花って、その多くが暖かい季節に咲くのだろうが、暗く寒い冬にもきれいに咲く花もある。
歳を食ってくると、そんな些細なことにも気持ちが動くようになる。
それは、決して悪いことではなく、感性が豊かになっているものと自分では歓迎している。
もともと私は、花を愛でるような感性を持ち合わせている人間ではなかった。
「好きな花は?」
と尋かれても、
「桜・・・くらいかな」
と、中途半端に答えるのみ(桜って、花?樹?)。
現実主義と言うか、味気ないと言うか・・・子供の頃から、そんな情緒を育むことなく大人になった。
そんな具合いだから、誰かへのプレゼントならまだしも、お金を出して自分のために花を買うなんて価値観はとても理解できなかったし、街中にある花屋の存在も不思議に思えていた。
「花屋って、商売になるんだろうか」
「花を買う人なんか、そんなにいるもんじゃないだろ」
なんてね。
最近の葬式の傾向として、花だけで祭壇を作る「花祭壇」が増えている。
しかも、地味な白菊ばかりじゃなく、ひと昔前は葬式にはタブーとされていたようなカラフルな花も大胆に使われるようになってきている。
そんな花祭壇は見た目にきれいなだけでなく、色とりどりの花々が葬式の悲哀を和らげてくれるのかもしれない。
そして、葬式の最後には、その花々は遺族が想いを込めて柩に納める。
たくさんの花に埋もれていく遺体を見ていると、
「こんなに埋められちゃ、故人も苦笑いしてるかもな」
等と思って気持ちが微笑む。
特掃の依頼が入った。
依頼してきたのは、マンションのオーナー。
亡くなったのは、若い男性。
行年が若いとすぐに自殺を想像してしまう私だが、ここの故人は自然死だった。
この故人もまた、誰かに早めに気づいてもらえていれば、腐乱を免れたはず。
たったそれだけのきっかけが、その後を大きく変えてしまう。
人に感心されなくても、関心を持ってもらえるくらいの生き方は大切かもね。
「なかなかいい場所に建ってるな」
現場は、賑やかな街中に建つ、高級感のある建物だった。
依頼者は、現場とは別の階に自営のオフィスを構えていた。
私は、先にそこへ行き挨拶。
何の商売だか分からなかったけどお洒落なオフィスで、依頼者も品のある紳士だった。
依頼者によると、部屋は一通りの片付け・清掃が済んでいるらしかった。
ただ、ヒドイ悪臭が残っているとのこと。
私がただの掃除屋ではないことを話すと、感嘆の声をあげ、にわかに信じ難い様子。
「ただの掃除屋が、たまに特掃をやることがある」
くらいに思っていたらしい。
でも、実際はその逆。
「特掃屋が、たま~にただの掃除をやることがある」
と言うのが現実。
私の仕事に興味を覚えた依頼者は、この現場に関係ない質問を幾つもしてきた。
私はお喋りに来た訳ではないので、
「詳しい話は、まず現場を見てから」
と、話に花が咲く前に現場の鍵を借りてオフィスを出た。
そして、更に上階にある現場の部屋に向かった。
玄関ドアを開けると、毎度お馴染みの腐乱臭。
依頼者の許可を得ていたので、土足のまま上がり込んだ。
「片付け・清掃済み」
と言われる現場でも、実際はかなり中途半端な状態で放置されていることがほとんど。
しかし、この現場は依頼者の言葉通りに荷物も片付いており、見た目はきれいになっていた。
「なるほど・・・誰がやったのか知らないけど、なかなか上手に掃除できてるな」
ただ、部屋には市販の消臭芳香剤が数個置いてあり、片付け・清掃をやったのが素人であることは明らかだった。
また、残留している濃い腐乱臭が、片付く前の状態がかなり酷かったであろうことを想像させた。
私は、床・壁・天井をグルグルと見回した。
パッと見は特段の問題は見当たらず。
しかし、床の一部と隅に若干の汚染痕が残っているのを発見。
素人目には分からないかもしれないけど、私にはハッキリ分かった。
「これだな」
私は、床にしゃがみ込んでジックリ観察。
フローリングの木目には故人の一部が入り込んでおり、私の目はその面積を追った。
「かなり広がってるな」
汚染痕は結構な広がりをみせていた。
そして、腐敗液が床板の下まで浸透している可能性が大きいと判断。
「こりゃ、まずいパターンかもな・・・」
頭の中に、悪い状況が思い浮かんだ。
つづく
公開コメントはこちら
特殊清掃プロセンター
遺品処理・回収・処理・整理、遺体処置等通常の清掃業者では対応出来ない
特殊な清掃業務をメインに活動しております。
歳を食ってくると、そんな些細なことにも気持ちが動くようになる。
それは、決して悪いことではなく、感性が豊かになっているものと自分では歓迎している。
もともと私は、花を愛でるような感性を持ち合わせている人間ではなかった。
「好きな花は?」
と尋かれても、
「桜・・・くらいかな」
と、中途半端に答えるのみ(桜って、花?樹?)。
現実主義と言うか、味気ないと言うか・・・子供の頃から、そんな情緒を育むことなく大人になった。
そんな具合いだから、誰かへのプレゼントならまだしも、お金を出して自分のために花を買うなんて価値観はとても理解できなかったし、街中にある花屋の存在も不思議に思えていた。
「花屋って、商売になるんだろうか」
「花を買う人なんか、そんなにいるもんじゃないだろ」
なんてね。
最近の葬式の傾向として、花だけで祭壇を作る「花祭壇」が増えている。
しかも、地味な白菊ばかりじゃなく、ひと昔前は葬式にはタブーとされていたようなカラフルな花も大胆に使われるようになってきている。
そんな花祭壇は見た目にきれいなだけでなく、色とりどりの花々が葬式の悲哀を和らげてくれるのかもしれない。
そして、葬式の最後には、その花々は遺族が想いを込めて柩に納める。
たくさんの花に埋もれていく遺体を見ていると、
「こんなに埋められちゃ、故人も苦笑いしてるかもな」
等と思って気持ちが微笑む。
特掃の依頼が入った。
依頼してきたのは、マンションのオーナー。
亡くなったのは、若い男性。
行年が若いとすぐに自殺を想像してしまう私だが、ここの故人は自然死だった。
この故人もまた、誰かに早めに気づいてもらえていれば、腐乱を免れたはず。
たったそれだけのきっかけが、その後を大きく変えてしまう。
人に感心されなくても、関心を持ってもらえるくらいの生き方は大切かもね。
「なかなかいい場所に建ってるな」
現場は、賑やかな街中に建つ、高級感のある建物だった。
依頼者は、現場とは別の階に自営のオフィスを構えていた。
私は、先にそこへ行き挨拶。
何の商売だか分からなかったけどお洒落なオフィスで、依頼者も品のある紳士だった。
依頼者によると、部屋は一通りの片付け・清掃が済んでいるらしかった。
ただ、ヒドイ悪臭が残っているとのこと。
私がただの掃除屋ではないことを話すと、感嘆の声をあげ、にわかに信じ難い様子。
「ただの掃除屋が、たまに特掃をやることがある」
くらいに思っていたらしい。
でも、実際はその逆。
「特掃屋が、たま~にただの掃除をやることがある」
と言うのが現実。
私の仕事に興味を覚えた依頼者は、この現場に関係ない質問を幾つもしてきた。
私はお喋りに来た訳ではないので、
「詳しい話は、まず現場を見てから」
と、話に花が咲く前に現場の鍵を借りてオフィスを出た。
そして、更に上階にある現場の部屋に向かった。
玄関ドアを開けると、毎度お馴染みの腐乱臭。
依頼者の許可を得ていたので、土足のまま上がり込んだ。
「片付け・清掃済み」
と言われる現場でも、実際はかなり中途半端な状態で放置されていることがほとんど。
しかし、この現場は依頼者の言葉通りに荷物も片付いており、見た目はきれいになっていた。
「なるほど・・・誰がやったのか知らないけど、なかなか上手に掃除できてるな」
ただ、部屋には市販の消臭芳香剤が数個置いてあり、片付け・清掃をやったのが素人であることは明らかだった。
また、残留している濃い腐乱臭が、片付く前の状態がかなり酷かったであろうことを想像させた。
私は、床・壁・天井をグルグルと見回した。
パッと見は特段の問題は見当たらず。
しかし、床の一部と隅に若干の汚染痕が残っているのを発見。
素人目には分からないかもしれないけど、私にはハッキリ分かった。
「これだな」
私は、床にしゃがみ込んでジックリ観察。
フローリングの木目には故人の一部が入り込んでおり、私の目はその面積を追った。
「かなり広がってるな」
汚染痕は結構な広がりをみせていた。
そして、腐敗液が床板の下まで浸透している可能性が大きいと判断。
「こりゃ、まずいパターンかもな・・・」
頭の中に、悪い状況が思い浮かんだ。
つづく
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