Brexitの行方はまだわからないものの、大方の見るところとりあえずEU離脱を選択しようという気のある人が半分ぐらいは本当にいるようだ、という点が明らかになったことは、投票の結果がどうあれ今後のUK政治にとって重要ファクターになるでしょう。
American Conservativeに昨日この件に関しての記事が出ていた。Daniel Larisonの記事。
A ‘Brexit’ Backlash Against the Elite Consensus
http://www.theamericanconservative.com/larison/a-brexit-backlash-against-the-elite-consensus/
Brexitは欧州エリートのコンセンサスに対するバックラッシュだと捉えていた。
これは本当にそうですね。EUという機構の中に入り込んでいる政治家だの官僚だのの夢見心地な態度、判断を見てると、新たな貴族層ができましたとしか思えない。で、それもまぁ利口で、多くの一般人の不満を吸収できるような仕立てになってるというのなら一般人にとってもついていく価値はあるな、ってな感じの道が残されているけど、揃いも揃って一般人なんて、そんな下々しりませんと言いかねないノリが本当にあるし、自分がどれだけ恐ろしいことをしているのかさえ気づいてないんじゃないかというのもある。
ダニエルの上の記事でも引用されていたけど、この間、欧州委員会の理事長というか、欧州大統領とかいう誤解を招くような名前の職についているポーランドのトゥスクが、イギリスの欧州離脱は、「Western political civilization」の破壊になる、とかいう大きなことを語った。
で、ダニエルは、
こういうバカげたことを言われると、正気を保ってる多くの人は、直観的にトゥスクが支持してる側から離れるだろうと仮定せざるを得ない、と書いていた。そう、誰だって、こいつおかしい、と思うでしょ、そりゃ。
When European Council President Donald Tusk absurdly declares that “Brexit” might eventually lead to the destruction of Western civilization, I have to assume most sane people instinctively recoil from his side of the debate.
ついでにいえば、私は、まずもってポーランド人にそんなことを言われる筋合いはねーと思ったブリッツとか、西欧州の人は多いだろうなと思った。だけどそれを言うと現在は政治的是正表現的にアウトなのでメジャーな人は言わないけどね。
で、EUという概念をヨーロッパそのものと読んでるところが既にしてこの愚かしい試みのバカさ加減のいったんが現れているんだが、EUエリートは自分たちが考えもなしにそういう使い方をしているもので、自分が言ってる意味がわかってないんだと思う(自分でついた嘘に飲まれて、現実に戻れなくなってる)。
欧州と呼ばれる地域の西、南、中、東はそれぞれ言語も違えば歴史も異なる。だから、同じ Western Civilization を等しく共有しているとおおざっぱに言うのはいいけど、各国、各地域であんたと私の解釈は大きく異なるという点は多々ある。で、あっていいし、あるならそれを互いに認め合いながら、まとめられる部分は同じにして、ダメならダメでしばらく放置するとか、そんなことをすればいいだけ。
が、EUに入った途端、Western Civilization に対する個々の向き合い方がすべて捨象されて、みんなが等しい距離で向かい合ってるかのような錯覚を持たせる仕様になっちゃてるのが本当に問題。これは、誤りであると同時に非常に危険なことでもある。
■ UKの方が利口ではあったな、と
それはともかく、UKのEU離脱問題を見ていて思うのは、UKの方がUSAよりも、政治的には利口な人が多いんだな、ってところですね。
だって、少なくともUKでは、EUは詐欺的だということにどうやら優に半分以上が気がついた感じだから。
で、問題は、その詐欺に付き合ってもまだ便益があるのか、それともその詐欺は俺らにはマイナスなのか、その判断だ、という感じで人々が向き合ってる。
それに気づいてないのは、夢を売り歩いたEUエリート層だけ。
一般人の態度が現実的で冴えてる。(どちらが勝とうが)
それに対してUSAでは、昨日まで、アンチエスタブリッシュメント的高揚に浸っていた人たちが、いつの間にか、サンダースとヒラリーが手を取り合うそれを支援しちゃいそうだ、ってな状況になってる。
つまりね、いつの間にかテーマを変えられてるわけですね。アンチエスタブリッシュメントから、「ヘイト」はいいか、みたいな話にテーマをすり替えられて、そうだ、トランプは悪い、という答えを出してる人が結構いるわけ。
私の考えでは、トランプはまだ誰も殺してない、一方ヒラリーは20年この方のアメリカが犯した戦争犯罪のほとんどに関わった人物なわけで、その意味で重大な戦争犯罪人だと思う。が、「ヘイト」の方が問題だと思う人たちにとっては、そんなことより身近なヘイトなんでしょう。
このすり替えは、私の記憶では初めてではない。
イラクでの戦争が始まって間もなくから、やたらめったら同性愛結婚の話がメディアを賑わせていた。私は、今、お前んところのバカ大将が罪もないイラクの人々を殺しに向かってる、その問題に集中しろよ、一体何を言ってるんだ、と思って心底あきれていたんだけど、振り返ってみて、あれは話題を逸らしていたんだろうなと後で思った。
つまり、全員がイラク戦争の善悪に向かわないように、別のストーリーの善悪で人の気を惹きつけていたという話じゃないかと思う。
もちろんターゲットになるのは大多数の「リベラル」の人たち。民主党のお客さん。
とはいえ、さすがに大挙してサンダースからクリントンに移れるのか、というのは今のところは謎。今のところは、しかし、完全にメディア支配が勝ってる風。
■ オマケ:愛国レイバーの行方
EU離脱の国民投票の行方はまだわからないものの、多分、もし離脱派が勝つとしたら、それは労働党支持者の地に足のついてるグループが支持にまわった、ってことになるんじゃないかと思う。
EUを売り歩いたのは労働党の方で、保守党はエリート層が労働党エリート層と大差がなく(共和党と民主党みたいなもの)、エリートじゃない層がUKIP(イギリス独立党)的な方に舵を切っていた。だから、エリート層的には、離脱とかいってる主たる戦力はどうせ一部だ、と考えたと思う。だから、移民を嫌う差別主義者とかいうレッテル貼りで勝負かけてたのかもなぁと遠い目。
で、しかしながら、どうも労働党非エリートが、離脱派に回ってるんじゃないかという話がちらほら。
つまり、アメリカで起きたのと同じく、アンチエスタブリッシュメント問題になってるということ。移民問題が突破口のように報道されるかもしれないけど、彼らはもっと根源的に労働市場が過去20年ぐらいで変わったことに対する怒りを持ってるかも。
イギリスで本気でpatriotic、ってか愛国的なのはレイバーの一般人だと思うので、こっちが動くと、空中戦でちゃらちゃら言うのとはわけが違うことになりそう。黙って動く層が動くってことね。
USAのように目先を変えてごまかせる手段はあるのか?
14歳〈フォーティーン〉 満州開拓村からの帰還 (集英社新書) | |
澤地 久枝 | |
集英社 |
雪はよごれていた―昭和史の謎 二・二六事件最後の秘録 | |
澤地 久枝 | |
日本放送出版協会 |
ユーロを拒否し自国通貨ポンドを保持することや、移民を管理する権限と言った、国家存続を決めるような主権を守ることが「わがまま」とはね。
他の女子キャスターはここまで中立性を外して踏み込むことはない。このおっさんは人が良さそうな顔して考えていることが結構えげつない。
テレビをほとんど見ないので情報感謝です。そんなことを言ってるんですねと、あきれるというより、もはやとっても覚めた目で、どこまで行くんだろうかなぁみたいな感じで迎えちゃいますね。
主権ってそもそも「わがまま」の極致なんです。しかしそれを言うなら、私が私であることもそう。しかし私は他者と協調しないと生きていけない。これも主権国家と同じ。
やっぱり日本って主権国家という理屈が本当にわかってない国なんだろうなとか思いました。このへんはあらためて考えてみたいテーマです。またよろしく。