ポガチャルのWツール制覇を考える(9)

　ツール・ド・フランス・ファムでは1度登場していた未舗装路の「白い道」が男子のツールで初めて登場した第9ステージでは、攻めるポガチャルに対し防御に徹したヴィスマがタイム差を守り切ることになりました。グラベルの経験の少ないヴィンゲゴーやエヴェネプール、ログリッジに対し今年のストラーデ・ビアンケを80km超えの独走で勝利したポガチャルなら、タイム差が付くはずと見ていましたが、ヴィンゲゴーはチーム力で、エヴェネプールとログリッジは自力でなんとかポガチャルの攻撃をしのぎ切ったという印象でした。

　ポガチャルが総合上位陣に対しタイム差を付けるチャンスを何度か作ったものの、エヴェネプールは予想以上のグラベル区間の走りを見せ、ヴィンゲゴーはチームの強力なアシストを受けて耐えきってみせたのです。一度は遅れかけたログリッジはほとんどTV画面に映し出されることはありませんでしたが、タイム差なしの集団でゴールしていました。
　優勝候補の筆頭に名前が挙がっていたファンデルプールは調子が上がり切っていないようです。春先のクラシックレースでの強さがすっかり影を潜めてしまっているのです。オリンピックに縁のない選手がいるもので、ファンデルプールは東京五輪のMTBのクロスカントリーで金メダルの最有力候補と言われながら、スタート直後の落車でリタイヤしているのです。今年もパリ五輪でロードレースに挑むのですが、果たしてメダルに手が届くのか、少し気がかりではあります。

　驚いたのはエヴェネプールのグラベルの走りでした。経験はほとんどないはずなのですが、コースの念入りな試走をしていたようで、一瞬ポガチャルを引き離すシーンまで見せてくれました。後はどの程度登れるかが彼にとっての最大のポイントとなりそうです。山岳もこなせるとなると、ポガチャルにとっては最大のライバルになるかもしれません。
　ヴィンゲゴーに関しては、このステージでパンクに見舞われ、チームメイトのバイクで走り切りました。この辺りのヴィスマのチームワークは素晴らしいものがあります。一度はポガチャルに差をつけられそうになった時も、ヨルゲンソンの献身的なアシストで事なきを得ています。ファンアールトも献身的なアシストを何度も見せていました。チームとしてエヴェネプールとのタイム差を詰めてくるものと見ていましたが、ヴィンゲゴーのパンク等もあり、無理はしなかった感じです。

　この日、最もストレスを感じていたのはポガチャルでしょう。ここ数日はポガチャル本来の笑顔が見られません。昨年までと違ってマイヨジョーヌを着て2週目を迎えることになるのですが、TTや今回のグラベルの走りに満足していない感じがします。確かにジロと比べれば思うようにタイム差を広げられていないのも事実です。ただ、ジロとはメンバーのレベルが明らかに違うのですから、このタイム差でも上にいることを良しとするべきでしょう。ポガチャルも頭では分かっていると思いますが、気持ちの面で何かスッキリていないのかもしれません。
　引きずるタイプではないので、休養日明けはリフレッシュして臨めると思っていますが、昨年は休養日明けにバッドデーが来ているので、休養日の過ごし方にも十分注意が必要でしょう。幸い2週目は平坦ステージで幕を開けるので、ポイントとなるのは第11ステージの中央山塊になるでしょう。アップダウンの続くこのステージは頂上ゴールではないもののポガチャル向きのコースレイアウトになっています。ただ、大きなタイム差が付くなら第14ステージから始まるピレネーになるのでしょうが、第11ステージで2勝目を挙げて気持ち良くピレネーに挑めるのか、それとも、ここでも大きなタイム差が生まれないままなのか？
　ヴィスマは勝負は3週目のアルプスと最終日のTTに絞っているはずです。ただ、予想以上にエヴェネプールが強いことが分かったので、ポガチャルのマンマークでは済まなくなっています。加えて、山岳でのアシストの薄さは変わらないので、最終週を迎える前に決定的な差が付いていることもあるのです。
　第9ステージではポガチャルのパンチを上手くヴィスマにガードされた感はありますが、攻撃は最大の防御でもあるので、とにかく攻撃の手を止めない事です。平地では心もとないアシスト勢も山岳ならその強烈な力を発揮してくれるはずです。ポガチャルは自分の力とチームの力を信じて、最終日のTTまでに2位に2分以上のタイム差を確実に付けておくことに注力して欲しいと思っています。

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