ウクライナの動乱は、クーデターがあって、そのリアクションとしてロシアが軍を出した、という話なのだが、前にも書いた通り、アメリカの主流メディアは最初、オバマ政権の意向を受けて、そんなのクーデータじゃなくて、中に入ってる人も別に極右だのネオナチだのというのではない、それはプーチンの嘘だ、と言っていた。しかし、
暫定政権 極右勢力排除に本腰 大統領選へ欧米の支持固め
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140329/erp14032910050004-n1.htm
とか出ちゃう。しかも、メディアが書き散らした、ロシアは強硬だ、悪い、不正だというわりには、ロシアとアメリカによるウクライナの政体はどうするのか、の議論はもごもごやっている感じ。ウクライナ暫定政権が、なんで俺らの頭越しに話あうのか、とアメリカを非難しないのも興味深い。これはどういうことか? オバマが弱気だから? いやぁ、実のところクーデターまわりの背景が黒いので、ロシアを本気で怒らせるのは嫌なので、どこで落とせるか詰めているってことなのじゃないのか。
これでのクーデターまわりの情報は、ロシア政府が範囲を設定してそれ以上にスキャンダラスにはしていないという点もポイントではないのか、など思う。
というのは、暫定政権成立にあたって活動していたのは、各紙が控えめにいうような極右とかナチのようなではなくて、マジのあのナチスの流れといって言えないことはないから。その人たちがアメリカ内で在米ウクライナ人団体として一定の政治的影響力を持っていて、今回の騒動の陰にも存在していた、というスキャンダラスな切り口はにならないよう米ロ共に決壊は避けている、みたいな。
ナチって、そんな昔の話がなぜ今に繋がるのか?
■ナチスシンパの米国移民
それは、1930年代、40年代にウクライナあたりでドイツのナチスのシンパというか事実活動していた人たちが、連合軍が勝利し、ナチスが敗戦した後、アメリカ、カナダに移住し、コミュニティを作り、いつしか政治的影響力をを持つようになっていったから。そして、その人たちが一連のウクライナ革命騒ぎの背景にいるから(控えめにいっても、その影響が濃いから)。
事はこのあたりの問題にかかわる。ナチス時代にウクライナ最西部にいた武装親衛隊。
第14SS武装擲弾兵師団
このあたりは、アメリカ主要メディア(したがって日本のメディアも)は無視しているけど、そのうちアメリカのハードコア左翼から絶対クレームがつくに違いないと思っていたら、やっぱり出て来た。3月28日付け、『The Nation』。
ちなみにこの雑誌は、19世紀から続く、左翼というより国際共産主義(コミンテルン)ってあななたちみたいな人ですかと言いたくなるような理念を振り回す怖い左翼のたまり場。そう聞くとマイナーに聞こえるかもしれないけど、実はとても影響力があると思う。
Seven Decades of Nazi Collaboration: America’s Dirty Little Ukraine Secret
(ナチとの70年の関係:アメリカが隠しておきたいウクライナの秘密)
背景事情がわからない人には何がなんだかわからないマニアックなお話ですが、上の記事は私が知る限り、基本線に間違いはないんじゃないのかなと思う。
また、全然新発見でもなければ新解釈新でもない。2004年のオレンジ革命の頃に知った人も多い。なんせ、その革命で有名になった親欧米派のヴィクトル・ユシュチェンコが、ステパン・バンデラをウクライナの英雄だと褒め称え、少なくない人々が引いていったから(バンデラは基本的にナチ協力者として記憶されている)。
かいつまんで言えばこういう話。
- 1930年代からのウクライナ、ポーランド、バルト3国、つまり旧ロシア帝国の西端は、究極において、ソ連でなかったらナチスという選び方をするしかなかった気の毒なところだった。
- ソ連を含む連合国が勝利した後、ナチスについた側は打倒される運命にあった。
- そこを、いろいろあちこちで取り成して、ナチス側の人たちがアメリカ、カナダに移住した。
ここまでは別に悪い話ではないと私は思う(ソ連からしたら多分同じ連合国であるアメリカの裏切りなわけだけど)。
しかし、そこからがどうもね~だった。
- バンデラ主義ってやっぱりどうなのよ、という疑問に答える気はなく、ウクライナ民族解放運動の父として尊敬してる(ステパン・バンデラ)
- 反共思想を覆面にしたと思うのだが、主敵はロシア人の感情温存、強化
- したがって、排他的、民族差別的言辞が強烈
- 米国移民として集団を形成しているので、集票でき、従って政治的に力を持つようになった。どこに? それはもう、反共の共和党です
と、私はナチスにもユダヤにもスラブ系諸民族にも特別な感情はないのでこんな緩い書き方をしているが、現在の世界で、ナチス的な人々と長い間政治的な関係があったいうのは、まぁそれ自体スキャンダル・・・でしょうね。
(上の記事では、ブッシュ父とウクライナ関係者にフォーカスが当たっている)
また、こういう背景の人たちがキエフを占拠したら、東部のよりロシア色の濃いロシア人たちが怖がる理由は十分にあります。にもかかわらず、そんなことはない、それはプーチンの宣伝だとオバマ政権は言っているのだが、この態度が受け入れられないのはロシア系だけではないでしょう。
■「恨み」を持つ移民の視点に立ったことの余波
この成り行きは、私は政治的スキャンダル以上の影響をアメリカ政界に与えてきたと思う。それは現在の在米とか在日の韓国、朝鮮人の行動を見ればわかるというもの。
ロシア人を過剰に憎む人たちが集合してロシアを語るとは、日本でいえば、李承晩に日本を語らせてる、みたいな感じなわけだから、どうしたってバイアスが掛かっていくし、それを誰かが止めなければ歪んだ傾向に拍車がかかる。
今回の騒動で冷戦後アメリカのロシア研究がおかしくなったという記事が結構出ていたが、これら東欧系のナチ側についた人たちの視点を譲り受けてしまってこともかなり大きいのではないかと私は見てる。前にも書いたけど、ロシアを過小評価しすぎるか、過剰に野蛮人化している人が目につきすぎるのは、以てここに「恨み」が入ってるからではないのか。リアルポリティクス系の人たちが、EUもアメリカもロシアを理解してないと散々語っているけど、そもそも「リアル」に理解しようという気がない。ロシア人は殲滅対象みたいな感じだから。
どこかの書き込みで、イギリス人が、私たちはあんたたち(アメリカ)が国になるよりずっと前からロシアとは比較的安定的な関係を築いていたんだよ、あんたたちへん、と書いていたのを目撃したが、まさに一部アメリカの反ロシア主義者に欠けているのはそこらへん。コリアンが日本の誇らしい部分やら華やかな活躍みたいな部分は絶対認めないというのと似てる。それでは日本研究は成り立たないでしょ?
(在米韓国人というのは、この様子を見ながら作戦を組んでいったのではなかろうか? 日本では慰安婦問題は左翼のアジェンダみたいに思ってる人が多数だけど、こうやって考えれば少なくとも両建てなのじゃなかろうか?)
そういうわけで、ウクライナ問題は、ロシアでもウクライナでもなく、実に全くアメリカにとって大きな問題だったりもする。2004年のオレンジ革命の時にも騙しだましだったのに、またやったので、もっと多くの人が気づいているので、暴露の仕様によってはスキャンダラスになる。
今のところ表面化していないが、ユダヤ人としては、(まぁ金融ユダヤの人とか、いわゆるディアスポラという国外ユダヤ人の動向はおいておくとして)、総体として、この地域で苦境をなめたのは事実なので、彼らが、本物のナチスシンパの末裔をアメリカ&EUが支援することをどのぐらい許すのか、も注目点でしょうかね。
こじらせて、ウクライナ西部とユダヤ人の関係に話が及んで、そもそもロシアで起こった革命はユダヤ人の革命じゃないか、じゃあその革命に資金出したの誰だよ、とか、コミンテルンってどこだったのよ、とか現代史のある種のタブーみたいなところまで行ったりしないかなぁと、私としては結構楽しみな部分もあったりするけど・・・おほほ。
でもそうなったら、「戦後レジーム」どころか、20世紀のアメリカとは何だったのか問題にネガティブな光が当たってしまうわけで、それはそれで大変。
ロシアに圧力をかけても解決しない問題があるからこそ、アメリカの態度が煮えきらないんんじゃないかと思って引いてみてるのが吉ではないかと思う。
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