徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

最後の夢(第二十九話 不審な動き)

2005-11-08 12:35:58 | 夢の中のお話 『失われた日々』
 雅人を修の許へ走らせた後、透はあたりの気配を探り続けた。
完全に気配を消してしまっているようでも、感度のいい透のセンサーには何人もの気配が感じられる。
 
 透の耳に銃声がとどくと同時に母屋へ侵入しようとする者たちがいっせいに姿を現した。
 母屋にいる城崎を殺すための刺客として送り込まれた能力者たちのレベルは、一部を除けば結構高そうだ。

 城崎が狙われ始めてから随分と月日を経たが、何処にこれだけの人数の能力者が隠れていたものやら…透は驚くより呆れた。

 大方の能力者たちは透が以前他愛もなく銃撃を受けたことでその力を完全に見くびっていた。
 
 「なあ…やっちまおうぜ。 あいつ一人くらい何でもねえだろ。 」

 リーダー格の男に向かって、若手の連中がせっついた。
リーダー格の男はさすがに他の者たちほど透の力を甘くは見ていないらしくかなり慎重だった。

 「おまえら…そんな簡単な相手じゃないってのがわからないのか? 」

 リーダーが止めるのも聞かず、血気に逸った若い連中が無謀にも正面切って透に戦いを挑んできた。
 ところが油断していた上に勢い込んでいたこともあって透の何気ない衝撃波でいっぺんに吹っ飛んでしまった。

 「あ…ごめんね。 もうちょっと手加減しとけばよかった。 」

 透は申し訳なさそうに頭を掻いた。
止めたのに馬鹿なやつらだ…リーダー格の男は溜息をついた。
俺たちの仕事は…違うだろ…。

 「おまえなかなかやるな…。 けど…衝撃波だったら負けないぜ。 」

 リーダーはそう言って透を見た。さあ乗って来い…喰い付け!
近くにあった小さな石灯籠を目掛けて力を放った。
石灯籠は砕け散った。

 「あ~それ265万6千円。 祖父ちゃんが怒るぞ。 知らないぞ~。 」

 透がいきなり叫んだ。
はぁ…?っとリーダーは思った。

 「あのな…餓鬼が悪戯してるわけじゃないんだ。 
祖父ちゃんの話はどうでもいいだろう。 」

 よかないわい!

突然何処かから声が聞こえて頭を殴られた気がしてリーダーは辺りを見回した。

 「何なんだ…いったい? おまえ…いま何かやったか? 」

 透はいいえ…というように首を横に振った。
そうこうしているうちに吹っ飛んだ連中が眼を覚ました。

 「くっそ~! 油断したぜ。 」

 吹っ飛んだお蔭で彼らは本来の使命を思い出した。母屋の外を護っている男をその場にずっと引きつけておくこと。
本気にさせると厄介なやつだから適当にあしらえ…。それが長の命令だった。

 「なんだか知らないけど…だらけてるね。 ほんとにやる気あんの? 」

 透は怪訝そうな顔をした。
こいつ等の中にはさっき感じたレベルの高い能力者はいない。
燈籠をぶっ壊したやつはまあまあのレベルだが…。
まさか…母屋の中に…?

 透は二重に施錠されているはずの母屋を振り返った。
その気になれば…西野ほどのレベルがあればそんな施錠なんでもないだろう。
ここで遊んでる場合じゃないぞ…。

 踵を返して透は母屋へ向かおうとした。
気付かれた…! リーダーは透の行く手を障壁で塞いだ。
しかし透にとっては紙一枚の障害物にも感じられなかった。

 リーダーの号令以下いっせいに透目掛けて念のロープを伸ばした。
複雑に絡み合ったそれは透の手足に纏わりつき、蜘蛛の糸のように自由を奪った。
 ひとりひとりがばらばらの時にはさほどどうということはないやつらだったが、この粘々のロープは少々厄介だった。



 「誰かが…来ます。 」

 鈴が突然そう言った。西野とはるは顔を見合わせた。
西野はその感度の高さに驚いた。

 「御大はきっと完璧なまでの結界を張っておられるのでしょう。
御大の部屋には気付いておりません。 気配を探ってこちらへ向かってきます。」

 部屋の襖が開きもしないうちに突然、鈴を目掛けて大きな力が襲い掛かった。
西野はそれを払った。
 ひとりではなかった。壁を作る間もあらばこそ複数の人間から間髪をいれず立て続けに攻撃を受けた。
 さすがの西野も払いきれず鈴を庇ってまともに何発も身体に浴びてしまった。
鈴の足元に崩れ落ち意識が遠のきながらも攻撃を受けたのが鈴の身体でないことだけは幸いに思った。

 「おやめ! 姿を見せなさい! 」

 鈴が激しい口調で命令した。
すっと襖が開いて男が姿を現した。男の背後には何人かの人影があった。
男は丁寧に頭を下げた。

 「宗主の身内の方ですな? お伺いしたいことがあります。 」

鈴は笑みを浮かべながら男の顔に眼を向けた。

 「城崎という青年の居場所を教えて頂きたい。 」

男はじっと鈴の目を見つめた。

 「存じません。 私はずっとこの部屋から出ておりませんから…。 
ご自身でお捜しあそばせ。 」

 男はつかつかと鈴の傍へ近寄ってくると倒れている西野の胸ぐらを掴みあげた。
西野ははっと正気に返った。相手の手を取り払おうともがいた。

 「お嬢さま…いや…奥さまかな。 
身体を張ってあなたを護ったこの青年が少しばかりつらい思いをしますよ。 」

 男が力を入れると西野の全身に強烈な痛みが走った。
西野は声を漏らさぬように歯を喰いしばった。はるが顔を背けた。
しかし、二度目には堪えきれず声をあげてしまった。

 「西野をお放し! 」

鈴は立ち上がった。はるが思わず押し留めた。

 「鈴さま! いけません! お身体が…! 」

 鈴はにっこりとはるに微笑み掛けた。
西野を締め上げている男の手を何かが激しく鞭打った。
 男は思わず西野を放した。その手には本当に鞭打たれたような跡があり、皮膚が裂けていた。

 男は驚いて鈴を見た。
鈴の髪がふわっと宙を舞うように逆立った。
 途端、男の身体が襖めがけて叩きつけられた。
背後にいた連中は慌ててそれを避けた。

 「出てお行き! この屋敷は紫峰宗主と祖霊の御座所…おまえたちが勝手をしていいところではない! 」

 鈴の顔から笑みが消えた。その場の連中を手当たり次第攻撃し始めた。
西野もはるも鈴の体が心配で生きた心地がしなかった。
しかし…それも長くは続かなかった。
身重の鈴の身体には負担が大きすぎたのだ。

 しばらく攻撃を続けた後、鈴はふっと気を失った。 
西野が抱きとめなければ御腹をしたたか打っていたところだった。

 相手が気を取り直さないうちに西野が反撃に出た。
襖に叩きつけられた男はすでに体勢を立て直していたが、背後の連中に混じって西野の攻撃を避けるために右往左往していた。
 いかに広い屋敷とは言え、狭い廊下に人がかたまると攻撃をかわすのは困難で、相手方も同士討ちにならぬように注意を払っているようだった。
 
 西野はその動きから、彼らが系統だった訓練を受けていないことに気付いた。
熟練者ならどんなに狭い空間でも目標を過つ事はないし、自分がその場を動かずともかわす方法はいくらでもあるはずだった。

 戦い方も行き当たりばったりで統制が取れていない。
敵の組織にはまだ組織としての形態が出来上がっていないようで、所謂寄せ集めの状態にあるような気がした。

 攻撃の手が鈴に及ぶこともしばしばだったが、鈴の身体に覆い被さるようにしてはるは敵の攻撃から鈴の腹を護った。

 攻撃をしながら西野は自分の身体に受けたダメージが思ったより大きかったことに気付いた。
 思うほどの力が出ないことに焦りともどかしさを感じた。
あの全身に痛みを及ぼす力は西野の内臓にまで衝撃を与えていたのだ。
 
 男は自分の力が後から西野の身体を蝕むだろうことを予測していた。
もう間もなくあの青年は倒れる…。

 信じられないほどの倦怠感と苦痛が西野を襲っていた。
倒れるわけにはいかない…絶対に…。
あの人を護れなければ雅人さんに顔向けができない。

 まだ…持ち堪えているのか…。なんという精神力だ…。
男はある種畏敬の念を以って西野を見た。

 「慶太郎! 慶太郎大丈夫か? 」

 透の声が聞こえた。
その場の者の目が透のいっせいに透の姿を捉えた。
屋敷の外で足止めを喰らっているはずの透の出現に男たちは驚いた。

 「もうちょっとましな連中を使え! 何の手応えもない。 」

透は男たちに向かって怒鳴った。西野はほっとして力を抜いた。

 「おわっ! 鈴さん! おまえら鈴さんに何てことをしたんだ!  」

 部屋の畳の上で気を失っている鈴を見て透は思わず叫んだ。
何てことをしたんだと言われても何にもしていない敵方に答えようがあるはずもない。
男の周りにいた連中が透を取り囲んだ。

 「こんな狭いところで何しようってのさ。 」

 そう言うと透は鈴の部屋の襖を一気に吹っ飛ばした。
ついで庭に面した縁側の戸を開け放つと、取り囲んでいる連中を外へ放り出した。
放り出された連中は茫然として透を見た。

 「おい! おまえら結構高いレベルの力を持ちながら全然なってないぞ!
リーダーに問題ありだな! 」

 透は敵のあまりのだらだら振りにいらいらしてきた。
おまえに言われたくねえ…と男は思った。
俺たちだって本気出したいのはやまやまだぜ。

 「うっせぇよ! 本気で手え出すなって言われてんだよ。 」

 放り出されたひとりが思わず口走った。
男の顔が曇った。若い連中には我慢の限界というところらしい。

 「何が目的だ? 力づくで城崎を捕まえに来たんじゃないのか? 」

 やむを得ぬと男は判断した。男の合図で若い連中が気を入れ始めた。
抑えられていた彼らの能力レベルが急激に高まった。

 屋敷の反対側で伸びている蜘蛛男たちはともかく、こちらは明らかに戦闘用のレベルだと言っていい。

 無理に戦いたいわけじゃないけれど、戦うことにわくわくしている自分が居る。
戦いの虚しさも悲惨さも十分分かっているはずなのに…。
相手を倒すことで得られる快感。それはまさに人に巣喰う鬼の心。

 でも…望んでいたわけじゃない。
それを得るために戦っているわけじゃない。
誰かを…何かを護るために…。

 透は自分の中にも闇が育ち始めたのを知った。
これまで意識することのなかった心の闇。
修が怖れる己の中の闇に住む鬼…。
 
 そんなこと今まで考えて戦ったことはなかった。
いつも夢中で自分が生き残ることだけを考えていた。

 いま護る側に立った自分…。
そう…誰かを護るたびに鬼を育てていくことになるなら…修はその心にどれくらい巨大な鬼を育ててしまったことだろう。

 何も知らずに護られていた…。

甘えん坊の透の中でようよう少年の時代が終わりを告げようとしていた。 





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