マーちゃんの数独日記

かっては数独解説。今はつれづれに旅行記や日常雑記など。

『プラハの春 上・下』(著:春江一也、集英社文庫)を読む

2011年10月08日 | 読書

 ”遅れて来た読書”です。1997年5月に発行されたこの作品、単行本を買った後”積ンドク”になっていました。7月7日のブログに書いたように写真集「侵攻 68」(著:ジョセフ クーデルカ)を観た後、「プラハの春」を読みたくなり、捜したのですが、何処を見ても見当たりません。数ヶ月前の「断捨離」で廃棄してしまったことに気が付きましたが後の祭り。断捨離とはそもそも、なんでも棄ててしまうことではなく、残して置くべきものと捨て去るべきものを峻別して、捨て去るべきものは思い切って棄てる作業。その判断基準を誤ったようです。

 已む無く図書館で借りました。この本、文庫本で上下合計930ページに亘りますが、実に面白く一気読みのスピードで読みました。著者は当時のチェコ外交官館員だった春江一也。

 物語は1967年3月から始まります。68年のワルシャワ条約機構軍のチェコ侵入の1年5ヵ月前です。プラハの日本大使館に勤務する27歳の外務館員堀江亮介は、オーストリアのウィーンで休暇を過ごした帰り道、車のバッテリがあがって立ち往生している東ドイツの女性カテリーナから助けを求められ、高熱の出た娘と二人をプラハまで車で送り届けます。ふたりの出会いの場面です。この女性、実は東ドイツのエリート共産党員でしたが、現在は反体制活動家。片や日本大使館員。お互いに惹かれあっても”禁断の愛”です。物語はこの二人が惹かれあい、触れあう過程を中心に進みます。これが横糸です。
 もう一方の縦糸では、1967年から1968年に至るチェコスロバキアの民主化闘争とその挫折が描かれます。当時のソ連、ポーランドや東ドイツとチェコとの抗争が描かれ、かのドプチェクも登場します。チェコ政権内部の保守派と改革派の闘争も詳しく語られます。
 横糸と縦糸は何重にも絡み合いながら物語は進みます。主人公カテリーナはチェコの民主化闘争を支える国営放送番組「ミレナとワイン」の語り手として人気を博しますが、それ故に身の危険が迫り来ます。
 
 この物語は当然にフィクションですが、著者本人が外交官であったという事実を考えれば、実に多くの歴史的事実が織り込まれていると思えます。
 主人公カテリーナの造詣が見事で、私は、聡明にして美しく、意志的に、”真っ当な社会主義”の有り様を求めて生きようとする姿勢に惚れました。歴史物語と恋愛小説の見事な融合です。
 民主化闘争の中心を為すのは言論の自由と検閲の廃止の要求。その実現を目指し闘ったチェコ人の想いと、挫折してしまった無念さが行間から伝わっ来ます。かってのソ連を初めとする、共産主義体制の圧政の非道さを如実に語っていますが、読み終わってこれは過去の物語ではなく、遠く中央ヨーロッパの小国の物語ではもない、現代の巨大な権力が持つ恐ろしさに通じる物語なのだと思いながら読み終えました。