かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 186

2021-03-22 18:35:03 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究23 【眉間】『寒気氾濫』(1997年)79頁
  参加者:泉真帆、かまくらうてな、渡部慧子、鹿取未放、石井彩子と鈴木良明は紙上参加
  レポーター: 泉 真帆 司会と記録:鹿取 未放
            
    
186 作業着のままだしぬけに「宇宙図をみせろ」といって弟がくる

         (レポート)
 二〇〇七年から、文部科学省が全国の学校等に配布しているものに「宇宙図」がある。当歌集は一九九七年刊なのでこれとは違うが、兄である作者と、弟と、待ちに待った「宇宙図」が入手できたときの一場面と読んだ。宝島の地図を奪うに似た「だしぬけに」の気配。連作「眉間」の一首と読むと、祖父とともに農作業をしている弟かもしれない。(真帆)


           (紙上意見)
 弟は地に這うような(例えば日々の株価を気にするといった)現実社会で汲汲とした暮らしをしているのだが、だしぬけに作業着、つまり背広姿で兄のもとにやってきた。兄は宇宙に思念を向けることが好きで、宇宙の進化や起源が判る宇宙図を部屋の壁に貼っていて、毎日眺めているのだろう。この兄のロマンチックな性格は、現実派の弟とは合わないので疎遠だったのかもしれない、弟の「宇宙図をみせろ」で兄弟が近づいたのである。その後は兄弟仲良く宇宙図をみているのだろうか。(石井)

 宇宙図―縦軸に宇宙誕生から現在までの時間の流れ、横軸に空間の広がりを表現したもの。地上での作業をしていた弟が、だしぬけにこのような「宇宙図を見せろ」と言ってくる、飛躍、意外性が面白い。(鈴木)    


       (当日意見)
★石井さんの作業着が背広だという解釈は意表を突く面白さもありますが、背広と宇宙図の取り合
 わせはギャップがあまりなくて面白くない気がします。この歌集『寒気氾濫』では冒頭二首めか
 ら弟の歌が出てきて、たとえば四首めは「おみなには吃る弟がトラックの巨きさとなりきりて飛
 ばすよ」という歌です。この歌集の弟像は一貫してブルーカラーという設定です。もちろん、現
 実とは違ってもかまわないですけれど。だから設定上は現場で働いている弟が作業着のまま、何
 だか急に宇宙 図に興味をもって突然やってきた。お兄さんは常に宇宙図を見ていることを知っ
 ている弟さんなんですね。その弟をいいねえと面白がっている場面かなと。宇宙図そのものが無
 限に開いているので、そういうのびやかさもありますね。(鹿取)
★宇宙図を見せろが脅迫めいた感じだけど、今すぐ見たいという気持ちの表れ。作業着と宇宙図の
 アンバランスは鹿取さんが言ったとおり。(慧子)
★私は渡辺さんの歌集を全く持っていません。一首鑑賞の時でも歌集全体を見渡した鑑賞でないと
 いけないのでしょうか?(うてな)
★難しい問題ですね。一首のみの鑑賞でいいと思います。たまたま私は全部の歌集持っているので
 どうしても全体をみて言いたくなるのですけれど。(鹿取)
★石井さんが「兄のロマンチックな性格は、現実派の弟とは合わない」と書いていらして、全体を
 見るとそうなのかなあと。(うてな)
★いや、石井さんもこの歌集はもっていらっしゃらないので、この一首から判断されたんだと思い
 ます。(鹿取)
★物語として面白いですね。ユーモラスですし。(うてな)

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