関東の梅雨は明けた。
青い空に白い雲、ギラギラと照りつける太陽・・・
酷暑に身が焼かれ、猛暑に精神が蒸される、本格的な夏だ。
「寒さは、着込めばしのげる」
「でも、暑さに対して、裸以上に脱ぐことはできない」
「だから、夏より冬の方がいい」
数年前まではそう言って、夏より冬を好んでいた私。
しかし、精神的なこと(冬鬱)が影響して、ここ数年は、冬より夏の方が好きになっている。
そうは言っても、夏は暑くて・・・暑過ぎて大変。
せめて、30℃くらいまでで勘弁してくれればいいのに、日や所によっては体温を上回る。
しかし、地上に生きている限り炎天から逃げる術はなく、自然に対して無力な人間の知恵を駆使して、ひたすら耐えるしかない。
そんな夏は、汗の季節でもある。
暑さに対して、身体は汗をかく。
身体を動かさなくても、炎天下に身を置くだけで、汗が滲み出る。
これは、体温を下げるために出るのだろうが、目的はそれだけではなく、身体の老廃物を排出する役割もある。
だから、汗をかくことは、不快なことであっても、身体にいいことでもある。
ただ、この頃は、暑くても汗をかけない人が増えているよう。
子供の頃から、空調の整った環境で過ごしているせいで、身体の体温調節機能が発達しないことが原因らしい。
身体を大切にすることはいいことだけど、あまり過保護にすると、結局、身体に悪いことになってしまうから注意しないといけない。
〝発汗〟の代表格は、やはり、サウナか。
私の回りにも〝サウナ好き〟が結構いる。
苦悶の表情で時間を計り、ギリギリまで我慢・・・
それから、冷水に浸かって急冷却・・・
まるで何かの修行のように、それを何度も繰り返す。
しかし、そんな荒行をして、身体は大丈夫なのだろうか・・・
それとも、健康気分が味わえればそれでよく、実際の健康なんてどうでもいいのだろうか・・・
私には、よく理解できない。
そんな私も、今まで、サウナに2~3回入ったことがある。
サウナにも種類が色々あるそうで、私が入ったのはどの類だったのかわからないけど、あの熱さには1分と耐えられなかった。
100℃近くを指している温度計を見ただけで、ゾゾーッと悪寒。
「機械が壊れて、温度が際限なく上昇することはないのだろうか・・・」
「何かの間違いで、扉が開かなくなるようなことなないのだろうか・・・」
等と、心配事は尽きず・・・
独特の恐怖感を覚えて、汗をかく前に鳥肌が立ってしまうような始末だった。
ま、どちらにしろ、〝心臓の弱い人は入らないで下さい〟と注意書があるように、〝心臓〟の弱い私には向かない代物である。
暑ければ暑いほど、現場作業は過酷。
本物のサウナに比べたら温度は低いけど、夏の特掃現場もある種のサウナ状態。
更に、暑さは、遺体の腐敗損傷を深刻化させ、現場の衛生環境を極めて劣悪なものにしてしまう。
だから、暑ければ暑いほど、特掃魂は震える。
〝武者震い〟と時もたまにあるけど、大方は〝臆病者震い〟。
身体は熱いのに、気持ちは寒々と震える。
また、ほとんどの腐乱死体発生現場は、ハンパではない悪臭を放っている。
それは、近所に迷惑をかけるので、安易に窓やドアを開けられない。
だから、必然的に、密室での作業になる。
それが、どれだけ暑くて、どれだけ不衛生かは、想像に難くないと思うが、とにかく過酷な環境なのである。
「立派なマンションだなぁ・・・」
現場は、高級マンションの一室。
故人は、そこの浴室で亡くなっていたとのことだった。
「暑いだろうな・・・」
外は、うだるような暑さ。
そこにきて、部屋は何日も密閉。
室内温度は上昇しているはずて、暑くて仕方がないのに寒気がするような、変な感覚に囚われながら玄関の前に立った。
「うへ・・・」
玄関を開けると、熱くて臭い空気が噴出。
その熱と悪臭には、腹筋をヘタらせるくらいの力があった。
「ヤバ・・・」
長く玄関を開けていると、近所迷惑になってしまう。
マンション等の集合住宅なら尚更。
私は、狼狽える間も持たず、玄関ドアをくぐった。
「どこ?」
室内は、高級マンションらしく、広々。
内装も、重厚な雰囲気。
許可を得て立ち入ったにも関わらず、そこには、何とも言えない居心地の悪さがあり・・・
私は、急く気持ちを抱えながら、故人が最期にいた浴室を探して廊下を進んだ。
「ここか・・・」
広い洗面所の奥に、浴室を発見。
私は、その扉の前に立ち、一時停止。
不快な緊張感を、次に進む勢いに無理矢理変えた。
「ウハッ!・・・」
意を決して浴室の扉を開けると、中からは熱い空気が噴出。
私は、その熱に面食らって、思わず後退りした。
「結構、きてるな・・・」
浴室内は高温で、しかも、高濃度の悪臭が充満。
ニオイって、目に見えるものではないのに、私には、空気が黄土色に濁っているように感じられた。
「豪華なのはいいけど・・・」
広い浴室に、大きなバスタブ。
壁面の一部は、ガラス。
そこから、日光が差し込み、浴室内の温度を上昇させていた。
「アチ・・・」
そこは、まさにサウナ状態。
おまけに、元人間が同室・・・
何も作業していないうちから、不快な脂汗と冷汗が全身をジットリ湿らせた。
「これか・・・」
浴槽をのぞき込むと、故人の元身体は、底の方に滞留。
粘土状のそれはウジの餌と化し、ムズムズと不気味に蠢いていた。
「マシな方か・・・」
故人は、浴槽に入っていたらしかったが、湯(水)は溜まっておらず。
あちこちに腐敗液・毛髪・皮膚が付着していたが、とにかく、浴槽に水が溜まっていなかっただけでも、私にとっては幸いなことだった。
「警察も、大変だよな・・・」
浴槽から扉に向かって、幾本もの腐敗液の筋。
警察が、浴槽から遺体を引きずり出した痕が、グロテスクな模様をつくっていた。
亡くなったのは、初老の女性。
夫や子はおらず、近い身内は、妹と甥。
その二人が、特掃の依頼者だった。
故人は、今で言うキャリアウーマン。
かつては、小さな会社を経営。
その仕事ぶりは熱心で、夜となく昼となく、休みもロクに取らず働き続けた。
勤勉の甲斐あって、収入は高水準。
ただ、その暮らしぶりはいたって質素。
高慢になることも、贅沢や遊興に大金を遣うこともなく、コツコツと貯蓄に励んだ。
そんな生活を何十年も続け、社業引退と同時にマンションを購入。
住宅ローンは組まず、すべて自己資金で。
そして、それを機に、故人は遺言書を用意。
子がないゆえ、残された親族が困らないようにするためだった。
晩年の暮らしは、建物に似合わず慎ましく質素。
それでも、その表情は、喜びに満ち、何かにつけ、人生や命に対する喜びと感謝の気持ちを口にした。
そして、数年の時を経て、一人静かな最期を迎えたのだった。
故人は、汗の結晶として、目に見える大きな財産を手に入れた。
しかし、その生き様と晩年の人柄からは、故人がそれよりももっと大切で大きなものを手に入れていたことが想像できた。
そして、それによって、私の弱い心が励まされたような気がした。
汗をかくのって、しんどいことが多い。
だから、〝どうやったら汗をかかないで生きていけるのか・・・〟なんて、そんなことばかり考え、少しでも汗をかかなくて済みそうな道を選ぼうとする。
しかし、その志向を強めれば強めるほど、余計に汗をかくことになる。
面白いことに、人生とは、そんなもの。
汗、それ自体はきれいなものじゃないかもしれないけど、その実は美しいものである。
汗をかくこと、その様はきれいなものじゃないかもしれないけど、その実は美しいものである。
生きている証、生きようとしている証だから。
この夏も、何十リットル・・イヤ、何百リットルもの汗をかくことになるだろう・・・
ヘバることも、メゲることもあるだろう・・・
正直なところ、あまり汗をかきたくない気持ちはあるけど、どうせ変えられない道ならば、開き直って大汗をかいてやろうと思う。
そこで汚れた老廃物をタップリ出せば、少しは人間をきれいにできるかもしれないから。
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青い空に白い雲、ギラギラと照りつける太陽・・・
酷暑に身が焼かれ、猛暑に精神が蒸される、本格的な夏だ。
「寒さは、着込めばしのげる」
「でも、暑さに対して、裸以上に脱ぐことはできない」
「だから、夏より冬の方がいい」
数年前まではそう言って、夏より冬を好んでいた私。
しかし、精神的なこと(冬鬱)が影響して、ここ数年は、冬より夏の方が好きになっている。
そうは言っても、夏は暑くて・・・暑過ぎて大変。
せめて、30℃くらいまでで勘弁してくれればいいのに、日や所によっては体温を上回る。
しかし、地上に生きている限り炎天から逃げる術はなく、自然に対して無力な人間の知恵を駆使して、ひたすら耐えるしかない。
そんな夏は、汗の季節でもある。
暑さに対して、身体は汗をかく。
身体を動かさなくても、炎天下に身を置くだけで、汗が滲み出る。
これは、体温を下げるために出るのだろうが、目的はそれだけではなく、身体の老廃物を排出する役割もある。
だから、汗をかくことは、不快なことであっても、身体にいいことでもある。
ただ、この頃は、暑くても汗をかけない人が増えているよう。
子供の頃から、空調の整った環境で過ごしているせいで、身体の体温調節機能が発達しないことが原因らしい。
身体を大切にすることはいいことだけど、あまり過保護にすると、結局、身体に悪いことになってしまうから注意しないといけない。
〝発汗〟の代表格は、やはり、サウナか。
私の回りにも〝サウナ好き〟が結構いる。
苦悶の表情で時間を計り、ギリギリまで我慢・・・
それから、冷水に浸かって急冷却・・・
まるで何かの修行のように、それを何度も繰り返す。
しかし、そんな荒行をして、身体は大丈夫なのだろうか・・・
それとも、健康気分が味わえればそれでよく、実際の健康なんてどうでもいいのだろうか・・・
私には、よく理解できない。
そんな私も、今まで、サウナに2~3回入ったことがある。
サウナにも種類が色々あるそうで、私が入ったのはどの類だったのかわからないけど、あの熱さには1分と耐えられなかった。
100℃近くを指している温度計を見ただけで、ゾゾーッと悪寒。
「機械が壊れて、温度が際限なく上昇することはないのだろうか・・・」
「何かの間違いで、扉が開かなくなるようなことなないのだろうか・・・」
等と、心配事は尽きず・・・
独特の恐怖感を覚えて、汗をかく前に鳥肌が立ってしまうような始末だった。
ま、どちらにしろ、〝心臓の弱い人は入らないで下さい〟と注意書があるように、〝心臓〟の弱い私には向かない代物である。
暑ければ暑いほど、現場作業は過酷。
本物のサウナに比べたら温度は低いけど、夏の特掃現場もある種のサウナ状態。
更に、暑さは、遺体の腐敗損傷を深刻化させ、現場の衛生環境を極めて劣悪なものにしてしまう。
だから、暑ければ暑いほど、特掃魂は震える。
〝武者震い〟と時もたまにあるけど、大方は〝臆病者震い〟。
身体は熱いのに、気持ちは寒々と震える。
また、ほとんどの腐乱死体発生現場は、ハンパではない悪臭を放っている。
それは、近所に迷惑をかけるので、安易に窓やドアを開けられない。
だから、必然的に、密室での作業になる。
それが、どれだけ暑くて、どれだけ不衛生かは、想像に難くないと思うが、とにかく過酷な環境なのである。
「立派なマンションだなぁ・・・」
現場は、高級マンションの一室。
故人は、そこの浴室で亡くなっていたとのことだった。
「暑いだろうな・・・」
外は、うだるような暑さ。
そこにきて、部屋は何日も密閉。
室内温度は上昇しているはずて、暑くて仕方がないのに寒気がするような、変な感覚に囚われながら玄関の前に立った。
「うへ・・・」
玄関を開けると、熱くて臭い空気が噴出。
その熱と悪臭には、腹筋をヘタらせるくらいの力があった。
「ヤバ・・・」
長く玄関を開けていると、近所迷惑になってしまう。
マンション等の集合住宅なら尚更。
私は、狼狽える間も持たず、玄関ドアをくぐった。
「どこ?」
室内は、高級マンションらしく、広々。
内装も、重厚な雰囲気。
許可を得て立ち入ったにも関わらず、そこには、何とも言えない居心地の悪さがあり・・・
私は、急く気持ちを抱えながら、故人が最期にいた浴室を探して廊下を進んだ。
「ここか・・・」
広い洗面所の奥に、浴室を発見。
私は、その扉の前に立ち、一時停止。
不快な緊張感を、次に進む勢いに無理矢理変えた。
「ウハッ!・・・」
意を決して浴室の扉を開けると、中からは熱い空気が噴出。
私は、その熱に面食らって、思わず後退りした。
「結構、きてるな・・・」
浴室内は高温で、しかも、高濃度の悪臭が充満。
ニオイって、目に見えるものではないのに、私には、空気が黄土色に濁っているように感じられた。
「豪華なのはいいけど・・・」
広い浴室に、大きなバスタブ。
壁面の一部は、ガラス。
そこから、日光が差し込み、浴室内の温度を上昇させていた。
「アチ・・・」
そこは、まさにサウナ状態。
おまけに、元人間が同室・・・
何も作業していないうちから、不快な脂汗と冷汗が全身をジットリ湿らせた。
「これか・・・」
浴槽をのぞき込むと、故人の元身体は、底の方に滞留。
粘土状のそれはウジの餌と化し、ムズムズと不気味に蠢いていた。
「マシな方か・・・」
故人は、浴槽に入っていたらしかったが、湯(水)は溜まっておらず。
あちこちに腐敗液・毛髪・皮膚が付着していたが、とにかく、浴槽に水が溜まっていなかっただけでも、私にとっては幸いなことだった。
「警察も、大変だよな・・・」
浴槽から扉に向かって、幾本もの腐敗液の筋。
警察が、浴槽から遺体を引きずり出した痕が、グロテスクな模様をつくっていた。
亡くなったのは、初老の女性。
夫や子はおらず、近い身内は、妹と甥。
その二人が、特掃の依頼者だった。
故人は、今で言うキャリアウーマン。
かつては、小さな会社を経営。
その仕事ぶりは熱心で、夜となく昼となく、休みもロクに取らず働き続けた。
勤勉の甲斐あって、収入は高水準。
ただ、その暮らしぶりはいたって質素。
高慢になることも、贅沢や遊興に大金を遣うこともなく、コツコツと貯蓄に励んだ。
そんな生活を何十年も続け、社業引退と同時にマンションを購入。
住宅ローンは組まず、すべて自己資金で。
そして、それを機に、故人は遺言書を用意。
子がないゆえ、残された親族が困らないようにするためだった。
晩年の暮らしは、建物に似合わず慎ましく質素。
それでも、その表情は、喜びに満ち、何かにつけ、人生や命に対する喜びと感謝の気持ちを口にした。
そして、数年の時を経て、一人静かな最期を迎えたのだった。
故人は、汗の結晶として、目に見える大きな財産を手に入れた。
しかし、その生き様と晩年の人柄からは、故人がそれよりももっと大切で大きなものを手に入れていたことが想像できた。
そして、それによって、私の弱い心が励まされたような気がした。
汗をかくのって、しんどいことが多い。
だから、〝どうやったら汗をかかないで生きていけるのか・・・〟なんて、そんなことばかり考え、少しでも汗をかかなくて済みそうな道を選ぼうとする。
しかし、その志向を強めれば強めるほど、余計に汗をかくことになる。
面白いことに、人生とは、そんなもの。
汗、それ自体はきれいなものじゃないかもしれないけど、その実は美しいものである。
汗をかくこと、その様はきれいなものじゃないかもしれないけど、その実は美しいものである。
生きている証、生きようとしている証だから。
この夏も、何十リットル・・イヤ、何百リットルもの汗をかくことになるだろう・・・
ヘバることも、メゲることもあるだろう・・・
正直なところ、あまり汗をかきたくない気持ちはあるけど、どうせ変えられない道ならば、開き直って大汗をかいてやろうと思う。
そこで汚れた老廃物をタップリ出せば、少しは人間をきれいにできるかもしれないから。
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