■NATO東方拡大の意味
とはいえ、私はこの拡大には一定程度理解できる側面もあると実は思ってる。それは、NATOと書いて保護同盟と読むみたいな陰の意味があるのではないかということ。
このあたりの小・中国というのは長らく独立国としてやってきた国ではないために、チャンスがあれば拡大したいという欲求を抑えられないというより抑えたことがない国ばかりだ。因果応報を誰のせいにもできないというほどの体験値がない。自分で敵対行動を取って、でもアメリカさんが助けてくれるなら、と考えがちだということ。このへんは、各地域が「本当は自分のものだ」と思ってる歴史的に所有者が交錯してる領地がいっぱいある。だから、その暴走を止めるために、
・国境線は動かさない
・同じ軍に入れとく
という措置はリーズナブルかなと実のところ思う。EUというのもそういう組織としても有効だと思う。一国単位では実は間に合わないから保護措置としてEUに入れ、みんな同じ側なんだからいいでしょ、みたいな。
ところが、この措置を過剰な「対ロシア」と読ませていく傾向が出来て来た。ウクライナ、グルジアを入れろという後発の要求などがその典型か。
つまり、最初の設定者は保護主義的なことを考えていたんじゃないかと思うんだけど、そのうち過剰な反ロシア主義グループが換骨奪回してしまって暴走。最後にプーチンにこれ以上は絶対ダメとクリミアという反ロシア主義者にとってのご褒美みたいなものを文字通り抱き込まれてしまった、という顛末ではないかと思う。
結論。既にくたびれてないロシアが存在し、かつ、「過剰なロシア敵視の同盟」という姿を表現してしまった以上、この同盟は軍事同盟としては事実上壊れている。それは例えば、アイゼンハワーが昔、ロシアに爆撃してそこで勝って、それでどうするんだ、と言ったといわれているそれと同じ意味。
ウクライナを占領するってできますか? キエフとハリコフとドネツクとオデッサとクリミアを一緒に攻めるにはどのぐらいのリソースが必要ですか? ラトビアの小さな街を守るためにNATO諸国は間に合うんですか? モスクワを爆撃したらその報復に耐えられますか、等々決してうまくはいかないことだらけなのだ。この同盟は、ロシアを怒らせない限りにおいて有効という皮肉な対露同盟だったのだ。
■近い将来の傾向
わたしが思うに、この先は、こんな感じになるんじゃないのかしら。
・目的が限定されていない同盟は流行らなくなるだろう
・目的を限定して緊密な関係を作る提携のような形が利用されるようになるのではあるまいか(ロシアとインド、イラン、シリア、中国みたいな関係。目標が合致すれば外交を含め共闘するが、常に一緒というわけではない。)
つまり、長期的にみれば、アメリカの大きさは依然大きいとしても、個別具体的な状況にあっては、それをかいくぐるようにして1919年以前の世界に戻っていく、という流れ。
そういうわけで、日本は今までのように「日米は同盟なので」式の発想を変えて、その時々で多国間の間で利害が合えば共闘、できなければ最悪でも中立でいてもらうよう働く(ここで日頃の付き合いがものをいう)、といった行動が原則になるんでしょう。それを実行できないところは、近隣の強国の影響圏内に入っていくしかないということ。
その意味で、欧州とか旧ソ連内は、それなりにEUみたいな屋根が今後も部分的には必要とされるでしょう。欧州が小国を入れると喜ばしく、ロシアが小国を入れると強奪だ、ってのは馬鹿げた話。一国でやっていくのが実は非効率なほどの国力の国というのは多数あるわけで、そこはまとまっている方が諸国民のためにもだいたい良い(程度問題は常につきまとうが)。
結局、帝国のような入れ物が復活する、と(EUはEU官僚がいる時点でもうすっかり帝国とかソ連)。こういうものは結局必要だったんですよ! とウィルソン大統領に苦情を言いたい。いやほんと、この人が諸悪の根源といつも思う。
■ まったくの思いつき
近現代の欧州の仕組みというのは、
・オーストリア・ハンガリー、ドイツ、ロシアの各帝国を壊す
・小さいnationsを独立させたけど収拾つかなくなったのでソ連帝国に一括預かりさせる
・ソ連帝国を壊して、その代わりにアメリカ帝国が遠隔でコントロールする
という形になっちゃってると思う。ポーランドとかバルト三国なんか何かというとアメリカに訴えるのが仕様になってる。長続きするわけがない。そこで、
・アメリカ帝国の遠隔操作が効かなくなる
・ドイツ帝国大勝利!! と喜ぶと東のロシアが動機づくし、オーストリアが悲しむので、神聖同盟だと主張する。具体的な拘束は何もありません、同盟してるわけではないんですよ、モラルの問題、時代は保守なんですよと。
(俺か? アレクサンドル1世)
であれば、ここまでの100年間は、第二次ナポレオン戦争とでもみなすべきか(確かに、自由やら平等を主張する人々による騒動だった。) そういえば最近、アメリカとフランスの関係が以前より近しいし、イギリスがなにやら不満げだ。
そう? (プーチン)