かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『泡宇宙の蛙』の一首鑑賞 207

2022-12-12 10:51:06 | 短歌の鑑賞
  2022年度版 渡辺松男研究2の27(2019年9月実施)
     Ⅳ〈蟬とてのひら〉『泡宇宙の蛙』(1999年)P133~
     参加者:泉真帆、岡東和子、A・K、菅原あつ子(紙上参加)、
         渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:泉真帆、渡部慧子    司会と記録:鹿取未放


207 湯のそこにいつまでも沈みたくなりぬ吾はひとつぶの錫のつめたさ

      (レポート①)
 作者自身を一粒の錫とたとえ、そのつめたさを言い、いつまでも沈みたくなりぬと詠う。錫という響き、そのイメージが美しく、何か自己愛のようなものを感じる。錫は「いつまでも」湯につかっていても変質するものではないらしい。それどころか錫と湯のそれぞれの旁が似ていて安らかさを求める錫の気分が字面からみえるようだ。ひとつぶ、錫、つめたさ、湯に沈みたく、これらからやはり甘やかな気分が広がって何かお話に発展しそうである。(慧子)


          (レポート②)
 前の歌(わがこころはつかに乱れたる恋をひとしらぬなり赤唐辛子)を受けての一首だろうか。「錫」のひんやりとした質感と、美しい照りがよく効いている。「湯のそこ」とは、温泉に入っていてるのだろうか。湯の中にいるのに自分だけが冷たく固まって小さな粒となっている。「錫/すず」の軽やかな音感から、若草のような抒情も漂う。(真帆)


      (レポート③)(紙上参加意見)
作者は優しい、良い人と思われているのだろう。また、本当に優しい人なのだと思う。けれど、自分にとても冷たい、みにくい部分があることを知っている。その自分を、無理だろうけれど溶かしたい。溶かして、メッキをはがしてしまいたい。でも無理だから、ずっと湯の中に沈んでいたいのだろう。私は人間の持つこういう願いに救いを見出す。もっといいものになりたいという切ない祈りのような願い。(菅原) 


      (当日意見)
★錫の冷たさ、だから私は菅原さんの意見に賛成です。(鹿取)
★錫って曲げやすいですよね。ぐるぐるとぐろみたいに巻いたので花を飾る花器があ
 る。今まで持っていた錫のイメージとこの歌は違って混乱しています。(岡東)
★下の句をいいと思いました。温泉に入っても湯に溶けないんですね、この人。普通
 は溶けちゃうんだけど自分は冷たいままで湯の中にいたい。体感的なものかなと。
 理屈なしで共感します。暖かい環境なんだけど、このままいたい。ひとつぶが効いて
 いると思います。(A・K)

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