Peter Hitchensという、メインストリームから外れた感じの、しかし決して無名ではないむしろよく知られたイギリスのジャーナリストが
Killing Your Own People - a Brief Guide
http://hitchensblog.mailonsunday.co.uk/2014/05/killing-your-own-people-a-brief-guide.html
というコラムを書いていた(5月12日)。
要するに、ウクライナのクーデター騒ぎに至るまでの間に、欧米は、明らかに暴徒が入ったキエフで対応に苦慮するヤヌコビッチ大統領に向かって、「自国民を殺すな」といって国家の側の武装鎮圧を押しとどめ、その後騒乱が酷くなって武装対応となった時、自国民を殺した大統領にはその国を治める資格はないとかなんとかいった。
しかし、そうやって立てた暫定政権はウクライナ東部の人々を「テロリスト」などと称して軍事作戦を遂行、一般人を殺害している(住民だらけのところに戦車を突っ込ませる無神経振りで)。そして、オバマ他のEU首脳部は、国家には治安を回復させる権利があるとかなんとかいってそれを擁護した。(オデッサ事件の後には、暫定政権は抑制的だとさえ言った。)
これってどうなのよ、という話。私もこの判断が本当に、深刻にモラルがなさすぎると思っている。スティーブ・コーエン氏も、オバマ大統領のこの判断を恥だと言いきっていたっけ、そういえば。
また、自分たちは暴力革命で政権を取ったなんら正統性のない政権(欧米の傀儡としての安定性はあるが)なのに、そのクーデター政権に従いたくないという東部住民が住民自治の意志を示したら、それを茶番だと嘲笑う。この住民の意志をそれはロシアの工作だとみなしたいらしい英米を中心した the West 各国は、「無効だ」「違法だ」と嘲笑う。その間にも暫定政権が住民相手に銃撃をしかけているというのに。the West は住民自治よりも、暴力革命に大きな価値を置く集団らしい。
Hitchens的には、the Westはますます負けが込んできて、この先しばらくは自分でつけた傷に苦しむよ、と思っている模様。
私としては、そういう自省的な人々ならね、と思わず反応したいものがある。いや、それは別に彼に対して言っているのではなくて、全体として欧米というのはそういうものじゃないの、という諦めがあるから。そして、この諦めこそ私がアイデンティティとしてアジア人であるある種の証拠なのかなとも思う。
アジア系、特にインドから西では、自由、民主主義とか人権がどうしたこうしたというのは、それ自体は素晴らしいだろうが、欧米人がそれを言う時それは俺らを攻撃する時、みたいな感じが普通に、いやもう普遍的に存在していると思う。つまり、懐疑は根深い。(そりゃそうでしょう、意味不明な言いがかりで空爆とかされてきてるんだし)
■ The Westの価値が揺れている・・・
と、いわゆる the West なるところが自分たちにはこんなに高い価値があるんですよ、私たちは誤りもするが真実を求める立派な人なんですよ、法と正義こそ大事です等々と言ってきたことが、今回のウクライナの件でガタガタになったと思っている。
なにしろ、主流メディアの圧倒的な嘘つきはどうよ!と思うから。しかも主流メディアではジャーナリストたちが誰も声をあげないに等しい。せいぜいが、上であげたHitchens等々、比較的マイナーな人たちが地味に飽きずに、いやそういうことじゃなくて、と読者の声にお応えしながら頑張っていたぐらい。
なによりも酷いのは、日頃人道だのへちまだのと抜かしている The Guardianが今回は、嘘ばっかりのグループにずっぽり入っていたこと。いや、個人的には、ここはつまり古いコミンテルンの流れだと思うので、ロシアに関しては、ボルシェビキ政権を作った側、つまりホントのロシアは敵、ナショナリストのロシアなんか許せない系の組なんだろうな、と思ってて、だからあまり驚いてはいない。
しかし、世の中の人はそんなことまで考えてないので(笑)、普通に左っぽい、戦争反対とか人道っぽい話ではGuardianは信頼できる、みたいに思っている人が多いんじゃないかと思う。ロシア問題でTelegraphに期待する人はいないが、せめてBBCぐらいと思ってた人も多分失望。
いや、実際、いろんなところにいいライターさん、取材者は本当にいると思う。だから媒体だけでくくることはできない。でも、要するにこの問題に関しては、ほとんどの有名メディアにはずっとものすごい緘口令が敷かれているんだろうなと思うしかない状況が続いている。
■ 普通の記事が来た
で、Guardianに、おととい5月13日、John Pilger氏による「ウクライナで、米国がロシアとの戦争に我々を引っ張っていく」という記事が出て来た。
In Ukraine, the US is dragging us towards war with Russia
http://www.theguardian.com/commentisfree/2014/may/13/ukraine-us-war-russia-john-pilger?commentpage=1
内容は、要するにこの問題の根本的な原因はNATOの東方拡大で、アメリカはロシアを軍事的に追いつめようとしていて、その上で、2月にはクーデターが起きて、そのクーデターでできた暫定政権はネオナチを含む悪党揃いで・・・という私としては事実というべきでしょ、という話。
そして、その前に、アメリカというのは1945年来、約50回も政府転覆を狙っており、そのうちの多くは民主的に選ばれた政権、転覆だけでなくダメなら殺すというのもあるし云々という話が加わる。
私にとっては、実にまったくなんの驚きもない普通の記事です。正直。しかし、こんな記事はメジャーな媒体では初めてといっていいかと思う。share 22000、tweet3000、コメント3900という数字がこの記事のインパクトを物語るでしょう。
しかし、ここにつけられた4000近いコメントをざっと300ぐらいまで流し見して思った。これに耐えられない人がマジで結構いるわけね、と。そんな証拠がどこにあるんだ、とかマジで書いている人がいっぱいる。また、イギリスもアメリカもロクなことはしてない、そりゃわかる、でもロシアはもっと悪いんだ、と言い張る人多数。いや、そういう問題じゃなくてさ・・・と思うのだった。
つまり、過去数年間、英米が総力あげてプーチンおよびロシアを悪魔化してきた作戦は相応に成功していた、と。
その上で、ある日突然、なんの前ぶれもなくプーチンがクリミアを侵略した、と。そういう頭の中になっている人が世の中多数なんだと改めて思った。
■ マジで戦争に引っ張られる懸念が見えたからこそ?
そこで思いだすのは、つい先週のアメリカの議会証言。
ウクライナへのネオナチ関与を否定できず-米国務省ヌーランド氏
これは米メディアではほぼ沈黙。しかし、ビデオがあがっているし、記事にしているマイナー系はあるので知られつつある。
あわせて考えるに、このままでは現実的でない妄想に近いロシア敵視で固まった世論を背景に強硬策をする勢力がいる、と考えるに至って危機感を覚えた穏健派みたいな人たちが出て来たということじゃなかろうか?
あるいはまた、そこまでではないにせよ、この嘘のオンパレードでは、the West の価値が毀損すると考える人たちが出て来た、とか・・・。
いずれにしても、今回の問題は、ウクライナで起こってることも尋常ではないし、何をやってもやらなくても、言っても言わなくてもロシアに制裁を加えるという米+EU+(半分だけ)日本の態度も尋常ではない。ついでにいえば、こんな状態で実のところ国がどうなるのかすら定かでない、EUもアメリカもまともにウクライナを支援してないのに来月あたりNATOとの合同訓練をウクライナでやろうとしているNATO関係者の狂いっぷりも半端でない(正統な政権が出てない状態のウクライナ軍ってどんなもの?)。
しかしそれ以上に、世界中の主流メディアが尋常ではない。