Hさんとは、面識を得てから15年くらいになる。鎌倉にお住まいだったが、通勤に便利とのことで我がマンションを購入され、鎌倉にはお母様を残され、引っ越して来られた。5年ほどは挨拶を交わす程度だったが、私が音頭をとって始めた、「隅田川花火鑑賞会」などで、会話の機会が増え、あるときの鑑賞会では、お母様とご一緒に、料理が好きな彼女は手作りの菓子を持参しての参加だった。マンションの役員をお願いした年もあった。時折お土産で頂く、鎌倉での獲りたての生しらすはことのほか美味だった。
最近はお母様の介護で、鎌倉で過ごされる時間が増え、お会いする事は少なくなっていた。雰囲気からして、私たちとは”話が合いそう”な気がして、こちらにお出でになる機会を利用して、我が家へ”ご招待”した。直観の通り、私たちとの間で話が弾んだ。若い時から、特に奈良の仏像がお好きで、何度も奈良に足を運び、観音様などを拝まれてきたそうな。私たちの趣味ともあい、2時間以上の会話となった。 時を経ずして、『古寺巡礼』をご覧くださいとのメールがあり、お願いすると、5冊の写真集をご持参くださった。それは初めて目にする写真集で、一冊が4キロもの重さがあった。ゆっくりご覧下さいとの言葉に甘えて、時間に余裕のある時に鑑賞している。昭和38年7月発行の、この写真集は「国際版」で、定価36万円とあり、予想を超えた高価なものだった。第1集から眺め始め現在は第2集。
第1集は法隆寺・中宮寺・法起寺・薬師寺などが登場している。「まえがき」で土門は『二千年来、雪山を越え、流砂を渡り、黄塵にまみれて、層々と東漸する文化の波は、全て日本列島という防波堤に遮られ、波乱と曲折を繰り返しながら、結局、この列島の風土に沈静する。謂うなれば、日本列島は、東漸する文化の吹き溜まりである』と書いている。情熱をそれらの撮影に向けた生涯。私は、特に五重塔などが背景に霞んでいる写真が好きだが、第1集では法隆寺のそれが冒頭を飾っていた。
2度目にお出で頂いたときには、このマンションからお墓が見えて、直ぐにここの購入を決めたとの話も出た。10年ほど前には吉祥寺の鐘の音を聴いて心安らかな雰囲気を味わったとも語られていた。鎌倉という環境のせいだけではないだろう。寺院の佇まいがお好きなようだ。その鎌倉へご案内しますとのメールも頂いた。来春には花の鎌倉を訪れたい。