

私には関係ないことだったが、二人の間に子供がいないのか尋いてみた。
すると、二人の娘さんがいた。
二人とも外国に留学中で、葬式のときだけ帰国し、この家には一歩も入らないまま戻って行ったらしかった。
母親の最期の姿を見ることもなかったとのこと。

一通りの話を終えて、私は男性と部屋の中に入ることにした。
まるで自分の家に入るかのような私と、その逆に、他人の家にでも入るかのように遠慮がちな男性が変に対照的だった。

最初に比べたら随分マシになったとは言え、中はまだ臭かった。
素人の男性にはキツかったかもしれない。

男性は、台所にたまったゴミと無数のワイン空瓶を見つけて、
「これはここのゴミですか?」
と、変な質問をしてきた。
「もちろん、はじめからここにありました」

男性は驚いた様子で
「本当ですか?妻はきれい好きだったし、酒は飲めなかったはずなのに・・・こんな生活をしていたとは・・・」
と呆然と呟いた。

酒飲みの気持ちは、私も分かる。
酒というヤツは、舌が欲しがる時と胃が欲しがる時がある。
そして、心が欲しがることも。

実際、故人がどうだったかは知らない。
ただ、
「心が酒を欲しがってたんじゃないかなぁ」
と、例によっての勝手な想像を巡らせた。
そして、
「故人が本当に欲しかったのは、家族との暮らしだったんじゃないかな」
とも。

男性は、黙ったままジッとゴミとワイン空瓶を見つめていた。
「どうして、こんなことになってしまったんだろう」

自分から仕事をとったら何も残らないような生き方をしている男性諸氏は多いのではないだろうか。
「仕事と家族(家庭)、どっちが大事?」
なんてことは愚問であることは承知している。
この二つを比べること自体がナンセンス。
究極的には家族(家庭)の方が大事なんだろうけど、平時では両方とも大事なものだ。
それなのに、明らかに仕事の方を大事にしている人が多いような気がする。

自分の名誉や欲のために働いているのに、「家族のために働いて(やって)いる」と錯覚(責任転嫁)している独善的な企業戦士に心当たりない?
それが、本当に家族のためになってればいいけどね。

「愛」の対極にあるのは「無関心」。
自分は家族に無関心、家族も自分に無関心だとすると、何だか寂しいね。
一概には言えないけど、もっとお互いに関心を持ち合えば、孤独死や自殺、死体の腐乱を減らせるんじゃないだろうか。
そんな気がする。

「助かりました・・・わずかですが・・・」
別れ際、男性は私にチップをくれた。
本当は受け取りたいのに、社交辞令で一旦は固辞。
結局は、ありがたく頂戴して現場をあとにした。

その日の帰り道、もらったチップで酒を買う私だった。






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