河野談話を取り消さない、でも検証して新しい談話を出すという道もあるのではないか、と思われていたところだが、新しい談話もあり得ないという地点まで後退している現政権。
この河野談話はあまりにも問題点が多く、事実がどうのというより政治談話だったことが日々明らかになっているとも言える。
まったく腹立たしい話だし、これこそ無理にでも突破していい話だったと思うができない、と・・・。う~ん、昨年までにできなかったことが悔やまれるという気もする。
さて、歴史問題というのは実のところ日本だけではない。今問題になっているウクライナ問題でも、前にも指摘した通り、歴史問題がず~っと横たわっている。(アイデンティティを変える・敵を刷り込む)
そこで面白い記事を見つけた。3月19日、financial timesの記事で、jpressが翻訳した記事。
歴史教科書によって戦争が始まるメカニズムたった1つの公認バージョンの強要が教育を洗脳に変える
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40217
この記事が言いたいのは要するに、プーチンが歴史を歪曲して、自国優位に使うのはけしからんということ。時節柄それを理解する必要がある。また、日本の人は、financial timesを公平なメディアだと思っている人がいるように思うけど、公平なのは株価とか通貨の値だけであって、論説は基本的に、反ロシアの急先鋒であり、場合によっては反日の急先鋒にもなる。
それをわざわざお金をかけて毎週訳して掲載している日経という会社は何なのだろうとは思うけど、まぁそれはそれ。
で、
実際問題、ソ連は連合国で、連合国がファシズムだと糾弾してやまなかったナチス・ドイツを破ったのは他でもないソ連の将兵だ。もちろんアメリカからの厖大なレンド・リースがなければソ連は勝てなかったのは真実でしょう。でも、いくら武器があっても死んでくれる人がいなかったら欧州戦線で連合国は勝てていない(アメリカ人がもう何十万か何百万か死ぬ覚悟がない限り)。
それなのに、ソ連とその後継国であるロシアが「我々はファシズムとの戦いに勝利した」と語ってはいけない理由は何でしょう? (もちろん日本はそれを認めない権利はあるが) また、「ファシズムとの戦いでソビエトの人民が果たした役割を軽視している」というのはプーチンの言う通りだったりするのだ。誰が軽視しているって、それは英米であり、それにつられている多くの人々だ。
■ソ連が連合国であることを伏せたい英米
この記事によれば、プーチン氏は、「大統領は、東欧諸国は1945年にソビエト連邦に占領されたとの見方が嫌いで、ソ連はこれらの国々をファシズムから救ったとの見方を好んでいるという。」と書いているが、これはむしろ、連合国の「正史」ではなかろうか? 良い悪いでも正邪でもなく、むしろ、いつからそれが正史でなくなったのかを聞きたいぐらいだ。
現実問題、1945年のアメリカ率いる連合国は、ポーランドをソ連から救出しなかったんだし、東西ドイツは連合国が管理した。
問題になるのはバルト三国だけど、これも、ソ連以外の連合国は言葉(法律的な論争)では反論したけど、別に真剣にスターリンと戦いに行ったわけではない。そして、バルト三国とウクライナ西部は、ロシア嫌い、ソ連嫌いであったために、ナチス万歳になっていた(中立的でいたいといったって無理だから)。すなわち、彼らは当時のアメリカ、イギリスにとっても敵だった。
従って、ソ連を含む連合国が勝利した結果、当時のバルト三国は、ソ連からすると、ナチの協力者が多数いた国になった。そこで、強制移住とかロシア人の導入とか酷いことをたくさん発生した。これが良いとは誰も言わないが、敵の協力者の末路が優しかった、なんてことは通常ありえない。
これを今、英米メディアは、バルト海諸国やウクライナ等々は、かつてソ連から、またはロシアから酷い目にあわされたので、ロシアが大嫌いなのだと説明する。というか、過去のいきさつ抜きで、もともと彼らは大のロシア嫌いなのだ、としてしまっていることもある(ウクライナの場合)。
そして、現在のところ英米の方が強く影響力があるので、人々はそっちの「正史」を取った方が都合がいいことを知っているので、ますますそっちに傾いている。
■新しい「正史」を導入している英米
と、この記事が主張する、プーチン「大統領は、東欧諸国は1945年にソビエト連邦に占領されたとの見方が嫌いで、ソ連はこれらの国々をファシズムから救ったとの見方を好んでいるという。」というのは、連合国史観としては正統だし、第二次世界大戦で連合国が使ったスローガンはまさにそうだった。ソ連およびその後継国であるロシアとすれば、そのために1千万人以上を死なせたんだから、旧同盟国だった英米にその大義を降ろせと言われても困るだろう。
それがいつの間にか、それは間違いか、少なくとも忘れていい話になっている。プーチンおよびロシア関係者が不満を持つのも実は無理はない。
そこで、このたび英米が用意した新規の「正史」だけど、この肝は、(1) 英米をそこに存在させない、連合国という名も出さない。(2) 悪いのはソ連でありロシア人だ、ということになるんだろうと思う。
単純にいって、これは冷戦時代の反共イデオロギーをロシアにスライドさせただけではなかろうか?
と、この新規「正史」で落ちてくるのがナチス・ドイツの問題。
従来の「正史」ではファシズムこそ悪の根源だったはずで、今でも、アメリカ覇権の基本原則は、グローバリズム方向に人々を誘導することなので、国家の障壁の高いナショナリズム、ファシズムはご法度ということだと思う。(つまり、左翼です)
では、ナチスのファシズムはどこに行ってしまったのだ?
まぁその、現在ウクライナで起こっていることは、ヒトラーが夢みたウクライナのドイツ併合みたいなものなので、これを庇うためには、もう「正史」の変更も止む無しなのだろうか? イギリス人たちがEUに反発を強めているのはまさにこの問題もあると思う。EUがヒトラー第四帝国化している、と(EUはソ連だ、という説もある。EUSSRというもの)
■連合国史観の崩壊
そういうわけで、欧州戦線においては、連合国史観は英米自らが崩壊させている。
ではプーチン率いるロシアがそれを復活させてがっているのかと言えばそれも全然違っている。プーチン率いるロシアは現在ドイツとの関係も悪くないし、ポーランドとさえ個人ベースでみれば感情的なしこりは大分消えてきたと言っていいようにみえる。だから、別に連合国史観を復活させろという気は全然ないだろう。単純に、歴史の中のロシア人の役割をネグるな、という訴えがまず主要な動機だろう。
つまり、欧州の地上では、少なくとも大国間に関しては、冷戦構造の崩壊と共に、隣近所は大事だね、状態になっているとみていいと思う。
(ドイツが復活して、ロシアは帝国時代同様再び経済でドイツに押し込まれるのかとか思って笑ってみているのがむしろ健全ではないのか、など思う。ロシア人は西欧とやりあうには一本気すぎるんだろうと思う。)
■東アジアの連合国史観はどうなる
では東アジア戦線ではどうなのか。と、ふと思い出すに中国共産党は去年あたりしきりに連合国史観を復活させようとしていた。敗戦国日本に発言権はない的な態度だ。
しかし、冷静に考えてみても、強いナチスドイツとの戦いをまともに引き受けたソ連にはそれを主張する根拠はあるし、これについては英米とても実際に論争になれば誰も反論できない(政治的には忘れることにしちゃったらしいが、軍人さん、歴史家がそんなことを許すわけもない)が、中共にはそんな根拠はまるでない。
だから、これをもって日本の保守派は笑いとばしていたのだが、しかし、この発言は実際恐ろしく戦略的なものだったのではあるまいかと考えてみることもできるだろう。
強い大日本帝国とまともに戦ったのは、一部は国民党だが、総体としてみればアメリカ帝国であり、WWIIにおけるアメリカの対中戦略の基本は、アメリカがチャイナを守ってあげて、ファシスト日本を叩いた、だ。
つまり、中共にはその正統性はないにせよ、チャイナとアメリカという関係でみれば、十分に関係があるのだ。もともと米中は敵ではないですからね、というリマインダーだ。
■日本の右派の対応
日本の右派は、中国のでたらめ史観を笑った。これはこれで正しい。そして、それを放置する左派を、中国と同じ歩調を取っていると非難もし、笑いもした。しかし、構造からみえば左派が取っているのは連合国史観であり、中共謹製史観ではない。
つまり、日本の右派は、中国のでたらめ史観を批判しているつもりで、実際にはアメリカ、イギリスの古い版の「正史」(同じ頃欧州では壊れていたわけだが)をひらすら叩いている。
この試みは日本民族としての歴史の回復という意味では非常に有意義で、なされるべくしてなされたといっていい。しかし、一方で、この試みは考えるまでもなく時と場合によってはリスキーだ。GHQが策定してきた史観を振りほどくとは、1945年8月以前の日本人の頭に戻ることであり、それはつまり、英米は敵であることを思い出すことに他ならないからだ。
そこで導入されたのがコミンテルンこそ真犯人説。コミンテルンこそが悪であり、ルーズベルトもGHQもコミンテルンに洗脳されたからこそああなった、という理解の手ほどきで、これが意図するところは、アメリカやイギリスが敵だったのではない、共産思想こそが悪だったという説。
これはこれで正しいが、問題は、その思想があろうがなかろうが、イギリスもアメリカもソ連と組み、蒋介石支援をやめて中共に勝たせたという厳然たる事実があることだ。
■日本のはどうすればよかったのか
というわけで、日本の右派は現在すっかり連合国史観粉砕運動に邁進していると言っていい状況にあり、もし日米同盟は今後も大事だと考えるならば、ちょっと危ういところにさえある。
どうすればよかったんでしょうか・・・。一つ言えるのは、連合国史観粉砕運動は、冷戦体制時代に整えておいて、崩壊前後からすぐ、すなわち90年代前半までにやっておけばよかったということだろうか。
思えば、70年代後半ぐらいまで世の中にたくさんいたという「左派」とか「左翼」という人たちというのは、別に全員がマルクス主義者だったのでもなく、北朝鮮シンパだったのでもなく、反英米視線を堅持していた人たち、すなわち、反吉田体制の人たちを含んでいたのではなかろうか。やたらにアラブに肩入れしてた人たちは、いささか牧歌的すぎたとはいえひたすら反英米という意味だったのだろう。
私自身は子供だったのであまりわからないのだが、成り行きから考えれば、どうしても親米になれない人たちの行き場はそこしかなかっただろうと思う。
最近になって右派というか保守派の人たちが、ルーズベルト大統領の欺瞞みたいな話とか、ロシア革命とはユダヤ人による革命だったのだ、西洋文明というのはそもそもみたいな話をさも発見したかのように扱っているやに見えるのだが、こういう話は30年前には左派のアイテムだったようにみえる。だから、そのへんの人たち(誰だか具体的に知らないですが)を、日本派として来るべき日本独立のために養成できなかったのは返す返すも残念だ。
考えてみれば、冷戦体制崩壊と共に日本にもたらされたのが、日本社会は構造を変えるべきという、今から考えればなんで上手くいっていたシステムを変える必要があったのかさっぱりわからない主張だった。この意味不明な語がそれっぽく聞こえた最大の理由は、体制崩壊後に、右派が「我々は自由主義陣営として勝利した」的なある種のプロパガンダにマジで頭っから突っ込んだことだっただろうと思う。つまり、国家的にものを考えるのはもう古いんだ、というマンマ左翼の言辞に乗っていることに無自覚だった。
この時、左でも右でもいいから日本派がいれば抵抗できただろうし、そうだ、抵抗していたのだろう・・・そして、「抵抗勢力」は敵だといわんばなりのあの御仁がやってきた、と。
日本はつくづくボケていた。
■英米の言辞に振り回されなかったドイツ
と、左派に力点を置いて考えてみたくなるのは、この間のドイツのことを思うから。ドイツは、社会主義政党があるわけだけど、この政党は国内政策的には普通に左派なんだろうけど、そんなことよりもなによりも結果としてみれば親露勢力をかこってきたことが大きかったのではないかと思う。イデオロギーは変わるが地理は変わらないのだ。
で、それによって、英米が何を言おうとエネルギー資源の30%以上をロシアから安定的に確保している。その上でロシア市場に6000社以上も進出させているが、それはエネルギー関係が安定的であることでむしろ自らが大顧客であり、かつ大投資家という立場を築けているからだろう(俺らが見捨てればロシアは大変なことになるぜ、的な関係)。英米は、ロシアにエネルギーで振り回されるヨーロッパ、などと勝手に騒げばいい、というこの態度がすごい。この国ぐらい言ってることとやってることが違う国はないかもしれない。
(そもそもヨーロッパは脱ロシアをはかっているという観測は何の根拠もないと思う。米がそういうので話を合わせているだけでしょう。イラン問題とかと同じ。)
ついでにいえば、ロシアを挟みこむために中国を仲間にしたい動機を持つのはドイツなので、現在は、対ロシアで、ドイツ(EU)-中国-アメリカが協調していると考えることもできる。
日本にとっては、この関係は米中同盟状態なので、これを打破するためには、アメリカをここから引き離すか、それよりももっといいのは意味不明なロシア敵視をどうにかすることが求められるわけだけど、今のところどちらにも成功していない。
そういうわけで、日本はかなり不利なポジションに置かれっぱなしだろうと予測するしかない。それもこれも、地理と国際関係を含めた歴史観の醸成に失敗したことと、安全保障についていえば右派が反共思想の信者となり、左派で残ったのがアメリカ的な理念左翼だった(日本共産党のことです)という点が重大な問題点として指摘できると思う。