渡辺松男研究32(15年10月実施)【全力蛇行】
『寒気氾濫』(1997年)110頁~
参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、N・F、
藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:鈴木 良明 司会と記録:鹿取 未放
263 地の中に虚空があるという神話地の中へ樹は伸びてゆくなり
(レポート)
「地の中に」虚空があると直接明言した神話は知らないが、光も形もない「虚空」あるいは「混沌」から、大地の女神であるガイアが生まれたとするギリシャ神話などからも、このことは窺い知ることができる。自然界における樹は、天の虚空に伸びるばかりでなく、地の中の虚空にその根を広げ、伸びてゆく。それによってこの世界のバランスが保たれるのだろう。(鈴木)
(当日意見)
★「地の中へ樹は伸びてゆく」とあって、土を境に天へも地へも張っていく感じ。鏡に上
下が相似の形で映されているような。1首めからの関連で土の中というのに意味を込め
ていると思います。以前、私が担当したところで地に汗が染みていくというような歌が
あって、作者は土というものに深い意味を見出していると思います。(真帆)
★レポートに「世界のバランスが保たれる」とありますが、これ、バランスでしょうか?
そういっては面白くないと思います。(石井)
★虚空があるという神話は知りません。ここがポイントだと思うのですが。(N・F)
★私も調べたけど、そういう神話は見つかりませんでした。「世界のバランス」って言った
のは最近の傾向として空にばかり広がって根っ子が浅いというか、街路樹なんかはそう
いう感じで、それで地中にも伸びてバランスを保っているよと。虚空って仏教的には
「空」というのでしょうかね。(鈴木)
★この歌には空想が入っている。バランスではなくて、幼児体験とか。(曽我)
★上の句の神話を除けば、地の中に木が伸びていくのはごく当たり前と思うのですが。
(藤本)
★地中はおどろおどろしい世界のような気がします。すでに鑑賞した歌で「直立の腰から下
を地の中に永久(とわ)に湿らせ樹と育つなり」という歌があったりして、渡辺さんには
木が地下に潜っていくことに特別な関心があるようです。しかし、この歌、「虚空がある
という神話」は分かりません。地の下は根の国だったり冥界があるという神話なら分かり
ますが。伊邪那岐(いざなぎ)にしてもオルフェウスにしても死んだ妻を捜しに地の下の
国へ行くし、ダンテの「神曲」では地の下にある地獄巡りをしますよね。天に向かうだけ
でなく、土の下というおどろおどろしい部分に繋がってやっと生命を維持できる、そうい
う悲しみでしょうか。でもそんな理屈いうと歌が全くつまらなくなりますね。(鹿取)
★地面は固くて実体があるように思われているけれど、ミクロで地面を見ると隙だらけじゃ
ないかと。その間隙を縫って根っ子は下に行く訳です。地の中は虚空、混沌状態なんです。
(鈴木)
★レポーターは科学的な見方と詩を混同されているんじゃないか。この歌は詩的空間です。
それを味わえばいいのです。(石井)
★仏教哲学には空(くう)だから有を生じるというのがあるんです。キリスト教文化の中に
もそういう表現があります。地の中の虚空に根が伸びていくことによって地上の木、つま
り有が生じる、そういう歌かなあと。虚空というのは何もないのではなくて有を生じるも
のなのです。(N・F)
★空(そら)だって何もないかと思っていたらダークマターとか出てきたりして。だから
天も地も虚空だと言われると納得するんだけど。(鈴木)
★はい、空(そら)は全然虚空(くう)じゃないんですね。ハッブル望遠鏡で見ると何も
ないと思われていたところに、それこそ無数の銀河が見えるそうです。その銀河ひとつ
ひとつに1000億以上の星があるそうですから、気が遠くなりますけど。でも神話と
いうからには、この歌はそういう科学の話ではないのです。(鹿取)
(後日意見)
「虚空」は広辞苑に、仏典では「一切の事物を包容してその存在を妨げないことが特性とされる」と出ている。虚空に物があるかないかより「存在を妨げないことが特性」という点に感じ入った。そうすると地の中の虚空も根っ子が伸びるのを妨げないわけだ。(鹿取)
『寒気氾濫』(1997年)110頁~
参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、鈴木良明、曽我亮子、N・F、
藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
レポーター:鈴木 良明 司会と記録:鹿取 未放
263 地の中に虚空があるという神話地の中へ樹は伸びてゆくなり
(レポート)
「地の中に」虚空があると直接明言した神話は知らないが、光も形もない「虚空」あるいは「混沌」から、大地の女神であるガイアが生まれたとするギリシャ神話などからも、このことは窺い知ることができる。自然界における樹は、天の虚空に伸びるばかりでなく、地の中の虚空にその根を広げ、伸びてゆく。それによってこの世界のバランスが保たれるのだろう。(鈴木)
(当日意見)
★「地の中へ樹は伸びてゆく」とあって、土を境に天へも地へも張っていく感じ。鏡に上
下が相似の形で映されているような。1首めからの関連で土の中というのに意味を込め
ていると思います。以前、私が担当したところで地に汗が染みていくというような歌が
あって、作者は土というものに深い意味を見出していると思います。(真帆)
★レポートに「世界のバランスが保たれる」とありますが、これ、バランスでしょうか?
そういっては面白くないと思います。(石井)
★虚空があるという神話は知りません。ここがポイントだと思うのですが。(N・F)
★私も調べたけど、そういう神話は見つかりませんでした。「世界のバランス」って言った
のは最近の傾向として空にばかり広がって根っ子が浅いというか、街路樹なんかはそう
いう感じで、それで地中にも伸びてバランスを保っているよと。虚空って仏教的には
「空」というのでしょうかね。(鈴木)
★この歌には空想が入っている。バランスではなくて、幼児体験とか。(曽我)
★上の句の神話を除けば、地の中に木が伸びていくのはごく当たり前と思うのですが。
(藤本)
★地中はおどろおどろしい世界のような気がします。すでに鑑賞した歌で「直立の腰から下
を地の中に永久(とわ)に湿らせ樹と育つなり」という歌があったりして、渡辺さんには
木が地下に潜っていくことに特別な関心があるようです。しかし、この歌、「虚空がある
という神話」は分かりません。地の下は根の国だったり冥界があるという神話なら分かり
ますが。伊邪那岐(いざなぎ)にしてもオルフェウスにしても死んだ妻を捜しに地の下の
国へ行くし、ダンテの「神曲」では地の下にある地獄巡りをしますよね。天に向かうだけ
でなく、土の下というおどろおどろしい部分に繋がってやっと生命を維持できる、そうい
う悲しみでしょうか。でもそんな理屈いうと歌が全くつまらなくなりますね。(鹿取)
★地面は固くて実体があるように思われているけれど、ミクロで地面を見ると隙だらけじゃ
ないかと。その間隙を縫って根っ子は下に行く訳です。地の中は虚空、混沌状態なんです。
(鈴木)
★レポーターは科学的な見方と詩を混同されているんじゃないか。この歌は詩的空間です。
それを味わえばいいのです。(石井)
★仏教哲学には空(くう)だから有を生じるというのがあるんです。キリスト教文化の中に
もそういう表現があります。地の中の虚空に根が伸びていくことによって地上の木、つま
り有が生じる、そういう歌かなあと。虚空というのは何もないのではなくて有を生じるも
のなのです。(N・F)
★空(そら)だって何もないかと思っていたらダークマターとか出てきたりして。だから
天も地も虚空だと言われると納得するんだけど。(鈴木)
★はい、空(そら)は全然虚空(くう)じゃないんですね。ハッブル望遠鏡で見ると何も
ないと思われていたところに、それこそ無数の銀河が見えるそうです。その銀河ひとつ
ひとつに1000億以上の星があるそうですから、気が遠くなりますけど。でも神話と
いうからには、この歌はそういう科学の話ではないのです。(鹿取)
(後日意見)
「虚空」は広辞苑に、仏典では「一切の事物を包容してその存在を妨げないことが特性とされる」と出ている。虚空に物があるかないかより「存在を妨げないことが特性」という点に感じ入った。そうすると地の中の虚空も根っ子が伸びるのを妨げないわけだ。(鹿取)
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