かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 85

2023-08-06 08:28:07 | 短歌の鑑賞

         右が横浜ランドマークタワー


 2023年版渡辺松男研究⑪(2014年1月)
    【精神現象学】『寒気氾濫』(1997年)40頁~
     参加者:崎尾廣子、鈴木良明、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:鈴木良明 司会と記録:鹿取 未放
       

85 八方から意馬心猿(いばしんえん)のごときもの圧力はビルを高く高くす

    (レポート)
 「みなとみらい」地区のシンボルとしての横浜ランドマークタワー、一九九三年(平成五年)に完成したが、日本一の高さのビルで二九六m。その形からして、八方からの圧力が高く高くしてきたように見えるが、作者は、その圧力の源として、「意馬心猿のごときもの」と詠む。意馬心猿とは、仏教用語で、「煩悩・欲情・妄念の抑えがたいのを、奔走する馬やさわぎたてる猿の制止がたいのに例えていう語」である。そのような人間の煩悩・欲情等が高いビルとしての物を生みだしたとする捉え方は、ヘーゲルの『精神現象学』のなかでの見方(※)に繋がるものでもあり、この歌を揺るぎないものにしている。(鈴木)
 ※「精神現象学」は「観念論の立場に立って、意識から出発し、弁証法によって発展し続けることにより現象の背後にある物自体を認識し、主観と客観が統合された絶対的精神になるまでの過程を段階的に記述したもの」、である。この見方に直接触れている部分は、「力が可視的な質量をとおして外へと現れ出て、目にみえるようになる。この運動がすなわち外化といわれる。われわれの目に見えている物質の姿形は、力が表出したものにほかならない。」
  (『ヘーゲル「精神現象学」入門』(加藤尚武編 講談社学術文庫 P八八)

     (当日発言)
★この一連、ビルの名を直接詠んだものは無い。ただ87番歌に「高さ二百七十三メー
 トルに働くおみなあり新竹のごときしなやかな脛」と出てくることと、この歌集出版
 が1997年であることを考えると、この歌は横浜ランドマークタワーを念頭に置い
 たものなのだろう。
  レポートに引用されているヘーゲルの言葉はいきなり読んでもきちんと理解できな
 いんだけど、鈴木さんの解釈の方はよく分かります。人間の欲望とか経済最優先の現
 状とか政治的な思惑とか、そういうものがよってたかってみなとみらいのビルを高く
 高く押し上げたんですね。そういう人間達の全ての欲望、行動様式全部ひっくるめて
 「意馬心猿」って作者は捉えてるんですよね。その把握力というか発想がすごいです
 ね。(鹿取)



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