マーちゃんの数独日記

かっては数独解説。今はつれづれに旅行記や日常雑記など。

『天使か悪魔か 羽生善治人工知能を探る』を観る(その1)

2016年07月25日 | IT

  NHKスペシャルで放映された上記タイトルの番組を数日前に、NHKオンディマンドで見た。将棋の獲得タイトル数94という前人未踏の記録を持つ、将棋の永世名人羽生が人工知能の開発の最前線を取材した。囲碁の世界最強の一人イ・セドルが人工知能と対戦し1勝4敗と完敗した。羽生もその結果に強い衝撃を受けたに違いない。NHK取材班からの依頼を受けたという事情があったにせよ、羽生自身が、人工知能の現状はどうなってるのか、デープ・ランニングと何なのか、強い好奇心を抱き、興味も持っての、探求の旅だったのだろう。意欲的取材で、人工知能の現状と、人工知能を身に着けたといわれる「ディープラーニング」についての、分かり易い番組に仕上がっていた。今後3回にわたりその放送をまとめたい。(写真:取材先での羽生)

 (1)イ・セドル対人工知能
 (2)デープランニングについて
  (3)人工知能の現状

 今回は、イ・セドル対AlphaGo(以下α碁と略記)について
 今年3月ソウル。α碁と名付けられた人工知能から人類に挑戦状が突きつけられた。仕掛け人はグーグル。会長エルック・シュミットは「α碁の壮大なチャレンジを実現して頂き感謝を表します。人類にとって偉大な挑戦として歴史に刻まれることでしょう」とオープニング・セレモニーで挨拶した。今回グーグルが送り込んで来た人工知能はデープランニングと呼ばれる異次元の進化を遂げたものだ。デープランニングとは自ら学ぶび進化する革新的な人工知能なのだ。グーグルはこの技術を使って囲碁の人工知能α碁を開発した。(写真:AlphaGoチームのユニホーム)

 囲碁は人類が生み出した最も難解なゲームと言われる。石は、縦横19×19=361個の碁盤の目の何処に打っても良い。囲んだ範囲が広い方が勝ちとなる。一回のゲーム展開で考えられる場合の数は10の360乗という天文学的数。膨大なゲーム展開数の中から最善手を選ぶことは、どれだけコンピューターの計算能力が進歩しても不可能に近い。そのため囲碁で人工知能が人間に勝つことは到底不可能と考えられてきた。

 ところがそのα碁が世界最強棋士イ・セドル九段に挑んだのだ。彼は「人工知能が私に挑戦するなんて10年早いと思いますよ。勿論勝つ自信があります」と怒ったように語った。対局は5番勝負で行われた。(写真:対戦前に語るイ・セドル)







 初戦が始まった。先手は黒のイ・セドル。対する人工知能は、はじきだした手を画面に表示し、それを見て人間が代わって石を打つ。始まって間もなくα碁が奇妙な手を打ち始めた。10手目(右写真の盤面)。解説者は「これは酷い手。囲碁の常識も知らないようです」と言った。α碁が打った手は黒が既に陣地を作ろうとした領域だ。
 定石から大きく外れた手。イ・セドルの楽勝ムードが漂う中、26手目α碁の狙いが浮かび上がった。白は盤面の上側で陣地を作ろうとしていた。酷い手と解説された10手目が見事に効いてきた。
 86手目も同様で、以降も定石をことごとく覆すような手を打ち続けるα碁。解説者は酷い手と言った解説を「取り消していいですか」と。α碁の狙いが明らかになり「これは凄い手だ」。終盤形勢は完全に逆転していた。α碁の5目勝ち。イ・セドルは187手目白石を取ると盤面に投げて、イ・セドルが投了。
 イ・セドルまさかの完敗。「とにかく驚いています。負けるとは思っていませんでした。私の方が有利と思えた時でもα碁は私が経験したこともないような素晴らしい手を繰り返して来ました」と語った

  第2局・3局もα碁が圧勝。第4局は何故かα碁が暴走し、人間側は辛うじて1勝を返したものの1勝4敗と完敗。人工知能の圧倒的勝利は世界に大きな衝撃を与えた。(写真:右は3連敗したイ・セドル)


(1勝を返した瞬間喜びを表現する解説者二人)


             (最終結果)

 羽生は「私が印象に残ったのはイ・セドルさんが”人工知能が、私が経験したことも無い手を繰り出して来た”との言葉です」と語った。人工知能が百選練磨で、経験豊かな棋士でも思いつかない手をどうし打つことが出来たのか。計算の速さで人間と勝負してきた従来の人工知能とは明らかに違う。如何してα碁は急速の進化を遂げたのか。羽生はその秘密を無性に知りたくなり、探求の旅に出たのだった。そこに待っていたものはデープランニング。次回はそのデープランニングについて。