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アゼルバイジャンとアルメニア…ですめばいいね

2020-09-30 02:02:47 | 欧州情勢複雑怪奇

アゼルバイジャンとアルメニアが長いこと懸案のナゴルノ・カラバホ地域を巡って戦闘状態になっている。今日で3日目。

ただ、NHKがアゼルバイジャンとアルメニアで「大規模な戦闘」があって、多数の死傷者が出ています、といった感じで伝えつつ映像のクリップを出していたが、その映像はあんまりあてにならないかも。

ロシアRTなどは、1日目からその映像を貼りつつ、第三者がこの映像の真実性を確認したわけではありませんという断り書きを入れていた。

また、両陣営から無数の未確認情報が流れることも、皆さん折り込んでくださいといわんばかりの書き方をしていた。

慣れてるよな、というしかないのは、アゼルバイジャンもアルメニアも元ソ連の国で、両方とも今でも非常にロシアと密接な国で、この紛争もたびたびやってるから。

 

場所はこんな感じ。twitterで拾ったマップ。インドネシア語らしい。

赤が敵対、緑が友好、黄色が複雑 との判断みたいだ。だいたいあってると私も思う。

画像

 

バクーのあるアゼルバイジャンは西側支配層が長年欲しがっていた地域なので、ソ連崩壊後真っ先に西側が手に入れて、以降支配者層とその方針は西側の言う通りといった建付けで動いている。だがしかし、国民的には、普通にロシア人と上手く商売している人たちといっていいと思う。

バクー・トビリシ・ジェイハンパイプライン

アルメニアは正教徒として古くからロシアと近しいので、誰もこの関係を疑う人はいないし、民族感情的にも概ね正しいんだが、つい何年か前政変があって古い人が追い出されて、新しい首相になっている。一時期スラブ集団は大騒ぎをしていたが以降の足取りを見るに、特にこれまでと変わったところがあるわけではない。アメリカの影響を受ける人なのであろうと想定されるものの、グルジア+ウクライナでみられるようなアホの代表者タイプでは全然ない。

Armenian PM warns ‘aggressive’ Turkey to stay out of Nagorno-Karabakh conflict, says hostilities could spill over regional borders

ちなみに、正教徒としては、グルジアの方がロシアに近しく、アルメニアは作りがもっとずっと古くてむしろ中東に近い。これも含めて、グルジアとアルメニアが仲がいいかというとそうでもない。もちろん、対イスラムになったら考えも変わるだろうが。

 

■ 原因

ナゴルノ・カラバフの紛争は今に始まったものでもないので、今さら何をといったところ。簡単にいえば、アゼルバイジャンの法的領土内にアルメニア人が多数居住している場所が昔からあって、そこがアゼルバイジャンに吸収されたくなくて自治州となったが、アゼルバイジャンはそれを認めないという話。

wikiの ナゴルノ・カラバフ

そして、過去何十年もこれを解決しようという試みはあるものの、一向に解決の見通しが立たない。領土交換まで話し合われたらしいが、それでもまとまらない。周辺国はみんなもう投げてるって感じがする。

 

■ 戦闘

常識的には、双方単独では勝ち抜けない。

長年解決できない係争地なので、アゼリとアルメニアの双方がなんらかの合意をするか、さもなければアゼリがアルメニアを全部殺す、とでもしなければ決着はない。

ちなみに、アゼルバイジャンとその後ろで煽りまくってるトルコには、アルメニアを絶滅させてやるーとか、すぐ言い出す人たちが多数いるので、言論上の争いは凄いことになるのが通例。

 

■ 展開可能性

アルメニアは内陸国で、頼りにしてるロシアと国境を接していないので、

アゼルバイジャンに対してトルコ→グルジアを通して武器弾薬送り放題にし(その上アルメニア国境から得意のジハード主義者を投げ込むなりして圧迫して)、

かつ、

アルメニアにとって唯一の友好的な隣国であるイランが日用品はともかく武器弾薬の通行は禁止します、となったらアルメニアは死滅する可能性は一応ある。

トルコ人たちのたっての希望だろうと思う(笑)。

だがしかし、現在は20世紀初頭ではないのでトルコが好きなようにアルメニア人虐殺よもう一度!とできるかどうかは不明。

つまり、アゼルバイジャンとアルメニアの問題であれば、一定の戦闘のうち相応にあきる、ということが期待できるが、トルコがちょっといたずらに、ではなくて本格的に絡んだ場合、大変危険なことになる可能性を秘めている。

そして、今回は、見渡す限り、トルコがアゼルバイジャンを支援してることは明白なので、今回の問題は、アゼルバイジャンの問題というよりトルコの問題だと捉える向きもある。私も賛成。

 

■ トルコがしかけた説

で、そうならトルコは何をしたいのかという話だけど、そもそもトルコは現在、シリアでジハード主義者と組んで侵略継続中だし、ギリシャと揉めてる、リビアに入り込んで暴れてる、といった具合に南側全域で暴れてる。そこでさらに国境を接したアルメニアに火をつけた。

なんなんだこれは、についてTom Fowdyさんというイギリス人ライターさんは、

アゼルバイジャンとアルメニアの紛争にトルコが関与していることは明白で、これは古典的な「ミドルパワー」のやり口で、ロシアとアメリカをこの状況に引き込んで、自分の価値を見せつけてなんらかの交渉力を得ようとする行動だ、と読んでいる。

こうやってシリアなど各地で自分が首突っ込んでいるところで大国から妥協を勝ち取ろうとしている、と。

Therefore, Ankara’s involvement in the Azerbaijan-Armenia dispute is evidence that it, in its classic middle power position, aims to draw Moscow and the US into the situation in order to secure diplomatic bargaining chips for itself. This may include the demand for more concessions concerning Syria, as well in as other crises it has embedded itself in. 

https://www.rt.com/op-ed/501953-erdogan-turkey-hegemony-azerbaijan-armenia/

 

ありそうなことだ、と私も思ってる。また、トルコはこんなことばっかりやってるわけだから国内がぐじゃぐじゃ。つまり、外への攻撃を止めらなくなってるというのも重要でしょう。

 

■ 現状維持したい派説

さはさりながら、トルコだけが要因でもないように私は思う。

トルコはアゼルバイジャンを使ってミドルパワーの交渉材料(いわゆるbargain chip)探しをしているとすると、EU/NATOもトルコを使って、ロシア相手に材料探しをしているのではないのか、と思える。

だからそこらへんの思惑を意識しないとこの話は見えないだろうと思う。

 

■ 東方拡大プロジェクト

コーカサスは、どう見ても、誰が見てもヨーロッパではないわけですが、普通人々がそれはヨーロッパの団体だと思ってるEU/NATOが、この地域をNATOに入れたがってることは、2008年グルジア紛争で多くの人が知ったところ。

こんな感じで、青が現在のNATOで、既にワルシャワ条約機能にあった国々が多数含まれ、現在は、緑の地域を「東方パートナーシップ」プログラムの対象国として、ここを将来的にNATOに入れると頑張ってる。

European Union Eastern Partnership.svg

見ればわかる通り、この段階は既に、「東欧」でも欧州でもなくてソ連の国内だった地域。

どこが含まれるかというと、

  • アルメニア
  • アゼルバイジャン
  • ベラルーシ
  • グルジア
  • モルドバ
  • ウクライナ

 

こうなってくるとロシアの安全保障にとって当然に直接的に負の影響が及ぶ。

まぁ、1990年代以降のNATOというのは、その昔のドイツのミッテルオイローパ構想を追いかけているような、要するに、侵略団体ですね。

世界強国への道/フリッツ・フィッシャー

Mitteleuropa
http://en.wikipedia.org/wiki/Mitteleuropa

 

これをニュートラルな団体のような感じに見えてしまうとしたら、それは私たちが侵略者側だからです。自分がやってることには正当な理由があるような気になる。

だがしかし冷静に考えれば、こうまでしてロシア領を侵略しなくたっていいわけで、従って、NATO加盟国の人々の中にはこの東方拡大プログラムに大反対の人が結構いる。

反ロシアを教え込んで、そいつが勝手に、あるいは誰かの思惑でロシア領内に侵略して返り討ちにあったら、俺たちはここを庇わないとならない、それのどこが安全保障なんだ!!!ということ。

 

■ CSTO

ということで、ベラルーシがロシアとの連合国家の方に進んでしまったことに腹を立て、あるいは、ロシアとイランが地道に接近の度合いを強めていることも気にいらない(そんなことをしたら地域が安定してしまう!)、といったことから、交渉材料としてアルメニアを虐めてみた、みたいな感じはあるように思う。

ではアルメニアは虐殺を待つばかりなのか?

そうとも限らないでしょう。ロシアとCSTO(ソ連後の安全保障ブロック)が、アルメニアへの攻撃はCSTOへの攻撃とみなすと決断したら、ここがアゼルバイジャンを攻撃してそのままアルメニアを救援する、という想定もできる。

この場合、アゼルバイジャンはトルコが全力で助けるといったって、バクーはカスピ海に面しているんだから、ここをロシアが攻めたらトルコは間に合わない。戦力差あり。

では、とイラク駐留とかグルジアあたりにいる米軍が出張るということも考えられるが、イラクの場合はイランが上空飛行を認めない、とかいうと時間がかかり、グルジアにはカスピ海のロシア軍と同格の戦力はない。

一旦取らせて、再度アメリカ様が出張るというのもありだけど、そうなったらロシアと直接戦争になるんですが、そんな価値あるんですか?となる。2008年の再来。

どうなることか。

 

■ クレムリンの対応

ロシアは、1日目から停戦しろと言って、両者に自制を求めた。また、アルメニアとは個別に話をしていた。

その後、国連安保理が非公式に会合を開いて、アルメニアが申し立てているトルコの関与は確認できない、ということになった。とっても政治的な判断って気がするけど、一応そうなった。

https://tass.com/world/1206127

翌日、CSTO(ソ連後の安全保障ブロック)がナゴルノ・カラバフの状況を考えてるところ、という記事が3日目にして出てきた。

Post-Soviet security bloc to look into Nagorno-Karabakh conflict, says Kremlin

https://tass.com/politics/1206365

 

ということで、全体的に、時間をかけて、かつ、問題をアゼルバイジャンとアルメニアに限定して、これ以上の国を関与させて問題を大きくしないようにしてるとみえる。

ポーランドとドイツが揉めてりゃすむだけの話にイギリス・フランスが下手な関与を続けて世界大戦にしちゃった、とか、オーストリアがセルビアにウンチでも投げれば済むことを大騒ぎにして第一次世界大戦にした、みたいなことを思い出してみることも悪くはない。

 

■ トルコのF16がアルメニア機撃墜?

とか呑気なことを書いていたら、トルコのF16が、アゼルバイジャンにある基地から発進して、アルメニアのSu-25を撃墜して、パイロットが死亡した模様。

Turkish F-16 warplane shoots down Armenian SU-25 fighter jet, Defense Ministry in Yerevan claims 

https://www.rt.com/news/502044-turkey-nagorno-karabakh-armenia-jet/

 

数年前にもシリアでこんなことがありました、とみんな思ったことでしょう。

もし情報が本当なら、これはトルコが自分からエスカレートさせようと出張ってきたとしか言い様がない。

ってことは、NATOは何か言わんとならんでしょう、これは。

 

NATOはトルコの侵略行動に付き合ういわれはないので(NATOは攻撃されたら連帯する設計)、多分どの国も賛成しないと思われる。NATOが勝手にやるかもしれないけど。

反対に、攻撃されたアルメニアの方は、CSTOのメンバーなので、CSTOはこの事態を加盟国への攻撃として連帯してアルメニアを守る、といういわゆる集団安全保障がトリガーされ得る事案になった。

そこでロシアが引き込まれると、NATOが出てくる、みたいなことをしたがってる人がいるってことか? アホか、ほんとに。

 

twitterを見ると、予想通り、アメリカ、イギリスあたりの人たちが、トルコとアゼルバイジャンのアルメニアへの侵略行為を非難する!!の大騒ぎになってる。

トルコはそうでなくてもNATOから出ていけと言われてる存在だったりする。こんな感じ。

 

 

ということで、NATOが、加盟国の不始末をお詫びし、無駄で攻撃的な「東方パートナーシップ」という名の侵略行為を一刻も早くやめることが地域の安定にとっても最も効果的だ、ということですね。

 


 

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2 コメント

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Unknown (にゃんこ)
2020-09-30 10:32:05
>ポーランドとドイツが揉めてりゃすむだけの話にイギリス・フランスが下手な関与を続けて世界大戦にしちゃった、とか、オーストリアがセルビアにウンチでも投げれば済むことを大騒ぎにして第一次世界大戦にした、みたいなことを思い出してみることも悪くはない。

本当にそうですよね。イギリスのチェンバレンからチャーチル、本当に絶妙にやっていますね。ドイツにソ連を侵略させるようにもっていってる。
今、ロシアと中国が強いのが救いのような気がする。
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カラヤンとアズナブールのアルメニア! (ローレライ)
2020-09-30 13:36:09
アルメニアは西側に影響があり、カラヤンとアズナブールはアルメニア系ロシアのハチャトリアンもアルメニア系イランでも影響のある人脈大国でもあるある。
返信する

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