3月20日付けで米フォーブス誌に出ていた記事。
かいつまんでいえば、何回世論調査やってもクリミアの住民の多数は昨年の住民投票、ロシアへの再帰属を喜んでるという結果しかでねーよ、ということ。あはは。
One Year After Russia Annexed Crimea, Locals Prefer Moscow To Kiev
そんなのみんな知ってるってばさ、なんだけど、アメリカとドイツの別々の機関が実施した調査で、どっちも80%以上のクリミアの住民はよかったよかかったと答えているという結果を紹介している。
しかし実は、こういう結果は去年でも出ていた。ただ去年は、ロシアに銃を突きつけられた投票なんだのへちまだのという理由がまことしやかに語られて(これを信じることが馬鹿げているわけだが)、話は流れていた。
まぁその、要するに、もうこの件は筋が悪かったですと表明したも同然という記事だと思う。
記事内でも触れらているけど、いつか住民の意志を尊重しないわけにはいかない、ってこと。いやしくも民主主義を標榜する国がいつまでも住民意志を無視できないでしょう。
■ 返す返すも岸田外相はバカなことをしていると私は思う
と、そこで思い出すのは日本の岸田外相が1月にブリュッセルで唐突に言いだしたこの話。
「ウクライナで起きていることも力による現状変更だが、北方領土問題も力による現状変更だ」
と言ったわけですね。誰も頼みもしない、誰も褒めてもくれない、唯一期待できる効果はロシアおよびロシア国民多数の激怒のみ、という素晴らしい外交姿勢を示したわけです。一人シベリア出兵と名付けたい(笑)
で、ここで問題なのは2つ。一つは、優先されるべき事項によってこの判断は覆るかもしれないことが1点。もう1点は、日本だけ(もし論理性を重んじるなら)判断に固執しなければならなくなっていること。
1点目について。
(a) 確かに、大くくりをすればクリミア半島で起ったことも北方領土も武力が介在したと言って言えないことはないでしょう。しかし、両者の事情が大きくことなり、クリミアの事情の中には、そもそも武力でウクライナという国にクーデターを発生させたのは外国勢力だ、と解釈される可能性も含まれている。つまり「力による現状変更」は、外国勢力によるクーデーター(政変)に対して、自らのかけがえのない財産たる軍港を防衛するための防衛的反応が主体であるとして訴求の根拠が失われる、少なくとも非常に弱くなる可能性がある。(アメリカのリアリスト系はここを見てると思う。だって自分のところで起ったらそうするに決まってるから)
(b) もう一つ。こちらの方がおそらくずっと重要で汎用性がある。この問題は一方で現状変更の問題として解釈されるが、他方に、住民の意志問題がある。このどちらが優先されるべきなのか、といえば現在の世の中は基本的に住民の意志でしょう。
しかも、このケースはウクライナ国成立以降の20数年間、一貫して同じ意思表示がクリミアの住民によって継続的かつ集団的に表明され、かつ、それ以外の意志表示は過去200年を遡っても未だかつて存在せず、さらに、クリミア半島部はウクライナ国家内ではあったが、高度な自治を保証されていたため一度もウクライナの直接統治を受けていない、という特殊事情まである。
(費用はウクライナ持ちだった、とも言えるが、クリミア半島にあるセバストポーリという軍港の借地権に対してロシアが継続的かつ安定的に大金を支払っていたことを勘案すれば、クリミア半島に対するウクライナ国が担った負担の減少は自明。ついでにいえば大きな軍港に伴う大量の雇用者の賃金もロシアによって支払われていたわけだから、ウクライナ国独自の費用負担はここでも小さいであろう。ある意味クリミアは自分の分を稼いでいたとも言えるかも。)
しかも、岸田さんにとって不利なことには、この予想される結果を、アメリカ国民、ドイツ国民の一定数以上、または多数は十分によく知っていたし、今も知っているということ。アメリカについては、そもそもNGOが人を送り出してクリミアでNATOの宣伝を行っていたが効果が上がらないというレポートがたびたび出ていた。ドイツ国民は自分で戦いに行ったところでもあるので、最初からクリミアはロシアだという認識が支配的。
ということは、これらの政府は自国民の認識にあわせて政府判断を覆すことが比較的容易だ。住民の意志がある以上仕方がない、を不思議に思う自国民はあまりいないのだから。
さて、住民の意志を尊重してクリミアへの態度をthe Westが軟化させていった場合、日本はどうするのか。
これが2点目。
The Westがそうなら、G7の一員として俺もそうしちゃいます、と言うのか?
そうですね、住民の意志がある以上仕方がない、とは、しかしながら日本は言えない。北方領土には現在ロシア系の住民が居住している以上、これを第一原理にはできない。
そう。日本はあくまで「力による現状変更」問題であるに拘る必要が発生している。岸田外相は誰も頼みもしないのに退路を断ってきたわけだ。
どうすればよかったのか。一般論として力による現状変更は認められませんが、個別に何が起ったか、そして住民の意志を見てから判断したい、ぐらいの態度で良かったのではなかろうか? それをわざわざ北方領土を繋げてきた意味は何なのだろう?
日本政府は北方領土問題を解決する意志は現在持っていない、という意思表示なのかなと思ったりする。だとしたら、それってなぜ? わからない。
でも、この内閣に尋ねても、「この道しかない」で終わりだと思う。