徒然なるままに…なんてね。

思いつくまま、気の向くままの備忘録。
ほとんど…小説…だったりも…します。

其の九「たらの芽争奪戦」…親父と歩いた日々

2007-03-02 17:24:00 | 親父
 あちらこちらで春の便り…このあたりでも梅が満開…。
この分じゃ…桜もすぐ…だね…。

 先日…ブログの新しいお友達のところで土筆(つくし)の卵とじがUPされていたので…土筆の天ぷら…をお勧めしたら早速作ってみてくださったようで…何となく心楽しい…。

 この季節は天ぷらにすると美味しい食材がいろいろある…。
土筆の他にも蕗の薹(ふきのとう)・芹(せり)・独活(うど)…そしてなんと言っても…たらの芽…。

 山林に生えるとげのある植物で…地面から真っ直ぐにのびた茎の先に筆先のような芽がつく…。
その状態が最も薫り高く美味しいように感じられるが…少し開いて小さな葉が出始めた頃でも十分にその風味を味わえる…。
たらの芽の天ぷらは、丘陵地に引越してきた家族にとって、ささやかな春の楽しみだった…。
 
 同じ時期に、同じような場所で、たらの木と似たような形でありながらとげのないものがあるが…それは漆の可能性があるので触ってはいけない…。
かぶれたりしたら大変…。

 たらの芽も、今では季節になると近くのスーパーなどでもわりと安価で売っていて簡単に手に入るが、町の店に出回るようになったのはごく最近のことだ…。

 以前にも話したが…親父が森へ行くのは犬の散歩や森林浴のため…だけではなく…来るべき春の下見をするため…でもある…。

 丘陵地の森の中にはたらの芽の採れるポイントが何箇所かあり、秋から冬にかけて散策しながら秘密の場所を見て回るのが親父の目的だった。

 季節が来ると…doveが居るときにはdoveを…居ない時にはオカンを連れていそいそと森へ出かける…。
一生懸命貯めたお小遣いでプラモを買いに行く子供みたいで…実に楽しそうだ…。
   
 プラモ…古いか…。
今時の子供ならさしずめフィギュアかな…。
 
 自然生えのたらの芽は高値がつくので…金儲けを目的とした業者が入る…。
業者ならまだいい方で…山菜採りに慣れない人が森へ入るとせっかくのたらの木がだめになってしまうこともある…。

 業者は次の年のことを考えて芽の部分だけを狙う…。
採り方もソフトで木を傷つけない…。
けれど…何も知らない人は木を殺す…。

 たらの木は、全体がとげとげな上に背の高いものも結構あって、芽だけを採るのが難しいせいか、時々、ばっさりと木の中ほどの部分から切り倒してしまう人が居る…。
これをやられると木が死んでしまうのだ…。

 最初の1~2年は何時に出かけても…誰も森には入っていなかった。
たらの芽も余裕で収穫できた…。
ところが年々…森に入る人が増えて…早い時間に森へ入らないと先を越されるようになった…。

 死んだ木も多くなった。
中ほどから折られた木が枯れたまま突っ立っているのを見るのは可哀想だった。
毎年…芽をつけてくれたのに…。

 木がだめになってポイントがどんどん少なくなってくると争奪戦も熾烈…。
森へ入る時間が早朝…5時になり…4時になり…。
とうとう…馬鹿馬鹿しくなったのか…親父は争奪戦から退いた…。

 たらの芽の楽しみがなくなると…親父は次第に森へ行かなくなった…。
もともと釣り以外は自然派ではない男だから、ゴルフの方へ興味が移り、寝ても覚めてもゴルフ三昧…。
犬の散歩はしたけれど…森まで足を延ばすことはなくなった…。

 つい最近…実家へ行った折に森の中にあった道を通る機会があったのだが…広大な森は影も形なくなっていた…。
万博の駐車場を作るためにきれいさっぱり整地してしまったのだ…。

 たった半年の万博のために…森中の命が消えた…。
万博が終わった今では駐車場や店や住宅…そんなものになっている…。

 あれほどの森を消してしまって…何処が自然の叡智なんだろう…?
あそこに居た鴨やうさぎや小鳥たちは何処へ行ったんだろう…?
宅地ができるはるか前にはキツネが居たとも聞く…。

地球が悲鳴を上げている…。

森を返せと泣いている…。