今回の旅行の主目的は10月18日に行った「長沢芦雪展」の「愛知県立美術館」にあった。朝7時33分、東京駅発のひかり461号に乗車し、名古屋で市営地下鉄東山線に乗り換え「栄」で下車。9時半には目的地に到着。「愛知芸術文化センター」10階にある美術館の開館30分前で待つ人は10数名。
長沢芦雪の「虎図」を観たかった。その「虎図」は南紀・無量寺の襖に描かれていて、この特別展では、その《虎図襖》と《龍図襖》が、無量寺方丈の障壁画の配置を再現して展示されるという。
普通の展示ならば、二つの襖絵は並列配置して飾られるだろう。しかしここでは二つの襖図が対面していた。無量寺方丈では正面に仏、左側に《虎図襖》、右側に《龍図襖》が、上の図に見る如く、向かい合っている。無量寺ではその両襖図を座して鑑賞するところ、ここでは、立った状態で鑑賞出来るように、空間が構成されていた。虎と龍が睨みあっているように見えた。龍が口を開け「あ」と、虎が口を閉じ「ん」の一対が「あうん」と取れる形を作っているようだった。 特に「虎」が凄い。真正面からこちらを見据える顔は迫力に満ちている。(妻は超かわゆい、と言っているが、私にはそうは見えない)。前足を揃えて力をためて今にも飛びかかろうとしているように見える。この配置の仕掛けの妙は襖の裏が見える点にあった。裏に回って襖を見ると、そこには水辺で魚を狙う子猫が描かれている。しかも子猫は《虎図襖》の虎の顔の真後ろに描かれているのだ。
図録冒頭で山下裕二氏は「魚の目から見れば、子猫も虎のように猛々しく見える、ということを表したかったのだ」と書いている。サブタイトルには“京のエンターティナー”とあったが、芦雪は人を驚かせ、楽しませようというサービス精神が旺盛な絵描きだということが実感できた。 芦雪は虎や龍だけでなく実に多くの動物たちを描いていた。分けても子犬と猿が多い。子犬はどの犬も可愛らしく、猿はユーモラスである。犬猿図のなかで、私が気に入った一枚を上げれば右の”巌上母猿図“だ。金地と緑が形作る空間に悲しげな母猿が一匹。
全ての絵の中では、極端に鋭角的に描かれた冨士山と、翼を水平に広げグライダーの編隊のような鶴が描かれた上図”富士越鶴図“が、私は一番気に入った。