かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 179

2021-03-06 17:02:45 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究22(2014年12月) 【非常口】『寒気氾濫』(1997年)75頁~
      参加者:石井彩子、泉真帆、崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
       レポーター:石井 彩子  司会と記録:鹿取 未放


179 ポリ容器浮かべていたり行く水は清濁併せ呑みつつ滅ぶ

        (レポート)
 氏は「行く水」の流れを鴨長明のように人生論風に詠もうとはしない。冷徹に事実のみを表現する。清濁いずれの流れであろうとも、浮かんでいる「ポリ容器」は環境を汚し、生態系を破壊してゆく。やがて、地球上に異変がもたらされ、世界は滅ぶかもしれない。それは人類がもたらした害なのだ。(石井)
  ※ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消
   え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくの
   ごとし。『方丈記』 


      (意見)
★川そのもののもっている運命をこの歌から感じました。海に帰るときは無垢なままでは帰れない。
 そして流れ込んでくるものを全て受容する。ポリ容器はその受容の象徴。川だけに解釈を限らな
 い方がいいんでしょうか?(崎尾)
★川が川でなくなって海になる。その過程において清濁併せ呑みつつあると。(真帆)
★清らかばかりでは生きてゆけない。清濁併せ呑むことで人間は太るんじゃないかと。そこのと
 ころを渡辺さんは逆説で結んだんじゃないかと。(慧子)
★逆説って、説明の「説」の方ですか?具体的にはどういうことですか?世間の「清濁併せ呑んで
 こそ大人物」というような考え方に異を唱えているってことですか?(鹿取)
★そうです。(慧子)
★それはちょっと「逆説」の語の使い方が違うような気がしますが。「清濁併せ呑」むという世間
 の俗説を取りこみつつ、結句の「滅ぶ」に転換したところが小気味よいと思います。(鹿取)
★「清濁併せ呑」むというところがこの歌の要だと思います。ただ、滅ぶは逆説ではない。「水清
 ければ魚棲まず」というのがあって、生き物が生きていくためには「清濁併せ呑」む必要がある。
 しかし、現実に川にポリ容器が浮いているのは文明批評だと思う。(鈴木)
★はい、文明批評だというところはレポートと同じですね。ただ文脈状は「行く水は~滅ぶ」だか
 ら、歌で言っているのは川なり水なりが滅ぶという所までだと思いますけど。もちろんその先に
 世界が滅ぶことも視野にはあるかもしれませんが。(鹿取)
★水は「清濁併せ呑」む限界を超えたんですね。(鈴木)


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