夕べ、宗純さんのところのエントリーで面白いことが起きていた。
超空の要塞B29の無差別絨緞爆撃
https://blog.goo.ne.jp/syokunin-2008/e/442f7950aa2bbc3aaabce10584a9ae3b#comment-list
いろんなことが書かれているけど、わけても重要なのは朝鮮戦争においてマッカーサー率いるアメリカ軍が予想以上に苦戦したその一つの原因は、アメリカ自慢の爆撃機B-29が、ソ連製のMig15によって思うように行動できなかったことだ、というお話。
それに対してコメント欄で、そんなはずはない、
B29の損失は対日戦では485機、朝鮮戦争では34機ですのでミグ15がB29を無力化したなどと言うのはフカシです。
という主張が現れる。
損失数で考えるって、戦争においてあんまり意味のあることじゃないと思わないんだろうかと思いながら面白く思った。やっぱそりゃ、ノモンハンではソ連側の犠牲者の方が多いんだから、日本の惨敗ではないのだとか本気になって言う人が現れる国だからなぁなどとも思った。
しばらくすると、2015年にスプ―トニクが書いた記事を持って冷静な人が登場。
米戦略航空部隊の「ブラック デー」 スプートニク 2015年04月15日 21:06
https://jp.sputniknews.com/us/20150415199430/
米国が、第二次世界大戦終結後と「冷戦」開始後に、ソ連に原子爆弾を投下しようとした目論見は、ソ連の「空のエース」たちよって阻止された。
それでも食い下がる損失数で見たい人に対してこの方が、
※イスラエルが使っていたF35がシリアでロシア製のS300システムで撃墜されたので、運用が極端に減った事例とよく似てますね。
と書かれていた。
私としては、これでゲームオーバーやねと思った。
■ 確定した数と潜在的な数
損失数で考える人というのは、シューティングゲーム的に戦闘を見ているんだろうなぁとか思う。何機損失したからこっちの勝ち、みたいな。
しかし、戦闘機、爆撃機には人が乗ってる。これが問題。
つまり、相手の装備によって撃ち落とされる可能性が高ければ、そのエリアへの出撃は回避される。
だけどどのぐらいの率になったら出撃しないかはその時々の戦闘の重みによる。
今だったら、10回に1回確実に撃墜されるとわかってたらパイロットに飛んでいけとは言えないでしょう。
(だから、2015年末にロシアがシリア北東部のロシア軍基地にS-400を設置し、同時にシリア軍の防衛設備を整えて以来、東地中海では、それまでどこもかしこもわが物顔だった並み居る野蛮人たちがシリア上空を勝手に飛べなくなった。ついには、検知を避けようとイスラエル軍が民間機の影に隠れて突っ込もうとするという狂った事例まで引き起こした。)
しかし1940年代だったら、9回助かる、と思うケースの方が多いんじゃなかろうか。
そして、防衛している側は半々なら飛ぶ意味があると思うかもしれないが、侵略側ではそのレートは高すぎる、となるだろと思う。
前から書いてるけど、侵略側というのは基本的に、しなくてもいいことをやってる。だから、司令官も無理なことをして自軍兵士を死なせる大義がない。
逆に、防衛側は、ここで負けたらドイツ人に支配される、ここは俺らの国だ!というような、多大な犠牲を払っても阻止してやるというケースが生まれる。
アメリカがどうして切っ掛けを捏造するのかというと、基本的に侵略戦争ばっかりやっているから、というのが答えだと思う。防衛戦争ならそこまでやる必要はあまりない。
例外的には、かかってくる相手を倒せる十分な自信がある場合に、わざと撃たせて防衛するといったケースか。
■ Mig-15
お話戻ってMig-15。
宗純さんのエントリーで十分お勉強になりますが、誰が書いてるのか知れたものではない著しく情報機関の臭いのすることの多いwikiでも、このへんは結構あっさり書かれている。
MiG-15は朝鮮戦争でアメリカ軍を主とする国連軍に衝撃を与えた。国連軍の参戦当初は北朝鮮軍にはジェット機を保有する本格的な航空兵力は無かったため、制空権は完全に国連軍のものとなっていた。
だが1950年10月、中国義勇軍が参戦し、ソ連が中国に供与したMiG-15が鴨緑江を越えて来るようになると国連軍側にあった制空権は揺らぎ始めた。第二次世界大戦中に日本本土を焦土と化したB-29はMiG-15の強力な37mm機関砲によって多数が撃墜され、中国義勇軍参戦数ヵ月後の1951年に入ると昼間爆撃任務から除外された
朝鮮にはろくな装備はなかったから、軽いぜと思って出かけて行った国連軍ことアメリカ軍は、そこら中を爆撃して朝鮮半島を北上し、そしてその勢いで中朝国境付近を超えてしまう。
すると、ソ連が中国に供与してたMig-15g出てくることになり、そしたらそれは強かった、と。
さてしかし、これを中国軍、ソ連軍は確証があってやったのか。
多分そう。
どうしてかというと、朝鮮戦争以前に、中国の内戦終盤というか、中華人民共和国が建国された後にもまだ悶着していた1950年前半、国民党との合戦に既にMig-15が投入され、国民党側が持ってたアメリカのP-38が撃墜されていた。B-24も撃墜されてる。
ということで、ソ連の航空戦力はかなり行けるぞ!となっていたところに、飛んで火にいるマッカーサーみたいな感じだったんだと思う。
そして、この点を加味すると、米軍は中国の人海戦術に驚いた、みたいな話もちょっとへんだなというべきでしょう。人海戦術以前に制空権の取り合いというモダンなところで不利な状況に陥ってるんだから。
事実Mig-15は朝鮮戦争において大活躍し、「ミグ通り(Mig Alley)」なる言葉まで使われていた。下の図のあたりでミグとF-86などのアメリカの戦闘機のドッグファイトが頻発していた。wikiに項目があった。
■ 冷戦的間に合わせを離れて
総じていうなら、朝鮮戦争とは、朝鮮が南北に分かれて内戦化していたところを使って初の国連軍を仕立てて全土制圧してやれ、とばかりに出て行ったアメリカが勝てなかった戦争。
さらに、中国はこの戦争そのものの意図を疑っていたという話もあるけど、それはまったく無理がないと思う。だって、国民党は台湾を根城にまだアメリカの支援を受けて大陸と交戦してたから。
アメとその子分(日本なわけだが)にこの意図はどこまであったのか不明ではあるけど、まったくないとは言えないだろうとは思う。
だって、朝鮮を駆け上がるとは北京の裏てから中国を攻める構図だから。これこそ日本が秀吉&明治政府でやってきたことだし。
意図がどうあれできないことはあるわけだから、意図だけ見ても仕方がないんだけど、でも失敗した意図は、もう一回、もう一回とやりかねない底意になる確率は高い。だから、見ておいて悪いことはないでしょう。
振り返ってみるなら、マッカーサーは国民党と共産軍の戦いの推移をよくわかっていなかったんだろうか?
それとも、だからこそ、国連軍仕立てにして、錦の御旗をたてて、原爆を含めてなんでも使ってもう一回中国の局面をひっくり返してやろうと思ったとか?
アメリカが原爆を使いかねないというのは、朝鮮戦争に入ってからではなく、その前に、既に世界的に騒ぎになっていたというのも非常に興味深い。
こうした中、1950年3月16-19日にスウェーデンのストックホルムで開かれた平和擁護世界大会(World Congress of Partisans of Peace)第3回常任委員会は、
(1)原子兵器の無条件使用禁止、
(2)原子兵器禁止のための厳格な国際管理の実現、
(3)最初に原子兵器を使用した政府(アメリカ)を人類に対する犯罪者とみなす
――とのアピールを採択、発表して、世界の人々に署名を呼びかけた。これに対し、全世界から5億の署名が寄せられた。
署名は273,470,566人(時には5億人までとも言われる)
ソ連は1億1500万以上を集め、これはソ連の成人人口に匹敵
署名者には、フランス人1400万人、イタリア人1700万人、英国人100万人、アメリカ人200万人、日本人300万人がいた
広島、原爆、朝鮮戦争
この署名の人数って、多分、空前絶後って感じがするぐらいだと思うんだが、この行動が起こされるほどにアメリカは原爆を落としそうだった、という話だと思うわけですよ。
これはどこに向けられていたんだろう? 思うに、朝鮮というより中国、いや、朝鮮を含めた極東もう一回という意味合いだったのではなかろうか?
さらに、2006年8月に米公文書館から出てきたこの記事も、併せて考えると、「やる気」の話に関連してると見える。
幻の「新日本軍」計画 旧軍幹部、首相に提案 [共同通信]
【ワシントン20日共同】旧日本軍幹部が太平洋戦争後の1950年前後、「新日本軍」に相当する軍組織の設立を独自に計画していたことが20日、機密指定を解除された米公文書で判明した。構想は連合国軍総司令部(GHQ)の了解の下で進み、河辺虎四郎元陸軍中将(故人、以下同)らが立案。最高司令官には宇垣一成元大将(元陸相)を想定しており、当時の吉田茂首相にも提案していた。
戦後史に詳しい複数の専門家によると、服部卓四郎元陸軍大佐ら佐官クラスの再軍備構想は 知られているが、河辺氏ら将官級による新軍構想は分かっていなかった。毒ガス隊など 3部隊の編成を目指した河辺氏らの構想は最終的に却下され「幻の計画」に終わった。
これに限らず、冷戦時代に間に合わせで語って来たことのいちいちをいろいろと見直す時期だと思うな。これから楽しいね!
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日本の「核の野望」はどんな野望なのだろう?
いつも教えていただきありがとうございます。
中国もう一回、なんとかしたいという米の欲望を考慮に入れないのはおかしいのではないのか、と思っていた私としては、大変心強いご意見です。そもそも50年代に台湾を巡ってマジで砲火を交えているんですから、この時点で「やる気」がないわけもないんですよね。
思えば、アメリカ人の中で、朝鮮問題とはそれはアメリカにとっては中国問題だから、という意見をフランクに言う人をよく見かけます。日本ではほとんど見ませんが。
これはアメリカ人の方が現実的だということですね。
またどうぞいろいろ教えてください。
国共内戦中にも反原爆の署名活動が展開されていたことは、古山秀男著「一日本人の八路軍従軍物語」の中にも書かれています。
母は海南島が見えるところまで、「手術隊」で従軍しています。
1950年4月に海南島が解放され、そのころまでほぼ大陸では蒋介石軍が駆逐されたので米国はかなり焦っていたと思います。
朝鮮戦争は北が南を侵攻したというのが今や定説ですが、間違いだと思います。
米国にとって本丸は中国で、全土解放された、大陸を一発逆転でいつ原爆を落とされても不思議ではない状況だったと思います。
いやほんと、ここでマッチアップして、お前がやろうとしてることを俺もできるからな、としたのは大きい。
ロシア(ソ連)の優れた傾向は、局面打開のために何が必要かを考えて作るってことだと思う。
作れるから作るとか、国産だから素晴らしいとかいう話じゃない。