さっきNHKのワールドニュースなるものをちらっと見たら、ロシア軍がウクライナ国境付近に展開していて、NATOの偉い人が、侵略もあり得るみたいなことをいっていた。画面にはポーランドとバルト三国の図が出ていて、ここがロシアの次のターゲットかみたいに見せたいという感じだった。なんというか、実際そんなところは問題になってないんじゃないか?とちょっとポカンとした。
今日のロシアの動きで興味深いのはこれか。
Lavrov: contact group for Russia-Ukraine talks ‘unacceptable format’
http://en.itar-tass.com/russia/725815
ロシアのラブロフ外相が、ウクライナの暫定政権とロシア政府が直接交渉するという形式は受け入れられないと言っている。
“My latest meeting with U.S. Secretary of State John Kerry in The Hague and my contacts with Germany, France and several other countries show the outlines of a possible joint initiative that could be offered to our Ukrainian colleagues. This is a very important clarification because until now our partners proposed creating some contact group where Russia and those who have seized power in Kiev would negotiate an agreement under their [Western countries’] supervision,” Lavrov said.
ラブロフが言うには、ヘーグで米国のジョン・ケリー国務長官と会談し、ドイツ、フランス他の国々と連絡を取っているということは、ウクライナの暫定政権の人たちに提案できる可能性のある共同の提案を作るという意味で、ここにある区分を忘れてもらっちゃ困る。我々のパートナーたち(西側ってことか)は、これまでのところロシアとキエフで権力を奪取した人々が、西側諸国の監督の下で合意を形成することになるコンタクトグループのようなものを作るよう提案している。
つまり、暫定政権とロシア政府は正式には対話しない。あくまで暫定政権は西側が主導した政権であり、その限りにおいてロシア政府は交渉する、という話なんでしょう。
そういうわけで、この間書いた(1)クーデータ→(2)クリミア問題、という構図を崩す気はまるでない。
肝はどこにあるかといえば、おそらく、外国政府が一国の政策に介入してクーデータまで起こすとはいかがなものか。これはどこかで辞めさせるべきでしょう、ってのを世界世論的に醸成したいということではないかと思う。
それはつまり、アメリカだかEUだか金融資本家だか軍産複合体だか知らないけど、とにかく、謎の人々がカラー革命だの民主化革命だのとやってるその動きに対する牽制、という意味ではないのかな。
アメリカ政府はもちろんこれには直接答えないで、(2)だけを見て、悪いのはロシア、凶暴なのはロシア、で行くつもり。
これまでのところでは、私の見立てでは、アメリカ政府の意向が成功しているのはアメリカの半分ぐらい(民主、共和関係なし)と、事情のよくわかってない諸国民ぐらいではなかろうかと思う。
■NATO東方拡大問題
この間、アメリカの共和党系孤立派は、個別のクリミアの話ではなくて、そもそもNATOの東方拡大を見直すべきとか、冷戦以降の米ロの関係が間違っていた、という話をよく取り上げており、この話には、特に孤立派云々ではない、アメリカ、イギリスの元ロシア大使たちも参戦している。
彼らは、冷戦の終結、ソビエトの崩壊をアメリカの完全勝利と捉え、ロシアを敗者のように扱って、敵をいじめるようにNATOを東方拡大していったのがそもそも間違いという考えのようだ。
もっといえば、NATOの東方拡大をしないという暗黙の合意があったからこそソ連は抵抗せずにワルシャワ条約機構を解体した、それなのにアメリカのクリントン政権以降がやったことはそれとは真逆、ロシアへの裏切りじゃないかということのようだ。
そうは書いてないけど文章を読む限り、仕事を現場でやっていた人から見たら、自分たちが、こんな危険な状況(いわゆる冷戦)を終わりにして、平和な関係を築くためにとか語っていたことが全部ロシアへの裏切りになっているということで慚愧の念があるのかな、という感じもする。
イギリスの元駐ソ連大使
Rodric Braithwaite
Ukraine crisis: No wonder Vladimir Putin says Crimea is Russian
(ウクライナ危機:プーチンがクリミアはロシアだというのは無理もない)
http://www.independent.co.uk/voices/comment/ukraine-crisis-no-wonder-vladimir-putin-says-crimea-is-russian-9162734.html
アメリカの元駐ソ連大使
Jack F. Matlock Jr
The U.S. has treated Russia like a loser since the end of the Cold War
(米国は、冷戦終結以来ロシアを敗者のように扱ってきた)
http://www.washingtonpost.com/opinions/who-is-the-bully-the-united-states-has-treated-russia-like-a-loser-since-the-cold-war/2014/03/14/b0868882-aa06-11e3-8599-ce7295b6851c_story.html?tid=pm_opinions_pop
■ジョージ・ケナンの予見
ジョージ・ケナンといえば、ソ連の封じ込めを柱とするアメリカの冷戦政策を策定したので有名な人だけど、ケナンは実は1997年にNATOの東方拡大に大反対していたそうだ。
1997年にニューヨークタイムズに寄稿して反対を表明しており、それによれば、
NATOの拡大は、アメリカの冷戦以降の外交方針の「致命的な誤り」となるだろう、なぜなら、それによって「ロシア世論において、ナショナリスティックで、反西欧的、軍事主義的な傾向に火をつけることになる。ロシアの民主主義の発展にとって逆効果となり、・・・結果としてロシアの外交政策を私たちが望まないような方向へと追いやることになる
と語っていたそうだ。
In a 1997 New York Times op-ed, Kennan suggested that expanding NATO would be “the most fateful error” of American foreign policy in the post-Cold War era, which could be expected to “inflame the nationalistic, anti-Western and militaristic tendencies in Russian opinion; to have an adverse effect on the development of Russian democracy … and to impel Russian foreign policy in directions decidedly not to our liking.
http://www.theamericanconservative.com/articles/natos-wrong-turn/
それにもかかわらず、1998年米上院は、80-19でNATO拡大案を可決した。19名のうちの一人であるDaniel P. Moynihanはケナンの寄稿のコピーを連邦議事録に入れたらしい。
このへんの気遣いは米国民の議会に対する愛と尊敬がみえていい話だなとか思うけど、いやそういうことではなくて、事態はケナンの予測したまさにその通りになっている。いやしかし、そういうことでもなくて・・・
だって、別にケナンじゃなくても普通に考えりゃ分かる話じゃないの?と私などは思う。むしろ、この時の米国上院議員の大多数の皆様は、ロシアは二度と復活しない、絶対に影響力も大きくならないという確証でもあったんでしょうか?
このへんが、おそらく黒海周辺に長らく住んでいる諸民族と、海の向こうからゲーム感覚で世界を支配した気になっている人たちの違いなんじゃないのかなぁと思う。ケナンとかアイゼンハワーとかは、ゲームじゃなくて人が大量に死ぬ状況の中で政治を見ていたので、「勝つ」とか「支配する」という意味についてリアル、つまり歴史的で総合的だったんだと思う。
蛇足だけど、日本では、ロシアと聞くとソ連、ソ連といえば封じ込め、封じ込めといえばジョージ・ケナンみたいな定式でものを言う人が多いようにかねがね思ってるんだけど(反共思想は本当に日本をダメにしたと思う。宗教みたいになってる)、その時々で必要な政策を考える人だったという具合にほぐすべきだと思う。
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