現在自転車の主な素材はアルミ、カーボン、スチールの3つでしょう。一部チタンやマグネシウム合金の素材もありますがまだまだ少数派です。チタンに関してはDURA-ACEなどのコンポーネントやハブなどにも利用され始めています。ただ、自転車のフレームやフォークに限れば低価格モデルではアルミが、中高級モデルではカーボンが採用されているのが実情でしょう。
スチールやアルミは金属ですが、カーボンは合成樹脂です。合成樹脂の代表がプラスチックですが、カーボンはスチールやアルミのような金属ではなくプラスチックと同じ合成樹脂に分類されます。自転車のみならず自動車や航空機などにも多く使用されているカーボンは正式にはCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics:炭素繊維強化プラスチック)と呼ばれています。
繊維強化プラスチック(Fiber Reinforced Plastics、FRP)は、ガラス繊維などの繊維をプラスチックの中に入れて強度を向上させた複合材料のことです。プラスチックは軽量ですが、弾性率が低く構造用材料としては適していません。そこで、ガラス繊維のように弾性率の高い材料との複合材料として、軽量で強度の高い、つまり比強度の大きな材料として用いられています。強化材にガラス繊維の替わりに炭素繊維を用いたものがCFRP(炭素繊維強化プラスチック)です。
CFRPは炭素繊維を熱硬化樹脂に浸し、加熱して固めて作られます。一般的にカーボンと言われているのものの原型は炭素繊維です。炭素繊維は、文字通り炭素からなる繊維です。炭素の含有量は標準弾性率の炭素繊維で90%以上、高弾性率の炭素繊維ではほぼ100%が炭素となります。炭素以外の主な元素は窒素です。素繊維は、ポリアクリロニトリル(PAN)繊維あるいはピッチ繊維といった有機繊維を不活性雰囲気中で蒸し焼きにし、炭素以外の元素を脱離させて作ります。市販されている炭素繊維の90%以上は、PAN繊維を原料とするPAN系炭素繊維ですが、これは性能とコスト、使い易さなどのバランスがピッチ系炭素繊維に比べて優れているためです。
物質の重さは,密度(g/cm3)によって表されます。密度は物質を構成する原子の重さ(原子量)とその原子がどのように配列しているか(結晶系)などによって決まります。例えば、私たちの近くにある金属では、アルミニウムの原子量が27.0、鉄が55.8、金が197.0です。一方、炭素の原子量は12.0と金属原子の原子量と比べ、1/2~1/10以下です。また、結晶系によっても密度が変わります、同じ炭素原子から出来ていても、ダイヤモンドの密度が3.52g/cm3、黒鉛の密度が2.25g/gm3と密度が異なります。これは炭素原子の配列の仕方により炭素原子間に隙間が異なるためで、ダイヤモンドに比べ黒鉛結晶の隙間が大きいためです。炭素繊維は黒鉛結晶が配列することによりで来ているため,金属と比べて軽いこと分ると思います。
また、炭素繊維は、前述の黒鉛結晶が配列することにより出来ています。黒鉛は、ベンゼン環が縮合した六角網平面が積み重なった構造をしています。積み重なり方向の結合は、分子間力という非常に弱い力なので簡単に剥がれてしまいます。一方、六角網平面内での炭素原子は、3方向の炭素原子と互いに強固な共有結合で繋がれているため、網平面方向の引っ張り強度が非常に強いことがおわかりいただけると思います。(ダイヤモンドが硬いのは全ての炭素原子が共有結合のみで結びついているためです。)以上より、炭素繊維が軽いのは黒鉛結晶の隙間が大きいためであり、炭素繊維が強いのは、黒鉛結晶の有する網平面方向の強度が反映されたためです。
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