かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男『寒気氾濫』の一首鑑賞 51

2023-06-02 09:58:01 | 短歌の鑑賞
 2023年版渡辺松男研究⑦(13年7月)『寒気氾濫』(1997年)
  【八月十五日うつそみ、パーフェクト・エッグ】
  参加者:崎尾廣子、鈴木良明、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
  レポーター:渡部慧子

51 トイレットペーパー白く垂れ下がり閻浮(えんぶ)に謎のなきような朝

      (まとめ)
 一連の題に「八月十五日うつそみ」とあるので、敗戦の日、あるいはお盆ということを念頭に置いて読むべきなのだろう。「うつそみ」は現世、この世の人。また、この一連の最後は「56 つくづくとメタフィジカルな寒卵閻浮提(えんぶだい)容れ卓上に澄む」であり、両歌には特殊な共通の語が使われている。すなわち「閻浮提」(「閻浮」はその略した言い方)である。閻浮提略して閻浮は「仏教用語で須弥山の南にある島で、人間の住む世界。諸仏に会い仏法を聞くことができる。後に人間世界全体、また現世の称となった」そうだ。(「広辞苑」より抜粋) 
 この世は謎にみちているのに、この朝は、まるでこの世に謎なんかないように思われる。トイレッペーパーが白く垂れ下がっていることが日常のありふれたこととして提示されているが、「閻浮提」の意味を加味すると、謎が無いように見えるのは単なるこの世ではなく、もっと奥深い形而上的な世界だ。そこではこのトイレットペーパーこそが形而上的な謎の入り口のようにも思われる。作者の手品の迷宮に引き込まれるような感じもする。(鹿取)



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