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血に飢えた主戦論者はプーチンではなく俺たちです in イギリス

2014-12-25 10:12:22 | 欧州情勢複雑怪奇

一昨日「昭和陸軍全史 1 満州事変 (講談社現代新書)」をエントリーしてふとAmazonじゃなんて書かれているんだろうと思ってクリックして見てみた。

昭和陸軍全史 1 満州事変 (講談社現代新書)
川田 稔
講談社


すると、こんなレビューが目に入った。

ロシア情勢をみて読み始めた一冊。クリミア統合に止まらず、ウクライナ東部への実質的な介入を続けるロシアの姿は、満州事変前後の日本に酷似している。そこから学べることは何か、考えたかった。

私としては、ああ日本の限界がここにあると思わざるを得ない。

もし今回のウクライナで起っていることと満洲事変を重ねるなら、キエフで外国勢力が主体となって起こしたクーデターこそが満洲事変でしょう。ロシアが起こしてるのではないですよ。しかしそう見えるのが日本がおかれた情報空間ということだと思われます。

あの騒動は、ウクライナ人たちがキエフのヤヌコビッチ大統領に反発を感じて起こしたことが第一幕で、これは2月22日だったかにドイツ、フランス、ポーランドの3人の外相とヤヌコビッチ政権との間で話し合いがもたれ合意ができたところで手打ちできたものだった。

ところがそこからクーデター騒ぎとなる。つまり、これを推進した一派はもともと話し合いによる解決、つまりあくまでウクライナ国内の内政としての解決を望んでおらず、ウクライナを取ろうとしていたわけですね。だいたいなんでも二段階で革命されちゃうのが近代の歴史なわけですが、ここも同じだったという感じ。

で、「アメリカがソ連に見えた日」で書いた通り、オバマ政権というのはこのクーデター部分を見せずにあくまで始まりはプーチンの関与だ、という線を敷いているわけです。

それは自分にとって都合が悪いからそうやっているだけ。そして主要メディアはそのインチキ話に付き合ってる。

さて日本のオーディエンスはどうなるのかといえば、その見えないところが本当に「なし」になってしまうんですよね、簡単に。だからこそ、プーチンが満洲事変を起こしているというような、ちょっと考えられないようなことを考えつく人がいるんだな、と思うわけです。

そもそも、ウクライナってロシア世界からしっかり独立していない場所なんだから、ロシア側がアプローチすることは外国勢力による侵入にはならないしね。だからこそ、クリミアでウクライナ軍が大量に一気に投降するという事件が起こったわけ。

■ 血に飢えた主戦論者は俺たちです in イギリス

さてその一方で、主流メディアがやかましくプーチンが悪い、プーチンが悪いと書きたてているその主犯のような国イギリスでは、ジャーナリストのピーター・ヒッチンズによる、ロシアとの戦争を煽っているのは俺らの方だ、という論考がデイリーメール日曜版に出て、ウェブでも結構なビューを取って話題となっている。

PETER HITCHENS: Forget 'evil' Putin - we are the bloodthirsty warmongers
http://www.dailymail.co.uk/debate/article-2882208/PETER-HITCHENS-Forget-evil-Putin-bloodthirsty-warmongers.html

ロシアが戦争をしかけてきているようなことを語るけど、冷戦が終わって以降支配領域を増やしていったのはEUの側で、EUが大金を投じてウクライナで反ロシアの市民団体を養成し、EUとNATOの政治家たちはありとあらゆる外交規則を破ってキエフに駆けつけ、EUの側に付こうとする側のデモ隊に味方した。

もし9月のスコットランド独立問題でロシアの政治家たちが独立を呼びかけ、独立支持派の資金源がロシアだったとしたらイギリス人はどう感じるのか想像してみろ。

その後暴徒がウクライナ憲法を破り選挙で選ばれた大統領を追い出す。この間ウクライナは相変わらず腐敗したままだ。こんな混乱ではどちらにも味方をしたくないと思う人がいてもまったく当然だ。しかし、実際俺らは味方をしたのだ。

さらにその上で、ワシントンがこれをしてあれをして、現在はなぜだか知らないがサウジアラビアは原油価額の低下も厭わず増産に励む。サウジにとってはロシアはシリア以来敵対している、云々と来て、ワシントン、ロンドン他はどうやらこうやって本格的に敵対したがっているらしく、そうやってルーブルを売り崩しロシアに経済危機を起こしていくのか。

それはつまり1922年にドイツのマルクを崩していったような話か、と。間違った情報にさらされたバカな人々が今日ヒトラーとプーチンを比べているが、もしこうやってロシアでハイパーインフレを作り出してプーチン打倒に成功したとしたら、その時こそ本当にロシアのヒトラーはどういうものかを私たちは知ることになるだろう(次の首脳はヒトラー並に恨みがましくなるだろう、ということ)。それはつまり楽しいわけもない欧州の戦争という話をもたらすだろうよ、と。

■ よく見てる・感じてるイギリス

という具合で、明らかに、最初に仕掛けた欧州&アメリカの行動にこの騒動の原因を見ているわけです。その意味ではアメリカのミアシャイマー氏などと同じ。このへん(悪いのはロシアではなく欧米だ /ジョン・ミアシャイマー)。

キッシンジャーも「西側が正直ならば」といって暗に(というかかなり強力に)西側の誤りを指摘してるので同趣旨。人種の別ではなくいわゆるブリティッシュグループの総意はここらへんらしく見える。

ヒッチンズの文章がこれらと異なるのは、ヒッチンズはイギリス人が持っているであろうモラルに訴えている点か。それはつまり、自分たちが仕掛けていったことによって相手方の一般人が傷ついている、または傷つくのが目に見えている(経済危機をわざわざ起こそうとしてるんだから)、それを見てほくそ笑んでいる、喜んでいる様を、ヒッチンズは不道徳なことをしていると捉えていると思う。しかし決してそうは書かれていない。が、ヒッチンズはこの文章を第二次世界大戦中にドイツ軍の空爆に恐怖し食糧難におびえていたお母さんの戦争体験の話を枕に使って話している。このことによって、読者が一般人が置かれる困難、つまり現実の困難に目線を落とし自己の道徳を顧みる機縁とする、という試みに成功していると思う。(本人はずっと同じ趣旨を書いているので全然作為の意図はないだろうと思うけど)

この記事がデイリーメールの日曜版に出て、ウェブ上で12000ものリンクを生み、1500以上の大半がヒッチンズの記事を賞賛していることからもわかる通り、私はこのセンスはイギリスでは非常に有効だと思う。クリスマスだから余計にこれが効くとも言える。

イギリス人という人たちは不思議な人たちで、イギリス政府と支配層の悪逆ぶりは確かにそうなのだけど、常に、一般人のモラル的なバックラッシュも強い。ブレアを吊し上げたのもそこでしょう。遠い昔には、ボーア戦争で、こんなことは大国のすることではないと中産階級の人たちが憤慨したというのもあった。自国政府がなんといおうとこれは間違っていると主張する人が確実に存在するのは英グループ共通と言っていいかも。

■ 何が違うのか

そう書くと、あたかもアメリカ人やらドイツ人、日本人にはモラルがないみたいな話になっちゃうけど、そういうことではない。

問題は、よく見えてる人たちと情報閉鎖空間に入れられてしまう人たちの差でもあるだろうし、どのぐらい異論の表出を許すのかのその社会の許容度の問題でもあるだろう。

イギリスは、ロンドン・シティと自国政府が昔世界を仕切っていた側だし今もそうには違いない。だもんで、人々が情報を出していく仕組みに非常に慣れてるんだと思う。そして、そのプロパガンダ戦の最中にも、実のところ冷静な視点の記事もさりげに置いておいたりもする。その微妙さが、情報閉鎖型の国とは違うんだろうというのが私の観察。

今回でいえば、ヒッチンズがデイリーメールで主流メディアとは全然違うコラムを書き続けている。また、反共・反ロシアの旗頭のように見えるテレグラフでも、クリストファー・ブッカ―が一人だけ常識から見るとこうですよ、みたいな記事を書き続けているし、記事内のコメントやブログでの支持も旺盛。(まぁ、UKIP/イギリス独立党が最初から悪いのはEUと言ってたりもするので実はこの路線はマイナーでもない。)

また、フィナンシャル・タイムズはロシア、ウクライナ関係の記事の9割はプロパガンダだとしても、ウクライナ債権格付けの話やらIMFが金出さね~とかいう話は書かざるを得ない。このへんまでダメにしたら本業が成り立たないという(大分低いが)ボトムラインがある。

だから、よく見てる人にはそれなりに別のピクチャーが見える仕組みになってるとも言える。

■ バランスこそ第一のもの

しかしではなんでこんなはっきりしないことをするのかといえば、そりゃ世の中私の見方がすべてのわけもないという諦念みたいなものがあるからではないでしょうか。私の損は相手の得かもしれないわけだし・・・という感じ。

で、その上で経験知的に、社会が生き延びようとすれば何事によらずバランスさせておくことは将来に向かって悪い話ではないってな発想になるんじゃないのかな、と。別の視点を理解しておくことは、妥協点を探す際にも役に立つし、物事の成り行きによっては最初とは異なる物を選択しないとならないこともあるが、その時全員の立場が同じだったら妥協点を探りに行く奴がいないし、話を全部引っくり返すのも大変だ。

でね、今回に関してみても、このバランス志向は実際現実的でありかつ将来的な見通しの方向にも光をあてているとも思うんだよね。

というのは、悪いのはプーチンだけだというのはG7諸国の情報閉鎖空間では優勢だけど、ロシア、中国、インド、トルコ etc.を見れば、そんな見解は優勢ではないわけだから。

ということは、これらの地域の人たちはイギリスの言論、すなわちイギリス人は少なくとも「キ印」ではない、モラルのある人たちが頑張っていると受け止めるわけで、これって将来にとってポジティブではないでしょうかね。

共有できるモラルの形成に寄与していくことは、いつだって絶対に損にはならないものだと思う。英グループはしぶとい。

 


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