かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞  290

2021-08-21 18:42:41 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究36(16年3月実施)
    【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)120頁~
     参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、曽我亮子、船水映子、渡部慧子
     レポーター:鈴木 良明 司会とテープ起こし:泉 真帆

     
290 ポケットベルに拘束さるるわれの目に鬱々として巨大春月

         (レポート)
 ポケットベルを配られる職場は、オフの日や休憩時間帯にも緊急の対応が迫られるセクション。九〇年代頃からこのような緊急連絡手段は必要な職場から徐々に広がり、今なら携帯やスマホでの対応が一般化している。本歌では、四月の人事異動で、当時にしては数少ないこのような職場に異動したのであろうか。常にポケベル(他人)に拘束されてオフの日にも気を抜けない作者の目には、おぼろ月夜も鬱陶しい「巨大春月」に映るのだ。(鈴木)


        (当日発言)
★朧月夜って、本当は人の心をなごませるような、ぼわ〜んとした感じのものなのに、怪物
 的な大きなものというか、襲われるようなそんな怖れのようなものを感じるほど巨大に見
 える、というように私は受け止めました。(M・S)
★面白いなーと思って。きっと人間っていろんなキャラクターがあるんでしょうね。仕事を
 している人の厳しさみたいな、かなりカルチャーショックを受けて読みました。(船水)
★おそらく、夕方っていうのはお仕事を引けて、普通なら寛ぐ、家に帰って、そいういう時
 間帯なんですね。本来ならその時間帯に見るお月様は、なぐさめであったり、情緒が豊か
 になるようなものであったりするんですけれども、なんかそんなふうには見えない。やは
 り鬱々としてしまう、巨大春月そいう表現でされていますね、そういうところが上手いな
 と思いました。(石井)
★私が前やったときの巨大な茶碗だったかな。(慧子)
★あー、渡辺巳作氏の巨大茶碗ですかね。(鈴木)
 「商工会会長渡辺巳作氏が巨大茶碗で茶を飲む朝」      
★ちょっと好きな言葉でしょうかねエ「巨大」っていうのは。(石井)
★自分以外を巨大なものとされているんでしょうかねえ。(慧子)
★異質なものを巨大と捉えているんでしょうね。(石井)
★自分を脅かすものとか。(船水)
★自分の自由を奪うものというか、拘束するというか。泉さんなんかどうなんですか?若い
 ひとはこういう環境にないんですか今は。(鈴木)
★常に付け回されている、拘束されているような感じはありますけれど。(真帆)
★これ時代なんですよね。あのころはもうポケベルしかなかったんですよ。その前は何もな
かったですね。(一同笑)だから安心していられたんですよ。ところがポケベルとか配ら
れちゃうと、出勤しなくちゃいけない訳でしょう。今はもうこういうのは日常化してしま
] っているので、若い人は当たり前と思っているかもしれないけど、私達のころからなんか
比べると、やってられないって感じですよね。それで残業は日常化していますから。役所
でさえこうなって来たって、私も一応公務員だから同じ立場なんで良く分るんですよ。病
んでしまいますよ。だからもういま本当に病気になる方も多いと思います。一億総活躍社
会なんてカッコイイこと言ってますけど、ほんと、あんな言葉を言うこと自体ね…。
(鈴木)
★ポケベルを配られる職場には二通りあって、上司が自分では対応できないからやるとい
うのと、それから職場自体がね、例えば病院とかそういう緊急を要する場所とかね、二通
りあるんですよ。おそらくこの場合はね、前の方じゃないかという感じがしますよね。後
の方に出て来ますけれど、その上司とかの様子は。だからその余計、「巨大春月」という
のは、上司のね、もやもやとしたね、鬱陶しい影かもしれないんですよ。(鈴木)
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渡辺松男の一首鑑賞  289

2021-08-20 17:22:21 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究35(16年2月実施)
    【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)118頁~
     参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:石井 彩子 司会と記録:鹿取 未放


289 残業の灯を浴びながらそこここに髪毟りおる夕鶴あわれ

     (レポート)
 仕事で残業しているのだろう。煌々とした庁舎の灯りが窓の外に漏れ、夕鶴が髪を毟っている様子があちらこちこに照らしだされ、あわれである。
 『夕鶴』は、木下順二作の有名な戯曲である。つうの真の姿は鶴で、自らの羽を抜いては生地に織り込んでいく、文字通り我が身を削って織物をする姿と、夜遅くまで骨身を削って働いているわれとが重なり、おのずと憐憫の情がわいたのであろう。(石井)


     (当日意見)
★夕鶴だから女性を見て思ったのかなと。作者の優しい目が感じられます。(真帆)
★夕鶴は身を粉にして働く人の比喩で、必ずしも女性でなくていいんじゃない。だから夕鶴
 の中には自分も含まれているし、「あわれ」も自身にも向けられている。広い庁舎の煌々
 と照る明かりの下で残業をしている人々を見渡しながらの感慨でしょう。(鹿取)
★夕鶴だから女性だと思います。(藤本)
★夕鶴も髪を毟るも比喩です。髪を毟るは苛立ちの比喩。あっちでもこっちでも残業してい
 る女性が本当に髪をかきむしっているって、実際の光景としてありえないでしょう。
   (鹿取)
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渡辺松男の一首鑑賞  288

2021-08-19 16:40:32 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究35(16年2月実施)
    【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)118頁~
     参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:石井 彩子 司会と記録:鹿取 未放



288 常に他人と一緒のようで休まらぬポケットベルがわが腰にある

         (レポート)
 当時はポケットベルが現場仕事に携わる職業人の欠かせぬアイテムであった。常に誰かに呼び出されるという意識は、誰かと一緒に行動しているという思いと同じく、落ち着かないものである。ポケベルを所持することは仕事の効率を上げるに違いない、が、半面ゆとりもなく、組織の歯車になっているような感懐をもたらす。(石井)


          (当日意見) 
★現場仕事ってあるけど、これでいいんでしょうかね。庁舎を離れて外で仕事しているっ
 てことでしょうかね。(藤本)
★まあ、松男さん、いろんな職種を経験されているので、外廻りの仕事も多かったんでし
 ょうね。怪我をした動物を助手席に乗せてどこかに連れて行くとき怖かった話とか、剥
 製に出す鳥を博物館に持って行くとかエッセーで読んだことがありますから。(鹿取)


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渡辺松男の一首鑑賞  287

2021-08-18 17:08:03 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究35(16年2月実施)
    【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)118頁~
     参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:石井 彩子 司会と記録:鹿取 未放


287 女子職員同士のながきいさかいもひとりの臨職泣かせて終わる

      (レポート)
女子職員同士の長いいさかいが続いて、職場の能率を妨げることになった。一方の側に非があるわけではない。が、立場上、正規職員の方を守らなければならないのである。「泣かせて」には辞めさせられた臨時職員の悔しい思いとともに、厳しい作者の管理職としてのやりきれない思いが窺われる。(石井)


     (当日意見)
★「泣かせて」は必ずしも辞めさせられてとはかぎらないし、〈われ〉が管理職とも限らな
 いと思いますが。正規、臨職どちらが悪いとも限らないのに上司が中に入って臨職の方を
 黙らせてしまった、そういう場面だと思います。〈われ〉はそういう一連の流れを端から
 見ていて苦々しく思っている、ともとれます。(鹿取)
★女子職員同士がながきいさかいをしていたんだけど、そのはけぐちを臨職に向かわせて終
 わらせた、ということではないですか。(真帆)
★そうも取れますね。私は正規職員と臨職が例えばお茶当番とか朝の机拭きとかをするとか
 しないとかいさかいをしていたんだけど、上司が介入し、臨職に全て押しつけて不本意な
 形でいさかいが終了したと取りましたが、誰と誰が争ったかは書いてないですものね。あ
 あ、でもこの例は分かりややすいけどちょっと軽すぎますね。実際はもっと陰湿ないさか
 なんでしょうね。(鹿取)
★作者は傍観的に見ていたかもしれないけど、一応上司としておきました。善悪は別にして
 どちらを取るかと言われると、上司としては正規職員を残さざるをえない。長いいさかい
 ですから辞めさせられたと私は取りました。辞めさせられたと取る方が「泣かせて終わ
 る」の解釈にふさわしいと思います。(石井)
★辞めさせるという言葉は歌のどこにも無いですが。(藤本)
★私は一連を読んで、公務員としての厳しい立場、自分とは合わないかもしれないけれど、
 辞めさせた。長いいさかいだからどちらかが辞めないと終わらない訳です。(石井)
★そこまで解釈を広げる必要があるんでしょうか。長いいさかいというのは2~3日とか
 その程度じゃないですか。何年もなんってないと思います。(藤本)
★私は長いとは半年とか1年とか、そういうスパンだと思いますけど。(鹿取)
★女性の方が諍いをしやすいと思います。それでは仕事の能率が上がらない。だから辞め
 てもらわないといけないという思いがどこかにあったのではないでしょうか。それで元
 の平和な職場に戻った。(石井)
★「女性の方が諍いをしやすい」はまずいと思います。私はこの歌を読んで古いなと思い
 ました。時代が違うなって。(藤本)
★長い長い陰湿ないさかいを見せられる方は、職場の雰囲気が悪くなるし仕事の能率も上
 がらないから確かに嫌でしょう。だからやむなく上司が介入した。石井さんの意見聞い
 ていて、「泣かせて」の中には「辞めさせた」という選択肢もありとは思います。しか
 し、「理不尽な条件を押しつけられて居残っている」選択肢もありと思います。あと、
 藤本さんが古いと言われましたが、藤本さんの言わんとすることよく分かります。こ
 の歌「女子職員同士」というところに限界があ るように思います。それは90年代と
 いう時代の限界でもあるかもしれませんけど。これが男性の職員同士のいさかいだっ
 たら、作者はこんなふうに歌わないでしょうね。無意識だけど男性という強者の側に立っ
 た見方だと思います。ジェンダーという視点で考えたら問題ありかもしれませんね。
    (鹿取)


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渡辺松男の一首鑑賞  286

2021-08-17 17:36:14 | 短歌の鑑賞
 渡辺松男研究35(16年2月実施)
    【ポケットベル】『寒気氾濫』(1997年)118頁~
     参加者:石井彩子、泉真帆、M・S、曽我亮子、藤本満須子、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:石井 彩子 司会と記録:鹿取 未放


286 一人のトリックスターさえもなき職場に冷えて例規集読む

    (レポート)
秩序や規範によって成り立つ組織である職場にはトリックスターが存在する余地がない、統べるのはただ例規集のみである。私はそれを諦観とした思いで、読んでいる。
 トリックスターとは「神話や物語の中で、神や自然界の秩序を破り、物語を引っかき回すいたずら好きとして描かれる人物のこと。善と悪、破壊と生産、賢者と愚者など、全く異なる二面性を併せ持つのが特徴」。(Wikipedia)
 トリックスターは既成の常識や秩序が硬直化し、人々を不当に縛るようになっているときには、批判的な威力を発揮して、束縛を解く働きをする。いわば新たな創造性を生み出すための現秩序を破壊する存在である。そのような人物の典型として、神から火を盗んで人間に与えたプロメテウスであり、日本では織田信長などがあげられる。(石井)


      (当日意見)
★何か異議申し立てをしようと思っても、それは許されない。そこで寒々とした気持ちにな
 っているんだけど、自分を押さえて例規集を読んでいる。(真帆)
★そういう職場で冷え切っていて、仕方なく例規集を読んでいる。(藤本)
★例規集の中から謀反を起こせるチャンスはないかと思っている訳ではないですよね。
    (真帆)
★例規集というのは過去の例だから。(藤本)
★過去の例だから、その本に突破口はないでしょうね。(鹿取)
★組織人の一人として例規集は読まざるをえないものです。(石井)

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